平成17年1月20日
目次
二 総論(総括事項)
三 各論(具体事項)
四 結論(むすび)
○委員名簿
答申
本調査会は、昨年6月16日に衆参の両院議長の下に設置された。両院議長から諮問を受けた機関の設置は、憲政史上初の試みであり、その諮問事項は「国会議員互助年金制度等に関する諸問題について」というものであった。我々委員は、そのような調査会の意義及び諮問事項の重要性を十分に認識しつつ、18回にわたり、慎重かつ真剣に検討を重ねてきた。
その結果、ようやく結論を得るに至ったので、ここに両院議長に答申するものである。
今日、急速に少子・高齢化が進む社会にあって、国民の多くは公的な年金制度の将来に不安を抱いている。政治の世界はこうした不安を解消しようと、平成15年から16年にかけて公的年金制度の改革に取り組んでいたところ、その最中に、国会議員による国民年金保険料の未納問題や国民年金への未加入問題が表面化し、相当数の政治家が法令を遵守していなかった事実が判明し、国民の政治への信頼を著しく損ねることになった。それと同時に、国会議員の年金制度にも厳しい目を向けることとなり、一般の公的年金と比べて特権的との批判を招くことにもなった。国民の痛みを伴う年金制度改革が現実化する中で、国民の批判に応えて議員年金制度を改革することは、政治に対する信頼を回復するためにも急務である。
本調査会は、このような背景から、国会議員年金の在り方について鋭意検討を重ねてきた。その結果得られた結論は議員にとってかなり厳しいものになっているが、我々としては衆参両院における誠実かつ速やかな対応を望むものである。
また、今般の6月16日からの短期間における調査会では、審議・検討がし尽くせない多くの問題及び関連事項があり、これらについては、できる限り当該箇所において触れるとともに、本答申の「結論(むすび)」において今後検討すべき課題として提言することとした。
現行法による給付は、互助年金及び互助一時金の2種類がある(第2条)。
互助年金は、普通退職年金(第9条)、公務傷病年金(第10条)、遺族扶助年金(第19条)に分類される。
普通退職年金は、在職10年以上で退職した議員に支給される。その年金額は、退職時の歳費年額(1,236万円※)に150分の50を乗じて得た額(在職10年の場合)であり、在職年が1年増すごとに乗数に150分の1ずつ加算される。ただし、この加算は在職50年を限度としている。
公務傷病年金は、議員が公務に基づく傷病により重度障害の状態となったときに支給される。普通退職年金と異なり、在職10年未満の者にも支給される。
その年金額は、在職10年未満の者については在職10年時の年金額を、在職10年以上の者についてはその在職年数に応じた年金額を基礎とし、それに重度障害の程度に応じた金額(恩給法別表第1号表の2)を加算したものである。
遺族扶助年金は、国会議員の死亡退職時又は普通退職年金を受けている者の死亡時に、その遺族に支給されるものである。
その年金額は、原則として普通退職年金額の2分の1である。ただし、公務傷病年金を受ける者が公務に基づく傷病によらないで死亡した場合においては、在職10年未満の者については在職10年時の年金額に、在職10年以上の者についてはその在職年数に応じた年金額に、それぞれ100分の173を乗じた額の2分の1となる。また、公務に基づく傷病により死亡した場合には、100分の173ではなく、100分の230を乗じて得た額の2分の1となる。
互助一時金は、退職一時金(第10条の2)及び遺族一時金(第19条の3)に分類される。
退職一時金は、在職3年以上10年未満で退職した議員に、在職期間に納入した納付金総額の8割を支給するものである。
遺族一時金は、これに準じて、在職3年以上10年未満で死亡退職した議員の遺族に在職期間に納入した納付金総額の8割を支給するものである。
なお、在職3年未満の議員には一時金は支給されない。
※ 後述のように、互助年金・互助一時金及び納付金の算出の基礎となる歳費月額は、現在103万円とされている。(103万円×12月=1,236万円)
【備考】
普通退職年金及び退職一時金の具体的な支給額の例を示せば、以下のとおり。
○普通退職年金
○退職一時金(例:平成6年12月以降の議員在職者)
普通退職年金は、65歳になるまで受給できない。(第15条第1項)ただし、一定の経過措置が講じられている。
