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国際関係

重要事項調査

○重要事項調査議員団(第一班)報告書

       団長 参議院議員   西田  吉宏
           同         市川  一朗
           同         南野 知惠子
           同         直嶋  正行
           同         前田  武志
           同         澤   雄二
       同行 
           第一特別調査室長 三田  廣行
           参議院参事      政木  広行

 本議員団は、チェコ共和国及びベルギー王国における欧州連合(EU)の統合と拡大等に関する実情調査並びに両国の政治経済事情等視察のため、平成十七年十二月十日から十六日までの七日間、チェコ共和国、ベルギー王国の二か国を訪問した。

 訪問先の日程、説明聴取及び意見交換を行った関係者は以下のとおりである。

 十二月十日  東京発 プラハ着(三泊)
 十二月十三日 プラハ発 ブリュッセル着(二泊)
 十二月十五日 ブリュッセル発 
 十二月十六日 東京着(機中泊)

プラハ及びコリーンにおいて(チェコ共和国)
 ヤロスラブ・バシュタ外務省第一外務次官
 ヨゼフ・レーブル投資開発庁長官特別顧問
 エドウアルダ・ヘクショヴァ財務省総局長
 ミレナ・ヴィシェノヴァ農業省食品安全・環境技術担当局長
 高江 暁トヨタ・プジョー・シトロエン自動車会社(TPCA)社長
 小出 健太トヨタ・プジョー・シトロエン自動車会社(TPCA)上級総務部長
 生駒 仁志チェコ・トヨタ販売会社社長
 佐々木 弘孝三井物産チェコ事務所総務部長
 飛矢崎 峰夫日本貿易振興機構(JETRO)プラハ事務所長

ブリュッセルにおいて(ベルギー王国)
 ディディエ・ドンフュ外務省欧州担当国務長官
 ヤン・シュミット欧州委員会経済・財務総局E局長
 カレル・コヴァンダ欧州委員会対外関係総局次長
 ヨースト・クールマン欧州委員会経済・財務総局加盟国・ユーロ圏経済財政政策担当課長

 本派遣議員団の具体的調査テーマは、欧州連合(以下、EU)の統合と拡大等に関する実情調査並びにチェコ共和国及びベルギー王国の政治経済事情等の調査であることから出発に先立ち、外務省担当者からEUの現状等及び訪問国の政治経済事情について概況説明を聴取し、訪問国においては、欧州委員会高官、両国政府高官及び現地日系企業関係者等から現況聴取と意見交換、在外公館からの説明聴取、日系企業施設の視察、資料の収集等を行った。

 調査の概要は次のとおりである。

一 はじめに

 我が国は、米国、EUに次ぐ極となり得る東アジアを念頭に共同体構築へ向けた検討、議論を重ねてきている。このような観点から、二度の世界大戦を通じて欧州の国同士が戦い、対立している状況に終止符を打つべく、共同体の創設を目指し、約半世紀をかけて現在のEUを作り上げてきた経験と様々な課題や変化を調査することは、東アジア共同体構築の議論の一助となりうるものである。さらに、我が国の東アジアにおける外交を展開していく上での比較や参考となり得ると考える。

 このような観点から、EUの執行機関である欧州委員会本部並びにEU原加盟国であるベルギー王国及びEU新規加盟国で著しい発展を遂げているチェコ共和国を訪問したものである。

二 EU

(一)EUの統合・拡大の経緯

 EUは、欧州二十五か国が加盟する超国家領域を有する国家連合体、政治経済統合体であり、加盟国間で締結された基本条約に基づき設立・形成されている。

 EUは、一九五一年にフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの六か国が欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を創設したことから始まり、五八年には欧州原子力共同体(EAEC)と同時に発足した欧州経済共同体(EEC)により自由貿易地域が形成され、六八年に関税同盟が完成した。六五年の欧州共同体(EC)を経て、九二年末までに人、モノ、サービス、資本の自由な移動を実現する市場統合が進められ、九三年には十五か国によるEUが誕生した。九九年には統一通貨「ユーロ」が導入され、二○○二年には「ユーロ」の流通も始まった。

