国際関係

外国議会との交流

タイ王国上院議長の招待による同国公式訪問及びカンボジア王国の政治経済事情等
視察参議院議院運営委員長一行報告書

      団長  参議院議院運営委員長         溝手  顕正
           参議院議院運営委員会理事      金田  勝年
           同                       小斉平 敏文
           同                       平田  健二
           同                       弘友  和夫
       同行  委員部副部長議院運営課長事務取扱  中村   剛
            参事                      神戸  敬行

 本議員団は、タイ王国上院議長の招待による同国の公式訪問及びカンボジア王国の政治経済事情等視察のため、平成十六年九月十八日から二十五日の八日間、タイ王国、カンボジア王国及び中華人民共和国(香港)の三か国を訪問した。
 日程は次のとおりである。

 九月十八日  東京発 バンコク着(三泊)

    十九日  アユタヤ視察
          ソムサック・ゲーオスティ・アユタヤ県知事との懇談

    二十日  ソムサック・プリサナナンタクン下院第一副議長との会談
          ウィサヌ・クルアガーム副首相との会談
          スチョン・チャーリークルア上院議長との会談
          タイ上院議員との懇談

   二十一日 バンコク市内視察
          バンコク発 シェムリアップ着(二泊)
          JSA(日本国政府アンコール遺跡救済チーム)事務所訪問

   二十二日 アンコール遺跡視察
          上智大学アンコール遺跡国際調査団事務所(上智大学アジア人材養成研究センター)訪問

   二十三日 シェムリアップ発 プノンペン着(一泊)
          故高田晴行警視、故中田厚仁氏慰霊碑参拝
          シソワット・チヴォン・モニレアック上院議長代行との会談
          プンプレック浄水場視察
          プノンペン市内視察

   二十四日 プノンペン発 香港着(一泊)

   二十五日 香港発 東京着

はじめに

 我が国とASEAN諸国は、地理的に近接していることから、交易などを通じた長い交流の歴史があるだけではなく、近年、政治、経済面において緊密な相互依存の関係に発展している。昨年は、「日本ASEAN交流年二〇〇三」とされ、政治、経済のみならず、社会、教育、文化を含めた幅広い分野での交流事業が行われた。

 本院においては、対ASEAN関係重視の姿勢を明確にするため、平成六年以降、ASEANの議会間組織であるASEAN議員機構(AIPO)年次総会に公式代表団を派遣するなどASEAN各国議会との交流の場を設けてきたところである。また、平成十四年七月には、超党派の「参議院AIPO対話推進議員連盟」が設立され、本院とAIPOとの対話を一層推進するための母体組織として活発な活動が続けられている。さらに、平成十五年七月の参議院改革協議会報告書では、議員の海外派遣計画策定の際の東南アジア等近隣諸国の重視が示され、これを受けて本年度に見直しを行った海外派遣計画では、東南アジア等近隣諸国との友好協力関係の構築が我が国を含む同地域全体の平和と繁栄にとって不可欠である旨を明記するに至った。

 以上の経緯を踏まえ、本議員団は、タイ王国上院議長の招待を受け同国を公式訪問し同国国会との交流を深めるとともに、本年のAIPO議長国であるカンボジア王国の国会を訪問し上院議長代行ら国会関係者との会談を実現させた。

 我が国とタイ王国は、長きにわたる交流の歴史を持ち、伝統的に友好関係を維持している。近年は両国の皇室・王室間の親密な関係を基礎に、政治、経済、文化等あらゆる面で緊密な関係を築いており、人的交流も非常に活発である。本院と同国上院間においても、一九九七年に斎藤十朗参議院議長が公式訪問する一方、一九九九年にはミーチャイ上院議長が本院議長の招待により訪日されるなど議会間交流も積極的に行われているところである。

 また、我が国とカンボジア王国は、カンボジア和平に我が国が積極的な関与を行ってきた経緯等から、一九九三年の新生カンボジア発足後、政府間交流が活発化しており、我が国からは、ODA等の経済協力を通じ、経済・社会インフラの整備、人材育成、文化遺産の保存修復事業に対する協力等が積極的に行われているところである。

 このような状況下で両国を訪問し、議会関係者との懇談や意見交換を行うなど議会間交流を深められたことは、我が国とタイ王国及びカンボジア王国との相互理解と友好関係の発展にとって大変有意義であった。

