1. トップ >
  2. 国際関係 >
  3. 国際会議>
  4. 結果概要

国際関係

国際会議

○WTOに関する議員会議・第7回運営委員会派遣報告

WTOに関する議員会議・第7回運営委員会は、2004年9月6日(月)及び7日(火)、スイス連邦・ジュネーブのIPU(列国議会同盟)本部において、IPU及び欧州議会の共催の下で開催された。同運営委員会は、WTOの最近の動きに関する最新情報について意見交換を行うとともに、本年11月24日(水)から26日(金)まで開催される「WTOに関する議員会議・ブリュッセル会合」の準備、「WTOに関する議員会議・手続規則案」に関する討議等を行うために開催されたものである。
 WTOに関する議員会議・運営委員会は、ベルギー、カナダ、中国、エジプト、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、イラン、日本、ケニア、モーリシャス、メキシコ、モロッコ、ナミビア、ニジェール、ナイジェリア、南アフリカ、タイ、ウルグアイ、英国、米国、英連邦議会連盟(CPA)、欧州議会、IPU、欧州評議会議員会議、及びWTOの22か国、5機関により構成されており、今次運営委員会には、このうち13か国4機関より計43名(うち議員21名)が参加した。我が国からは、若林正俊議員が参議院代表団団長として参加したほか、松岡利勝衆議院議員が個人の資格で参加した。
 本報告書では、参議院代表団の活動を中心にその概要を報告する。

1.第7回運営委員会
 第7回運営委員会は、9月6日及び7日の2日間にわたり、IPU本部会議室において開催された。議長は、IPUを代表してゲルト・ヴェルスニック議員、欧州議会を代表してエンリケ・バロン・クレスポ議員が共同で務めた。

(1)9月6日
 9月6日の委員会では、冒頭、議事日程の採択が行われた後、WTOの最近の動きに関する最新情報について取り上げられ、大島正太郎WTO一般理事会議長による次の趣旨の説明が行われた。
 本年8月1日のWTO一般理事会における枠組み合意に至る経緯、及び、同合意の内容を中心に説明する。カタールのドーハで開かれたWTO閣僚会議(2001年11月)により今次ラウンドが始まり、その後、メキシコのカンクンで閣僚会議(2003年9月)が開かれたものの、同閣僚会議では十分な成果を得るには至らなかった。WTOとしては、このような経緯を前提に本年7月末の合意に向けた作業を行い、結果として、農業及び非農産品市場アクセス交渉における大枠の合意を決定した。このうち農業については、(1)国内支持に関し、貿易歪曲的国内支持を階層方式に従い全般的に削減するとともに、貿易を歪める補助金に対し品目別に上限を設定すること、(2)輸出競争に関し、今後合意される期限までに輸出補助金を撤廃するほか、輸出信用、輸出国家貿易、食料援助といった輸出補助的な要素に対しても規律を設けること、(3)市場アクセスに関し、高い関税ほど大幅な引下げを行う階層方式を採用すること等を決定した。また、シンガポール・イシュー(投資、競争、貿易円滑化、政府調達透明性)に関しても、通関手続の改善等を行う貿易円滑化の交渉立ち上げを決定した。そうした一方、2005年1月1日であった交渉期限を延長し、香港における第6回閣僚会議を同年12月に開催することにも合意した。
 これらの説明に続き、フィンランド、フランス、欧州議会、欧州評議会議員会議、モーリシャス、ニジェール、インド、中国等と大島議長との間で今後のWTO交渉の詳細な見通し等に関する質疑応答が行われ、最後に、大島議長による次の趣旨の発言が行われた。
 8月のWTO一般理事会の枠組み合意は出発点に過ぎないと考えている。それゆえ、今後、我々全員が努力しなければならないし、そうした中で議会人のサポートも不可欠である。
 引き続き、本年11月に開催される「WTOに関する議員会議・ブリュッセル会合」の準備に関する討議に入り、同会合で取り上げるべきテーマの提案を行っている日本を含む代表団からの発言、及び、それに基づく参加者による意見交換が行われた。
 我が国からは、若林団長より、次の内容の発言を行った。
 農業分野を取り上げるというドイツの提案に賛成する。しかし、このテーマを取り上げるに当たっては、輸出国、輸入国両者のバランスを保つ観点から、報告者の中に輸入国の代表を加えるべきである。とりわけ、輸入国の中でも世界最大の食料輸入国である日本の代表を報告者とすることが適当である。
 また、同会合のテーマの数に関し、議長より、様々な事情を考慮すると最大三つではないかとの提案が行われたことを受け、松岡議員より次の趣旨の発言が行われた。
 テーマ数を最大限三つとする提案には賛成であるが、内容については、WTOに直接関連するテーマを取り上げることが重要である。ILOやWHOなど、WTO以外の国際機関で扱っている事項を取り上げることは避けるべきではないか。具体的には、農業、非農産品、環境問題の三分野を提案する。専門家を招請するとの提案についても賛成であるが、その場合には、様々な立場がそれぞれ公平に反映できるようにすべきである。また、米国の農業法の問題等も議論することが適当であり、その意味で、同国の参加を働きかけることを提案したい。
 その他、英国、タイ、ニジェール、欧州議会、欧州評議会議員会議、フランス、フィンランド、モーリシャス、カナダ、インド、ナミビア、中国等からも発言が行われたものの、時間の制約上、翌日、更に議論を重ねることとされた。