 また、九○年代に入ると、外交・安全保障政策における各国政府間の協力が強化され、司法・内務分野における各国政府間協力も進められている。

 EUは、昨年十か国の新規加盟を行い、これまで五回の拡大を経て、当初の六か国から二十五か国となった。○七年ないし○八年にはルーマニア、ブルガリアが加盟する予定であり、二十七か国の連合体となる。

(二)シュミット欧州委員会経済・財務総局E局長との面談

 EU政策のバックボーンとなっているリスボン戦略を担当するシュミット局長と面談したが、同局長から次のような説明があった。

 リスボン戦略は、ユーロ圏の経済成長が三・五%という一九九九年頃の比較的余裕のあったときの指針である。五○年代の欧州は、経済的に米国を追い掛ける努力をしたが、七○年代半ばから停滞したので、その原因の分析を始めた。その後、二○○○年に二○一○年までを見据えたリスボン戦略を決めたが、最初の五年間は同戦略の進捗が見られなかった。雇用は進捗したが、生産性の面では下降していた。しかし、全体で見ると向上している面もある。特筆できることは、雇用面で五年間に六百万人の雇用を実現し、高齢者雇用、すなわち五十五歳以上の雇用率が四%伸びており、ビジネス分野の雇用で見ると米国を上回っていることである。また、ネットワーク産業、すなわち、ガス、電気、水道等の公益事業における生産性の推移を見ると、一九七九年から二○○一年の間、二・七~五・七%の生産性の伸びを示しており、米国の○・一~一・八%を上回っている。

 ○四年に同戦略が進捗しなかった原因の見直しを行ったが、要は指針どおり実行されていなかったことが判明した。この理由は、目標を多く掲げ過ぎたことであり、結果として加盟国が何をすべきかわからなかったからである。新リスボン戦略は、目標を絞り込み、四つのプライオリティーをガイドライン化してある。このガイドラインのキーワードは経済成長と雇用創出であり、四つのプライオリティーとは、マクロ経済の安定、知的投資の実行、研究・技術革新の実行、雇用の創出である。このガイドラインにより、加盟国は経済改革及び構造改革を行い、労働市場においては若年労働者の雇用増加を目指し、製品市場において各種規制の改革による市場の競争力を高めていくよう努めることになる。

 人口動態と労働人口の点については、EU圏の総人口はこれから減っていく傾向にあり、労働人口も高齢化していき、その結果、五○年には就業者全体の六十五歳以上の就業者割合は、現在の二倍に当たると予測される。年金の問題を考慮すると、高齢者と女性の雇用率は高まると考えられ、就業率は、現在の六四%から二○年には七○%以上になると予測される。また、長期の経済成長は、二%から一%に下がると考えられる。これらの予測の基礎になっているのは、既存の現状を見て分析している。

 旧加盟国(EU一五)と新規加盟国(EU一○)との比較において成長過程の推移を見ると違いがある。新規加盟国は、旧加盟国に追いつくよう努力しているため、成長しているが、長期的に見れば先細りになっていくと予測される。生活水準を我々世代から次世代以降まで維持するには、改革が必要である。新リスボン戦略における改革プログラムの主たる要素は、加盟国が研究開発と技術革新を推進するとともに生産性を高めていくこと、労働力の供給と雇用創出をすること、政府財政を持続可能なものにしていくこと、規制の改善を図ることである。例えば、二つの例を挙げるとすると、労働力を長く市場に置いておくために退職年齢を引き上げること及び各種規制の負担軽減を行うことを求めている。加盟国としては、改革プログラムの策定・承認をし、社会的パートナーと協議を行い、加盟国の議会も関与してもらうようにしている。