 以下、タイ王国への公式訪問及びカンボジア王国の政治経済事情等視察についてその概要を報告する。

一、タイ王国

(一)議会制度
 国会は、上院及び下院からなる二院制である。上院の定数は二〇〇名で各県を一選挙区とする中選挙区制を採用している。上院議員の任期は六年であり解散はなく、政党への所属が禁じられている。従来上院議員は任命制であったが、国民の政治参加、政治腐敗防止、地方分権等政治改革を目的として新たに制定された一九九七年憲法により、選挙制に変更された。

 一方、下院の定数は五〇〇名であり、四〇〇名の小選挙区代表及び一〇〇名の比例代表で構成されている。下院議員の任期は四年であり、解散がある。下院議員は上院とは逆に政党への所属が義務づけられている。

 憲法上、法律案は、国会の助言と同意によってのみ法律として制定することができると規定されているが、国王には法律案等の拒否権があり、国王が同意を拒否した法律案等を制定するには、国会が現有議員総数の三分の二以上の多数をもって再可決することが必要となる。法律案の提出権は、内閣と下院議員が有し、下院が先議権を持つとともに、法律案の議決についても下院の優越が認められている。その他、下院は予算の先議権も持っている。

 首相及び国務大臣(三五名以内)は国王が任命するが、首相は下院の指名に基づき、下院議員である者又は国務大臣に任命されたため下院議員資格を失った者の中から任命されなければならない。下院には内閣不信任決議権が与えられているが、首相も下院に対する解散権を有している。

 上院の権能として特筆されるものとして、首相、閣僚、国会議員、憲法裁判所長官等の弾劾権限が挙げられる。これら高位政治職にある者が汚職等の重大な職務上の不正を犯した場合に、国会汚職防止取締委員会の裁定に基づき、上院の五分の三以上の多数による議決により、これらの者を罷免する権能が与えられている。
その他国会は、宣戦布告の承認、立法措置を必要とする条約の承認、憲法改正の議決等の権限を有している。

 なお、国会の会議が両院合同で行われることがある。両院合同の会議が行われるのは、国王が同意を拒否した法律案の再審議、摂政の任命に対する承認、宣戦布告・条約の承認、憲法改正案の審議等である。

(二)ソムサック・プリサナナンタクン下院第一副議長との会談
 二十日、議員団はタイ国会を訪問し、ソムサック・プリサナナンタクン下院第一副議長、ウィサヌ・クルアガーム副首相及びスチョン・チャーリークルア上院議長との会談を順次行った。

 ソムサック副議長からは、タイが一九九七年の経済危機から回復できたのは日本の援助のおかげであり感謝申し上げる。今日のタイの発展は、長い期間にわたり様々な分野で日本の援助が実施された結果である。今後もタイと日本との議員交流をこれまで以上に深化させていくことが重要であり、既存のタイ・日本友好議連は、現職議員を中心とした組織でないことから、今後は、現職議員による新たな議員団体を作ることを考えているとの旨の発言があった。これに対し、溝手団長から、両国の緊密度が増すにつれて、政府間の交流に加え、両国国民の代表である議員同士の直接対話が重要になってくる。参議院としても、アジアの国々との議員交流の一層の強化を話し合っているところであるとの旨の発言を行った。

 また、議員団から、二〇〇二年一〇月にタイ政府は行政改革を実施し、一府一庁十三省から一府十九省に省庁が再編されたが、行政改革はスリム化が一般的であるのに対し、タイの場合は逆行しているのではないかとの旨の質問を行い、同副議長からは、省庁数の増大はタクシン首相のビジョンが広く、また、国民の政府に対する要望の拡大に伴ったものであるが、特に大きな問題や批判は見られないとの旨の発言があった。さらに、議員団から、上院議員は政党に属してはならないとされているが、政党政治が主流のタイにおいては、法案を通す際にも問題となるのではないかとの旨の質問を行い、同副議長からは、以前の上院議員は勅選であったが、現在は選挙制が導入され、中立性維持のため、政党に属してはならないことになっている。同時に、上院の権限は強化され、国家汚職防止取締委員会などの独立機関委員の選出に関与したり、不正を行った首相、閣僚、国会議員等を罷免する権限が付与されている。こうしたことから、タイの上院の役割はチェック機能に重きを置いている点が特徴と言えるとの旨の発言があった。

