1. トップ >
  2. 参議院のあらまし >
  3. 参議院改革の歩み >
  4. 参議院改革関係年表 >
  5. 懇談会、「参議院の将来像に関する意見書」を斎藤議長に提出

参議院のあらまし

懇談会、「参議院の将来像に関する意見書」を斎藤議長に提出

参議院の将来像に関する意見書
     (平成十二年四月二十六日 参議院の将来像を考える有識者懇談会)

はじめに
 参議院では今日まで、調査会の設置、常任委員会の再編成、押しボタン式投票の導入を始めとする多くの改革のための努力がなされてきた。しかし、現状の参議院の在り方・機能については、その存在意義を含めて様々な批判がある。そこで、更に一歩踏み出し、参議院の存在意義・任務等にふさわしい一層の活性化を図ることが必要である。
 本懇談会は、昨年四月に斎藤十朗議長の私的諮問機関として設置され、参議院の将来像を探り、真にその役割を果たし得るための改革の方向性を検討するよう諮問を受けた。以来、我々は参議院議員や議会制度専門家からヒアリングを行いながら、二十二回にわたって会合を持った。その間、我が国の二院制の歩み、現行憲法制定時の参議院構想、主要国の議会制度等の検証を踏まえ、現行の枠組みにとらわれることなく、二院制存続の是非を含め、参議院の在るべき姿について議論を重ね、精力的な検討を行ってきた。
 ここに、我々は、参議院の将来像及び改革の方向性について合意に達したので、その結果を報告するとともに、幾つかの改革案を提示する。

I 参議院の存在意義と役割

(1)  参議院は多様な民意を反映する。
 衆議院の任務は民意の集約による政権の樹立にあるが、参議院は衆議院で集約されない別の角度からの多様な国民の意思を国会に反映させることに存在意義がある。また議会政治は、政党政治を基本とするが、衆議院の政党の枠組みでは吸収しきれない意見や利益もあり、また、それらも政党のみに代表されるわけではない。そこで参議院は、これとは異なる代表に基づく機能を担うことに意義がある。
(2)  参議院は抑制と均衡の機能を果たす。
 二院制の存在意義は、二つの院が議会において抑制と均衡の関係を保つことにある。衆議院は政府を形成する機能を持ち、これに対して参議院は衆議院に対する抑制、均衡、補完の機能を発揮することが期待される。
(3)  参議院は長期的展望に立った議論を行う。
 参議院は、議員の任期が長く、解散もなく、衆議院に比し議員定数が少ないという特色を有する。参議院には、それに由来する政策の継続性と安定性、激変の緩和、長期性などをいかした機能を発揮することが期待される。

II 改革の原則的な考え方

(1)  「良識の府」としての機能を活性化させる。
 政党化などに由来する数の論理に対して、参議院は「理」を貫く立法府としての役割を重視し、この機能を活性化させる。
(2)  「再考の府」としての機能を明確化する。
 参議院には権力(政権)よりも大所高所に立った中長期的な審議に基づく権威を期待し、行政監視を含む「再考の府」としての機能を発揮し得るような仕組みを導入する。
(3)  政党よりも個人の活動を中心とした意思形成を重視する。
 政党又は会派の活動を単位とする衆議院に対して、参議院は議員個人の活動を中心とした自由で多様な意思形成の場を提供する。また、それにふさわしい個人を選出できるような選挙制度に改める。
(4)  現行法の枠組みにとらわれることなく、参議院の在るべき姿を追求する。
 これまでの多くの改革の成果を踏まえ、これを更に推し進めるという立場から、憲法その他の現行法の枠組みにとらわれることなく検討を加える。

III 改革の基本的方向
 上記のような原則的な考え方に立つとき、衆参両院における審議の重複等を避け、参議院の特色を一層発揮するために、我々は多面的な改革が必要であると考え、以下のような具体案を提示する(※は憲法改正を要するものである)。

