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国際関係

重要事項調査

重要事項調査議員団(第三班)報告書

       団長 参議院議員   清水 嘉与子
           同         中島  啓雄
           同         山谷 えり子
           同         羽田 雄一郎
           同         柳澤  光美
           同         小林 美恵子
       同行 
           第三特別調査長  岩波  成行
           参議院参事     金子  真実

 本議員団は、ノルウェー王国、フランス共和国及びドイツ連邦共和国における少子高齢社会に関する実情調査及び各国の政治経済事情等視察のため、平成十七年十一月二十七日から十二月六日までの十日間、次の日程によりこれらの国々を訪問した。

 十一月二十七日 東京発 オスロ着(二泊)
    二十九日 オスロ発 パリ着(二泊)
 十二月  一日 パリ発 ミュンヘン着(四泊)
 十二月  五日 ミュンヘン発(機中泊)
      六日 東京着

 本議員団は、少子高齢社会の実情について、主に各国の少子化対策を中心に調査を行ったが、ドイツ連邦共和国においてはバイエルン州において調査を行った。なお、出発に先立ち、外務省、内閣府及び厚生労働省から、訪問国の政治経済事情及び調査事項に関し、説明を聴取した。

 また、訪問国においては、国会議員、政府高官との意見交換、在外公館からの説明聴取、資料収集及び関係施設の視察を行った。

 以下、調査の概要を報告する。

一 はじめに

 今回訪問した三か国のうち、ノルウェー及びフランスの直近の合計特殊出生率は、それぞれ一・八一、一・九一と先進諸国の中でも高水準にある。これは、ノルウェーにおいては、男女平等を積極的に推進することにより、男女の仕事と家庭の両立に向けた支援施策を進めた結果でもあり、また、フランスにおいては、家族政策を積極的に推進することにより、特に女性の仕事と家庭の両立支援を通じて出生を促進するという点が大きいと見られている。他方、ドイツにおいては、合計特殊出生率は一・三四と低水準にあるが、これは子育ては基本的に家庭で行うべきものであるという考え方から、出産・育児休暇や保育サービスの立ち後れによるものであると見られている。

二 ノルウェー

(一)国会家族・文化委員会副委員長との懇談

 少子化問題に関し、ガン・カリン・ユール第一副委員長及びアーリング・サンデ第二副委員長から、ノルウェーにおいては、仕事と家庭の両立に向けて様々な施策が採られている。少子化問題で重要な政策は出産・育児に対する休暇権の保障であり、母親も長期間休業できるだけでなく父親も休業でき、休業期間を更に延ばす活動をしている。また、保育所の問題も重要な施策であり、両親が仕事と家庭を両立できるようすべての子どもが保育所に入れる施策を進めている。さらにキャッシュ・ベネフィットという給付金制度も重要で、三歳未満の子どもを対象に保育施設に預ける時間に応じて親に給付金を支給することにより、育児に対する親の選択の幅を拡げることとしており、子どもに優しい社会を作っていくことが必要である等の見解が示された。

 議員団との懇談では、育児休業は最長三年間で、子どもが一歳になるまでは両親が分割して取得でき、その間は手当を受給できるが、そのうち五週間は父親が取得することが義務付けられており(パパ・クォータ制)、この制度に基づく男性の育児休業取得率は九○%に達している。パパ・クォータ制に基づく取得期間は現在五週間であるが、来年から六週間にする予定であり、今後四年間で十週間まで延ばしていきたい。育児休業は権利であり、一部の産業や職種においては代替要員の問題が出てくるが、それは雇用する側の問題である。一年間の育児休業を両親が分割して取得できるため、○歳児の九九%は公的施設や家族以外の保育を必要としてはいない。育児をする年代の男性が女性に比して一番労働時間が長いが、残業は労働環境法で厳しく規制されており、育児にかかわる労働者はこの法律で守られるべきものである。六時間労働制については新たな連立政権(本年十月に労働党、左派社会党、中央党の三党による新政権が発足している)の中でも異なった意見はあるが、既に一般企業でも六時間勤務を導入しているところもあり、交替制勤務により設備の稼働率を上げることで生産性が向上しているケースもみられる。同せいしている者に対しても結婚している者と同様の育児休業等の権利を認めており、児童手当の割増しなどシングルマザーに対してはむしろ手厚い政策を取っている等の意見が述べられた。また、今後の課題としては、被雇用者に比べて遅れている自営業者に対する育児休業の取得促進であり、特に女性の起業家への支援が求められるとしている。

