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第60回国連総会の際のIPU議会人会合派遣報告

 第60回国連総会の際のIPU議会人会合は、2005年10月31日(月)及び11月1日(火)の両日、ニューヨーク(米国)の国連本部において、「21世紀の諸課題に対処するためのより強い国連へ向けた我々の共同責任」をテーマとして、44か国、107名の議員の参加を得て開催された。

 本議会人会合は、IPUが毎年国連総会の際に国連事務局の後援を得て開催する恒例行事となっており、その時々の国連が直面している主要な問題について、国連の幹部職員から説明を聴取し、意見交換を行う機会を議会人に提供することを目的に開催されている。昨年日本国会として初めて参議院から代表団が派遣されたのに続き、本年は衆参両院からなる代表団が派遣された。代表団は、2日間にわたる四つのセッションすべてに出席し、議員全員が発言を行うとともに、会合中開催された関連行事に出席した。

 会合を終えて、参議院代表団は、我が国でもその活動状況が広く知られているニューヨークのビジネス改善地区(BID)及びそのユニークな学校形態(公立民営の一種)が注目されているチャータースクールを視察し、右代表者と意見交換を行った。

 なお、本議会人会合等の詳細については、「第60回国連総会の際のIPU議会人会合概要」に譲ることとし、本報告書では、代表団の活動を中心にその概要を報告する。

1.議会人会合

 会議は、「2005年国連サミットの結果」、「テロとの国際的な闘いにおける議会の役割」、「保護する責任-危機的状況に対処する際の早期警告及び組織的な対応」及び「議会と平和構築」と題した四つのセッションから構成され、国連の幹部職員、議会人、シンクタンク・NGOの専門家、政府の国連常駐代表等をスピーカーとして、パネル・ディスカッション形式で進められた。

(1)開会式

 10月31日(月)午前、ピエール・フェルディナンド・カジーニIPU議長(イタリア下院議長)の主宰で開会され、同議長及びヤン・エリアソン国連総会議長(スウェーデン)から挨拶があった。

 カジーニ議長は、テロとの闘い等国連が取り組むべきあらゆる課題においてIPUが果たす役割の重要性を強調し、今後IPUとして多くの多角的交渉についての情報を得ることによって国連と戦略的なパートナーシップを構築し、国連の議題に貢献していくとの考えを示した。また、IPUこそが各国議会と国連との唯一のチャネルであるべきであり、新たなパイプとなる組織を国連内に作ることには反対すると述べた。エリアソン国連総会議長は、国民の代表者である議員の声を国連に反映させることの重要性に言及し、特に紛争後の支援、地域議会の活性化等の観点からIPUとの協力強化を推進していくと述べた。

(2)第1セッション「2005年国連サミットの結果」

 エリアソン国連総会議長、ジム・リーチ米国下院議員(国際関係委員会所属)及びロバート・オルル国連事務次長(ゲンナジー・ガチロフ事務官代読)から発言を聴取した後、一般討議が行われた。

 エリアソン議長は、2005年国連サミットで採択された成果文書のうち、特に「保護する責任」について、ルワンダ、ダルフール(スーダン)等の例に言及しつつ、国家は大量殺りく、戦争犯罪、民族浄化及び人道に反する犯罪から人々を保護し、せん動を含むこのような犯罪を予防する責任を負っている、国際社会は国家がこの責任を果たすことを助けるべきであると述べた。リーチ米国下院議員は、米国はその歴史において国連を支持し続けているが、国連改革については難民、エイズ、軍縮問題等の重要な課題に対する有効な対処という視点から進めていくべきであると述べ、安全保障理事会の拡大について自分は賛成であるが、米国の流れとしては小規模な改革を支持していると述べた。また、米国議会はIPUへ復帰するべきであると述べた。オルル国連事務次長の代理として報告を行ったガチロフ氏は、ミレニアム宣言及び2005年世界サミット成果文書における目標の達成には世界中の議会の関与が必要不可欠であり、今後IPUを介した国連と議会の協力強化が重要になると述べた。

 一般討議に入り、我が国を代表して発言した福井照衆議院議員(日本国会代表団団長)は、国連サミット成果文書第171パラグラフにおいて国連とIPUの協力強化が明示されたことを高く評価するとともに、IPUが今後、国連の議論にいかに関与していくべきかについて具体的戦略を考える時期にさしかかったと指摘した。また、国連改革における日本の立場を明確にし、安全保障理事会の拡大について早期の決定を下すべきであると訴えた。続いて各国から、国際社会全体でテロと闘う必要性、国連とIPUとの協力強化、ODAの対GDP比0.7%目標達成への努力、エイズ等の疾病に対する国際社会の持続的対応、難民保護の強化等の必要性について発言があった。最後にカジーニIPU議長は、アフガニスタンにおける民主化・女性参政への動きに言及しつつ、IPUは民主主義の原則や慣行を履行・実践しようとする国家の能力強化を支援するとの決意を述べた。