 シュミット局長と派遣議員との間で主として、次のような質疑応答があった。

 (1)EUは、統合、拡大、深化を遂げる一方、欧州憲法条約の批准延期、中期財政予算をめぐる課題、拡大への疑問などの問題が惹起されているが、このような状況をどう解決していくのか、また、新リスボン戦略は、どこに重点を置いたのか。(2)社会的格差のある新規加盟国が入り、厳しい状況になると思ったが、そのようになっていないのはなぜか。(3)新規加盟国の労働力の移動が旧加盟国の労働力を閉め出すという懸念があるが、どうか。(4)規制緩和等で雇用増加を図ろうとしている政策は、レーガン戦略と似ているが、米国のような方向性を示していこうとしているのかどうか、についてただされた。

 これに対し、(1)憲法条約をフランスとオランダが否定したのは、経済成長が足りなかったためと言われており、新リスボン戦略を実行して経済成長の課題を克服して良い結果を出したい。中期財政予算は、今月一五日から始まる首脳会議で前向きの結論を出していきたい。新リスボン戦略は、経済成長と雇用創出に焦点を当てている。(2)新規加盟によって域内市場が拡大した。新規加盟国のほとんどが共産主義体制から資本主義体制になった結果、ダイナミックな改革、動きがあり、旧加盟国より高い成長率を示した。しかし、EU経済全体で見ると新規加盟国のウェィトは高くない。(3)旧加盟国に懸念があったため、経過措置を取っており、新規加盟国の労働力の移動は完全になっていない。しかし、過去の拡大でも大幅な労働力移動は起こらなかったし、イギリスなどの開放市場でも大した影響は出ていない。また、今回、ポーランドの配管工に代表されるような労働力の移動でもフランスに貢献している事実もある。(4)確かに米国の政策を採用しているように見えるが、正確には異なっている。例えば、日本のシステムを採用してもEUは自分のスタイルに合わせたシステムにしていく。規制緩和実施、開放市場推進、福祉改革の実行などは、米国モデルとは異なっているとはっきり言える、との答弁があった。

(三)コヴァンダ欧州委員会対外関係総局次長及びクールマン欧州委員会経済・財務総局加盟国・ユーロ圏経済財政政策担当課長との面談

 まず、コヴァンダ次長から次のような説明があった。

 EUの拡大等について、欧州委員会の公式見解でなく、チェコ出身の個人的意見という前提で話したい。一九四七年に米国は、戦後の欧州復興援助に関するマーシャル計画を適用することを始めた。チェコスロバキアを始めとする中東欧諸国は、旧ソ連の介入により同計画が適用されなかった。同計画が適用されていたら、例えばチェコスロバキアは欧州の中心となっていたし、EUに当初から加盟していただろう。

 これらの諸国は、民主革命を経てEU加盟申請を行ったが、加盟条件を課せられ、これをクリアするのに十年もかかってしまった。加盟後も加盟プロセスが完了しているわけではない。各種法制の整備、経済関係や社会環境の条件整備をしなくてはならないし、加盟後の国民への影響について検証しなければならないが、個人的に見ても、また、国民の立場で見てもEU加盟は、良い結果をもたらしている。これに関して二つの例を挙げたい。一つは、従前、ある商品を買うときにどの製品の品質が良いかわからなかったが、今はEU基準で統一してあるので迷わなくなった。このことは、国民から見ていいことである。もう一つは、空港から入国する際の手続が簡単になったことである。五十年近く共産圏にいたときに国を出ることすら許されなかった者にとっては画期的なことである。

 しかし、EU加盟の総合プロセスは、新規加盟国の人々が旧加盟国へ移り住んで働くことができないという点で、完了していないと言える。大きな観点でみると、加盟後、経済的に目覚ましい成長を遂げており、新規加盟国は、旧加盟国とEU域内で経済競争を行っている。

 統合拡大後、EUは、政治的側面で欧州の東において起きている動きに関心を移してきている。例えば、EUはウクライナの革命に大きな役割を果たしている。

 次に、クールマン課長からEU経済全般について次のような説明があった。

 EU経済は、弾みがついてきており、現在の予測では一・三%の成長が見込まれる。来年以降も期待できる成長になると考えられる。好調の要因は、主に投資によるものである。消費支出は弱含みであるが、投資が伸びてくる、あるいは輸出が増加してくると消費支出は大きくなってくると思われる。