(2)9月7日
 9月7日の委員会では、冒頭、議長より、次の内容の報告が行われた。
 次回ブリュッセル会合の準備に関し、昨日の議論を踏まえて更なる検討を行ったところ、具体的に二つのテーマを提案する。
 第一に農業分野である。ただ、この分野は範囲が広いので、国内支持に焦点を当ててはどうかと思う。同分野に関しては、特に、米国、EU、チリ、ニジェールの代表から、報告者として、それぞれ異なった視点に立ったディスカッション・ペーパーを提出いただくことを考えている。
 第二に開発分野である。この分野も広範囲に及ぶことから、具体的に二つの点を取り上げることを提案する。一つ目は、アウトソーシングとインソーシングの問題である。ディスカッション・ペーパーを提出する報告者としては、インドとスイスの代表が適当であろう。二つ目は、繊維と綿花の問題であるが、同問題については、中国、バングラデシュ及びモーリシャスの代表を報告者としてはどうかと思う。
 これに対し、松岡議員より次の趣旨の発言が行われた。
 農業分野については、国内支持の問題に加え、輸出補助金や輸出信用、輸出国家貿易といった輸出競争の問題を併せて論じない限り、意味のある議論にはならないと思う。実際、7月の一般理事会でも、輸出助成制度とそれに対する途上国の反対という問題が大きかった。輸出助成制度の問題については、米国農業法の問題を取り上げる際にも重要なテーマとなる。
 さらに、若林団長から次の趣旨の発言を行った。
 国内支持については、輸出国の国内支持と輸入国の国内支持との間で性格が異なることから、輸入国であるG10の国々、特に日本よりディスカッション・ペーパーを提出して問題提起できればと思う。
 その他、欧州評議会議員会議、欧州議会、インド、タイ、英国、ナイジェリア、フィンランド、カナダ等からの発言も踏まえ、ブリュッセル会合に向けて次のような方向で作業を進めることが了承された。

イ  G5諸国(米国、EU、ブラジル、インド及びオーストラリア)及び大島議長を交えた討議を行う。
ロ  会議の主要テーマとして、「農業」及び「サービス」の二つを取り上げる。
ハ  農業分野に関しては、国内支持及び輸出競争を議論の対象とするほか、綿花問題も取り扱う。日本、EU、チリ及びニジェールの代表が報告者を務める。
ニ  サービス分野に関しては主に開発の視点を取り上げ、インド、カナダ、ナイジェリア等の代表が報告者を務める。
ホ  各テーマの報告者は、討論の口火を切るための簡潔な報告を行う。配付ペーパーについては、最大2枚程度とする。
ヘ  最終日に出席予定であるスパチャイWTO事務局長に対し議員会議の結論を提示する。
ト  成果文書案については、テクニカルなレベルで草案を作り、最終的には共同議長から配付する。案が出来次第、運営委員会メンバーに配付することとする。

 続いて、「WTOに関する議員会議・手続規則案」に関する討議に入り、9月6日夕刻に配付されたドラフトに基づく議論が行われた。
 最初に、欧州議会のエリカ・マン議員より、本年3月26日版の手続規則案に対し、日本、タイ、ニジェール及び中国から修正案が提出されたので、これらを極力反映したドラフトを作成した旨の説明が行われた。
 これに対し、松岡議員より次の趣旨の発言が行われた。
 日本が修正案を提示した第7条第2項については、中国からも提案が出ているように、「(成果文書に対する修正案について、)全文の削除又は差し替え、及び案文の条項又は段落につき一つを超える修正を求めることはできない」という部分を削除すべきである。特に、一つだけしか修正案を提示できないという点は問題であり、是非とも賛同いただきたい。
 その他、中国、フィンランド、欧州評議会議員会議、タイ、ニジェール、ナイジェリア、インド等からも意見表明が行われたところ、急遽、これらを踏まえた手続規則案の最新版(9月7日版)が作成され、逐条審議が行われた。
 同最新版では、日本の主張を踏まえ、第7条第2項が「修正案は、原案に対し、その範囲又は性格を変えることなく、追加、削除又は変更を求めるものに限る」旨の記述に修正されていたが、その他の箇所に対し、欧州評議会議員会議、カナダ、中国等より幾つかの問題提起がなされたところ、今後更なる微修正を加えた上で、ブリュッセル会合の際に諮られることとなった。
 最後に、その他の事項として、来年5月頃及び9月後半に運営委員会、12月の第6回WTO閣僚会議の際に「WTOに関する議員会議・香港会合」を開催することが了承され、第7回運営委員会は終了した

