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参議院の動き

参議院70周年記念論文表彰式

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 産みやすい社会の実現に向けて

長崎県  純心女子高等学校 3年

野村 実穂

もし私が国会議員になったら、妊娠している女性や妊娠を望む女性が生活しやすい社会の実現を目指す。かなり対象を限定しているように思うかもしれないが、妊娠・出産に関する社会問題に目を向けることは、現在の日本が抱えている様々な分野の課題解決に繋がるのだ。日本が抱える諸問題と妊娠・出産に関する社会問題をリンクさせながら、私が今一番訴えたいことを論じていこう。

まず、日本が抱える問題の1つ「少子化」を例に挙げる。厚生労働省が発表した人口動態統計によると、平成27年の合計特殊出生率は1.46で、前年と比べると0.04増加しているが依然として低いという現状だ。これは、男女共同参画社会に向けて成されている様々な取り組みが背景にある。平成11年度に改正男女雇用機会均等法が施行され、女性に対する職業差別の廃止、配置・昇進について男女を均等に扱うなどが、努力目標から義務規定に変わったことは、女性の社会進出や企業における地位に大きな変化をもたらした。これは大変喜ばしいことなのだ。しかし少子化の側面から見ると、この現状は必ずしもメリットばかりではない。男女ともに仕事優先で、結婚に消極的な傾向が目立つ。一般的に晩婚化が進むと晩産(高齢出産)となり、第2子、第3子を産む割合が低下傾向になる。少子化問題を本質的に解決するには、すべての年代での合計特殊出生率の増加を目指す必要があるといえる。また、育児休業後の女性労働者の復職が難しい会社もあり、女性が妊娠に踏み切れない理由の1つになっている。男女共同参画社会実現への取り組みが進む一方で、前述したような理由から晩婚化や子どもをつくらない夫婦の増加、高齢出産が進行している。これらの問題解決をなくして男女共同参画社会の完全な実現とはいえない。次代の社会を担う若者が増えることは、労働力の安定にも繋がる。これから日本は多死社会に突入する。死亡者は現在の約130万人(平成27年)から、あと約30年後には160万人へ増えるとされている。今後の日本の超高齢社会化を乗り越えていくためにも、産みやすい社会づくりをはじめとする出生率増加に向けた改善策を、できるだけ短期スパンで打ち出していかなくてはならない。

ここまで述べてきた内容からも、妊娠・出産に関する社会問題が我が国の「今」と密接に関わっていることが分かったのではないだろうか。前置きが長くなってしまったが本題に入っていこう。これから妊娠・出産に関する社会問題をさらに深く、具体的に論じていきたい。そして並行して私なりの改善策を提案していこうと思う。

私が取り上げる問題は、マタニティーハラスメント問題(以下マタハラ)だ。マタハラとは、働く女性が妊娠・出産をきっかけに職場から精神的・肉体的な嫌がらせを受けることを指す。マタハラにより精神的に追い詰められると、職場流産など母子ともに身体の危険性がある非常に悪質なハラスメントだ。具体例としては、言葉による暴力、女性社員からの嫉妬が原因の攻撃、雇用環境の悪化による不当解雇や退職勧奨などが挙げられる。解雇された妊婦を待つのは「子育て」ではなく「孤育て」という現状だ。妊産婦(妊娠中及び産後1年を経過しない女性)が、1日の多くの時間を過ごす職場から姿を消すことは、上司や同僚、後輩社員が、妊娠や出産、育児のスタートがどんなものか知る機会を失うことに繋がる。極端に言えば、社会の中で妊娠や出産が別世界となりつつあるのだ。いま、「10代出産問題」という言葉が囁かれるほど、まだ社会的地位や経済面が安定していない時期に子どもをつくる若者が問題視されている。また、小さい子どもとの接触経験がまったく無いまま母親になる女性が急増している。それは子育てでの負担感やイライラ感、育児不安に繋がる。これらすべては、妊娠・出産に関する正しい知識を得る環境が少ないこと。もっと言えば、妊婦と社会の共存が我が国で完全に確立できていない現状があるからなのである。

