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重要事項調査

重要事項調査議員団(第三班)報告書

       団長  参議院議員   片山 虎之助
            同        野上 浩太郎
            同        藤井  基之
            同        小川  勝也
            同        小川  敏夫
            同        渡辺  孝男
        同行
             農林水産委員会調査室首席調査員  畠山  肇
             参事                     八鍬 敬嗣

 本議員団は、農業の経営安定対策に関する調査のため、平成十六年九月十五日から二十三日までの九日間、カナダ及びアメリカ合衆国を訪問した。

 我が国の農業は今、輸入農産物の急増、後継者不足、都市化や耕作放棄による農地の減少など深刻な事態に直面している。しかし、平均一・六ヘクタールにすぎない我が国農業経営の実態を考えると、今のままでこうした厳しい経営環境を乗り切っていくことは困難であり、農業経営の在り方を抜本的に再検討していくことが極めて重要な課題となっている。

 現在の農政は、平成十二年三月、食料・農業・農村基本法に基づき策定された食料・農業・農村基本計画に沿って推進されているものであるが、政府は以上のような課題に適切に対応するため、農業経営安定対策、担い手政策、農地制度、農業環境・資源保全の在り方を中心議題として同計画の見直し作業を行っているところである。

 そこで本調査班は、このうちの農業経営安定対策について、既にそれを実施しているカナダ、アメリカでの実情を視察し、このような新しい試みの有効性を議論していくための参考にしようというものである。また、農業に関連した諸問題についても幅広く見聞を広めるため、林業、水産業のほか食料安全、地球温暖化や資源問題などについても視察や意見交換を行うこととした。

 具体的には、まずカナダに入国、十五日には、バンクーバー港近郊の迦南貨運有限公司事務所においてカナダ産木材の積出現場を視察、次にブリティッシュ・コロンビア州(BC、以下単にBC州という。)クラーク副首相とカナダにおける農林水産業の実情、国やBC州による支援策の内容、効果などについて意見交換、十六日にはバンクーバー島に渡り、州都ビクトリアにてBC州農業・食料省関係者とカナダ国、州による農業支援策、特にCAISと呼ばれる新しい農業経営安定対策の内容、効果等について意見交換、カナダ国カンパニョーロ副総督と日本とカナダ国、BC州との関係強化等について意見交換した。

 翌十七日にアメリカに入国、シアトル市近郊、イサクワ市内のサケ孵化場(ワシントン州政府施設)視察、関係者と水産資源保護の必要性等について意見交換、十八日は市内シアトル港近郊のバイク・プレース・マーケットにて産直農産物や地場製食品売場等を視察した。その後、ラスベガスに移動、翌十九日は近郊のフーバーダムを視察、ダムの構造、建設の経緯、近年の水資源の動向、利水の実態について関係者から説明を聴取した。

翌二十日は、サンフランシスコに移動、近郊のナパ・バレーにてレイモンド・ビンヤード(日本のキリンビール社所有のワイナリー)所属のワイン醸造施設、ブドウ畑などを視察したほか、食品分野における日本企業のアメリカ進出の実情、ブランドの確立に向けた経営戦略等について関係者と意見交換した。

 翌二十一日はサクラメントに移動、近郊のコメ農場においてカリフォルニア米の実情視察、カリフォルニア米生産者、流通業者等と生産農家に対する国、州の経営安定対策の効果、コメの生産、貿易の実情、WTO農業交渉の見通し等について意見交換、その後、サクラメント近郊の地元コメ生産者等が出資する精米工場、「ファーマース・ライス・コーペラチブ」を見学した。同精米工場は視察したコメ農場など近郊農家からのコメを精米、卸業者や加工業者、輸出向けに出荷している。その後、カリフォルニア州政府農業食料省にてA・G・カワムラ長官と国、州による農業経営安定対策の内容、効果などについて意見交換した。

 以下、訪問順にその概要を報告する。

九月十五日(水)バンクーバー(以下、現地日付)

 我が国は森林が国土の三分の二を占める有数の森林国であるにもかかわらず、木材の自給率は二〇%にも満たない木材輸入国となっている。カナダはその有力な輸入先であり、特にバンクーバー近辺からの木材を輸入している。また、近年は丸太や木材そのものより規格によってプレカットした製材の輸入が大部分を占めている。そこでバンクーバー港に近い地元企業、迦南貨運有限公司を訪ねた。同社はその製材を集荷、積出しする卸業者であり、経営者は中国系カナダ人、ロ氏である。

