国際関係

外国議会との交流

キューバ共和国人民権力全国議会議長及びパナマ共和国国会議長の招待による両国公式訪問並びに各国の政治経済事情等視察参議院議員団報告書

       団長 参議院議員  片山虎之助
           同     関口 昌一
           同     伊達 忠一
           同     田名部匡省
           同     荒木 清寛
       同行 委員部第六      
           課長    秋谷 薫司
           参事    三瓶 朋秀

一、始めに

  本議員団は、キューバ共和国アラルコン人民権力全国議会議長及びパナマ共和国カスティージョ国会議長の招待により、両国を公式訪問するために派遣された。
 我が国と両国とはこれまでにも深い関係を有しており、緊密な友好関係が築かれているところである。まず、我が国とキューバ共和国との外交関係は、古く一九二九年に樹立され、以後頻繁に要人の往来が行われている。参議院との議会間交流においても、二〇〇五年にクロムベット人民権力全国議会副議長が扇議長を訪問し、相互理解を深めたところである。
 また、我が国とパナマ共和国との外交関係は、更に古く一九〇四年に樹立され、以後一〇〇年以上にもわたり友好関係が維持されている。パナマ運河については、我が国は、アメリカ、中国に次いで、三番目に利用が多い国であり、両国間の経済面での結び付きも非常に緊密である。
 本議員団は、議会間の交流を通じて、我が国とキューバ共和国及びパナマ共和国との間の友好のきずなを更に深め、相互の理解と親善関係を一層緊密にする目的をもって派遣されたものであり、以下で本派遣の詳細について報告する。

二、訪問日程

本議員団は、八月二十二日に日本を出発してキューバ共和国及びパナマ共和国を公式訪問し、議会要人等との会談を精力的に行った。その日程の詳細は以下のとおりである。

 八月二十二日(火)
    東京発(シカゴ、メキシコシティー及びカンクン経由)
    ハバナ着
 八月二十三日(水)
     ロマス外国投資経済協力大臣との会談
     ロドリゲス外務大臣代行との会談
     クロムベット人民権力全国議会副議長との会談
     同副議長主催昼食会
     ハバナ市内視察
     片山団長主催夕食会
 八月二十四日(木)
    ハバナ発
    バラデロ着
     キューバの観光政策について当局担当者より説明聴取後、視察
    バラデロ発
    ハバナ着
 八月二十五日(金)
    ハバナ発
    パナマシティ着
     ルイス・ナバロ第一副大統領兼外務大臣との会談
     カスティージョ国会議長との会談
     議会施設視察
     カスティージョ国会議長主催昼食会
     パナマ運河視察
     片山団長主催夕食会
 八月二十六日(土)
    パナマシティ発
    マイアミ着
 八月二十七日(日)
    マイアミ発(シカゴ経由)
 八月二十八日(月)
    東京着

三 キューバ共和国要人との会談の概要等

 (一)ロマス外国投資経済協力大臣との会談の概要
 ロマス大臣からのあいさつ、片山団長からのあいさつ及び議員団の紹介に続き、ロマス大臣から、「日本とキューバとの間では、JICAによる技術協力を始め安定した協力関係を維持しており、日本がキューバの社会開発のために実施しているプロジェクトはキューバに強いインパクトを与えている。しかし、現在、日本からキューバへの投資は行われておらず、投資の実現及び更なる経済協力の余地が残っていると思う。」との発言があり、片山団長は、病気療養中のカストロ国家評議会議長へのお見舞いを述べた後、「日本及びキューバの双方が、大変好意的な印象を共有している中、対キューバ投資促進については、民間債務問題等の懸案解決のために双方が努力すべきである。」と述べた。
 これに対し、ロマス大臣から、「片山団長の見解は当を得ていると考える。民間債務問題の解決については中央銀行とも協議して鋭意取り組んでおり、最終段階に入ったものと認識している。キューバの経済は、一九九四年まで悪化の一途をたどったが、一九九八年以降回復基調に乗り、毎年成長を維持するとともに、観光誘致等のサービス分野を重視するなど構造が大きく変わった。」との発言があった。これについて、片山団長は、「十%前後の成長率を維持する中、経済安定のためには一定の自由化と規制緩和が必要と考えるが、急激な変化は富の分配の不公平や腐敗の発生等を起こしかねないため、公平性を確保しつつ実施する必要がある。また、外国投資を誘致するためには、諸外国が安心して投資できる環境を整備する必要がある。」と述べた。
 また、ロマス大臣から、「今年はエネルギー革命の年として、エネルギーの節約及び効率化に努めており、成果が見え始めている。」との発言があったのに対し、片山団長は、「省エネルギーや省資源については、日本の技術は世界で最も高いレベルにあり、日本の経験はキューバにも活用することができると思われるため、技術協力の実施についてよく協議してはどうか。」と述べた。ロマス大臣からは、「片山団長の適切な助言を承知した。キューバとしては、キューバ固有の国の条件を踏まえながら取り組んでいきたい。」との発言があった。