(二)児童家族省

 家族・子ども政策、婚姻政策、平等法及びこれらの分野における国際協調関係の問題を担当しているアーニ・ホール局長から、ノルウェーにおける家族・子ども政策等について説明を聴取し、意見交換を行った。

 ホール局長からは、新政権においては特に男女共同参画の推進により、出生率を高めるという政策を取っていく予定であり、現在約八千人の父親が育児休暇の取得の権利が十分でないことから、すべての父親に育児休業権を与えることに重点を置いている。男女が能力を高め、仕事をし、かつ子どもを増やすためには保育園の問題が重要である。出生率の高さは男女平等の度合いと相関関係にあり、男女が平等で同じ価値で労働することが子どもを生むことの安心感につながる。そのことが、経済成長にもつながり、企業の競争力を高めることにもなる。国、雇用者及び労働者の三者によって負担されている国民保険制度により、最低年金、疾病手当も保障され、さらには子どものいる家庭の所得が保障されている。国民保険法に基づく各種手当は一般労働者は一〇〇%保障されるが、自営業者は六五%でしかなく、出産、育児に関する部分について一〇〇%の保障を目標としている。ノルウェーにおける出生率の一番高いグループは都会であるオスロに住み、高学歴で高所得の女性達である等の見解が示された。

 議員団からの質問に対し、キャッシュ・ベネフィットについては、新たに政権の座に就いた労働党や左派社会党は一九九七年の導入時に社会の流れに逆行するものであるとして反対していた。この制度は育児に対する親の選択の自由という観点からの制度であるが、一〇〇%の保育園の収容能力があるならまだしも、七○%の収容能力しかない下では、選択の自由ということにはならないからである。七千ある保育施設のうち約半数は民間の施設であるが、公的、民間を問わず国からの助成は公平であり、保育施設法に基づいて運用されている。最近は大企業が企業内保育施設を持つ傾向があり、これは優秀な人材確保のためである。保育施設運営費の八〇%は国及び地方からの助成であり、両親の負担は二○%を超えないという上限がある。現在の上限額は二千七百五十クローネであるが、二千二百五十クローネに引き下げる予定であり、その差額分は政府が負担することとしている。自営業者に対する一○○%の手当保障のためには、国の助成金、雇用者負担金及び自営業者の掛金も上げなければならないが、自営業者の手当引上げのために他の人の税金を引き上げるということはない等の見解が示された。

(三)子どもオンブッド

 ノルウェーでは一九八一年に世界で最初に子どもオンブッド法に基づいて子どもオンブッドが設置されており、クヌート・ホーネス副所長との面談を行った。

 ホーネス副所長からは、子どもは大人と同じ価値を持ち、社会が持つ重要な資産の一つであるとの認識の下に、オンブッドは子どもの福祉向上に努力している。オンブッドは公募の中から選ばれ、国王が任命し、閣議で決定される。任期は四年で、一期四年の延長が認められており、公募に際しては特別な資格要件は必要としない。行政上、オンブッドは児童家族省の管轄下にあるが、それは人事、予算に関してだけである。オンブッドは、教育専門家、心理学専門家、マスコミ勤務経験者、法律家など、できるだけ様々な分野からスタッフを集め、スタッフは国家公務員の資格を有する。現在十四名のスタッフがいるが、この十四名で約百万人の子どもをカバーしていることになる。オンブッドは電話、手紙、メールなどで照会を受けるが、子どもに関する問題があった場合、それに関連する文書類やすべての情報を入手し見る権利を持っているものの、起きた問題に関する決定権は持っていない。子どもや若者に関するすべての法律・規則の制定の前にはオンブッドに対して意見聴取が行われ、その際には、法令が子どもや若者に対してより良いものとなるよう提案を行う。子どもの権利条約に関する情報伝達を子どもや若者に行うことも重要な仕事である。より高い価値の生活と安全のためのネット作りということが高福祉社会の課題であるが、学校でのいじめやいじめに伴う自殺等、ネットのほころびが見えており、それらのほころびを受け止め、社会に伝え、メディアに紹介していくこともオンブッドの仕事である。オンブッドができないことは、家族内紛争の仲介、捜査中及び裁判中の事件へのコメントなどである等の見解が示された。

