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参議院のあらまし

参議院運営の改革に関する意見書

(昭和四十六年九月二十三日 参議院問題懇談会)

参議院運営の改革に関する意見

第一 改革の基本方針

 今日、参議院の現状に対して多くの厳しい批判が加えられている。それらの批判はいずれも、参議院が国政上期待されているその本来の使命をよく果たしていないのではないかとするものであるが、その焦点は特に次のような点に向けられている。
 第一に、参議院は衆議院とは異なる独自の立場と観点から国政審議にあたり、衆議院に対し抑制と補完の機能を果たすことが期待されている。しかるに現状では、いわば第二衆議院に堕し、その独自性を失なっていること。
 第二に、参議院は衆議院優越の原則の下にあっても、両院制の存在意義を生かすために、慎重かつ充実した高い水準の審議の成果によって世論の要望にこたえ、これによって立法府の一院としての責任を果たすように努力することが期待されている。しかるに現状では、その審議が効率的に、また充実して行なわれているとはいえないこと。
 第三に、参議院においても政党化の大勢は不可避ではあるとしても、参議院本来のあり方とその独自性の確保のためには、参議院は衆議院における各政党の対立抗争からはある程度の距離を保つことが望ましく、このことが衆議院に対する抑制と補完の機能の発揮にも必要であると考えられる。しかるに現状では、参議院も強い政党的支配の下にあり、その独自性と自主性の確保を妨げていること。また、政党におけるいわゆる派閥の弊害が参議院各会派にも及んでいること。
 第四に、参議院はいわゆる「良識の府」、「理性の府」として、良識あり、理性ある国政審議の場として期待されている。しかるに現状では、往々にしていわゆる審議引き延ばし、強行採決、物理的抵抗等の戦術がとられることが少なくないこと。
 今日の参議院に対する批判はおよそ右のような諸点を中心とするものであり、参議院改革を要望する声は、今日、かつてないまでに高まっている。
 参議院がその本来の使命を果たし、国民の期待にこたえるためには、今や、参議院において、会派の別なく、その運営の現状を真剣に反省し、各般にわたる改革を勇敢に実行すべき時である。
 その改革の基本方針は、次の諸点に置かれるべきである。

一、参議院の独自性と自主性の確保
 参議院の運営が独自性と自主性をもって行なわれるためには、議長及び副議長の党籍離脱、各会派所属議員に対する党議拘束の緩和等が必要である。
二、効率的な審議
 このためには、特に、各案件の審議期間の確保、参議院先議案件の増加、予備審査制度の活用等が必要である。
三、充実した審議
 このためには、特に、委員会における自由討議の採用、公聴会及び参考人制度の活用、国政調査の充実等が必要である。また、審議においては各会派間において、できる限り、共通の場に立ち一致点を見出すことに努力することが、参議院の独自性を発揮するためにも必要である。
四、国会正常化の実現
 国会正常化が参議院についても要求されることはいうまでもない。この点については、議長の党籍離脱は議長の裁定、調停等の権威を高め、各派幹部会議の常設は各会派間の意思の疎通をはかる上に役立つであろう。また、その他の改革、特に、十分な審議期間の確保、党議拘束の緩和、議案の修正の重視等も、審議引き延ばし、強行採決、物理的抵抗等の現象の生ずる原因を除去することに役立つものであり、国会正常化の達成への手段となるものである。
五、国民の信頼と親近感の確保
 以上各項の改革の実現によって面目を一新した参議院は、広く国民から信頼される参議院となることができよう。参議院としては、常に国民との距離を近くし、国民に親しまれるように努力すべきである。この親近感の確保のためには、審議公開の原則を発揚して、たとえば傍聴人に対する取扱いの改善や諸施設の整備充実をはかることが要望される。