2.要人との懇談
 参議院代表団は、運営委員会に先立ち、ジュネーブのWTO本部において大島一般理事会議長とWTO交渉の今後の見通し等について懇談を行った。また、ジュネーブ、ベルン(スイス連邦)及びオスロ(ノルウェー)において、次のとおり、スイス連邦議会の議員及び両国政府の要人との懇談を行った。

(1)ジョン・ドュプラ・スイス下院議員(自由民主党) (9月6日午前、ジュネーブ)

 ジョン・ドュプラ議員より、WTO農業交渉において我々が心に思わなくてはならないのは、農業の伝統的部分である、農家の歴史、土地への愛情といったものをグローバリゼーションという言葉で片付けることはできない、したがって、ブラジル、インド等の労働者の過酷な労働条件と安い賃金の下、多国籍企業が多大な利益を得るような農業には反対であり、家族規模の農業を保護して農業の多面的機能を確保する農業政策を守るべきである、このうち農業の多面的機能に関しては、スイス農業政策コンセプトの中に盛り込まれており、今でもその考え方は生きている、等の発言があった。
 これらを受け、若林団長より、我が国もWTO農業交渉に当たり提出した日本提案の中で、農業の多面的機能を強調している、そうした農業が果たす役割は国により異なるものの、それらのいずれもが共存していくことが重要である、日本提案では、製造業、金融業、その他のサービス業と農業を同じように扱っていくのは間違いであることも述べており、実際、そのための努力を重ねてきた、こうした中、昨年になってOECDより農業の多面的役割に関するレポートが出された、農業の持つ多面的機能は公共財としての役割も果たしており、それらを守るための財政支援や制度的な保護を行っていくことを認めなければならない、等の発言を行った。

(2)ジャック・シャバ・スイス連邦農業庁副長官 (9月8日午前、ベルン)

  WTO農業交渉に臨むスイスの基本的考え方について、ジャック・シャバ副長官より、7月のWTO交渉の際に、G10だけでは最終的に十分な影響をもたらさないことが判明したことから、我々としては、G10としてどの分野に優先順位を置いていくかを考える一方、途上国等から新たな協力国を探すことにも力を入れる必要があると考えている、等の発言があった。
 その後、若林団長より、スイスの農業政策に深い関心を持つ国会議員のグループの有無等について質したところ、同副長官より、上下両院議員246名のうち40名程度で構成される非公式のグループがある、同グループには、スイスの重要政党4党である自由民主党、社会民主党、国民党及びキリスト教民主党の議員が含まれている、スイス議会では年4回の会期があるが、毎会期とも最低1回は議論が行われている、同グループのリーダーは下院のハスラ議員(国民党)である、等の説明が行われた。

(3)ハラルド・ネプレ・ノルウェー外務省貿易政策・資源・環境局長 (9月9日午前、オスロ)

 ハラルド・ネプレ局長より、本年7月のWTO交渉では、G10諸国の協力を通じ、ノルウェーにとっても日本にとってもある程度満足できる結果を得ることができた、ノルウェーでは政治家レベルでも随時日本側と話合いを行っており、例えば本年5月にも、外務大臣が日本を訪問して農業交渉を中心とする議論を行った、ただ、より重要なのは今後の取組であり、特にG10の中で優先分野を絞って協力を強化していくことが不可欠である、そうした中で、ノルウェーとしては、特に市場アクセスの問題が重要となっている、等の発言があった。
 これらを受け、若林団長より、ノルウェーと日本との間では基本的に問題を共有しているので、今後とも我々の立場をWTO農業交渉の中で一緒に主張していきたい、今回の交渉では途上国の開発と貿易の問題が大きな関心を呼び起こしているため、この問題についてある程度途上国を満足させるものでなければならないと思う、したがって、我々は途上国の主張に理解を示しつつ、自らの主張も途上国に納得していただけるよう努力しなければならない、ただ、途上国とは言っても、最貧の途上国からインド・ブラジルを始めとする相当開発の進んだ国に至るまで様々であり、我々としては、これらのうち、それほど開発の進んでいない輸入国にG10の主張を認めていただくことが重要である、等の発言を行った。

3.その他
 参議院代表団は、WTOに関する議員会議・第7回運営委員会及び要人との懇談の終了後である9月9日(木)午後、オスロ近郊において、オーレ・マルティン・トムテール氏の穀物野菜農場を視察するとともに、現地農業事情に関する懇談を行った。