 議員団からの質問に対し、子どもに優しい社会ほど出生率は高く、子どもの福祉条件が良ければ出生率も伸びる、日本は子どもにもっと資金を投入すべきではないか。メディアを活用したり、オンブッド自らが地方を訪ねたり、セミナーを開催したりすることも重要な仕事であり、学校と協力してオンブッドの宣伝をすることもある。児童権利条約にある子どもの意見表明権の保障方法に関しては、例えば離婚に際して七歳以上の子どもはどちらの親と生活したいのかの意見を求められることになっており、また、学校では四学年以上に学級委員会があり、自分たちのことを決めることができる。さらに地方自治体の約半数は子どもの提案を議会で審議するシステムが採られている等の意見が述べられた。

(四)GEヘルスケア

 育児支援を積極的に進めている企業としてGEヘルスケアを訪問し、その取組状況についてヨー・ドール人事部長から説明を聴取するとともに、パパ・クォータ制に基づいて育児休業を取得した社員とも懇談を行った。

 GEヘルスケアは、レントゲン撮影のための造影剤を製造しており、我が国では第一製薬と取引関係のある会社であり、従業員千三百名で、オスロでは八百名が働いている。

 会社の方針として競争力のある会社であることを重視するとともに、女性の採用や他文化を企業内にできるだけ取り込むという企業内体質の多様化を図ることとしており、次年度の人事計画では女性のリーダーの比率を高めることを目標としている。従業員の男女比率はほぼ均等しており、中間管理職に限ってみると約四割が女性である。

 勤務時間は、午前九時から午後三時までをコアタイムとし、その前後は自由でどのように働くかは上司と交渉して決定する。

 ノルウェーでは、GEヘルスケアを始め、従業員が四百名から五百名の大企業は、育児休業取得に伴う八〇%相当の国民保険からの手当と給与の差額を補てんしており、従業員は一〇〇%の賃金保障を受けられる。病気の子どもの看護のための十日間の休暇や出産に際しての男性への二週間の休暇なども認められている。小さな子どもを抱える従業員の働き方を換算すると企業にとっては一・八五%の負担に相当する等の説明がなされた。

 議員団の質問に対し、育児休業に入った従業員の業務カバーのため、その期間代替要員を雇用する。育児休業取得により、優秀な従業員が一年間休むということは短期的には問題があるが、そのような考え方は誤りであって、企業としては長期的視点に立って雇用という問題を考えていくべきである。子育て期にある従業員の配置見直しを行うことはなく、育児休業から復帰した職員は、元の職位に戻って休業前の賃金をもらえるということが組合との合意事項になっている等の見解が示された。

(五)マリダルス・バイエン保育園

 ノルウェーのサーゲネ区の保育園を訪問し、この区の六つの保育園の園長を兼ねるカール・モルク園長の案内で施設を見学した。

 この保育園は自治体経営の保育園で、一九九六年に作られ、現在の子ども数は六十六人、うち一歳から三歳までは二十九人であり、〇歳児については市の規則によって入れないことになっているが、例外的に児童保護局の監視下にある子どもについては預かることができる。

 このサーゲネ区には約三万五千人の住民が住んでいるが、保育園数は二十で、他の区から移ることを希望している子どもは別として、同区で保育を必要としている子どもは一〇〇%入園している。開園時間は午前七時半から午後五時までで、土、日、祝日は休園している。

 職員は園長を除いて十五名であり、うち五名が幼児教育の資格持っており、この他に児童青年指導員の資格を持っている職員もいる。入園の負担金は親の所得によって異なるが、最高額は二千七百五十クローネであり、子どもが多い親には割引がある。

 保育園入園の基準としては、心身に障害を持つ子どもが最も優先され、次位は児童保護局の監視下にある子どもであり、最下位は他の区からの入園希望者であるが、全体の七五%は区内に住む普通の子どもである。