1 衆参両院の機能分担

(1)  参議院に政策評価委員会(仮称)を置き、執行された政策の評価を行う。
 行政監視機能を強化する観点から、参議院に常設の政策評価委員会(仮称)を置き、中長期的な観点から、執行された政策の評価を行い、その結論を議長が内閣総理大臣に送付し、内閣はそれに対して採った措置を参議院に報告するようにしてはどうか。
(2)  参議院は審議の重点を決算審査に振り向ける。
 決算審査の意義を高めるため、決算報告書の審査及び予算執行に関する評価が政府の次々年度の予算編成に間に合うよう決算の提出時期・審査方法の改善を図ることが必要である。これが実現すれば、政府に対する警告決議の重みも増すため、参議院は決算審査の充実に力点を置くことが可能になる。その場合、参議院は予算審議の在り方を再検討し、審議の重点を決算審査に振り向けるようにしてはどうか。
(3)  いわゆる基本法については参議院先議とする。
 衆議院議員に比し、参議院議員の任期は長く、中長期にわたる政策の調査研究等が期待される。参議院が衆議院の政党と一定の距離を置くことを前提に、その特性をいかすためにも、国の制度・政策・対策に関する基本方針・原則・準則・大綱を定める、いわゆる基本法については、参議院先議とすることを明確化してはどうか。
(4)  国会同意人事を参議院の専権事項とする。
 今日まで国会、とりわけ参議院の行政監視機能は、十分に発揮されてこなかった。このため参議院の重要な行政監視機能を強化し、政党の意思にとらわれない審議を行うという観点から、いわゆる国会同意人事を、原則として参議院の専権事項とし、慎重に審査することにしてはどうか。
(5)  衆議院の再議決権は、一定期間、行使できないことにする。〈※〉
 現行憲法では、衆議院の再議決要件は極めて厳しく設定されており、これが各政党における法案に対する事前審査の必要性を高める結果を招いている。このため、衆議院は参議院が否決した日から一定期間は再議決権を行使できないことにすることによって、参議院の役割を明確化してはどうか。この場合、衆議院は参議院が否決した議案について過半数の多数で再議決し、成立を図ることができることとする。
(6)  参議院は内閣総理大臣の指名を行わないことにする。〈※〉
 現行憲法の規定では、内閣総理大臣の指名が両院で異なるときは、衆議院の議決が優先する。したがって、「権威の府」として政権及び衆議院の政党と一定の距離を置くため、参議院は内閣総理大臣の指名を行わないことにしてはどうか。また、参議院議員は、国務大臣、政務次官(副大臣・大臣政務官)への就任を自粛するようにしてはどうか。
(7)  裁判官弾劾裁判所は、参議院議員の中から選挙された裁判員で構成する。〈※〉
 各院の機能を分離・明確化するため、裁判官訴追委員会は衆議院議員の中から選挙された委員で構成し、裁判官弾劾裁判所は参議院議員の中から選挙された裁判員で構成することにしてはどうか。
(8)  一定の条件の下で参議院に優先的審議権を与える。〈※〉
 地方分権が進んだ段階では、参議院に地方自治及び地方分権等に関する優先的な審議権を与えてよいのではないか。この場合、参議院議員の選挙制度は、それに見合ったものにする。また、条約等に関する優先的な審議権も検討されるべきである。