(二)ロドリゲス外務大臣代行との会談の概要
 ロドリゲス大臣代行からのあいさつ、片山団長からのあいさつ及び議員団の紹介の後、ロドリゲス大臣代行から、国連大使時代に訪日した際の広島及び小和田恒大使(当時)の思い出が語られるとともに、片山団長がカストロ議長の病状に対して強い関心があろうかと推察するが、あえて触れないことに敬意が表された。これに対して、片山団長は、「心配をしていたところであり、お見舞い申し上げたい。」と述べたところ、ロドリゲス大臣代行から謝意が表された。
 次に、片山団長が、「日本が中国と共存共栄の観点から関係改善を図っているのと同様、キューバもアメリカとの関係改善に取り組めないか。キューバが外国投資を一層誘致するためには、投資環境の整備が必要であり、アメリカとの関係改善もそれに含まれると考える。双方の歩み寄りが関係改善への道であり、その際に日本が貢献できる余地があると考える。」と述べたのに対し、ロドリゲス大臣代行から、「キューバは、アメリカが何ら条件を課すことがなければ、アメリカと対話したいと希望しているが、残念ながらブッシュ現政権下では関係改善が実現することはないと思う。アメリカのキューバに対する経済制裁は厳しさを増し、経済戦争と言い換えても過言ではない。また、アメリカは自国民のキューバへの渡航を制限しているほか、キューバに対する食糧輸出にも厳しい条件を課している。日本がキューバとの関係を強化しようとすることは、日米関係における懸念材料となるので、日米関係を阻害することなく、日本とキューバの関係、特に経済関係を活発化させたいと念願している。」との発言があった。
 さらに、片山団長から、「表現の自由、結社の自由の保障についても取り組むべきである。」と述べたのに対し、ロドリゲス大臣代行から、「人権については、日本の懸念は承知しているが、その概念は各国で異なるものであり、自由化についても単に見解の相違と考える。」との発言があった。

(三)クロムベット人民権力全国議会副議長との会談の概要
 クロムベット副議長からのあいさつ、片山団長からのあいさつ及び議員団の紹介の後、クロムベット副議長から、「当国の人民権力全国議会議員団は、昨年の愛知万博開催を機に日本より招待を受けて訪日し、大変心のこもった招待を受けた。この度は相互主義に基づき、参議院派遣団を招待した次第であり、キューバの多くの現状を視察してもらいたい。キューバは日本と各分野でハイレベルの交流を行い、関係を強化したいという方針を有しており、議会間交流を今後も継続していきたい。」との発言があり、片山団長は、「病気療養中のカストロ議長の一日も早い回復を祈るとともに、次回は副議長のお勧めのとおり、長期滞在型の訪問を実現したいと思う。」と述べた。これに対し、クロムベット副議長から謝意が表明された。
 また、議員団からキューバの議会制度及び対米関係について質問がなされ、クロムベット副議長から、「(1)議会制度について、議員数は六百九人であるが、いわゆる職業議員ではなく、学生議員八名のほか、農民、医師等の本職を有している。また、女性議員の比率は三十六%である。議会が開会されるのは年に二回のみであり、その他の期間は、三十一名で構成される国家評議会及び十の常設委員会が議会の権能を執行する。議員は任期中に弾劾罷免、改選される可能性がある等他国と比べると異なる部分が多いが、緊張感を伴い腐敗が発生しにくい等制度として優れている面もある、(2)対米関係について、キューバにとって観光が重要な産業となりつつあり、アメリカからの観光客が訪れるようになれば観光客数は倍増するであろうが、アメリカは自国民のキューバへの渡航を制限している。キューバは、アメリカが何ら条件を課すことがなくキューバの独立と主権を尊重するのであれば、関係を改善したいと考えているが、キューバ革命前からさかのぼって絶えずアメリカから抑圧を受けており、経済面でも経済戦争の様相を呈している。」との発言があった。

(四)バラデロ視察
 低迷していたキューバの経済がソフト化しながら回復する中、特に観光産業が重要な産業と位置付けられていることを踏まえ、主要な観光地であるバラデロを訪問し、当局担当者から観光政策について説明を聴取した後、現地を視察した。日本からの観光客数はまだ少ないが、日本食は好評で、当地でも徐々に普及しつつあること等が紹介された。