 この保育園は環境優良保育園の認定を受けており、園から出るゴミの選別回収を子ども達と行うとともに、生ゴミから堆肥を作り、菜園に運んで野菜を作っている。

 保育園では昼食時に一回食事を提供するが、午後の二時半には子ども達が家庭から持ってきたサンドイッチなどを食べるとのことであった。

三 フランス

(一)フランス家族問題全国連合

 一九四五年に設立され、家族政策に関してフランスの家族を代表する権限を持つ唯一の団体であり、ユベール・ブラン理事長及び関係者と懇談を行った。

 ブラン理事長からは、家族を代表して意見を述べる時に一つにまとまっているということは世界でも稀であり、全国連合があるからこそフランスの家族政策が進んできた。年一回開催することが法律で義務付けられている全国家族会議にも参加、同会議は首相及び関係閣僚のみならず、労働団体や経営者団体、地方公共団体の代表が集まって家族政策について議論を行う。各国の文化の違いはあるが、家族問題全国連合と全国家族会議という存在は、家族政策を考えるときに他国も活用できるのではないかとの意見が示された。

 専務理事からは、フランスにおける三歳までの子どもの保育政策についての説明がなされた。その中では、集団託児所に二十四万人、在宅サービスとしての認定保育ママに五十万人、育休等により家庭で保育されているのが五十万人であり、二、三歳の子どもは幼稚園に二十万人が入園しているが、保育サービスを全く利用してないのは百万人にも上る。また、三歳以上の子どもはほぼ一○○%が幼稚園に入園している。保育予算及び家族関係給付費はGDPの三%を占めているとのことであった。

 議員団からの質問に対し、〇歳児の約一○%に当たる八万人が集団託児所に預けられており、月約二千ユーロの費用がかかるが、親の負担は両親の収入の一二%である。フランス国内でも子どもの保育については様々な意見があるが、連合内ですべての意見を一つにまとめるのではなく、このような声があるということを家族問題担当大臣に上げている。集団託児所に対するニーズは高いが、現在の預け先に満足していない親も四割程度おり、その中には保育ママが不足していることから、利用しやすいようにその数を増やして欲しいとの声もある。そのため、集団託児所の拡充が保育ママのニーズ低下をもたらすとは考えにくい。家族手当の支給を第一子からとの希望もあるが、その代わり、乳幼児迎え入れ手当を導入し、託児所や保育ママなどの保育費用を補助している。家族手当を第一子から支給するとなると新たに五百万ユーロが必要となる。一九七五年から法律に基づき人工妊娠中絶は許可されており、年間十四万件の中絶がある。それ以前はヤミによる中絶が行われていたが、現在はそのようなことはない等の見解が示された。

(二)家族問題省庁間連絡会議

 家族問題担当大臣の下にある行政組織であり、首相の求めに応じて家族支援のための報告書の作成や全国家族会議の準備などを行っている。スタッフは十二名であり、連絡会議のジェラディーヌ・シカノ・ルゼ氏からは、フランスの出生率は一・九六とヨーロッパでも高いが、もっと子どもを産んでもらうために女性がいかにして仕事と家庭を両立させることができるかを考えている。初産の平均年齢は二九・三歳であり、事実婚による子どもは約半数を占めている。

 家族政策の柱は、保育政策と子どものいる家族に対する税の優遇である。保育施設は十分とはいえないが、数年前から特に企業への協力を促しており、企業内託児所や育児休業取得支援などの企業投資に対して、五十万ユーロを上限としてタックス・クレジットを設けている。また、二億三千万ユーロの国庫資金で乳幼児投資基金を設け、企業が企業内託児所を設けた場合には援助金が受けられることとした等の説明があった。

 議員団との懇談では、父親への産休は現在十一日であるが、取得権利のある父親の三分の二が取得している。育児休業は子どもが三歳になるまで両親のどちらかが三年間取得できるが、父親の取得率は二%に過ぎず、これは休業中の家族給付と休業前の給与の差が大きいためである。育休終了後の復職に当たっては休業前のあるいは休業前と同等のポストに戻れることになっているが、女性の場合、三年間も休業すると復職しにくいという状況にある。そのため、三年間の育児休業制度と併行して、家族給付を高くして、育児休業は一年間という新たな提案をしており、まずは第三子から適用する予定である。育児休業取得を男性に義務付ける制度はないが、子どもの数が少ないほど、また高学歴であるほど家事・育児への男性の参加の割合は高い。三十五時間法による時短により、三十五万人分の新たな雇用創出があり、また、夫婦が共に過ごす時間が長くなったものの、子どもの保育に関してはほとんど影響は及ぼさなかった。集団託児所に対する需要は強いが、託児所に預ける費用の税額控除が四分の一であるのに対し、認定保育ママに自宅に来てもらう場合は二分の一が控除される。育児休業は業種よりも学歴によって取得に違いが見られる。若い時期での出産を促すために、初産が遅れるほど母子の健康にリスクがあるという情報を医師や医療関係者に出してもらう等の見解が示された。

