国際関係

外国議会との交流

ブルガリア共和国国民議会の招待による同国公式訪問及び
各国の政治経済事情等視察参議院副議長一行報告書

       団長 参議院副議長 角田 義一
           参議院議員   竹山  裕
           同         江田 五月
           同         草川 昭三
       同行 警務部長    堀田 光明
           副議長秘書   櫻井 敏雄
           常任委員会
           調査員      倉田 保雄
           警護官      林田 隆史

一、始めに

 本議員団は、ブルガリア共和国国民議会の招待により同国を公式訪問するとともに、フランス共和国の政治経済事情等視察を行った。
 本議員団のブルガリア共和国訪問の主な目的は、第一に来年一月のEU加盟に向け、汚職対策及び司法改革を中心に様々な改革を国を挙げて行っている同国の現状を把握するとともに、我が国として協力できる分野があれば、議会人の立場で側面から支援を行う旨を伝えること、第二にブルガリアは共産主義時代から親日的であり、両国関係は議会間交流も活発に行われているなど、政治面、文化面を中心に際立って良好な関係を維持しているが、さらに経済分野における関係発展と、今後の両国間の友好関係を一層強化するための方策を探ることである。また、フランス共和国に関しては、両国の関係強化を一層図るとともに、同国の政治的諸課題等を把握することにある。

二、訪問日程

本議員団は、九月三日に日本を出発し、九日に帰国した。その日程は次のとおりである。

   九月三日(日)  東京発 ソフィア着(二泊)
   九月四日(月)  ブルガリア共和国国民議会訪問
               ピリンスキ国民議会議長表敬訪問
               アレクサンデル・ネフスキ寺院視察
               日本企業関係者との昼食懇談会
               無名戦士の墓への献花
               スタニシェフ首相表敬訪問
               ソフィア第十八総合学校視察
               リュトフィ国民議会副議長主催歓迎宴
   九月五日(火)  パルヴァノフ大統領表敬訪問
               ペトカノフ法務大臣表敬訪問
               カルフィン副首相兼外務大臣表敬訪問
               角田副議長主催答礼宴
               ソフィア発 ヴェリコ・タルノヴォ着(一泊)
               リャスコヴェツ及びヴェリコ・タルノヴォ市内視察
               角田副議長主催夕食会
   九月六日(水)   制憲議会等ヴェリコ・タルノヴォ市内視察
               ヴェリコ・タルノヴォ発 ソフィア着
               青年海外協力隊員等との昼食懇談会
               ソフィア発 パリ着(二泊)
   九月七日(木)   フランス共和国上院訪問
               ポンスレ上院議長表敬訪問
               ヴァラード上院仏日議員連盟会長主催昼食会
   九月八日(金)   アジア問題研究者との意見交換
               キュック議会担当大臣表敬訪問
               パリ発(機中泊)
   九月九日(土)   東京着