 短期見通しにおいては、内需は伸びていくが、全体として総合的に見ると伸びていかない。しかし、企業利益も増加しており、為替レートも良好で堅調に推移していくと考えられる。消費、投資、輸出における予測リスクは、上昇と下降のリスクがあるが、域内ではバランスが取れており、域外では下降気味である。インフレ率とインフレ予測を見ると高くなっていない。これは、二度目のオイル価格上昇の影響がまだ出てきていないからである。全体で見ると良い方向になっているが、将来的には消費者がコストを負担するようになる。この観点から、欧州中央銀行が金利を上げる措置を取り、リスクをあらかじめ阻止しようとしたことは正しいと考える。

 一方、財政的に見ると赤字が減少していないし、大した進捗も見られない。成長と安定に関する協定の機能が作用し、財政面での改善を期待したい。中長期的に見るとグローバルな不均衡が見られるが、これは過去数十年の積み重ねの結果であり、修正が必要で、今後、秩序だった整理を期待したい。

 米国と比べ、EUの成長は遅れている。EUにとって重要なことは、新リスボン戦略を推進していく、つまり、生産性を高め、雇用創出に重点を置くということである。EU各国の成長の格差を見ても成長が進んでいる国もあれば、逆の国もある。例えば、イタリアが競争力を失っており、ポルトガルも同様、競争力を失い、インフレ率も上がっている。

 コヴァンダ次長、クールマン課長と派遣議員との間で主として、次のような質疑応答があった。

 (1)ポルトガルが競争力を失った話があったが、どうしてそのようになったのか。(2)ポルトガルもスペインも経済活動が活発化して賃金が上昇したのではないか、また、新規加盟国に投資が集中した結果、両国が競争力を失ったのではないか。(3)東方の国もEUの恩恵を受けようと考え、加盟したいと思うのは当然だが、コヴァンダ次長の意見を聞きたい。同時に、EUはどこまで拡大するのか、バルカン諸国やウクライナ、ロシアまで入ってくるのか、についてただされた。

 これに対し、(1)スペインもそうであるが、背景には生産性の伸びを無視した賃金設定があったと言われている。さらに、市場を無視した価格設定もあったと考えられる。イタリアも同様であり、その意味で新リスボン戦略の推進の意義があると思う。(2)投資が新規加盟国に集中したことも主たる要因であるが、他方、グローバル化してきており、ポルトガルやスペインは付加価値の高いものがなく、昔のように通貨を切り下げるという方法もできない。ユーロ圏で抜きん出るには非常に困難になってきていると言える。(3)ルーマニア、ブルガリアは二○○七~八年に加盟する。加盟候補国は、クロアチア、トルコである。候補国は加盟前にやらなければならない仕事が多くあるので大変である。どこまで拡大するかの予測は困難であるが、期間を限って見ると、二~三年後はルーマニア、ブルガリア、五~六年後はクロアチア、十~十五年後はトルコとなる。トルコ加盟交渉のかぎは、トルコに何が起きるかということもあるが、EUの吸収能力にある。例えば、ハンガリーなども労働者が旧加盟国に自由に働きに行けない。十~十五年後のトルコ人口は八千万人~一億人になっているだろう。その時にトルコがEU加盟基準を満たしていても、EUがトルコを吸収できるのか分からないし、難しい問題である。ウクライナは、トルコが入っているなら当然加盟しているだろう。ロシアはあり得ない、との答弁があった。

三 ベルギー王国及びチェコ共和国

(一)概況

 EUの原加盟国であるベルギーは、国土面積三万五百二十八平方キロメートル(日本の約十二分の一)で千四十五万人の人口を有する。西欧の中心に位置しており、外交的に欧州統合の推進と北大西洋条約機構(NATO)を通ずる安全保障の確保を最重点事項としてきた。首都ブリュッセルがEU本部とNATO本部を擁しているのはこの意味で象徴的である。この点からも分かるように、ベルギーは伝統的に欧州統合推進派であり、加盟各国との協調を外交の柱に位置付けていると言える。経済的には機械、化学、自動車、IT、バイオテクノロジー等の産業を中心に外国資本を積極的に誘致する政策を打ち出しており、日本から二百十七社を数える日系企業が進出している。