(三)クレディ・リヨネ銀行

 育児支援を積極的に進め、企業内託児所を持つ大手金融機関のクレディ・リヨネ銀行の企業中央委員会の関係者と懇談を行うとともに、託児所を視察した。

 フランスにおいては、従業員五十人以上の企業は企業側と労働組合の代表者からなる企業中央委員会を作らなければならず、この中央委員会が従業員の福利厚生及び文化活動について政策決定を行っている。同銀行では、企業からの予算は、まず中央委員会に出され、中央委員会がフランス全国にある九つの事業所委員会に社員数に応じて分けることとなっている。銀行独自の家族政策としては、六歳までの子どもを持つ従業員に一日当たり五・一五ユーロの補助金を出したり、障害児のための特別手当の支給や、子どもの保育施設や学校等への送り迎えができるよう、希望に応じたフレックスタイムの採用なども認めている。

 企業内託児所は本社職員を対象とし、建物や保育士等の人員の手当ては銀行から提供され、運営については企業中央委員会が行っている。受入人数の枠は七十人で認可を受けているが、現在は四十人から四十五人が入所しており、社員の託児費用は給与の額に応じて八十六ユーロから三百八十ユーロで、公立の託児所に比べて安くなっている。運営費は約一万五千ユーロであり、保育士は現在十名、小児科医が週二回来所している。

 なお、女性社員は出産で仕事を辞めることはほとんどなく、育児休業取得に伴う代替要員は派遣人員で確保しているとのことである。

(四)メゾンベルト(緑の家)

 児童心理学者のドルト氏が、子どもの精神的障害発生の予防と子ども及び親の社会化のために教育関係者との協議を踏まえて、一九七九年に設立したいわゆる保育関係施設であり、〇歳から三歳までの子ども及びその親等を対象としている。

 メゾンベルトの目的は二つあり、一つは、子ども自身が持つ様々な疑問に親や周囲が気付かないことが多いが、精神的に問題のある子どもが六、七歳に成長すると症状が固定化してしまうことから、精神的障害が大きくなる前に子どもに誠意を持って対応する場が必要であること、二つ目は、三歳までの子どもは幼稚園や託児所に行くようになるまで自分の母親以外の世界を知らないことが多く、そのために母親と別れることが苦しくなり、幼稚園や保育所で知識を学ぶことができなくなる。それを放置しておくと九、十歳ぐらいには完全に落ちこぼれることになり、そうなる前に社会生活を学ぶ場が必要であることである。社会化の必要性については、育児の孤立化に陥りやすい親も同様であり、ここでは子どもと親が一緒に来て、子どもがいる間は親も一緒にいることが必要である。

 現在、フランスには名前は様々であるが、メゾンベルトのような施設が百か所ぐらいあり、各市町村及び家族給付金庫との間で乳幼児アシスタント契約を結び、この二つを通じて国からの財政的援助がメゾンベルトに行われている。

 施設の開園時間は平日は午後二時から七時まで、土曜日は午後三時から六時半までであり、専属スタッフはいないが、十五人が週一回ずつ、三名が常駐している。スタッフは心理カウンセラー、臨床心理士、精神分析医、医者などである。

 メゾンベルトに来る親子については匿名性を重視し、子どものファーストネームを記入するだけである。スタッフは、親や子に対して教育的、医学的見地からのアドバイスは一切行わず、社会慣習からみておかしいと思っても働きかけはしないとのことである。

四 ドイツ

(一)バイエルン州労働社会省

 ドイツ及びバイエルン州の家族政策について、ダニエーラ・ルーディン氏と意見交換を行った。

 ドイツでは、子どもを産むか産まないかは個人が決定する問題であり、政策的に何かをするということはこれまで余り考えられてこなかった。今日では少子化というものを国民が真剣に受け止めるようになってきており、これはバイエルン州でも同様で、結婚して子供をつくることに何が必要かということを考えている。その一つは経済的支援であり、二つ目は保育事業の拡大であり、三つ目は両親に対する子育てのための教育であり、さらには地域家族連合のプロジェクトである。