なお、議員在職中は、65歳以上となっても年金の受給はできず、納付金の納付義務も継続する。
普通退職年金の受給者が当該年金以外に高額な所得を得ている場合に、年金額を減額する措置である。具体的には、普通退職年金を受ける者の前年の当該年金外の所得が700万円を超えるときに、その所得額に応じて年金額を3割5分から5分刻みで5割まで減額するものである。
ただし、年金の支給額は最低支給額である272万円を下回ってはならず、停止額は現に受けている年金額の5割を超えてはならないものとされている。
互助年金及び互助一時金並びに納付金の算出の基礎としている歳費月額は、現在103万円としている。
この限度額設定の経緯については、別添の資料で詳述する。
制度開始当初の納付金月額は、歳費月額9万円に対し、100分の3の納付金率で月額2,700円であった。その後16回の改正を経て、現在103万円の基礎歳費月額に対し、100分の10の納付金率で、10万3,000円の納付金月額となっている。
この改正経過の主な理由についても、別添の資料で詳述する。
第24条は、「互助年金及び互助一時金に要する費用は、国庫が負担する。」と定めている。
納付金は、一般会計の衆議院及び参議院の歳入となり、給付金(年金・一時金)は、総務省人事・恩給局の所管である恩給費の中に計上されている。
したがって、公的年金のように保険料(納付金)を積み立てて運用するといった仕組みになっておらず、保険数理等を用いる設計にはなっていない。
前述のとおり、本調査会は、国会議員年金制度に対する国民の批判を背景として、同制度の改革案を検討すべく設置されたという経緯がある。
このため、マスメディア等を通じて表明された国民の声を真摯に検討するとともに、各界からの意見も聴取することに努めた。また、議員の立場の理解も重要であり、現職・元職の国会議員からも意見を聴取することとした。
以下にその概要を記すとともに、本調査会として重く受け止めた点を示すこととする。
新聞の投書欄等に表れた主な意見としては、以下のようなものがあった。
これらの意見には、現行制度に対する強い批判が共通して見られる。中には、必ずしも現行の議員年金制度に関する正確な理解に基づくものではないものも見られるが、受給資格年数、併給調整、国庫負担率の問題など、国民からの批判の焦点が端的に示されており、これらの批判に応える改革の必要性を本調査会として改めて認識したところである。
経済界・マスコミ関係者から聴取した意見の要旨は、以下のとおりである。
このように、現行互助年金制度は特権的な制度であるとの批判的な視点からの厳しい意見が多かった。中には、国会議員や国会の役割・特殊性に対する見解の違いに基づく批判も見られるが、改善策について、国民年金基金制度や確定拠出型年金制度といった現行制度とは大きく隔たる制度を参考とすべしとする思い切った提案もあった。
なお、実現には至らなかったが、労働組合の代表者からの意見聴取の機会の設定にも努力した。
まず、元国会議員については、元衆議院議員2名、元参議院議員1名の3名から意見を聴取したが、その要旨は以下のとおりである。
総じて、現行制度の存続を肯定するものの、現在の国庫負担率は過大であるといった認識に立っており、直すべき点は直さなければならないとの意見であった。
他方、現職の国会議員については、衆参それぞれ5会派(自民、民主、公明、共産、社民)の1名ずつから意見を聴取した(総数10名)。その要旨は以下のとおりであるが、これらの意見のうち、会派の統一見解であるとするものは少なく、多くは議員個人の見解として述べられたことに注意する必要がある。
このように、制度の改正に当たっては国民からの批判を真摯に受け止め、誠実に対応したい旨の意見が一致して述べられていた。現行制度の廃止も強く主張されたが、廃止後の具体像については様々であり、本調査会の結論をまちたいとする意見も見られた。また、退職一時金制度の創設に言及した意見もあった。
以上に見たように、現行制度について何らかの改正が必要であるという点では、幅広い意見の一致が見られる。本調査会としては、現行制度をそのまま存続させるという選択肢を選ぶことはできないことを改めて認識する機会になったものと考える。
国会は、憲法に定められた国権の最高機関であり、法律の制定、予算の議定、政府統制といった重要な機能を有している。国会がこれらの機能を十分に発揮し、国会の構成員である国会議員がその職責を十分に果たすことができるように、憲法及び国会法等によって、国会議員には一定の特典と相応の処遇が与えられているのである。