三、ブルガリア共和国

(一)議会制度
 一九九一年七月制定の新憲法により一院制の国民議会が設置された。同議会は、定数二百四十人、任期四年で解散がある。議員は、三十一選挙区を単位とする拘束名簿方式比例代表制により、国民の直接選挙で選出される。選挙権は十八歳以上、被選挙権は二十一歳以上である。
 二〇〇五年六月の選挙による会派別議席数は、ブルガリアのための連合(社会党他)八十二、シメオン二世国民運動五十三、権利と自由のための運動三十四、アタッカ二十一、統一民主勢力二十、強いブルガリアのための民主主義者十七、ブルガリア国民連合十三となっており、上位三会派で連立内閣を形成している。
 国民議会は、恒常的に活動し、休会は自ら決定する。議長は、自らの発案の他、大統領、閣僚評議会(内閣)又は、国民議会議員の五分の一の要求がある場合に会議を招集する。
 議長、四人の副議長(三人は常任で連立与党三党から各一名ずつ、四人目は野党代表として会期毎に各党からローテーションで選出)の他、議長評議会(副議長、院内会派の長若しくはその代理人及び立法委員会委員長で構成)が設けられており、議事日程及び討論時間の決定等の議会運営を行う。また、十四人の書記議員が選出され、出席議員数の報告、議事速記録の内容確認と署名、採決時の票数確認等を行う。
 委員会は、二十四の常任委員会の他、特に必要がある場合は、特別委員会が設置される。常任委員会のうち、立法委員会は、他の常任委員会で審査された法案を審査し、本会議に報告する役割を有する。
(二)要人との会談要旨
○ピリンスキ国民議会議長表敬訪問
 九月四日午前、国民議会内にてピリンスキ議長を表敬訪問し、会談を行った。
 同議長の歓迎の辞を受け、角田副議長は、公式招待への感謝と、両国議会人の友情を深め、信頼の絆を強くしたいとの挨拶を行った。また、ブルガリアの一九八九年以降の民主化・市場経済等の定着に向けた取組及び来年一月に予定される欧州連合(EU)加盟に向けた政治指導者と国民の努力に深甚な敬意を表した。その上で、両国関係は政治面、文化面で際立って良好であること、特に日本の大相撲における大関琴欧洲関の活躍が、お互いの国に対する親しみを増していること、今後の課題は、経済分野の関係強化・拡大であるとの認識を示し、日本において両国の経済関係が発展するよう政府及び民間の経済人に対し働き掛けを行ってきたことを説明した。また、EU加盟に向けた司法制度改革に最大限の協力をする用意があることを表明した。
 これに対し、同議長は、EU加盟がブルガリアにとって最重要課題であるが、加盟により日本との関係が更に強化されるものと信じている旨述べた。また、日本からの様々な形態の支援を政府及び国民は高く評価し、感謝していること、EU加盟で直ちに既加盟国と同レベルの経済力を持つわけではないので、インフラ整備のためにEUの支援に加え、今後も日本の経済協力に期待していると述べた。
 これを受けて、角田副議長は、ブルガリアの新しい出発の第一歩であるEU加盟を契機として生じる問題等を踏まえ、日・ブルガリア友好関係の発展方策を幅広く相談していきたい旨表明した。
○スタニシェフ首相表敬訪問
 九月四日午後、閣僚評議会において、スタニシェフ首相を表敬訪問し、会談を行った。
 同首相は、両国の友好関係が、EU加盟で戦略的パートナーシップに発展することへの期待、国際社会・国連における日本の役割の評価を述べた上で、ブルガリアのアジア欧州会合(ASEM)加盟への支持要請、皇太子同妃両殿下並びに総理大臣のブルガリア訪問の要請がなされた。また、日本の様々な支援に対する感謝とともに、今後の支援への期待が表明され、チェルノ・モレ高速道路建設を始めとする重要インフラ整備についての協力要請があった。さらに、人、文化、科学技術の交流が重要であるとし、EUの親善大使となった大関琴欧洲関の日本での活躍に誇りを持っており、素晴らしい親善大使であると述べた。