 経済的支援については、連邦政府が二歳までしか支給していない育児手当を、州独自で三歳まで更に一年間支給している。ただこの政策も新政権の政策次第で変わる可能性がある。

 新政権は、二○○七年に父母手当を導入する予定であり、子育てのために父親あるいは母親が休業する場合に一年間に限り、従前の所得の約七○%を父母手当として支給するもので、これは大卒の女性を優遇した政策であり、所得の上限は設けないことになると思われる。州としても連邦の支給期間一年を二年間とするのか、支給額を少なくして多子世帯に支給するのかを検討中である。

 幼稚園などの保育事業の拡大については、州も力を入れているが、基本的には子どもは家庭で育てるべきとの保守的な考えであった。そのために経済的支援に比べ保育事業の拡大が遅れた。しかし、学力の国際比較などから、幼児教育の重要性がテーマになっており、小学校入学時の六、七歳から勉強を始めるより五歳からという意見もある。そのために新たな教育プランの作成が求められている。

 東西ドイツ統一に伴う家族政策への変化であるが、旧東ドイツでは子どもを産み仕事をすることが当たり前で、そのために優れた保育施設のネットワークが出来上がっているのに対し、旧西ドイツは子どもは家庭で育てることが当たり前になっていたため、保育施設のインフラ作りが遅れ、旧東ドイツほど整備はされていない。しかし、ヨーロッパ自体がグローバル化されてきて、地域の特殊性が薄れてきており、ドイツにおいても人々の考え方に差はなくなりつつある。特に新しい首相は旧東ドイツ出身であり、これも家族政策を考える上でのシグナルとなると考えられる。

 この他、子育てのための三年間の育児休暇取得が認められているが、男性の取得率は二%に過ぎない。男性の育児参加を促すため、父親が二か月間育児休業を取得すれば父母手当を十二か月支給するが、取得しなかった場合には十か月しか支給しないこととする。児童手当と所得控除の関係については、所得税の査定に当たり、所得控除の方が児童手当よりも有利である場合には児童控除等が課税対象となる所得より控除されるとともに、児童手当が精算される。ドイツの婚外子の割合の統計はないが、子どもの二○%程度が片親の下で生活していると推測されている等の見解が示された。

 なお、遅れていた家族政策への積極的な取組により、統計上は男女の結婚年齢は若くなってきており、出産年齢も低くなり、子どもの数も増加していることから、連邦レベルにおいても州レベルにおいても希望が見えてきていることが付言された。

(二)赤ちゃんポスト(ベビーネスト)

 自分の赤ちゃんを何らかの理由で育てられない場合に施設に設置されたベッドや箱に託す赤ちゃんポスト視察のため、ミュンヘン・シュヴァービング病院を訪問、エバ・マリア・グリシュケ医師及び関係者から説明を聴取、同病院に設置されているベビーネストを見学した。

 全国的に新生児が捨てられ死んでいく事件が起きており、ミュンヘンでも四十人近い新生児が犠牲になっていることから、新生児をいかに助けるかが大きな課題となっていた。そのため、ミュンヘン市議会からその解決策を求められ、関係行政機関と連携の下、「ベビーネスト(ベビークラッペとも呼ぶ)」の設置と「匿名出産」の二つのプロジェクトを考え出した。

 ベビーネストは二○○二年二月に立ち上げたが、中世の時代から捨て子を預かるシステムがあったことから法律的には問題はなく、匿名でこの病院に預けるものの、後から刑事訴追されることはない。赤ちゃんを置けるベッドには、置かれた赤ちゃんが今後どうなるのかについて記載したペーパーが置かれている。ベビーネストに子どもが預けられるということは、しっかりとした設備のないところで母子とも高いリスクの出産が行われるということであり、そのような事態を避けるために匿名出産というプロジェクトを作った。

 匿名出産はドイツでは違法とされているが、出生届出官庁との合意を得て、その認可を受けた。匿名出産の目的は、堕胎の件数を減らすこと、設備の整った医療環境の下で出産すること、どのような女性が匿名出産をしなければならないのかを知ることの三つである。

