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参議院の動き

参議院70周年記念論文表彰式

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 ドイツをモデルとした新しいリサイクル・システムの導入

熊本県  熊本マリスト学園高等学校 1年

米村 拓巳

私が国会議員になったら、日本の環境対策について取り組みたいと思っています。2016年COP21締約国会議では「パリ協定」を採択し、「産業革命前からの世界の平均気温上昇を『2度未満』に抑えること」が目標とされました。環境大国日本として国際社会でリーダーシップをとるためには、これを何としても実現しなければなりません。

こうした高い削減目標を実現するためには、消費者の環境意識を高めるだけではなく、生産構造までも含んだ抜本的な改革が必要であると考えます。そこで私は、「ドイツのリサイクル制度」をモデルとしたリサイクルシステムの改革を政策として国会で提案します。

ドイツ・リサイクル制度とは、生産者が資源の回収・処理・リサイクルのすべての責任を負う仕組みです。日本では、資源の回収を自治体が、処理とリサイクルはリサイクル業者が、その費用は消費者が負担しています。これでは、生産者に環境意識は生まれません。そこで、生産者、つまり企業が共同で出資して「資源回収会社」を設立し、その出資したお金で回収・処理・リサイクルまで全責任をもってもらいます。すると、自分で作った製品を、自分でリサイクルしなければならないわけですから、最初からリサイクルしやすい素材を使ったり、リサイクルしやすい作りにしたりと、生産者側の意識改革が期待できるのです。これまで、生産者がつくり、消費者が買い、その廃棄物を自治体が集め、リサイクル業者が処理するという4つの過程を通っていたリサイクル・ルートが、生産者=消費者という2つの関係で流通するわけです。

具体的な政策手順は、次の通りです。

手順1、国会で「拡大生産者責任法」を制定します。拡大生産者責任とは、使い捨てを減らして長持ちする製品、リサイクルしやすい製品、ゴミになりにくい製品に変え、自治体任せの処理だけではなく、モノをつくる企業に一定の責任を負わせ、リサイクル、再利用していく考え方のことです。すでに「資源有効利用法」(改正リサイクル法)として一部、容器包装などの廃棄物カテゴリーで導入されていますが、これを全ての廃棄物に適用します。

手順2、廃棄物の回収カテゴリーを細かく分けます。ドイツを例とすると、大型家電製品、小型家電製品、情報技術・通信機器、消費者機器、照明器具、電気・電子工具、玩具・レジャー用品・スポーツ用品、医療機器、モニター機器、自動販売機と電子機器だけでも10種類に分けられています。

手順3、環境マークを作り、リサイクルしやすい素材や作りの製品につけることを義務付けます。この環境マークは、環境省の関係機関が定めるものとし、省エネ制度を段階別で評価する「省エネルギーラベル」のようなものを、包装部分の環境の良さによって評価したものをつけるというものです。

この政策が、どのように効果をもたらすのか説明します。手順1のように、拡大生産者責任法を制定することによって、リサイクルされやすい製品は価格が安く、リサイクルされにくい製品は価格が高くなります。企業たちが共同で「資源回収会社」を設立しますが、その出資額は「リサイクルしやすい製品かどうか」で多寡が決まります。ですから、リサイクルしやすい素材・つくりの製品を生産している企業は、出資額が低くなり、負担は小さくなります。つまり製品価格も安く提供できるわけです。東多摩再資源化事業協同組合ニュースレター「ヴィーナス通信」第21号(2001.11.15)には次のように掲載されています。「コスト負担の責任を事業者に転嫁することによって、事業者はコストを減らす努力をします。処理費を全部価格に転嫁すると製品が売れなくなるかもしれませんから、できるだけコストを下げるために、処理しやすい製品、リサイクルしやすい製品に転換していくことが期待できます」。

しかし中には、環境に良い素材を使うと逆に価格が高くなってしまう場合もあるでしょう。その際には、政府が補助金を支給して、環境負荷の低い素材を使おうとする優良企業を助けたいと思います。そうすることにより、環境に良い素材を開発する際のコストの問題を緩和することができます。さらに手順2のように、廃棄物の回収のカテゴリーを細かく分けることで、リサイクル率が高まります。熊本県水俣市の平成28年度水俣市推進講習委員会の報告では、「平成3年では、2品目でリサイクル0%、平成6年では、20品目で16.5%、平成15年では、23品目で41.2%」という結果でした。このことから、品目を細かく分けて回収することで、リサイクル率が上がることが分かります。そのうえ手順3のように、リサイクルされやすい製品に環境マークを付けることによって、私たち消費者が自然と安い製品を買うようになります。そのため、事業者はできるだけ消費者に購入してもらうためにリサイクルしやすい素材を使う努力をするようになります。そして、段階別で分けることにより、消費者にとって、環境に良いものを買うという、購入基準の1つともなるので、消費者のエコ意識を育てることにもつながります。

この政策によって国内でのリサイクル率がアップし、外国からわざわざ石油・石炭などの資源を輸入しなくて済むようになることが予想されます。例えば欧州委員会環境総局2013年の報告では、次のように書いてあります。「(ドイツモデルは)経済効果も大きく、廃棄物管理を適切に行うことで欧州の競争力が増し、天然資源の使用と原材料の輸入が減少、EU域内での生産が増加」したのです。また、EUは2012年に「2019年までに、市場に投入された製品の65%を回収または、市民が排出した家電ごみの85%を回収」し、より高い回収目標・リサイクル目標を設定しています。

生産者のリサイクル意識の改革が、いかに重要であるかを説明します。廃棄物には、多くの有害物質を含みます。JETROユーロトレンド(2001年)には、次のような記述があります。「廃棄物が関係する環境リスクは、現在の廃棄物管理のやり方では適切な対処がなされていない。現在、WEEEの90%以上は何の事前処理もなされずに埋め立てられたり、焼却されたり、資源回収に回されたりしている。そのため、処理/再生ルートにかなりの量の有害物質が送り込まれている」。廃棄物を処理することで、地球温暖化を促進してしまい、環境に大きな影響を及ぼしてしまうのです。

また、増え続けてきたごみを環境に悪影響を与えないように処理するという効果もあります。循環型社会・廃棄物研究センター長の森口祐一氏(2010年発行)の地球環境センター内での報告によれば、「温暖化はとても重要な問題ですが、解決すべき環境問題は他にもあります。増え続けてきたごみを環境に悪影響を与えないように処理することもその1つです。リサイクルは、処理すべきごみを減らし、資源を節約することを主な目的に進められてきました。〈中略〉そうした今の生活自身を見直していくことが、ごみ問題や温暖化問題の根本的対策として大事ですが、これは一朝一夕には実現できることではありません」。これはとても深刻な問題です。

現行制度を維持したまま、パリ協定の削減目標を実現することは、なかなか難しいことと思います。しかし、私の政策であれば、生産者がより良いエコ製品をつくるように開発を進め、環境マークをつくることで消費者が買うようになるなど、みんなが環境に対して意識をするようになります。

今回このような政策立案の機会を頂いて、より具体的に日本が抱える社会問題や政策の難しさについて悩み、調べて新しいことを学ぶことができました。より良い環境をつくるように、今後も制度改革と国民の意識改革が相乗効果を生むようなダイナミックな政策を考えていきたいと思います。