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参議院の動き

参議院70周年記念論文表彰式

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 地方発信型地方創生の推進
 ―地方議会の活性化を通して―

宮崎県  宮崎県立宮崎大宮高等学校 2年

橋本 康平

脅かされる「地方の声」

2016年夏の参議院議員選挙は、私たち地方に住むものに危機感を強く覚えさせるものであった。なぜなら、一県一区であった選挙区が、鳥取・島根、徳島・高知においては2つの県で一区、つまり合区化されたからである。そもそも合区の議論の発端は一票の格差問題にあり、民主主義の原則上これを解決することは大変重要かつ喫緊の課題であったことは誰もが認識していたとはいえ、県から選出された参議院議員がいない県が出てくる可能性を有している合区制度には、当初から多くの反対の声が寄せられていた。「県を代表する議員がいない」状況は、その地方が国政において置いてけぼりにされてしまう、と言っても過言ではないだろう。

そもそも、地方の声は国には届きにくいものである。地方で選出される議員は、選挙のときには「皆様一人ひとりの声を国に届けます」と声高に叫んでいるが、いざ中央に行けば、会議、勉強会、委員会と多忙な日々。しかも与えられた発言時間もわずかで、地方に帰ってゆっくり声を聴くことも、中央で地方の課題について訴えることも十分にできないのが現実である。国会議員が、地方の声を「拾い上げる」ことには限界があるのだ



地方議会の活性化

このまま地方を置き去りにして、大切な固有の文化や自然、人々の営みをますます窮地に立たせることはあってはならない。そこで私は、地方議会に着目した。都道府県にひとつずつ、市区町村にひとつずつ置かれている地方議会だが、その活動は地域に根ざしたもの、そのものであるといってよい。もともと地場産業や農林水産業で生計を立てている人々が多く、地方においての課題に対しても当事者として対応している。『地方創生』が叫ばれるなか、地域の現状を、もっと生きた声で地方議会を通してダイレクトに中央に届けることができれば、地方も地方議会もより活性化できるに違いない。

しかし、現状の地方議会を見るとどうだろうか。選挙が活性化されているのは一部の都市部にすぎず、多くの場合は住民の注目を浴びる間もなく終わってしまう。立候補者の固定化が進む場合も多く、無投票で決まってしまう場合もある。さらには議員の高齢化が進んでおり、将来の議会運営にも多く不安が残っている。

地方活性化のためには、地方議会の活性化が不可欠だ。そこで私が提唱するのがこの「地方議会活性化プラン」である。



プラン概要

1.地方議会議員の代表者会議創設

プランで核になるのはこの「地方議員代表者会議」である。これは、各都道府県議会から1名、各県の市町村議会を代表する1名をそれぞれ選出して地方議員代表者会議として内閣府の諮問機関とする。地方議員代表者会議で提言された事項は必ず閣議決定され、政府の政策に反映させる仕組みを作って、新たに地方に必要な施策が実行されるような制度を構築していく。こうすることにより、これまでは、地方の声を中央に届けるためには国会議員に頼るしかなかったが、地方議会が直接発言し、議論できる道筋ができるために、地方議会そのものが活性化していくに違いない。審議する内容は、地方創生に関連するものなど、地方や地方住民に直接関わるテーマに限定する。

2.地方議会同士の交流促進

これまで地方議会は、その選挙区外で活動することはなかった。しかし、隣接する地方同士では、同じような問題を抱えている場合がほとんどだ。その問題に関してのみ、「合同町議会」などと題して議論すれば、これをきっかけにその問題への深い理解が得られるだろう。

例えば、少子高齢化や人口減少の問題についての広域的な議論はどうだろうか。現在の地方行政は、議決や予算などが縦割り式で決まってゆく傾向があり、首長をトップとした自治体を中心にその作業が進んでいくため、行政圏域を超えた施策が行われにくく、隣接自治体との協力も進んでいない。それだけでなく縦割り式の行政は、いわゆる「お役所仕事」というべきマニュアル的になりがちであり、真に住民目線でつくられた政策が出てきにくくなっている。少子高齢化問題は、特に地方においてはその課題の困難さ故に一自治体ですべてを解決するのは困難である。高齢化の推進に伴う医療・福祉の充実、UIJターンなど移住者の促進などは、近隣自治体との協力でより充実化・効率化できるだろう。また、その議論の過程に住民を加えることで、さらに住民目線の行政サービスが提供できるようになるはずだ。

3.クリーンな議会へ

残念ながら、地方議会では不祥事が後を絶たない。2016年には、富山県議会で大規模な政務活動費の不正受給が、神奈川県・葉山町議会では議員の覚せい剤使用がそれぞれ発覚した。地方議会は国政と比べて注目度は低いかもしれないが、それが議員の怠慢、さらには法律違反につながることは、断じて許されることではない。それだけでなく、NHKの調査によると、議会において、行政側が提案した議案が修正されずに通過する割合は98パーセント以上である。議会というものは、議案に対し、どうすればさらによくなるか、またはどのような点が地域に不利益になるかなどを議論し、その都度修正することでよりよい議案にしていく役割を担っているはずが、ほとんどすべての議案がそのまま通過しているという数値を見る限り、議会は実質的に機能していないのではないかと疑問を抱かざるを得ない。実際には議案作成の段階で執行部と十分な議論が行われていることが多いのだろうが、議会の活性化という点では、1年間に数本の議案については、議員からの議案提出を義務付けることも重要である。

より公平・公正で、クリーンな議会運営のため、以下の原則をすべての地方議会に課す。
①政務活動費の使用内訳の公開
②議会開催日程の夜間・休日化の促進

特に、②に関しては、より市民が傍聴しやすい時間帯にすることで、議論の過程を市民が監視するだけでなく、市民の政治への意識・関心を高めるとともに、サラリーマンなど働いている人が議員になることを可能にし、若い議員の誕生につながる。そうすれば、慣習化した議会の悪習を排除することにもつながるだろう。



最後に

このプランは、地方議会を活性化させる。しかし、議会の活性化は最終目的でない。ゴールは、地方を活性化させ、地方の未来を守ることにある。そのために、日本全国の人々、特に都市の人々が、より地方に興味を持ち、地方への移住を考えてほしい。素晴らしい「地元」を守るために。