 匿名出産に際して、病院としては血液型など医療的に必要なデータ以外は何も取らない。匿名出産された赤ちゃんは里親のところに八週間預けられ、その間に出産した女性は考える時間を与えられる。その場合、病院側も出産女性が抱えている社会的問題の解決に向けての努力をする等の説明があった。

 議員団からの質問に対し、プロジェクトを立ち上げて以来、ベビーネストに預けられた赤ちゃんはいないが、匿名出産は八名おり、この他匿名出産を希望していたものの、指導・相談によって通常の出産をした女性が五名程度いる。ここで匿名出産が認められていることがベビーネストの利用件数ゼロにつながっていると考えており、ベビーネストに赤ちゃんが置かれるより、匿名出産により、整った環境の下でリスクの少ない出産ができることの方が喜ばしいと考えている。匿名出産の費用は病院側が全額負担する。人工妊娠中絶をする場合には必ず妊娠相談所に行く義務があるが、この病院で匿名出産する場合は直接相談に乗る。妊娠相談所の運営は、教会やプロファミリアなど様々であるが、十五歳から二十五歳までの女性は相談しても中絶を思いとどまることは少ないが、二十五歳以上の女性については思いとどまるケースがよく見られる。匿名出産するのは若い女性であるが、ベビーネストや匿名出産があるから人工妊娠中絶件数が減少したということは言えない。統計上、十五歳から二十五歳までの若い女性の中絶件数は増えており、性教育や妊娠に対する教えが行き届いていないことから学校を通じて情報提供に努力している。小学校五年生から性教育を始めるが、その内容は学年に応じて先生と説明者とで話合いをしており、親に対しても正しい情報を提供している。それによって親から抗議があったことはない。プロジェクト検討の要請があった市議会側に対してもレポートを提出、提案も行っており、別の解決方策が見つかればプロジェクトはストップさせるつもりである。医師の立場からは、将来への希望が持てるような経済・雇用状況が少子化対策にもつながると考えている等の見解が示された。

(三)家族のための地域連合イニシアティブ

 地域で家族に優しい社会づくりを行うために連邦家族省が呼び掛け、立ち上げたものであり、二○○四年のスタート以来全国で二百十四の地域連合が作られている。議員団はバイエルン州キルヒゼーオン市で、ウド・オッケル市長を始め担当者から説明を聴取するとともに、地域連合作りに参加している人々とも懇談を行った。

 キルヒゼーオン市は人口九千二百五十人、世帯数約三千五百、子どもは約千九百人で、同市の地域連合は「家族教育のためのネットワーク」と呼ばれ、二○○五年一月に立ち上げられている。

 具体的達成目標としては、核家族化の進展や、片親家庭の増大などの家族構成の多様化、子育て女性の就業に伴う子どもの第三者への保育などが進む中で、学校、保育施設などについての市民のニーズにあった情報の提供やアクセスの容易化などである。参加者は、市長、市議会議員、市の青少年担当職員、社会アジェンダ二十一作業グループ、公的親子グループなど様々であるが、親をイニシアティブに参加させることが重要で、親がどのようなニーズを持っているのかを把握することができるからである。

 ニーズ把握に努めた結果、三歳以下の子どもの保育施設が不足しており、来年九月に新たな保育施設を作ることととしている。また、保育預かり時間を長くして欲しいとの要望も出されている。

 議員団の質問に対し、女性の教育水準の高まりにより経済的にも働く女性が増加し、母親が家庭で子どもを育てるという状況に変化が見られる。地域連合独自での相談窓口は持っていないが、常に住民とのコンタクトを持つことに努めている。産むことを迷っている人には妊娠相談所があり、経済的支援のための財団もバイエルン州にある。胎児の生命を守ることは重要で、出産後も長期にわたって相談を行っている。家族連合は今後も全国で増えていくと思われ、活動内容を始めとしてそれぞれの家族連合の情報が連邦レベルで登録されている。キルヒゼーオン市のネットワークにおいて、企業が子育てのための具体的活動は行ってはいないが、他の家族連合において例はみられる等の見解が示された。

 以上が海外における調査の概要であるが、最後に、今回の調査に当たり、多大な御協力をいただいた在外公館及び訪問先の関係者各位に対し、衷心より厚くお礼を申し上げ、報告を終わる。