国会議員の年金も、本来、そのような処遇の一部として考えられるべきものであり、歳費や文書通信交通滞在費などとともに、議会制民主主義の維持に必要不可欠なコストとして認識されるべきものである。
そもそも、公共性の高い国会議員の身分は、厳しい選挙に当選することによって初めて得られるものである。ところが、議員年金の受給資格を得るには、現行制度の下でも複数回の選挙に当選しなくてはならず、国会議員年金の受給資格を得られるかどうかは、厚生年金や共済年金等に比して、極めて不確実な要素に決定的に左右される。議員年金の問題を考えるに当たっては、このような議員の職務の高い公共性と不安定な身分との間にある不均衡な関係をよく認識する必要があろう。
このように受給資格を獲得することが必ずしも確実でないことから、国会議員年金には、一般的な厚生年金や共済年金等と異なった特殊な意味合いと位置付けが与えられてしかるべきものと考えられる。また、議員年金制度等の引退後所得保障制度が存在しないとすれば、新しい人材の台頭に対して抑制的に作用する可能性があることも十分考慮されるべきである。
上記のとおり、憲法で規定されている国会議員の重要な職責と身分の特殊性により、一般国民とは別な、かつ、独立した制度として、相当額の年金給付を保障する議員年金制度を構築するのが妥当である。
その理由を整理して示せば、次のとおりである。
ところで、議員年金の問題を複雑にしている一因に、その性格が曖昧であることが挙げられる。過去の制度の成立過程も、別添の資料に示すように錯綜しており、議員年金制度の性格をはっきりさせた上で、その改革の議論を整理した形で展開する必要がある。
まず、議員年金は公的年金に属する年金とは言えないと考えられている。議員は最低限公的年金としての国民年金に加入する義務があり、この義務の履行を怠った議員が多数存在したことに今回の議員年金問題の発端がある。また、議員の過去の職歴いかんによっては、厚生年金や共済年金の給付対象になっているケースもありうる。
したがって、議員年金は公的年金に加入している議員に対して併給される年金であり、この点では、職域年金としての性格が強いものと理解すべきである。
しかし、このように職域年金としての性格を持つものと考えるとしても、国会議員という特別の職務に対する退職後の処遇を念頭に置く必要があり、給付資格、保険料や国庫負担などにおいて通常の職域年金とは異なった設計にすべきであろう。
現行法は国会法第36条を根拠としながら、その性格、とりわけ退職手当との関係、年金制度全体の中での位置付け等の点で、曖昧である。
したがって、議員年金制度を創設する趣旨・目的が明記されていないという意味において、他の現行法の多くの在り方から見ると、不完全なものであることは否めない。
また、平成16年度予算で、国庫負担が72%を超えているような運用実態は、「互助」の名にふさわしくない年金制度である。それを後述するような50%に抑えるという改正案によっても「互助の精神に則り」という基本的な立法姿勢と相容れないものがある。
その上、現行法については、短期間の在職で多額の年金が受給できる等、給付と負担にかかわる多くの点について各方面から問題点が指摘されている。議員年金が公的年金に属するものでなく、職域年金としての性格が強いものであることは先に述べたとおりであるが、受給資格年数及びその年金額は、国会議員が国民の代表として極めて重要な職責を担っていることを考慮しても、公的年金とのバランス上優遇されている点が目立つと言える。
さらに、特権的と言われる恩給法の思想に沿った規定も多く、かつ、随所にその規定を準用している。
また、年金の実質価値を維持するための附則規定も、抜本的に見直す必要がある。
このように、第1条から附則に至るまで再検討の必要があると言わざるを得ない。
現在、納付金を納める現職議員722人に対し、受給者は遺族を含めて946人となっており、年金集団としての成熟度が極めて高く、現職議員の負担も限界に近いものがある。
給付と負担、そして国庫負担について思い切った改革が必要となっている。その上で、議員年金制度を独立な特別な制度として存続させることが適切な選択なのかを慎重に検討する必要がある。
以上の理由で、現行法の廃止はやむを得ないと考える。