2 参議院の自主性及び独自性の確保

(1)  国会法を簡素化し、議院固有の組織・運営事項は議院規則等で定めることにする。
 現行の国会法では、各院の自律権にかかわるものが多く規定されており、参議院が独自性を発揮することを著しく困難にしている。そこで議院の自律権を確保するため、国会法の規定を原則として両院関係及び国民・官庁との関係にかかわるもののみに限定し、議院の組織及び運営に関する事項は各議院の規則等で定めることにしてはどうか。
(2)  参議院独自の「参議院会派」という考え方に立って、党議拘束の在り方を見直す。
 政党が衆参両院にまたがって議員の議会活動を強く拘束するという仕組みは、参議院が独自性を発揮する上で大きな障害となってきた。とりわけ、法案の国会提出に先立ち、両院議員合同で事前に行われる、いわゆる与党審査には大きな問題がある。このため、参議院独自の「参議院会派」という基本的な考え方に立って、党議拘束の在り方を根本から見直してはどうか。
(3)  中長期にわたる政策の調査研究等の一層の充実強化を図る。
 参議院議員の任期の長さにかんがみると、中長期にわたる政策の調査研究等の一層の充実強化が必要とされる。また、参議院では専ら議案の審査を行う委員会だけではなく、こうした調査会に力点を置いた活動が望まれる。そこで調査会の報告に対しては内閣の考え方を求めることにしてはどうか。また、常任委員会の再編との関連においても、現行の調査会に加え、例えばエネルギー、食糧等に関する調査会を設置してはどうか。そして、調査会における調査の成果をより一層立法措置につなげていくことが望ましい。
(4)  質問制度の在り方を見直し、本会議での口頭質問を実現する。
 議員による質問は、国政一般について内閣に対し説明を求め、所見をただす重要な役割を担っている。しかし、現在、本会議における議員の発言は、政府演説や議案の趣旨説明に対する質疑が中心で、議題とは関係なく行われる口頭質問は、ほとんど活用されていない。参議院では自由な議論を促し、本会議を活力ある質疑応答の場とするため、口頭質問を原則化してはどうか。そして、これを補足する形で文書質問の活用も促す。
(5)  国政調査権の行使の仕方を見直す。
 国政調査権は議院に付与されている重要な権能である。これを更に有効に活用するため、参議院における国政調査権の行使の仕方を見直し、特定事件の国政調査については必ず特別調査委員会によることとする。その場合、一定数の賛成者があれば特別調査委員会を設置できるようにしてはどうか。また、国政調査の適正さを確保し、調査結果を明らかにするため、必ず報告書を作成し、公表する。

3 議員個人中心の活動の促進

(1)  議員立法の発議要件を緩和する。
 平成八年の「参議院制度改革検討会」は、議案の発議要件を三名程度に緩和すべき旨を報告しているが、いまだ実現されていない。議員発議による立法活動を一層促し、小会派等の議員にも議案提出権を与えるため、現行の議案発議及び修正動議の提出を個々の議員に認めるなど、提出要件を思い切って緩和してはどうか。
(2)  本会議における質疑は議員個人中心のものとする。
 衆議院の本会議では、会派を単位とした代表質問が行われている。これに対し、参議院では会派のみならず、議員個人の専門及び見識をいかした質疑を中心としてはどうか。そのため、質疑者一人当たりの割当時間を均等にするなどの改善を図る必要がある。また、質疑時間の繰越しを可能にするなど、その運用も弾力化する。
(3)  議員に対する公的助成の在り方を見直す。
 党議拘束の見直しや発議要件の緩和によって議員個人中心の活動を重視する立場から、これを積極的に促進するために、政党助成及び立法事務費など、政党や会派を単位に支出されている公的助成を議員個人単位に見直してはどうか。これと同時に、収支の公表を徹底すべきである。
(4)  議員個人の活動を補佐するため、議員スタッフの充実を図る。
 議員個人を単位とした立法及び行政監視の活動が有効に行われるようにするため、議員スタッフを始めとする補佐機構の整備・充実を図ってはどうか。