 一方、チェコは、国土面積七万八千八百六十六平方キロメートル(日本の約五分の一)で千二十四万人の人口を有する。第一次世界大戦後の一九一八年にチェコスロバキアとして独立し、世界有数の工業国となった。第二次世界大戦後の四八年に共産政権が成立し、八九年の「ビロード革命」を経て、議会制民主主義、市場経済、欧州回帰への移行を開始した。九三年にはスロバキアとの連邦国家を解消し、チェコ共和国となった。外交的にはEU及びNATO加盟を主目標としてきており、九九年にNATO、二○○四年にEUの加盟を果たした。経済的には主要産業が機械工業、化学工業、観光業であり、○四年の経済成長率は四・四%と好調である。外国からの投資の拡大を目指しており、日本からの進出日系企業数は百五十八社に上っている。

(二)ベルギー王国外務省ドンフュ欧州担当国務長官との面談

 ドンフュ国務長官からベルギーの役割を含め、EU関係について次のような説明があった。

 一九五○年代にEUを創設しようとする動きがあった。当時の一義的目的は、欧州各国の平和と安定と自由である。当初のこのアプローチは今でも生きている。昨年の十か国の加盟により、統合は進んできていると言える。国民にとって平和と安定は重要であり、その意味でEU周辺国とも安定と友好の関係を維持している。

 EUは、域内人口が四億五千万人と大きくなってきており、これらの人々の歴史、文化、言語、宗教等は異なっているが、うまく融合していると言える。世界には様々な経済圏、文化圏があり、また、対立やテロ等の問題も出ているが、民主国家を標榜するEUの融合は、良いモデルになるのではないか。

 現在、EUは、二○○七~八年にルーマニア、ブルガリアが加盟することになっており、トルコ、クロアチアも加盟交渉中である。今月半ばに開催される欧州理事会ではマケドニアも加盟候補国になると思われる。次期議長国のオーストリアは、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア・モンテネグロなどのバルカン諸国をも念頭に入れて構築していきたいと考えているだろう。

 EUは、数年経つと拡大し、経済圏も大きくなる。そのため、域内の経済市場において企業により良い環境となるような政策を実施している。また、欧州理事会でも議論しているが、域内市場を近代的なものにしていくと同時に、国民の購買力を高めていくことが重要である。申し述べた方向性のモチベーションは高いし、うまく進んでいくと思うが、難しい問題もはらんでいる。象徴的なものに欧州憲法条約がある。この条約をすべての加盟国が批准しなくてはならないが、重要国であるフランス、オランダが否決した。現在、十三か国が批准しているが、批准の期間は○六年末までで協議は進行中であるが、おそらく批准期間は延期になるだろう。否決された理由を議論していくが、各国の国民に憲法条約の情報が周知しなかったと考え、理解してもらうようにしていきたい。

 原加盟国のベルギーとしては、EUのアプローチに対し、はっきりした動機付けを持って推進していきたいが、拡大すべきでないという国々はEU内に別個の協議体を作ろうとするかもしれない。EU内での協力を更に進めていこうとすると、EUは何を目指していくべきか、欧州とは何かということを議論していくべきと思っている。

 ドンフュ国務長官と派遣議員との間で主として、次のような質疑応答があった。

 (1)EUの拡大、深化に懸念を示す国や国民が出てきていると思うが、この懸念をどう払拭していくのか、また、ベルギーは世界貿易で貢献しているが、EU内でどのような地位を示していこうとするのか。(2)共同体の考え方の原点には地域的、体制的、理論的限界があると思うが、例えば、ロシアは加盟対象になるかどうかの意見を聞きたい。(3)EU二五になり、富める国が新規加盟国に配慮していく姿勢が見られる。しかし、富める国々の国民は、EU統合にどこまでメリットがあるのか、否定的な面も持ってくると思う。ベルギーの配慮の姿勢ははっきりしているが、大国とのギャップを乗り越えていくのは難しいと思う。大国への働きかけを含め、ベルギーの考え方を聞きたい、などがただされた。