 角田副議長は、今次訪問団は日・ブルガリア交流を活発にしたいとの意欲を強く持って貴国を訪ねているとした上で、ブルガリアのASEM加盟への支持並びに皇太子同妃両殿下及び総理大臣の同国訪問の要請については政府側に伝えること、ODAに関しては、プロジェクトの計画書が提出されれば速やかな審査を働き掛けたいと表明した。また、民間投資を進める上では国家戦略が必要であり、例えば我が国の「バイオマス・日本」のような戦略を組めば、日本の投資が進む契機となる旨の認識を示した。
 これに対し同首相は、ブルガリアに対する関心、温かい言葉に感謝すると述べた上で、EU以外の諸国とも良い関係を築くことが重要であるが、特に日本とは二国間のみならず国際機関内でも良い関係を培っていること、国連はグローバル化に即した変革をする必要があるとの考えを披瀝した。さらに、EU加盟により日本のODAの形が変わることは理解できるが、加盟後も他の既加盟国に比べて豊かではなく、経済面、社会福祉面で遅れている分野につき、協力を受けることも必要であるとの発言があった。投資については、海外投資法もあり、バイオマス計画についても勉強したいと述べた。
○パルヴァノフ大統領表敬訪問
 九月五日午前、一行は大統領府でパルヴァノフ大統領を表敬訪問し、会談を行った。
 角田副議長は、ブルガリアの民主化・市場経済並びにEU加盟に向けた国民と政治指導者の改革努力への敬意を表するとともに、安保理拡大に関する日本提案への理解に対する感謝と引き続く支援の要請を行った。さらに、ブルガリアがODA対象国でなくなってもODAを引き継ぐ支援策を日本政府へ働き掛ける旨、また、EU加盟への緊急課題である司法改革について、日本の改革経験を共有できるよう検事総長や法務省に対し協力要請を行い、積極的な回答を得ている旨伝えた。
 これに対し同大統領は、両国間では様々なレベル・分野での対話が活発に行われているものの、今後は日本との経済関係強化が重要であるので日本からの直接投資は少ないが、海外からの投資を高める環境を整備している旨、また、角田副議長の今次訪問が、日本におけるブルガリアへの関心が高まる契機となることを望むと述べた。角田副議長は、両国の経済関係は必ずしも強固とは言えないが、ブルガリア駐在の日本企業関係者とも懇談し、事態の改善について議論したと伝えた。
 さらに同大統領は、ブルガリアの様々な改革に対する日本の経済協力に感謝していると述べた。 また、EU加盟のための改革を進めており、加盟は今後の両国関係発展にも寄与するだろうと述べた。角田副議長は、ブルガリアの来年のEU加盟を確信している、参議院は党派を超えて様々な形での支援を行いたいと述べた。
 また同大統領は、国連改革について今後も日本を支持していくこと、人的交流は重要なので日本人観光客の訪問を増加させたいこと、日本で活躍する琴欧洲関は、ブルガリアの親善大使となっていると述べた。これに対し、角田副議長は、小学一年生から日本語を学んでいるソフィア第十八総合学校に感激するとともに、両国の関係発展を確信したと伝えた。
○ペトカノフ法務大臣表敬訪問
 九月五日午前、法務省において、ペトカノフ法務大臣を表敬訪問し、会談を行った。
 角田副議長より、ブルガリアはEU加盟に向けて、新刑事訴訟法や司法組織法の制定等、広範な司法改革を行っているが、日本も過去数年にわたり司法改革に取り組んでおり、日本の法曹養成制度や汚職の摘発システムを参考にするなら喜んで協力すること、またグローバリゼーションの進展による司法・警察分野等での共通の制度構築や協力への引き続く支援を表明した。