以上の諸点から考えると、議員年金制度を抜本的に改革し、新制度を提示するのが本筋と思慮する。そのため、我々は、多様な改正案を念頭に置きながら議論を進めてきたが、その第一歩として以下の方向性についても審議した。
我々は、上述したとおり、議員年金について魅力ある新制度を短期間のうちに提言することを念頭に鋭意努力を重ねてきた。しかし、与えられた時間の制約の中で、しかも複雑な年金体系・制度の中に議員年金制度を適切に位置付けることの難しさを認識することとなった。
そこで、まず、国民から議員年金に対して寄せられている批判を真摯に受け止め、それらの批判に応えていくことを中心に改革案をまとめて答申することとした。
議会制民主主義の下で、国会議員は国民の信託を受け、その代表者として極めて重要な職責を有していることは事実である。しかし、上記の現行国会議員互助年金法の「廃止の理由」及び「新制度提案の障壁」で述べたとおり、今日の我が国の逼迫した財政難及び社会的諸情勢を考慮するとき、ひとり国会議員のみを例外とした扱いをすることは許されるべきものではなく、国民の納得を得られるものではない。
ただし、既に現行制度で年金を受給している元議員と遺族については、その所得を保障している年金権を尊重することが望ましいと判断した。
こうした認識に立って、次のような抜本改正案を提言する。
本来、法律をもって保障・制限・義務等を規定する場合は、その法律の第1条においてこれらの趣旨・目的を明確にすべきものである。
現行法はその点において不備であり、国民の納得が得られるような説明を十分していない。そこで、次のようにその趣旨・目的を明記することを提言する。
「国会議員は代表民主制を基本とする現行憲法下において国権の最高機関である国会を組織する国民の代表として極めて重要な職責を担う立場にあることにかんがみ、議員退職後における生活を保障することによって、国会議員が独立かつ公正にその職務を遂行し得る精神的・経済的な環境・条件を整備するとともに、議会制民主主義を担う人材の国政への参加に資することを目的として、この法律を制定するものとする。」
なお、このことに伴い、改正法の題名は「国会議員年金法」とすることを提案する。
現行法における国庫負担は、公的負担か雇用主負担なのかについては、議論の余地はあるが、仮に雇用主負担であるとした場合には、共済年金も厚生年金も50%負担が行われており、公的負担であるとした場合においても、国民年金の国庫負担についても平成21年度までには50%になることが予定されている。
したがって、議員年金においても国庫負担を原則として50%とすることが妥当である。この場合、現職議員への急激な負担増を避けるため、段階的に国庫負担の割合を逓減させていくこととし、4年程度の期間で50%を達成するのが望ましい。(仮に、改正の初年度を17年度とした場合には、概ね、初年度64%、第2年度59%、第3年度55%、第4年度50%というように国庫で負担すべき割合を毎年設定し、この経過措置の期間は、月例の歳費からの納付金額、期末手当からの納付金の額の引き上げに伴い剰余金が出る場合には、それを翌年度に繰り入れるものとする。)ただ、議員定数の削減等、予定外の事態への対応については、両議院の議長が第三者の意見を聴取した上、対処するものとする。
現行どおり、103万円とする。
現行どおり、103万円とする。
現行の100分の10を100分の13とする。
現行の10万3,000円を3万900円引き上げ、13万3,900円とする。
現行の1000分の5(1人年額2万9,605円)を1000分の100(1人年額59万2,100円)とする。
現行の10年を2年引き上げ、12年とする。
現行の50年を20年引き下げ、30年とする。
現行の150分の52を33%引き下げ、150分の35とする。
現行の150分の1を150分の0.7(1年増すごとに年額5万7,680円)とする。
互助年金外の所得が700万円を超える場合に普通退職年金を35%から5%刻みで50%まで4段階で停止する(ただし、272万円は保障する)、としている現行制度を、議員年金と議員年金外の所得の合計が700万円を超える場合は、当該超える額の2分の1を議員年金から控除する。ただし、議員年金の50%は保障する、というように改める。
現行の併給調整措置に新たに次の調整措置を加える。
a 普通退職年金と遺族扶助年金(普通退職年金)
b 普通退職年金と公的年金