 これに対し、(1)EUへのアプローチは、ベネルックス三国から始まったが、欧州では小国だからこそ統合が必要と考えた。懸念を払拭するためのベルギーの役割は、欧州であるという考え方のアプローチしかないと考える。大国のイギリスやフランス、ドイツは、各国別のアプローチを取った方がいいと考えているが、間違っている。ベルギーとしては、欧州的アプローチを取っていく方針である。また、貿易面でのベルギーのアプローチを言えば、経済市場としての域内を重要と考える。WTOも重要だが、グローバルなパートナーに対してベルギー独特の優遇措置を訴えていきたい。(2)EU拡大で問題を抱えているが、戦略的限界もあるし、また、地理的限界もある。統合上、問題のない国がある。例えば、バルカン諸国やスイスである。しかし、アジアとヨーロッパの間にあるトルコは問題があるが、加盟についてはトルコ側からアプローチしてきたものであり、決定権はEUにある。このように他国のアプローチに対しては別個に協議していく。ロシアは、EUとの関係強化を望んでいるものの入ろうと思っていないだろう。EUもロシアと政治的安定を構築する必要があると考える。(3)この質問に関しては中期予算問題がある。予算編成で主権をどうするか、予算額を増加したい国もあれば減額したい国もある。ベルギーとしてはEU内の連帯を維持していきたい。農業予算や格差是正結束基金、地域開発資金を重視していきたいし、技術革新の面も維持したい。域内の経済強化をしていく上でイギリスも恩恵を被っているし、拡大がいい結果を生んでいる。つまり、EUの経済発展は、大国の国々にも利益を生んでいるのであり、大国も小国も平等であるということを忘れてはならないと考えている、との答弁があった。

(三)チェコ共和国外務省バシュタ第一外務次官との面談

 バシュタ第一外務次官から次のようなあいさつがあった。

 政府レベルでなく、このような議会レベルの外交が行われていることを歓迎する。正式な外交では話せないテーマや事項も議会外交では協議できるからである。また、チェコに対する投資で二番目に多い日本は重要であり、両国関係の結び付きを深めていきたいと思っている。

 バシュタ第一外務次官と派遣議員との間で主として、次のような質疑応答があった。

 (1)EU加盟後のチェコ外交政策等の変化、影響について聞きたい。(2)EUの中期財政予算編成が難航しているが、この点についてのチェコの考え方を聞きたい。(3)WTOで農業分野が問題になっているが、チェコの立場はどうか聞きたい、などがただされた。

 これに対し、(1)EU加盟による最大の影響は、経済関係に表れており、チェコ経済の成長率は約五%と堅調である。その結果、経済外交が非常に強化された。また、加盟のパラドックスとして、チェコは域内の経済関係だけではなく、東側との経済関係、具体的にはウクライナ、ロシア、アジア諸国との関係を重視していくことになった。つまり、経済の安全性、安定性を考えると、チェコ貿易の幅を拡げ、EU内だけでなく、東側に目を向けるようになったと言える。さらに、経済分野をバックアップするため、輸出促進策を導入し、外務省は、各在外公館に輸出サポートを行うよう訓令を出している。(2)チェコの基本的考えは、新規加盟国に対する予算カットには反対である。しかし、チェコは、新規加盟国では豊かさで上位に位置し、旧加盟国のポルトガル、ギリシャに匹敵しており、貧困国ではないので、このことを重要なキーとして考えていない。(3)WTOに対する考え方は肯定的に考えたい。農業政策に対する考えは、イギリスに近い。チェコ農業は転換時期を終え、中東欧地域では効率が良く、農業補助金なしでも成功している。また、農業人口は少なく、補助金の影響は小さいと言える。補助金は科学技術や教育等に向けた方がいいのではないかと思っている、との答弁があった。