四 パナマ共和国要人との会談の概要

(一)ルイス・ナバロ第一副大統領兼外務大臣との会談の概要
 ルイス・ナバロ第一副大統領からのあいさつ、片山団長からのあいさつ及び議員団の紹介の後、片山団長が、「(1)パナマ運河拡張計画の実施に当たり、透明性を確保することが必要である、(2)また、日本企業の製品は、品質、価格いずれの面でも優秀であり活用していただきたい、(3)日本は、多くの国から好意的に受け入れられており、パナマの発展にも貢献したい、(4)国連改革、安保理改革についての日本の取組について理解、協力願いたい。」と述べたところ、ルイス・ナバロ第一副大統領から、「(1)先般、自ら訪日した際に日本・パナマ企業評議会が発足し、運河第三の利用国として日本企業にも透明性ある競争が保障された中で参加してもらえるものと思う、(2)日本企業の製品の優秀さは認めるところであり、パナマ運河でも活躍している、(3)日本には運河のみならず貧困対策の面でも協力をいただいている。パナマにおける日本の草の根無償も広がりを見せる一方、自らも先般の訪日の際に、日本の青年をパナマの研究都市に招請してスペイン語教育を施すプログラムを提案した、(4)国連改革の中での安保理改革に向けた日本のイニシアティブに対し、パナマの支援は信頼していただいて構わない。」との発言があった。これに対し、片山団長は、「政府間、議会間、企業間及び市民間の重層的かつ双方向の協力関係を深めることが重要であり、大変良い話と考える。」と述べた。
 また、議員団からパナマ運河拡張計画に係る国民投票の必要性について質問がなされ、ルイス・ナバロ第一副大統領から、「パナマ運河は、アメリカとの八十年間に及ぶ長い交渉を経て返還を達成した経緯があり、その在り方は国民にとって死活問題であるため、運河にかかわることはすべて国民投票で決する旨の規定を憲法に明記した。」との発言があった。これに関連して、片山団長から、国民投票の見通し及び資金調達について質問がなされ、ルイス・ナバロ第一副大統領から、「(1)国民投票の見通しについて、多数の信任を得られると楽観しているが、国民投票には政治的リスクが伴うことも承知しており、拡張の利点及びその影響について積極的に広報している、(2)資金調達について、運河庁の内部留保及び民間金融機関からの融資で調達する。」との発言があった。

(二)カスティージョ国会議長との会談の概要
 カスティージョ議長からのあいさつ、片山団長からのあいさつ及び議員団の紹介の後、カスティージョ議長から、「パナマにとって日本は歴史的にも大変重要な存在であり、パナマで開催される各種行事に日本からの参加を期待している。パナマ運河は、一九九九年にアメリカからパナマに返還されたが、返還後七年間の運河収益は、八十四年間に及ぶ米国施政下における収益を上回っている。外国からの投資が活発になっているが、国会は諸分野に係る法律制定等を通じ国家近代化に貢献している。」との発言があり、片山団長は、「パナマ運河は、安全保障、国際貿易上重要な位置を占め、世界平和や世界経済の発展にとって重要な役割を担っている。運河拡張計画の実施に際しては、透明性を確保できるようお願いしたい。また、議会間交流を発展させることは両国関係の強化に寄与するものと確信している。」と述べた。
 本会談及びその後の議会視察の模様は、生中継でパナマ全土にテレビ放映された。

五 終わりに

  本議員団は、キューバ共和国人民権力全国議会及びパナマ共和国国会の周到な準備と誠意ある接伴により、それぞれの会談を有意義に行うことができた。本派遣を通じて、日本とキューバ共和国及びパナマ共和国それぞれとの友好協力関係がますます強化されたものと確信する。
 本報告を終えるに当たり、まず、カストロ議長の突然の病気療養という重大な事態の発生にもかかわらず、誠に丁寧かつ適切な対応をいただいたキューバ共和国アラルコン人民権力全国議会議長始め関係の方々の御厚情に深く感謝申し上げる。また、パナマ運河拡張計画に関する国民投票を十月に控え、多忙の中貴重な時間を捻出して充実した会談を実現していただいたパナマ共和国カスティージョ国会議長始め関係の方々にも心より感謝申し上げたい。さらに、有意義な派遣の実現に尽力いただいた在キューバ大使館及び在パナマ大使館にも感謝申し上げるとともに、在メキシコ大使館、在シカゴ総領事館及び在マイアミ総領事館の各所での支援についてもここに特記し、厚く御礼申し上げる。