第二 改革のための諸方策

一、参議院の独自性と自主性の確保

(1)議長及び副議長の党籍離脱
 議長及び副議長は党籍を離脱することが望ましい。党籍離脱は形式にすぎないとの考え方もあるが、議長として公正な運営を意図していても、党籍を有していればとかくの疑惑を招きやすいのでこれを避ける必要があること、所属政党内の紛争及び所属政党と他の政党との紛争にまきこまれないようにすること等の理由からいっても、党籍離脱は意義のあることである。なお、議長の裁定、調停等が各会派によって受け入れられやすい態勢を作るためにもこのことは必要なことと思われる。
 副議長は、法律上議長の職務代行者であるとともに、事実上は議長の助言者、補佐役としての役割も多く、ことに議事運営が紛糾した場合には正副議長の協議によって解決策が提唱されることがしばしばあることを考えると、副議長も党籍を離脱することが望ましい。
(2) 議長及び副議長の選任
 参議院の性格にかんがみ、また議院の運営は各会派がその責任を分担することが妥当であるとの観点から、将来原則として、議長は第一会派の、副議長は第二会派の所属議員からそれぞれ選出されることが望ましい。
(3) 常任委員長の選任
 常任委員長は従来の例により各会派に按分して選任するが、各会派はつとめて適材を推薦し、一年で交替する現在の慣行を改めその在任期間を長くし、もってその権威を高くすることが望ましい。なお、以上に関連して常任委員長に対し格段の優遇措置を講ずることが妥当である。
(4) 参議院から国務大臣等を出す問題
 憲法の規定及び広く人材を求める立場からは、参議院議員が国務大臣に就任することを禁ずべきであるとはいいがたいが、そのことによって参議院の本来のあり方がゆがめられることがあってはならない。特に一定数の参議院議員が割当てにより入閣する現在の慣行については、種々の弊害が無視できない実情であり、十分の自粛が望ましい。
 政務次官についても同様である。
(5)各派幹部会議の常設
 各会派の申合せにより、議長の諮問機関として、各会派の議員会長その他の代表者で構成する各派幹部会議を常設する。各派幹部会議は、議長の招集により定例的に、また、必要があるときは随時に会合し、各会派間の意思の疎通をはかり、議事の円滑な運営につとめるものとする。
 各派幹部会議の決定は全会一致によるものとし、意見が一致しないときは議長が裁定できるものとする。この決定及び裁定については、各会派がこれを順守する責を負うことが必要である。
(6) 常任委員会と各省庁との癒着の防止
 常任委員会の運営にあたっては、その所管を事項別に規定した参議院規則の趣旨を尊重し、常任委員会と各省庁との癒着を防止するようにつとめるべきである。
(7) 特別委員会の設置の抑制
 特定の特別委員会が毎会期設置され常任委員会的な存在となることは、国会の常任委員会制度の意義を減殺するものであるのみならず、議員定数の少ない参議院において多数の特別委員会を設置することは常任委員会の運営に支障をきたすこともあるようであるから、特別委員会は真に必要なものに限って設置することが望ましい。
(8)党議拘束の緩和
 参議院の性格にかんがみ、案件の表決にあたって、各会派はその綱領に謳ってある事項等基本政策に関連の深いものを除き、党議の拘束をつとめて少なくし、議員個々の良識による判断にゆだねることが望ましい。
 右の趣旨に即して、現行の採決方法のほかに、無名投票制度を採用することも考慮されてよい。(規則改正)
(9) 議案の修正の重視
 議案の内容を改善し、また異なる意見を調整するため、修正権を大いに活用発揮することは、国会の運営としてきわめて望ましいことである。特に、苛烈な党争を避け、良識の支配を期する参議院としては、審議にあたり常に修正の意義に留意し、修正の機会を逸しないようにつとめるべきである。

二、効率的な審議

(1) 常会の召集時期の変更
 常会の全会期を活用するため、召集時期を現行の十二月から一月に変更することが望ましい。このための国会法改正は、憲法第五十二条の規定との関係につき検討を要するが、同条に牴触することなく立法することができると思われる。(国会法改正)
(2) 審議期間の確保
 参議院の運営を困難にする事態は、議案の審議期間が短かいことによることが多い。この点の解決策として、常会の召集時期の変更、先議案件の増加、議案の委員会への即時付託、予備審査制度の活用、委員会の定例日以外の開会等が考えられるが、各会派の申合せにより、一定の期日(常会の場合においてたとえば閉会日前二十日)以降に送付されてきた議案は、原則として継続審査又は廃案とするものとすることも、会期末の混乱を防止し、また議案の送付を促進する方策として、取り上げてよいと思われる。
(3) 参議院先議案件の増加
 参議院先議の内閣提出議案を相当数増加するようにつとめ、会期当初の参議院の議事の空白を少なからしめることが望ましい。
(4) 議案の委員会への即時付託
 委員会の審査を促進するため、議案は提出(発議及び予備審査のための送付を含む。)後直ちに委員会に付託するものとする。この場合、本会議における趣旨説明の要求のある議案については、委員会付託後、趣旨説明を行なうことを妨げないものとする。
(5) 予備審査制度の活用
 参議院の審議を効率化するため、予備審査の制度を活用することが望ましい。
 予備審査の段階においても、政府委員等に対して事実関係を究明し、また、公述人、参考人等の意見を聴取することは審査の進捗に資するものであるが、さらに衆議院及び内閣の協力を得て、国務大臣の出席をはかることが望ましい。
 なお、この点は、両院の予算委員会の運営の改善と関連があるであろう。
(6) 委員会の定例日以外の開会
 委員会は、会期末等議案が輻輳しているときは、定例日以外にも開会し、審査の充実を期すべきである。