(四)チェコ共和国レーブル投資開発庁長官特別顧問、ヘクショヴァ財務省総局長、ヴィシェノヴァ農業省食品安全・環境技術担当局長との面談

 レーブル、ヘクショヴァ及びヴィシェノヴァ三氏と派遣議員団との間で主として、次のような質疑応答があった。

 (1)投資開発庁の外国投資、特に日本の投資に対する方針を聞きたい。(2)○六年のチェコ予算のポイントを聞きたい、(3)EU加盟後のチェコ農業の変化や課題を伺いたい。(4)チェコの失業率、特に若年者の失業率が高いと聞くが、雇用創出について聞きたい。(5)農業経営形態での株式会社方式があるが、業績が悪くなって土地を手放すことはないのか、その評価はどうか。(6)WTO会合の構造は、農業問題で途上国と先進国の対立となっているが、チェコの考えはどうか。(7)チェコは年金の問題が深刻と聞くが、子供の多い世帯を優遇しているかどうかを聞きたい、などが質された。

 これに対し、(1)一九九三年に経済政策をスタートさせ、これまでに約五百億米ドルの直接投資があったが、多くの投資が民営化等に振り向けられた。チェコに投資している国の一番はドイツ、二番は日本となっているが、進出日系企業は約百六十社で中東欧諸国では密度的に一番高い。日系企業の評価は、チェコは安価で優秀な労働力を有しているので満足しているとも聞く。今後、テクノロジーセンターや開発・研究の分野への日本の直接投資を期待したい。(2)チェコ予算は、二○○三年以降、マーストリヒト基準を満たすべく税制改革、歳出削減、社会保障制度改革を行ってきた。チェコ経済は、インフレ率二・四%、経済成長率四・九%で比較的良好である。来年度予算は、歳入八千八百四十四億コルナ(うち、五百七十億コルナがEU予算からの歳入)、歳出九千五百八十八億コルナで七百四十四億コルナの赤字を見込んでいる。プライオリティーを研究・開発、教育に置き、雇用、年金にも充当していく予定である。(3)チェコは基本的に工業国であり、農業国ではない。一九九○年からの改革により国営形態から法人所有(比率七五%)、個人所有(比率二五%)へ変わり、同時に農業人口が大幅に減少し、現在は十四万八千人(人口比一・五%未満)である。これは、九○年の農業人口比で二六%という少なさであるが、自給率は一○○%で生産性は上昇した。EU加盟には比較的長い時間をかけて準備できたし、収入も九○%増加し、全般的に良い影響を受けているが、チェコ農業者は完全には満足していない。(4)失業率は、従前は九~一○%だったが、現在は八・四%と低下している。チェコは地域差があり、高い所もあれば、プラハのように二%の所もある。したがって、法人税免除、労働者再教育費用の助成金、国・自治体所有の工場用地の低価格提供などの地域的、構造的な優遇政策を取っている。(5)チェコ農業の特徴として、農業人口の七○%以上が借地経営であり、業績により法人の土地売買があるとは言えない、つまり、影響が少ない。(6)EU市場に途上国からの農産品を入れることについて触れるとすると、牛乳、穀物、肉牛だけでなく、タバコ、砂糖、ワイン、果物などの改革についても考慮されるよう願っており、このことはEUの立場を維持することになる。(7)現在、政党間で政治的な合意へ向けて年金改革を行う活動を行っているが、交渉は終わっていない。財務省として労働社会省と協力しながら対応している。いわゆる公的年金、義務付けられている私的年金、個人年金があるが、二番目の私的年金に税金で補助することを考えている。子供のいる世帯については、女性の年金支給年齢を早める措置を取っている、との答弁があった。

(五)トヨタ・プジョー・シトロエン自動車会社(TPCA)工場の視察

 派遣議員団一行は、プラハ郊外のコリーン市にあるTPCAの自動車組立工場を視察した。同工場の概要は以下のとおりである。

 同市にあるTPCAは、投資総額百三十億ユーロであり、出資がトヨタ自動車五○%、プジョー・シトロエン自動車五○%の合弁会社である。TPCAの敷地面積は百二十四ヘクタールであり、組立工場は二○○五年二月二十八日に生産を開始し、年間生産能力は三十万台であるが、初年度は十万台を目標に生産しているとのことである。従業員は約三千人、うち二五%は女性とのことであり、生産している車種は、ガソリンエンジン一リットル車、ディーゼルエンジン一・四リットル車の二種でトヨタ・アイゴ、プジョー一○七、シトロエンC一の車種名としてそれぞれ三分の一ずつ生産し、すべて欧州向けとしている。

