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参議院の動き

参議院70周年記念論文表彰式

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 ガラスの天井

東京都  桜蔭高等学校 2年

青井 七海

「高等教育で女の子にサインコサインタンジェントを教えて何になるのか」鹿児島県知事という県のトップから出た言葉に、女子校の数学部に所属する私は、耳を疑った。世界共通語と言われる数学に、何で男女差があるのか。激しく憤ったのを覚えている。

高校2年生になり将来のキャリアプランを考え始める頃になって、女性の社会進出の難しさに、真剣に頭を悩ませるようになった。女子校で女子しか見てこなかった私にとって、今の日本の働く女性の生きづらさを耳にするたび、信じられない気持ちになると共に、将来の不透明さに不安を募らせる。男女平等が謳われる現在でも、男女格差は根強い。

ガラスの天井を破る

これこそが今日本の最重要課題だろう。私が国会議員になったら、女性としてこの国の男女雇用格差の是正や、働く女性を取り巻く環境改善に積極的に取り組みたい。このために、3つの改革を実行する。すなわち、枠組みの改革、意識の改革、家庭の改革である。これらを総合的に進めていく。



1.枠組みの改革

日本が、男女格差問題に本腰を入れることの表明としての法整備である。世界経済フォーラムが公表するGGIにおいて、日本は111位であるのだがこれは経済・政治分野における女性の進出が著しく遅れている事に依る所が大きい。そこで第一に日本全体の意思表示として、国会の女性議員数を増やし、女性の意見が反映される国会にする。具体的にはクオータ制の導入。例えば比例代表で名簿の奇数順位を女性とするように立法する。こうすれば各政党が女性議員の教育にも力を入れるだろう。

また、実際の企業でも実験的改革を試みる。例えば、地域別に国が大企業、中堅企業を指定し、それらの指定企業に、10年間等の期限付きで(1)通年の入社希望者の男女比を提出させる、(2)部署ごとに、管理職以上の女性の占める具体的な目標を定め、期限付きでの達成を義務づける。

これらは逆差別だという反論が多いだろう、だが、実際女性の社会進出が停滞しているのは、今まで女性のトップ層がなかったことによる、固定化された観念に大きく帰因する。こういう意識の瓦解のために、腹を括った対策を講じなければ、ジェンダーギャップの点で後進国と言える日本の現状は変わらないだろう。



2.意識の改革

日本だけでなくアジア圏の国々には、男尊女卑の思想がある。この思想が、我々の文化の根底に根を下ろしているのは、ひと昔前の「女性のお茶汲み」に如実に表れている。

私は働く女性の環境改善を第一の論点にしているが、これは男女不平等の現実を受容し、男女平等へ国民の総意を転換せずしては起こり得ない。私の祖母は小学校の教師だったが、ある時、担当児童の母親の1人に、「女性の先生では勉強が教えられるはずがないから、男性の先生に変えてくれ。」と言われたそうだ。21世紀の今でも全く同じことを言う人はいる。この逆も然りで、男性の保育士や看護士に対する偏見も根強い。

「女性は家庭で、男性は仕事」という性別役割分担の観念を、新しい世代からはっきりなくすこと。

本当の意味での男女平等のために、次世代の教育は欠かせない。ひとくちに「教育」と言うが、私は特に、2つの面から論じたい。

1つ目が、教育現場の改革だ。女子校に通う私は、男女共学の友人から次の話を聞いたとき、驚愕した。「共学では、生徒会長は男子しかなれないんだよ。」女子として理不尽さを感じないのか、と問うと、「男子には文化祭の準備などで重い物を運ばせるから、お互い様」なのだそうだ。男女平等を推進する手本となるべき現場で、無意識に男女不平等を当たり前のように助長するのはいかがなものか。そこで私は、まず、無意識の男女差別調査についての立法を提案する。教育現場のジェンダー差の実態を露呈させる目的だ。それが差別だと気付かずに差別すること以上に質が悪いものはない。

2つ目が、教育内容についてである。すなわち、義務教育の教育課程に、性差についての授業を盛り込む。これは、子供のうちはなかなか性差に気づきにくい現実を踏まえたものだ。女性が初めて格差を実感するのは、就職、結婚、妊娠、育児などの局面が多く、つまり大人になって初めて直視する。実際私も、高校2年生の家庭科の授業で日本の男女格差の現実について学んでやっと、それまでの自分がいかに性差という壁について脳天気だったか気付いた。この時、いかに教育が大切かを、痛感したのである。