三、充実した審議

(1) 小会派の発言の保障
 本会議及び委員会における一会期を通じての会派別の発言の時間の合計及び回数は、会派の大小により差等があることは当然であろうが、本会議の場合、個々の議員の発言時間は、発言の種類ごとになるべく平等にすることが望ましい。また、委員会における発言順位については、小会派の立場につき配慮する要があろう。
(2) 委員会における自由討議の採用
 委員会における審査がほとんど委員と政府当局との質疑応答に終始する実情を改め、自由討議を盛んに行なって委員相互間の意見の交換につとめることが望ましい。このことは、委員の意欲的参加を促し、対立をやわらげ、共通の意見を生み出して、議案の発議や修正の契機ともなると考えられる。
(3) 公聴会及び参考人制度の活用
 案件の審査に国民の意思を直接反映させるためには、公聴会及び参考人の制度を活用することが望ましい。この場合、委員会においては公正に人選することにつとめ、これら公述人、参考人も推薦された会派の意見や立場に拘束されることなく自由に意見を述べることが望ましい。また、会派推薦以外の公述希望者もなるべく選定することが望ましい。
(4) 連合審査会の活用
 多角的、総合的に検討することを要する案件については、関連のある委員会と連合審査会を開くことが、審査又は調査の充実をはかる上で望ましい。
(5) 決算審査の重視
 参議院は行政監督の機能の発揮につとめ、特に決算の審査を重視し、審査にあたっては、会計検査院の検査報告にのみ重点を置くことなく、予算の執行が国会で議決された趣旨に沿っているかどうかの実際を深く検討することが望ましい。
(6) 国政調査の充実
 参議院の性格と参議院議員の任期とにかんがみ、長期的、大局的視野に立って大いに国政の調査を行なうべきである。この場合、調査が結了していないときでも、常会の終わりには、議長に対し実体的な報告書を提出するものとする。
 右に関し、常任委員会調査室の機能の拡充強化をはかることは、国立国会図書館の調査及び立法考査局の活用とともに肝要なことである。

四、国民とともにある参議院

 国民から遊離した国会は意味がない。参議院は常に世論の動向に注目するとともに、その活動を広く一般に知らせることにより国民の理解を深めなくてはならない。そのためには、公聴会、参考人の制度等を活用すること、請願の審査の慎重を期すること及び国民への広報の改善につき検討することが望ましい。
 同様の趣旨から、傍聴人、参観人に対する取扱い及び施設を早急に改善することが必要であり、これにより国民との距離をなくすようつとめるべきである。

第三 附言

 以上の改革のための諸方策は、大部分は法律、規則の改正を要しないで運営の改革によって直ちに実施できるものであるが、参議院のあるべき姿の実現は、これをもって足れりとすべきではない。たとえば、従来から、参議院の選挙制度の全般にわたる改革が論議されているが、これについても参議院自身の問題として超党派的に取り組むべきである。
 また、改革のための諸方策のなかには、たとえば審議期間の確保、先議案件の増加など衆議院及び内閣の協力をも必要とする事項が少なくない。これらの事項については、参議院として協力を強く要請すべきである。

参議院問題懇談会
  委員   愛川 重義
  同    秋山ちえ子
  同    飯島  保
  同    河野 義克
  同    佐藤  功
  同    中  正雄
  同    中村 菊男
  同    西澤哲四郎