aの調整は、夫婦で国会議員の経歴があり、夫婦ともに年金の受給資格年数を満たしている場合は、公的年金の併給調整と同様の措置とする。
bの調整は、公的年金に係る被保険者期間との重複期間については、その期間における使用者負担部分相当額を互助年金から控除する。
なお、上記a及びbの調整措置を実施する場合は、高額所得による年金停止措置の対象となる所得の中から控除する必要がある。
在職3年以上12年未満で退職(死亡を含む)した場合には、退職及び遺族一時金を支給する。
退職及び遺族一時金の支給割合は、100分の60から100分の80の範囲内で両議院の議長が協議して定めるところによる。
現行法においては、恩給法の準用が随所に見られるが、このことが議員年金制度に特権性があるものと実態以上に強く誤解されている面がある。したがって、これを改め、国家公務員共済組合法を準用することとする。
既受給者(現職議員を除く受給資格を有する者で未裁定及び未請求の者を含む)の年金は、
a 本調査会による答申により改正される法律(以下「改正法」という。)の施行日以後においても、既受給者全員の年金額は、現行どおりとする。
b 改正法の施行日以後において、既受給者の年金を増減させる場合は、消費者物価指数(全国ベース)に増減がある場合とし、当該指数をもって行う。
現行の総務省人事・恩給局長の下における審査・裁定及び支給機関を国会に移管し、衆・参両院議長の委任を受けた共通の事務管理機関を設置して、その一元化を図るとともに、特別会計を設置して一括計上し、毎年公表を義務付けるなどして、公開性・透明性を確保する。
イ 改正法は、施行日以後に在職する議員に適用する。ただし、改正法の施行日の前日に在職する議員で、施行日以後引き続き在職する議員のうち、在職年数が同日前に現行法による年金の受給資格を得ている場合は、現行法の規定による年金を支給する。
改正法の施行日以後の在職年数に係る措置については、ニからヘに提言した措置とする。
ロ 「納付金率」及び「納付金月額」については、改正法の施行日に当たる年度から納付金は月額1万300円ずつ引き上げ、3年後の年度当初からは月額13万3,900円とする。
なお、納付金率は、それぞれ当該年度に引き上げることとなる納付金月額に相当する割合とする。
ハ 「期末手当からの納付金」については、改正法の施行日に当たる年度は、その納付金率を1000分の40とし、以後1年ごとに1000分の20ずつ引き上げ、4年後の年度当初から1000分の100とする。
ニ 「受給資格年数の最低」については、改正法の施行日以後に在職する議員に適用する。ただし、改正法の施行日の前日に議員であった者が、現行法による当該年数を満たし、かつ、施行日以後引き続き議員である場合には、施行日の前日までの在職年数に係る年金額を支給する。
ホ 「受給資格年数の最高」については、改正法の施行日以後に在職する議員に適用する。ただし、施行日において、30年を超える者については、同日における在職年数を認め、引き続き在職した場合にあっても同日における在職年数に係る年金額を支給する。
なお、施行日において30年に満たない者は、30年をもって最高とする。
また、現職議員である間は、受給資格年齢に達しても、現行どおり年金を支給しない。
ヘ 「在職13年以上に係る1年ごとの加算割合」については、改正法の施行日以後の在職年数について適用する。
ト 「高額所得による年金の停止措置」については、前年の所得調査を行い、その調査を行った年の7月から翌年の6月まで停止措置を実施するため、提言のとおり改正した場合は、改正法の施行日が本年の4月1日のときは、改正法の適用対象となる所得調査の期間が平成18年となり、その停止措置の適用は平成19年7月からとなる。
また、現行法において既に停止措置が適用されており、改正法の施行日以後引き続き新たな停止措置が適用される場合には、停止額が低額となる方を適用する。
チ 「併給調整」についても上記トと同様であるが、新規の調整措置であるため、改正法の施行日が本年の4月1日のときは、平成17年の所得調査の後に適用することになるため、平成18年の7月から適用することとなる。
リ 上記のイからチまでに掲げた経過措置のほか、必要な事項は、両議院の議長が協議して定めるところによる。
ヌ 「恩給法の準用」については、現行法において恩給法の適用(準用)によりその法的効果を得ているものはないため、改正法の施行日の前日まで現状であれば、施行日以後国家公務員共済組合法の準用が可能である。