性差の授業、とは具体的には、ジェンダーの歴史と、それについての国際社会及び日本社会の取り組みを紹介することで男女格差を身近な問題として考えさせる。ディベート等で議論を深め、男女平等を当たり前としていくことだ。大切なのは男女とも一緒に学び、性差の問題に向き合う機会を設けることだろう。

男女平等が、基本的人権であることを教え、その権利を守る様国民皆で取り組む姿勢を育てる。企業に向けての法整備等で上辺だけの機会の平等を実現させても、結局体質としての意識を変えないと、真の結果の平等は日の目を見ないままである。この事を考慮すると、意識の改革は最重要課題といえる。



3.家庭の改革

女性の社会進出の大きな障壁となるのが、家族の世話、つまり育児と介護である。どちらも妻と夫が協力して行うべきものだが、残念ながらこれらでワークライフバランスに悩むのは、圧倒的に女性が多い。根本的解決には新たな意識を持つ次世代の台頭を待つことになるが、それまでのつなぎの政策も必要だ、これが以下である。(ただし、あくまでこれは一時的なものであり、女性の進出が進めば新たに議論すべきことである。)

まず、育児について。子育て世代の30代男性の2割以上が、週60時間以上も働いており、これでは育児は妻任せにならざるを得ない。性別役割分担を、一層強固にする負の連鎖を断ち切り、両親での子育てを推進するため、私は育児休暇取得を義務化したい。具体的には、企業に、男女問わず子が生まれた親に対して一定期間内の一定の育休日数の取得を義務付ける法案を通す。(例えば、子供が8歳になるまで、合計700日間、などと育休日数を規定し、その範囲では1日単位で分割して育休をとれるようにする、等。)こうすれば、日本社会の風潮の育休の取りづらさを一掃し、かつ男性も育児に参加し、家庭内分担も可能だ。「女性は家庭」のステレオタイプ打破にもつながる。

さらに、共働きの家庭の増加に伴い、深刻な保育所問題にもメスを入れたい。各自治体に公立の保育所を建てることが最善だろうが、用地や費用の点から、私は幼保合同保育を全国規模で推進したい。親として一番安心なのは、やはり子供の扱いに長けた人に見ていてもらえることだ。所轄官庁の違いを超えるため、内閣ではなく国会に対策委員会を設置できないか。

次に、介護について。一度職を離れると、復帰が難しい上、現在社会保障費削減により在宅介護にシフトしてきているが、男女格差がなかなか抜けない今、離職を余儀なくされるのは女性である。在宅介護を女性に押しつけその結果女性の社会進出が阻まれる。これを直すため、私は社会全体で老人を支える法整備をする。

具体的には、国費で老人ホームを建て、介護者の離職を食い止め魅力的にするために介護職の給与を上げる。端的に言えば、社会保障費の予算を増やす。少子高齢化で社会保障費が莫大になるのではという懸念もあるだろうし、現在の行政の政策に逆行するもので、実行するのはなかなか難しいと思う。だが、拍車のかかる生産人口の減少抑止のために働いていない女性の雇用を促進することが、日本経済全体にとって相当なプラスになることを考えると妥当だろう。また、そもそも女性が、安心して育児でき、当たり前に仕事と両立できる環境が整っていると感じてはじめて、少子化の歯車を止める事が可能となるのだ。


「女性の社会進出が滞っているのは、性差別のせいではなく、単に女性が男性より向上心がないだけだ。」と心ない批判をする人がいる。だが私は問いたい。「育児・介護で泣く泣くキャリアを諦めることを余儀なくされた女性達に面と向かって同じことが言えるのか。」と。

女性が人口の半分を占める事を忘れずに、そして彼女たちの活躍が日本社会の飛躍に直結することを鑑みると、そんな時代錯誤なことは言っていられないと思う。

日本国憲法第14条

すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

この精神が実現されるには、国民が総力を挙げて、多方面からの「改革」に不断の努力をせねばならない。道は決して平坦ではないが、これまでの歴史が日本の底力をありありと物語っている。これからの世界、女性の生きやすい、真に男女平等の日本の誕生を、この目で見届けたいものである。