 これに対し、同法務大臣は、日本の司法制度改革に関心を示すとともに、同国の司法システムについて説明を行った後、EU加盟に向けた司法制度改革は大きな課題であるが、六年前に開始し、加盟時に、欧州基準に合致した司法システムを構築すべく最後の努力を行っている旨述べた。
 次に、同法務大臣の質問に答え、議員団より、日本の裁判員制度導入、日本の法曹関係者の養成システムの説明を行った。最後に角田副議長より、汚職問題への対応についても、日本の経験を共有されたいとの考えを伝えたところ、同法務大臣から、汚職は減少傾向にあるものの、他国からこの分野についての経験を学んでいるところなので、角田副議長の申出に感謝する旨述べた。
○カルフィン副首相兼外務大臣表敬訪問
 九月五日午前、外務省においてカルフィン副首相兼外務大臣を表敬し、会談を行った。
 角田副議長より、北朝鮮やイランの核開発、イラクやレバノン情勢等国際情勢に対する認識を示し、ブルガリアのイラクへの軍部隊派遣を始めとする国際貢献への敬意を表明した。その上で、日本の安保理拡大提案への理解と支援に対する感謝と引き続く支援を要請した。更に、ブルガリアのEU加盟後の経済支援策について政府に検討を要請していること、日本の直接投資を拡大するための環境整備に関する双方の努力の必要性等について説明した。
 これに対し、同外務大臣より、ハイレベルの議会間交流が両国関係の拡大に寄与していること、今後は閣僚レベルでの対話の活発化に期待すること、大統領からも述べた皇太子同妃両殿下のブルガリア訪問の実現を希望する旨の発言があった。また、過去十五年間の総額八億ドルにのぼる日本の支援への感謝が述べられるとともに、現在進めているインフラ整備プロジェクトはブルガリア経済にとってはEU加盟に次ぐ目標であり、加盟後の経済協力の継続に強い要請があった。角田副議長は、新たな支援形態を模索するよう政府側に真剣に働き掛けていると述べるとともに、プロジェクトの計画書の早期提出を提案した。
 さらに、同外務大臣は、国連での両国の協力関係を歓迎し、イラク復興支援やテロ対策等、グローバルな問題に対する日本の役割を評価するとともに、安保理改革については、日本の常任理事国入りを支持すると明言した。その他、レバノン情勢、北朝鮮及びイランの核開発に関し意見交換を行った。
(三)在住日本人との会談要旨
○日本企業関係者との懇談
 議員団は、九月四日昼に、在ブルガリア日本企業関係者五名を招き懇談を行った。
 まず角田副議長より、日本とブルガリアの経済関係は、貿易額、直接投資額とも小規模で、日本から駐在員を派遣している企業は一社のみと聞いている旨、また、ODA対象国から外れることもあり、ブルガリアへの今後の支援策を新たに考える必要がある、両国の経済関係を活発にするためには民間企業の進出が不可欠であり、企業活動を行う上での問題点等について忌憚のない意見を伺いたい旨の発言があった。
 出席者からは、ブルガリア人の勤勉な国民性に評価がなされた一方で、品質や納期に対する意欲の希薄さや極端な責任回避が見られるとともに、集約的かつ緻密に計画された日本型建設に下請、スタッフが対応できていないとの見解も示された。また、縦割り行政の弊害、度重なる政権交代やEU加盟に向けた頻繁な法令改正が企業活動に困難を生じさせている実態等についても苦労談が述べられた。
 最後に角田副議長より、考え方や人生観の違いもあり、苦労が多いと思うが、今後ともブルガリアとの経済関係強化の基盤整備のため努力してほしい、議会人ではあるが環境整備に働き掛けを行って参りたい旨の発言があり、懇談を終了した。
○青年海外協力隊員(JOCV)等との懇談会