(三)ウィサヌ・クルアガーム副首相との会談
 引き続き議員団は予算審議中の本会議場に案内され、タクシン首相の演説を傍聴した。その際、スチョン上院議長より議員団の紹介があり、傍聴席の議員団と壇上の首相以下出席閣僚との間であいさつが交わされた。この模様は国会中継テレビによって、全国に報じられたとのことであった。

 次いで、ウィサヌ副首相との会談に移り、同副首相から、タイ政府を代表して歓迎したい。タクシン首相が公務多忙のため、一行にお会いできずおわび申し上げる。現在、予算審議の最中であり、首相は、議場において演説・答弁に専念しているところである。一行は、タイにとって重要なミッションであり、タイと日本の議員との間で活発な意見交換が行われることを期待している。タイ政府としても、タイと日本との議員交流の強化を側面から支援していきたいとの旨の発言があった。これに対し、溝手団長からは、先ほど、若々しいタクシン首相の演説を拝聴した。首相、副首相をはじめ、タイの指導層の多くが若い方であり、タイの将来は明るいとの印象を受けた。参議院としても、タイとの友好関係を強化するとともに、議員外交・議員交流を促進していきたいとの旨の発言を行った。

(四)スチョン・チャーリークルア上院議長との会談
 引き続き議員団は、スチョン上院議長と会談を行った。同議長からは、上院を代表して参議院公式訪問団である溝手委員長一行を歓迎申し上げる。本日は、予算審議が大詰めとなり、訪問団に御迷惑をおかけし、お詫びしたい。タイ上院と参議院との間の交流促進は、両国友好関係の増進に資するものである。今回に限らず、両国議員交流を末永く継続させていきたいと考えているとの旨の発言があった。

 次いで、溝手団長から、スチョン議長によりお招きを頂き、御礼申し上げる。人的交流を通じて相互理解を深めていくことは重要であり、参議院としても今次公式訪問団のみならず、ODA調査団等多くの議員が最近タイを訪問している。参議院は、あらゆる地域との交流が大事であるのは当然のこととして、中でも貴国をはじめとするアジアの国々との議員交流の推進が最重要であると認識している。タイ上院と参議院間には、相互の交流の実績がある。上院議員としての任期はあと二年と伺っているが、その間の都合の良い時期に、是非、我が国を公式訪問されるよう招待申し上げるとの旨の発言を行った。これに対し、同議長から、日本招待に感謝申し上げる。タイ上院としても友好国である日本を最重要国として認識しているとの旨の発言があった。

(五)その他
 その他、タイ訪問中、ソムサック・ゲーオスティ・アユタヤ県知事との懇談、タイ上院議員との懇談等を行った。

二、カンボジア王国

(一)議会制度
 国会は、上院及び国民議会(下院)からなる二院制である。上院の定数は六一名で、五七議席が普通選挙で選出されるが、四議席は国王と下院が二議席ずつを指名する。上院は、一九九九年に設置された新しい組織であり、発足当初は選挙を行わず、設置前に行われた国民議会総選挙における獲得議席数に応じて各政党に配分され任命された。これらの議員の任期は五年とされていたが、二〇〇四年二月、上院選挙法の未整備や財政上の理由により、任期が一年延長された。

一方、下院議会の定数は一二二名であり、二一のブロックからなる拘束名簿式比例代表制を採用している。下院議員の任期は五年である。

 法律案の提出権は、内閣と個々の両院議員にあるが、議員は、国庫収入の減少あるいは国民の負担増加となる法律案を提出することはできない。下院で可決された法律案で上院に送付されたものについて上院が同意しない場合、下院に回付されるが、その際、下院が過半数で可決すれば法律案は成立する。上院は慎重審議のための機関との位置づけがなされており、下院の優越が認められている。

 下院は、三〇名以上の議員の発議によって内閣に対する不信任決議案を提出することができ、三分の二以上の多数によって議決することができる。一年間に二回不信任決議案が可決された場合、首相の提案と下院議長の承認の下、国王は下院を解散する。