 なお、当社の企業理念として、日本語、フランス語、英語、チェコ語の四か国語が使用されていることから、意思疎通に欠けないよう絵文字や記号などを見て状況を把握できるよう視覚に訴えるコミュニケーションを掲げているとのことであった。また、チェコ政府に対し、人材開発強化、社会保障制度の改善、政府による投資優遇策を推進してほしいとの要望が示された。

 派遣議員団一行は、初めて導入された見学用トラムに乗り、ロボットや従業員がシステマティックに働いている整然とした組立ライン等の視察を行ったが、トヨタの誇る看板方式や視覚に訴えるコミュニケーションの実施状況を確認できた。

(六)日系企業関係者との面談

 派遣議員団は、プラハ市内において日系企業関係者と面談し、次のような意見交換を行った。

 チェコの日系企業数は、○五年現在、百五十八社でうち六十五社が製造業である。○○年比で見ると企業数で五十八社から百五十八社、雇用者で九千九百人から三万人へと増加している。

 派遣議員から(1)チェコに日系企業が進出する理由は何か。(2)EU加盟前と加盟後で異なった対応や環境の変化があったか。(3)政府から少子高齢化対策を求められているか。(4)チェコ及び日本の両政府にどのような要望があるか、についてただされた。

 これに対し、(1)チェコは工業国であり、技術水準が高いこと、労働力が優秀の割に賃金が安いこと、中央ヨーロッパに位置し、新興市場に近いこと、道路等のインフラが比較的整備されていること、政治的に安定し、政府も外国投資に優遇策を取って積極的であることが背景にある。(2)EU加盟後、輸入関税が低くなり、また、EU域内流通なら関税なしというメリットが出ている。同時にチェコ経済が活発化して市場が拡がったが、賃金上昇やインフレのおそれも出てきている。加えて自動車産業にとって見ると、ドイツやオーストリアから中古車が入ってきており、新車市場が狭くなっている。(3)チェコの出生率は一・一七人と欧州一低いことから大きな問題となるだろうが、政府から少子対策の直接の指示はない。しかし、三年の育休後に再び採用しなければならないルールがあり、その間、一時採用で対応している。(4)チェコ政府に対し、(ア)病休が簡単に取れ、欠勤率が高いため、病気欠勤対策の改善の実施、(イ)運転免許証は身分証明に欠かせないことから日本の免許証をチェコ及びEU域内で有効な免許証に書き換えるなどの措置(なお、日本の運転免許証に外国で通じるよう西暦やローマ字表記を入れてほしい旨の日本政府に対する要望も示された。)、(ウ)長期滞在ビザの発行に多大な時間を要することから円滑な発行と制度見直しの実施、(エ)企業が必要とする人材確保、育成支援の強化、(オ)社会保険料の二重払いを避けるため、日本及びチェコ両政府への社会保障協定の早期締結要請、(カ)登記簿における個人情報の扱いについての慎重対応、(キ)ビジネス開始手続の迅速化、簡素化の要望が示された。

  以上が今回の調査報告であるが、EU拡大、深化について課題があっても乗り越えるという欧州委員会事務局幹部の揺るぎない信念がうかがえた。同時に、アジア諸国で検討されている東アジア共同体との類似性や相違も認識でき、今後の議論に参考になる示唆が多くあったと考える。また、ベルギー、チェコ両国のEU内における位置付けも確認できた。

 最後に、この度の本派遣議員団の両国訪問に際し、多大な御協力、御尽力をいただいた在外公館を始め、訪問先及び視察先の関係者に対し、心から感謝の意を表する次第である。