 九月六日午後、ソフィア市内において、青年海外協力隊員等との懇談会を行った。まず、角田副議長より、JOCVが対ブルガリア経済協力の第一線で専門分野のみならず、一人一人が両国の架け橋となって活動していることに敬意を表し、ブルガリアに対する技術協力も二〇〇八年末で終了することを憂慮しているとの発言があった。
 次に、JICAブルガリア事務所長より、技術協力は、漸次削減との方針に基づき、ブルガリア政府と協議を行ったが、今年一月、DACリスト改訂を理由として、協力隊員の募集が突然打ち切られ、現場では大きな混乱を招いている旨、また、協力隊事業は両国民の草の根レベルの交流だが、民間進出がほとんどない現状では、ODA関係者が両国交流の大半を担っているとの発言があった。
 各出席者からも、現地社会の混乱等についてこの発言と同趣旨の発言が自らの経験に基づいて行われた。
 これに対し角田副議長より、DACリストから外れたことを理由に今後の協力要請を一切打ち切るということは、外交手段の一つを放棄することであり、帰国後に、出された意見を踏まえ、技術協力を含めた今後の対ブルガリア経済協力の継続的実施を政府に強く働き掛けていきたいとの発言があった。また、議員団より、協力隊員の帰国後の受け入れ等の制度整備が必要との認識、ODA減額のしわ寄せの現状についての問題点を提起するつもりである等の発言があった。
(四)その他の日程について
○ソフィア第十八総合学校
 九月四日午後、日本語教育に熱心なソフィア第十八総合学校(小中高の一貫教育を実施)を訪問した。
 まず、ストイチェヴァ校長より、一行への歓迎の意が表された後、同校について、ブルガリアで唯一日本語を主専攻で学ぶことができる初等・中等教育機関であり、生徒は八年生(日本の中学二年生相当)からの五学年で日本語を学んでいるが、本年度から一年生(同小学一年生)にも日本語コースを設け、五十名の生徒が学ぶことになると紹介するとともに、これまでの同校への支援に対し謝意が述べられた。ヴァルチャノヴァ前校長から、日本語教育導入を決意した動機は、日本の戦後の経済成長や現在の繁栄を支えている教育制度、教育重視の姿勢への深い敬意であるとの挨拶があった。
 角田副議長は、国と国との友好の基本である国民同士の交流には常に言語の壁が立ちはだかるが、第十八総合学校は積極的な日本語教育でこれを乗り越え、二国間関係の発展に大きく貢献していること、一九九二年に日本語教育を導入したヴァルチャノヴァ前校長及び実施学年を一年生まで引き下げたストイチェヴァ現校長の努力に心より敬意を表するとの挨拶を行った。議員団は同校に日本語教材の寄贈を行い、引き続き、日本語専攻の生徒たちの学習環境の視察を行った。
○ヴェリコ・タルノヴォ市訪問
 九月五日午後から六日午前、北ブルガリアの中央に位置し、第二次ブルガリア帝国(一一八五―
一三九三)の首都であり、一八七八年にブルガリアがオスマン・トルコから独立した際に制憲議会が開かれた由緒ある街であるヴェリコ・タルノヴォ市を訪問した。同市にあるヴェリコ・タルノヴォ大学においては一九九三年から日本語教育が開始され、日本人二名を含む五名の教員が四十二名の学生に日本語を教えている。卒業試験のレベルは日本語能力試験二級のレベルであり、ブルガリアにおける日本語教育の中核機関の一つとなっている。また、同市の近隣にあるジュルニツァ村は、現在我が国とブルガリアの友好の象徴となっている大相撲の琴欧洲関の出身地である。
 議員団は、ヴェリコ・タルノヴォ市長及び同市関係者、琴欧洲関の御両親、ヴェリコ・タルノヴォ大学学長を始めとする現地関係者を招いて夕食懇談会を行った。この中では政府機関との関係とは異なる国民と国民との間の交流の重要性を再認識するとともに、両国の益々の友好親善関係の強化について熱のこもった意見の交換が行われた。また、ヴェリコ・タルノヴォ大学に対して日本語教材及び最近主立った文学賞を受賞した小説を寄贈した。