 その他国会は、国家予算、国家計画、借款、貸付、租税の創設・修正・廃止、行政費、恩赦、条約、宣戦布告法案を承認する権限を有している。

(二)シソワット・チヴォン・モニレアック上院議長代行との会談
 二十三日、議員団はカンボジア上院を訪問した。シハヌーク国王が中国滞在中であったため、国家元首代行を務めているシア・ソム上院議長に代わり、シソワット・チヴォン・モニレアック上院議長代行(上院第一副議長)と会談した。

 モニレアック議長代行からは、一行の訪問を歓迎する。両国の外交関係は約五十年にわたるが、特に近年緊密な関係となっており、日本政府及び国民からは、道路建設や橋の建設といった重要かつ多大な支援を頂いている。私は、日本の衆参両院は、カンボジアの議会が目指す目標でありモデルであると考えており、なるべく早く日本のような議会システムに追いつけるよう日々勉強していきたいとの旨の発言があった。

 次いで、溝手団長から、貴国は、内戦等の経緯もあり種々の問題を抱えていることは承知しているが、今回の訪問によって復興に向けた努力を見ることができ、嬉しく思っている。我が国は、貴国に対するトップドナー国として、復興発展のための支援に最大限努力する所存である。カンボジア上院と参議院との交流については、事務局間で調整を行っているところであるが、参議院としては、来年上院議長を我が国に招待したいと考えている。このような機会を通じて、両国の友好関係が発展していくことを希望しているとの旨の発言を行った。これに対し、同議長代行から、日本との友好協力関係の発展は極めて重要と考えている。日本は、戦後五十年の間に世界の貧困国を支援する経済的な大国となった。カンボジア国民は、そのような日本を賞賛とともに尊敬しており、その気持ちを日本の関係者によろしくお伝え願いたいとの旨の発言があった。

 また、議員団から、復興過程における教育への取組に対する見解を問う旨の質問を行い、同議長代行から、真の民主主義とは国の指導者と国民の間で教育を通じての相互理解が成立していることである。指導者達は、経済や治安等に関する各政策を国民に対し明確にし理解させる必要があるが、その一方で、国民のニーズについて理解する必要がある。治安の安定、貧困の削減及び教育はカンボジア政府の重要政策であり、更なる発展の必要条件でもあるとの旨の発言があった。

(三)JSA(日本国政府アンコール遺跡救済チーム)事務所訪問

JSAは、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金によるプロジェクトとして一九九四年に結成された。常時数名の日本人専門家が駐在し、百名を超すカンボジア人スタッフと共同で、バイヨン寺院、プラサート・スープラ等において保存修復活動に当たっており、国際的にも高い評価を受けている。第一期、第二期事業(二〇〇五年四月まで)に拠出された合計額は、約二千六十万ドルである。本議員団は、ODA等の経済協力を通じた文化遺産の保存修復事業の実情を調査するため、JSA事務所を訪問し、JSAの活動状況について説明の聴取を受けるとともに、修復現場の視察を行った。

 また、アンコール遺跡視察においては、上智大学アンコール遺跡国際調査団長の石澤良昭教授から詳細な説明を受けるとともに、上智大学アンコール遺跡国際調査団の事務所を訪れ、調査活動の現状について説明を聴取した。

(四)プンプレック浄水場視察

 我が国は、一九九三年からプノンペン市の水道整備計画作りを支援しており、この計画を基に様々な水道整備プロジェクトが行われている。本議員団は、我が国が無償資金協力で改修・拡張を行ったプンプレック浄水場を訪問し説明を聴取するとともに施設を視察した。プノンペン水道公社側からは、日本の資金協力により、同浄水場の給水能力は九三年当時から二・四倍に増加するとともに、市内の配管網整備・専門家派遣等により、同市の水道の安定供給に大きな貢献をしていただいている。今後は、プノンペンにおける成功を全国に拡大し、全国水道レベルのボトムアップを図ることが課題であるとの説明があった。

(五)その他

 その他、プノンペン滞在中、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)による平和維持活動開始後に文民警察官として派遣され殉職された故高田晴行警視及び国連ボランティアとして活動中に銃撃され亡くなられた故中田厚仁氏の慰霊碑を参拝した。

終わりに

 今回の訪問においては、時野谷敦在タイ王国大使、高橋文明在カンボジア王国大使をはじめ、各地において在外公館員等多くの方々にお世話になった。この場を借りて関係各位に厚く御礼を申し上げるものである。