4 審議及び運営の改革

(1)  いわゆる通年会期制を導入し、会期不継続の原則を改める。〈※〉
 国会の審議日数を十分に確保し、常に国政上の問題に迅速に対応できるようにするため、通年会期制又は立法期の制度を導入してはどうか。少なくとも参議院では効率的な審議を確保するため、いわゆる会期不継続の原則を改め、議事及び案件継続の原則を明確化すべきである。
(2)  原則として本会議中心の運営とする。
 議員個人の活動を重視し、議員全員が審議に参加するという観点から、参議院では本会議中心の運営を行うようにしてはどうか。また、その運営を可能にするためには「小規模院」(百五十名から二百名程度)とすることが望ましい。
(3)  定足数の規定は本会議における議決要件のみとする。(※)
 現行憲法では議事及び議決について総議員の三分の一以上の定足数が必要とされている。しかし、本会議中心の議事運営を容易にし、議員による自由討議を促進するため、参議院では現行の議事定足数の考え方を無くし、定足数の規定は議決要件のみとしてはどうか。
(4)  常任委員会制度を抜本的に見直す。
 参議院を本会議中心主義とする観点から、現行の常任委員会制度を抜本的に見直さなければならない。予算委員会、決算委員会、懲罰委員会等は残すとしても、重要法案に関する専門的かつ集中的な審査を行うため、特別委員会の方式を原則化してはどうか。その場合、議員の一定数以上の要求により特別委員会を設置する仕組みを導入すべきである。
(5)  議案調整(マークアップ)の制度を確立する。
 議案発議及び修正動議提出要件の緩和に伴い、議員提出法案や修正案が増大することが見込まれる。そこで委員会又は小委員会において議案を調整し、場合によっては議案の整理統合を行うための議案調整(マークアップ)の制度を導入してはどうか。
(6)  請願審査を充実させる。
 請願は国民の重要な権利の行使であるにもかかわらず、従来は会期末に一括して採択されるなど、十分な審査が行われてこなかった。これらの中には政党で集約されないものも含まれている。また、インターネット等を用いた方法を検討することにより、国民の多様な意見等の表明が可能となる。そこで請願審査を充実させるため、参議院に常任委員会として請願委員会を設置することとしてはどうか。

5 選挙制度の改革

(1)  現行の比例代表制を含め、選挙制度の在り方を抜本的に見直す。
 参議院議員の選挙制度については、比例代表制を見直し、党派に束縛されない個人の意見を反映するとともに、公正な民意を代表するような制度の実現を図るべきである。選挙区の規模については、政党の支持・推薦を受けない候補者も十分な選挙運動を展開し、その当選が可能となるように改めてはどうか。
(2)  多様な個人を選出するための選挙制度を実現する。
 現行の選挙制度の下においては、選挙に膨大な費用を必要とし、政党や団体の支持の有無が選挙結果を左右する傾向が強い。そこで、参議院選挙では政党等に依存せず、個人中心の選挙運動を容易にするため、公営選挙の拡大やメディアによる選挙運動などの導入を図ってはどうか。
(3)  将来の課題として、参議院の代表制の性格を見直す。〈※〉
 今後、地方分権が推進されることを前提とすれば、参議院を「全国民の代表」ではなく、一定の地域と関連し、これを単位とする地域代表的な性格のものにしてはどうか。

おわりに
 以上の改革案は、これまでの枠組みにとらわれることなく、参議院の将来像を検討してきた結果をまとめたものである。このため、本意見書では現行憲法の枠組みの中で行い得る提案もあれば、あえて憲法改正を要するものも含まれている。
 もとより、参議院を活性化させる方策は、これらに尽きるものではないが、この意見書を議論の出発点として、参議院自身が超党派的な観点から、その存在意義にふさわしい任務・機能を果たし得るよう積極的に改革に取り組むことが求められる。
 また、この意見書の中には衆議院や内閣の協力を要する改革案も多分に含まれている。したがって参議院としては、これらの事項については両院協議の場を設けることなどを要請し、その実現に努めることを強く望みたい。

参議院の将来像を考える有識者懇談会
          座長     堀江  湛
          委員    浅野 一郎
          同     岩井 奉信
          同     大石  眞
          同     大宅 映子
          同     金指 正雄
          同     坂本 春生
          幹事    本田 雅俊