(3)第2セッション「テロとの国際的な闘いにおける議会の役割」

 デビッド・ムシラ・ケニア議会副議長、ニコラ・ミシェル国連事務次長(法務担当)及びハビエル・ルペレス国連事務次長(国連テロ対策委員会担当)から発言を聴取した後、一般討議に入った。

 ムシラ・ケニア副議長は、テロは人類に対する悪質な犯罪であり、近年グローバルな広がりを持つようになってきた、議会人も立法、監視等の面で重要な役割を果たすことができると述べた。ミシェル国連事務次長は、国連事務総長の包括的テロ対策戦略を紹介しつつ、テロの根源を撲滅するために各国の担う役割は大きく、各国の努力がなければ国際的な取組の実効は上がらないと訴えた。また、議会人は国民の信認を得て、基本的自由などの憲法上の権利を守ってくれるとの期待を担っており、これに応えて市民と政府の橋渡しになってほしいと述べた。ルペレス国連事務次長は、安保理におけるテロ対策決議の歴史を振り返りつつ、テロは民主主義社会構築のための最大の脅威であるとして、テロに関する定義を含め、テロとの闘いにおいて新たな国際的合意を得る必要性を強調した。

 一般討議において、我が国を代表して発言した森元恒雄議員(日本国会代表団副団長)は、2001年9月11日の米国における同時多発テロ以降テロの様相は一変し、その活動範囲は国境を越え、新たな手法が用いられ、その被害もかつてない甚大なものとなってきた、各国が共同してテロとの闘いに臨むとの政治意思を強く持ち、具体的な行動に移すことが何より重要であると述べた。また、日本政府のテロ対策を紹介しつつ、国際協力を強化する必要性を強調した。特に、テロにはそれが起こる社会的背景があり、単に法的規制を強化するだけでは不十分で、世界の国々の共存共栄、対話と交流、相互理解と尊重、地球上から貧困を無くす努力が不可欠であると訴えた。さらに、国際的な要因で発生するテロの防止については一国の議会の力にはおのずと限界があり、IPUがもっと積極的な役割を果たすような新たな枠組みの具体策を取りまとめるよう提案した。続いて各国からは、テロの現象面だけでなく、その根源に遡って対処すべきであり、一層緊密な国際協力が必要であるとする意見が多く述べられたほか、テロリストと特定の宗教を結び付けるべきではなく、異文化・異宗教間対話を促進すべきとする意見や、政府のテロ対策が個人の自由を不必要に侵害してはならないとの主張も見られた。また、緊密な国際協力を築くため、IPUにテロ対策作業部会を設置し、テロ対策の情報交換のネットワーク作りに取り組むこと、IPU議長は各国議長に呼びかけてテロに関する議会デーを設け、各国で一斉にテロに関する討議を行い、IPUで右討議をまとめて国際機関等に配付するようにすること等を求める提案もなされた。未だ国際合意を見ていないテロの定義を巡っては、多くの国がいかなる状況においても市民を殺りくする行為は正当化できないとする一方で、ヨルダン代表は、レジスタンスとテロリズムは区別する必要があるとして、例えばニューヨークの9.11はテロであるが、アフガニスタンでの行為は占領軍に対する抵抗であり、北アイルランドでの行為は彼らの祖国を取り戻すための行為であってテロではない、彼らの正当な権利が認められるならテロと通常呼ばれるような暴力行為はなくなるであろう、また、イスラムは平和的な宗教であり、イスラム諸国における行動は正義を求める行動であると述べた。ナイジェリアも人民の自由を求める闘いとテロとは区別されねばならないと述べた。以上を受けて、ミシェル国連事務次長は、審議中の包括テロ防止条約は既存の条約の補完的意味を有するものであり、占領に対するレジスタンス又は自決権の範囲をどのように規定するか等をめぐって審議が遅れているが、来春には結論をまとめたいと述べた。ルペレス国連事務次長は、テロリズムの定義は市民を殺りくすることであり、レジスタンスであろうと自決権であろうと市民を殺りくすることは正当化できない、過去の条約や先日の国連サミットにおいて全加盟国が署名した文書の中でもそのように規定されており、IRA(アイルランド共和国軍)やETA(バスク祖国と自由)がテロリストでないというのは間違いである、いまテロリストと闘うために新たな定義が必要ということではないと述べた。

(4)第3セッション「保護する責任-危機的状況に対処する際の早期警告及び組織的な対応」

 モハメドミアン・スームロ・パキスタン上院議長、ロメオ・ダライレ・カナダ上院議員(陸軍中将)、ニコル・デラー世界政策研究所世界連邦主義運動家及びヤン・エグランド国連事務次長(人道問題担当)から発言を聴取した後、一般討議に入った。