四、フランス共和国

(一)要人との会談要旨
○ポンスレ上院議長表敬訪問
 特別国会召集日の九月七日午前、上院を訪問し、本会議場で審議を傍聴した際、ポンスレ上院議長は議事を一時中断し、角田副議長一行を紹介し、歓迎の辞を述べ、議員団は出席議員の拍手で迎えられた。その後、同議長を表敬訪問し、会談を行った。
 まず、角田副議長より本会議場での紹介と歓迎及び会談設定への感謝と日仏関係はヴァラード上院仏日友好議連会長や先達の貢献もあり、極めて良好であり喜ばしいとの挨拶をした。
 これに対し、同上院議長より、先般、ヴァラード会長が訪日した際、扇参議院議長を始め参議院の格別の対応への感謝と、今般の親王殿下誕生の日本国民の喜びを我々も共有しているとの挨拶があった。次いで、共に大国である日仏両国は、国際社会が直面している諸問題に協力していくことが必要であり、特にイランの核開発は絶対に受け入れられない旨述べた。これに対し、角田副議長より、アジアにある日本としては、北朝鮮の核開発は許されないと考えており、国連安保理においてフランスが北朝鮮のミサイル発射に対する非難決議で日本の立場を支持したことに感謝する旨発言した。また、フランス革命やパリコミューンなどフランスは常に先進的な考えを取り入れてきたこと、今日においても独自の理想を持って外交を行っている点は日本も学ぶ点が多いと発言した。更に同上院議長より、フランスは自由と人権の尊重を理念としていること、シラク大統領も日本と様々な分野での協力を推進しようと考えており、自分も両国の協力を一層進展させたいと考える旨表明した。
○キュック議会担当大臣表敬訪問
 九月八日午前、首相府にて、キュック議会担当大臣を表敬訪問し、会談を行った。
まず、同大臣より、フランスでは議事日程は政府が決め、審議日程の詳細は議会が決めるため、自分の職務は政府と議会間の調整であるとの紹介があり、次いで、親王殿下誕生に対するお祝いの言葉があった。これに対し、角田副議長より、親王殿下誕生に対する祝辞への謝意を表した後、日仏関係は現在極めて良好であるが、これも親日家のシラク大統領のお陰である、本日はフランスの政治状況について教授願いたい旨を述べた。
 同大臣は、大統領選挙まで七か月以上ある時点での展望予想は不可能であること、現時点の世論調査と選挙結果が異なることも往々にしてあると指摘した上で、大統領となる人物は、あらゆる対立を超越し、大きな自制心を持って国民を導くだけの能力がある人物でなければならないとのドゴール主義の伝統的な考えを示した。また、現在審議されている仏ガス公社(GDF)民営化法案に対して、野党は約十一万件もの修正案を提出し、議会審議を混乱させているが、このような手法は、修正案提出権自体を制限すべきとの議論になりかねないと述べた。
 また、角田副議長より、来年の大統領及び国民議会選挙を前にGDF民営化に反対する与党議員の動向と、大規模なデモなど世論への影響を質したところ、同大臣は、選挙が近づくとすべてが心配の種になる、与党議員の中には、自身の選挙を念頭にジェスチャーとして民営化に反対している者もおり、与党の分裂を招きかねず、選挙に悪影響を及ぼすおそれがあるとの懸念を表明した。
(二)国際問題研究者との意見交換
○アジア問題研究者との意見交換
 九月八日午前、在仏大使公邸において、仏国際関係研究所アジア・センター所長を始めとするアジア問題の研究者と懇談を行った。
 冒頭、角田副議長より、現在、日本と中国、韓国との関係は政治的に停滞しており、その関係を再構築する必要があると考えている。アジア問題の専門家の方々から日中、日韓関係についての見解を伺いたい旨の挨拶があった。
 研究者側から、現在の日中、日韓関係は「靖国」という木が森を隠しており、中国及び韓国はこの問題をうまく利用しているとの認識、この問題で日本はアジアにおける難しい立場を認識していると思われるが、旧植民地への欧米の政策が参考になるのではないかとの見解、日本における国家主義の台頭という批判は、急速な防衛政策の発展が日本に対する疑問になっているとの見解等が示された。これに対し議員団からは、日本の総理が靖国神社を訪問しなければ日中関係の基本的な政治問題は解決し、日中関係は進展するとの認識、靖国問題を通じて日本が世界にどのようなメッセージを伝えていると見られるかが問題であるとの見解、総理の靖国参拝問題は過去への反省という観点から相応しくないものの、日中間の懸案は靖国問題以外にもあることに加え、中国の覇権主義を忘れて日中関係を考えることは危険であるとの見解等が示された。
最後に角田副議長から、日中間には北東アジアをめぐる対立もあるが、堂々と競争することが必要であり、そのためにも、日本側に後ろめたいものがあってはならないこと、中国の反日行動で中国の抱えている矛盾は解決しないこと、中国の安定はアジアにとって大切である旨の発言があり、懇談会を終了した。

五、終わりに

 本議員団は、ブルガリア共和国国民議会の周到な準備と誠意ある接伴により、一連の要人との会談等有意義、かつ、実りある訪問を行うことができた。今回の訪問が日本・ブルガリアの友好関係を一層促進することに繋がるものと確信する。ブルガリアは大変親日的な国であり、我が国に学び、我が国に敬意を持っていることがよく理解でき、かつ、これまでの友好関係を一層深化させるためにも、EU加盟移行期において、更には加盟後にも経済援助や人材養成への積極的な協力の必要性を認識した次第である。このため、本議員団は帰国後の九月二十一日、ブルガリアに対する今後の経済協力に関する要望書を内閣総理大臣宛に提出した。
末尾ながら、ピリンスキ国民議会議長、リュトフィ同副議長を始めとするブルガリア共和国国民議会の温かい御配慮とポンスレ仏上院議長、ヴァラード上院仏日議連会長の御厚意に深く感謝申し上げる。また、福井大使を始めとする在ブルガリア共和国大使館並びに北島OECD代表部大使、飯村駐仏大使、在フランス共和国大使館の行き届いたサポートについても、ここに特記し、厚く御礼申し上げる。