国会議員に対する退職手当については、勤務の常勤性一つを例にとっても、それをいかに解釈するかによって具体的対応は様々に異なることになる。したがって、議員に退職金を支給することについては、多角的かつ根本的に議論を行う必要がある。本調査会の期間内での検討で結論を得ることは困難であった。
(しかし、今日、国会の年間の開会期間は250日を超える場合がある。閉会中にあっても閉会中審査などがあり、通年国会の様相を呈することもある。
また、閉会中といっても選挙区等での国会(国政)報告等の活動を見れば、公務の連続性は極めて高く、常勤性の濃いものとなっているという指摘もある。)
先の第159回国会(常会)で成立した法改正による年金制度改革は、5年ごとの財政再計算期に合わせたもので、年金財政の均衡が中心課題であり、その趣旨は、将来の保険料率の上限設定と厚生年金モデル世帯での給付水準を現役世代の所得に比して一定の水準に維持することであった。
しかし、以前から課題とされてきた「基礎年金を税方式にすべきかどうか」、「第三号被保険者問題をどうするか」、「パート従業員の厚生年金加入を義務付けるか」、「国庫負担を2分の1にするための財源をどうするか」など、重要で難しい問題は先送りにされた。
しかし、年金制度の一元化を含めた社会保障制度全般の一体的見直しを行うという基本問題の検討が必要であることは、十分認識しておくべきである。
このように公的年金制度自体に山積する重要課題がある中において、現時点において現行の議員年金制度を国家公務員共済年金制度等の公的年金制度に統合することを提言することには、いささか躊躇を覚えるものである。
このため、厳しい国政選挙にさらされる議員を対象とする年金制度を公的年金制度に統合するためには、まず、議員年金制度自体の健全性と安定性を確保するための措置を講ずることが急務である。今後における公的年金の課題が解決の見通しが立ち、いわゆる一元化の運びが見えてくる時点までは、本答申で提言した内容をまず実効あるものとされることを望むものである。
なお、他の先進諸国に準じた議員年金制度の社会保険年金制度化、米国を参考とした厚生年金制度への一元化、被用者年金制度と同一のマクロ経済スライド導入、受給資格を在職15年とし在職12年未満者に対する給付不支給、地方議員年金制度との併給禁止などの少数意見も存在した。
(渡部委員の意見)
本調査会は、今般の両院議長からの諮問に対する答申を提出するに当たり、この答申の位置付け及び今後検討すべき課題について、以下のとおり考えた。
まず、我々は、調査・審議をスタートするに当たって、年末の12月に答申を提出することが期待された。そのため、6月16日の第1回会合以降の短期間での検討を経て結論を出すべく努めた。
そもそも、長期間議員年金についての本格的議論が行われてこなかった今の時期に、議員年金制度の調査・審議を行うということになれば、国民世論の的確な把握を基礎にした上での国内外の諸変化を受けての議員年金の本質的性格付け、それを踏まえた上での議員年金の構造、負担と給付の在り方、そしてその上に立っての年金制度全体の中での位置付け、関連諸制度との整合性等について十分時間をかけて今後検討すべき課題として調査・審議しなければならないと考える。このためには、調査・審議の体制整備も必要となる。
時あたかも、国会、政府においては、現行年金制度の抜本的見直しを行い、年金制度全体の再編議論を進める機運と見受けられる。この際、我々は、今後のこの議論の推移と方向性等を注視しながら、議員年金制度の将来の在り方について適時・適切な対応を図るための準備・体制を整えることが賢明であり、また、重要であると認識するものである。
それにしても、議員年金制度及び運営の実態には極めて厳しい現実があることを認識しておかなければならず、成熟度一つとっても異常と言わざるを得ない。今後の年金制度全体の再編論議のテンポに合わせるためにも、議員年金制度の公的年金制度への統合について基礎的調査・研究をスタートすることを提言したい。
本日、本調査会が提出する答申は、当面急務とされる、議員年金に対する国民各界各層から寄せられている批判に対して、速やかに講ずべき施策をとりまとめたものである。その背景事情は、上述したとおりであり、両院議長におかれては、この間の事情を御賢察の上、御了解いただきたい。