 スームロ・パキスタン上院議長は、同国における10月の大地震の被害状況を報告し、各国及び国際機関からの迅速な支援に対する謝意を示しつつ、日ごろよりあらゆる災害を想定した支援体制を整備しておく必要性を強調するとともに、災害からの復興には議会が責任を持つべきであると述べた。ダライレ・カナダ上院議員は、ルワンダの事例を挙げて、ある国における人権侵害が他国に波及することもあり得るとして、国際社会は大量虐殺等の現実を前にして内政不干渉をたてに手を拱いているべきでなく、また「保護する責任」には危機状況発生後の事後的な行動のみでなく予防的な行動も含むと述べた。デラー氏も、国際社会はある国の重大な侵害状況への対処はもとよりこれを予防する責任も担うべきとした上で、議会人は保護する責任に関する各国内の認識向上及び制度的整備を進めるよう求めた。また、国連が平和構築のために果たすべき役割の重要性を強調し、安保理の審議の透明化を求めつつ、安保理がより早い段階で効果的な行動が取れるようにすることを求めた。エグランド国連事務次長は、インド洋津波の際は必要資金の90%以上が集まったもののアフリカの危機では20%以下しか集まっていないものも多いなど現在の集金システムは不十分であり、また集まるのが遅すぎるという問題もあり、現状を放置することは人道的に許容できないとして、国連の下に即時に必要資金を集めることができるような集金システムを確立する必要性を強調した。一方、最近の大津波や地震に際して、自らが率いる援助チームの先遣隊が災害発生当日に現地に派遣され、食料、保健等に関するロジスティクスも1週間以内に確立されるようになったことは革命的進歩であると評価しつつ、神戸における国連防災会議で採択された行動計画を受けて、各国・各地域の一層の努力を求めた。

 一般討議に入り、我が国を代表して芝博一議員は、国際的な人道支援の中で防災対策に取り組む重要性を強調し、我が国が2005年1月の神戸における国連防災会議で発表した防災協力イニシアチブを紹介しつつ、同会議で採択された行動枠組の適切なフォローアップ、国連関係機関間の連携・調整の強化、国連総会又は各国議会での議論の継続等を求めた。各国からは、先進国に援助資金の拠出を義務付けるべきである、ODAのGDP比0.7%は低すぎ、これでは底辺を整えることしかできない、ダルフールへの国連の対応は状況を事前に把握していたにもかかわらず大幅に遅れた等の意見が出された。

(5)第4セッション「議会と平和構築」

 フィン・マーティン・ヴァラースンズIPU中東問題委員会委員長(ノルウェー)、アウグスティン・マヒガ・タンザニア国連代表部大使(平和構築委員会に関する国連諮問委員会共同議長)、サンク・ミント・ユー国連戦略策定部代表及びスティーブン・シュレジンガー・ニュースクール大学世界政策研究所長から発言を聴取した後、一般討議に入った。

 ヴァラースンズ委員長は、中東における平和構築委員会へのサポートは、IPUを始めとする議会レベルが一義的に行うべきであるとしつつ、平和構築の過程においては当事国のオーナーシップも重要であり、すべての当事国を含む国際社会の協力が不可欠であることを強調した。マヒガ大使は、紛争後短期間で復興を成し遂げるためには、国連総会や安全保障理事会の意識を高めることが必要である旨述べるとともに、平和構築委員会設立を推進するに当たり、新たな予算増を伴うことなく、国連事務局内に委員会を支援するために有能な専門家を配置した平和構築支援事務所を設置することが必要であると述べた。ミント・ユー国連戦略策定部代表は、平和構築委員会の設立提案に至った理由として、持続可能な平和の達成のために、紛争後の平和構築や和解においては、紛争状態から復旧、社会復帰、復興へと向かう国々のニーズに取り組む調整されかつ一貫性のあるアプローチが必要であると説明した。シュレジンガー所長は、対話こそが平和構築の第一歩であり、当該国はもとより、紛争後プロセスにかかわる国や救済活動・政治対話に関与している国等に対し国連はその場を提供し、紛争後の平和構築と復旧のための戦略に助言や提案を行うことができると述べた。

 一般討議において、我が国を代表して発言した小宮山洋子衆議院議員は、日本が推進している「人間の安全保障委員会」及び「人間の安全保障基金」の理念が平和構築委員会のコンセプトと通じているとして、平和構築委員会の運営における市民社会組織やNGO等との連携推進、平和構築の過程におけるジェンダーの視点の必要性を指摘した。続いて各国からは、平和構築委員会の設置を全面的に支持するとの意見のほか、委員会の構成、平和構築における議会の責任等について発言があった。最後にIPU議長から、2005年国連サミットで年内に着手することが決定された平和構築委員会をIPUとしても強く支持していくことが確認された。

2.その他

  参議院代表団は、会議への参加に加え、ニューヨーク滞在中に、ビジネス改善地区(BID)の一つであるタイムズスクエア協会及びチャータースクールの一つであるジョン・V・リンゼイ・ワイルドキャットアカデミー・チャーターハイスクールを訪問し、ニューヨークの治安や環境の向上への取組及び落ちこぼれ生徒等に対する新たな教育の試みについて、それぞれの代表者から話を聞き、意見交換を行った。