もちろん、現在改善に向けて取り組みが行われていることも事実だ。私の改善策を提案する前に1つ紹介しよう。平成17年に国民が仕事と子育てを両立させ、少子化の流れを変えることを目的に制定された「次世代育成支援対策推進法」を取り上げる。この法律に基づき企業、法人、団体などの職場が十分な次世代育成支援対策を持っている場合は国から「子育てサポート企業」として認定される。平成26年12月時点で、2031社が認定を受けている。尚、認定された証として企業は「くるみん」マークをその商品やサービスなどに付けて表示できる。平成27年4月1日から同マークは2種類になり、とくに従業員の子育て支援が進んでいる企業には新しく「プラチナくるみんマーク」が与えられるなど、内容は具体化してきている。他にも、就労規則に産休手当を取り入れてアピールポイントにしている企業もある。また、我が国では健康保険(産休日数分の給与の3分の2)支給、妊婦健診費の助成や出産育児一時金などの公的支援がなされている。加えて嫌がらせを防ぐために、事業主に相談窓口の設置や上司らの研修などを義務づけている。いま羅列した内容からも、我が国が改善に向けて努力を重ねていることは分かるのだが、このような補助があることを知らずに多くのお金をかけて出産をする人は多い。「日本は子育て支援が十分でない」と決めつけてしまう前に、まずは妊娠している女性、または妊娠を望む女性と支える周囲がこのような支援に気づくことが大切なのだ。自分が子どもを産むということ、自分たちで育てていくことに責任を持つと同時に、利用可能な支援内容を知り、関心を持つことから始めてほしい。

最後に、私の考える改善策を提案していこう。1つ目は、企業内の「預かり保育」の充実だ。メリットとしては、妊娠や子育てに縁のない社員も子どもを身近に感じられる環境が確保できる。また、乳幼児の子どもをもつ社員にとっても、我が子がすぐ駆けつけられる距離にいることは安心である。子どもを預けやすい環境を企業単位で実現できれば、現在都心部を中心に悪化している待機児童問題の解消も期待できる。しかし、少子化が進行段階の現時点では、保育所の過度な増設はデメリットにはたらきかねない。企業が密集している、又は保育所が充実している地域での増設は見送るなど効率的に浸透を図っていくことが重要だ。実際私も母親が勤めている病院の預かり保育出身であり、夜勤や実働のある会社では既に取り組みが進んでいるが、私はそれに当てはまらない企業にも預かり保育を充実させることで、少子化の改善に努めたいのだ。

2つ目は、企業の産休手当の義務化だ。現在、産休中の給与は会社が払う義務は無く、あくまで次世代育成支援対策に熱心な企業がアピールポイントとして取り入れているものだ。しかし一番の理想は、保育施設の整備や産休手当がアピールポイントとしてはたらく世の中ではなく、それらが当たり前になされている世の中だと私は思う。この案のデメリットとしては、産休手当の義務化に甘えて、本来まだ働けるはずの妊婦が簡単に産休をとったり、社員であるという前提からはずれて「妊婦なんだから当然」という考えが出てきてしまうことが考えられる。これは通称逆マタハラともいうのだが、この可能性をなくすために「特別な事例以外は出産予定から1ヶ月以上の産休は認めない」などの限度を設定したいと思う。そのうえで産休手当を義務化することで、安心して臨月まで働ける女性が増える社会を望んでやまない。妊娠している女性がいることは、職場内に新鮮さをもたらし、妊娠や出産、子育てから得た経験が企業の新たなアイデアや利益に繋がることもあるのだ。不当解雇により、簡単に妊婦を会社から排除することより何倍もメリットがあるのではないか。もちろんマタハラを未然に防ぐための取り組みも会社ごとに忘れてはいけない。出産経験のある上司と妊婦をなるべく同じ部署に配置するなどの配慮や、秘密厳守のアンケート調査、社内相談室の設置といった、妊娠している女性もストレスなく働ける職場づくりを充実させることも重要だ。

ここまで、「私が国会議員になったら」を前提に論じてきたが、私には夢がある。それは地元長崎の産婦人科で助産師として働くことである。これからの大学生活で、しっかり看護と助産についての知識を固め、将来は出産のサポートはもちろん、それだけに留まらず、育児体験教室を開設することで、妊娠している女性や妊娠を望む女性が意見交換をできる機会をつくりたい。また、企業に、妊娠している女性もストレスなく働ける職場づくりがもたらすメリットを講演してまわるほか、地域の中学校や高校を訪問し、未受診妊娠にかかるリスクの説明や公的支援有効活用のメリットを伝え、将来少しでも安全で適切な妊娠・出産をしてもらうための活動をしたい。簡単なことではないかもしれない。しかし、微力でも社会に貢献したい。そして、日本を変えていく一人になることをここに宣言しよう。