 ロ氏との質疑応答の概要は以下のとおりである。

(調査団)木材の仕向地はどこが多いか。

(ロ)八五%が日本向けで、プレカットしたツー・バイ・フォーのほか内装材を扱っている。

(調査団)どのような森林から木材は調達しているのか。

(ロ)主に近郊の州有林から許可を得て伐採、製材したものを調達している。

(調査団)同社のように中国系その他の経営する業者も多く参入しているのか。

(ロ)同社のような流通業にはいろいろな人種の人がいて、国際的である。

(調査団)バンクーバーからカナダ材を輸送した方が日本国内で生産するより安いのか。

(ロ)生産コストなどトータルで見ればバンクーバーから輸入した方が安いので輸入しているのではないかなどの答えがあった。

 次に、市内BC州政府合同庁舎オフィスにBC州クラーク副首相を訪ね、カナダにおける農林水産業の実情、国、州による支援策の内容、効果などについて意見交換した。

 概要は以下のとおりである。

(調査団)木材積出の現場を視察した。多くが日本に輸出されているようだ。カナダでの森林資源は枯渇しないか。また、地球環境問題等の観点から、森林については、間伐や伐採跡地の再植林、環境保護などが重要であるが、こちらでもそれは行われているのか。

(副首相)天然の州有林から民間の伐採、製材業者などのバイヤーが許可を受けて生産しているが、その条件として周辺の生態系へ適合した樹種の植林などを義務付けている。また環境ボランティアなどが監視活動も行っており、環境や資源保護に適合した管理は適切に行われていると言える。

(調査団)カナダではCAISなど新しい農業経営安定対策が講じられ、農業者に直接補助金が支給されている。このような支援措置に対し他産業から批判は出ていないか。

(副首相)近年、カナダ農業はBSEやWTOなど困難な問題に直面している。このように農業は他の産業とは違ったリスクを負っているので、支援を行っても他産業や市民の批判は少ないと思う。

(調査団)日本では少子化が大きな問題となっており、農業の後継者不足の原因ともなっている。カナダでは少子化、人口減などは生じていないか。

(副首相)カナダも日本ほどではないが少子化の傾向がある。一方で、移民増がそれを補っている。今後も移民を受け入れる。

(調査団)日本ではBSEの発見を契機に食品の安全に対する国民の関心が高まっている。カナダも最近BSE牛が発見されたが、食品安全に対する国民の関心は高まっているのか。

(副首相)高まっている。特に食品表示への関心が高い。食品にどのようなものが含まれているのかを知ることが必要であると国民は思っている。

九月十六日(木)ビクトリア

 次にバンクーバー島に渡り、州都ビクトリアにてBC州農業・食料省のササキ次官補ほかとカナダ国、州による農業経営安定対策などについて意見交換した。

 意見交換の概要は以下のとおりである。

(次官補)カナダにおける農業経営安定対策については、CAISと呼ばれる直接支払などで従来の政策を拡充している。国の政策であるが、州も国と共同で計画を立案執行するなどして関与している。

 WTOについては、交渉の当事者は国の政府だが、各州は州内の農業の実態を踏まえた交渉となるよう、随時国に申入れをしている。ちなみに、ブリティッシュ・コロンビア州では、ハウス野菜や花卉の安定供給が重要なので、こうした産品が交渉の結果によって阻害を受けないよう国に働きかけている。

 WTOに対するカナダの基本的立場は、貿易自由化と国内農業への配慮がバランスの取れていることが重要だという立場だ。そのため、第一は輸出補助金は削減すること。第二は、国内保護措置も削減すること。第三は、しかし日本におけるコメなどのように、急激な自由化が国内農業へ大きな悪影響を与える恐れがある一定の品目には配慮が必要というものである。カナダでは乳製品、鶏肉、鶏卵などがそれに該当する。

(調査団)WTOと農業経営安定対策、WTOにおける州と国の役割分担をより詳しく教えて欲しい。

(次官補)農業経営安定対策とWTOとは密接な関係にあり、例えば、BC州では今言った野菜や果実の適切な生産供給が必要であるが、そのために輸出促進や秩序ある輸入確保などが実現できる経営安定対策やWTO貿易ルールなどが確立される必要があり、国と州がその点で協力して職務を果たしている。

(調査団)乳製品、鶏肉・鶏卵への配慮が必要とのことであるが、国内政策としてどのようなことが行われているのか、また、NAFTAではこれらの産品はどう扱われているのか。

(次官補)現在これらは供給計画の策定など、国の関与の下、生産調整しながら適切な国内供給を行っており、WTO交渉でも補助金削減や関税率の引下げなどの面において特別の配慮が必要である。また、アメリカ等とのNAFTAでも関税や輸入量などの面でこれらは特別の配慮がなされることになっている。

(調査団)日本では最近、地元の農産物は地元で消費するなど、いわゆる「地産地消」を推進する機運が高まっているが、カナダでもそのような高まりはあるのか。

(次官補)WTOにおける貿易自由化など経済のグローバリゼーションが進めば進むほど、むしろ地元産品への関心は高まってくると思う。

(調査団)BSEを契機に、食品の安全に対する国民の関心が高まっている。カナダも最近BSE牛が発見されたが、食品安全に対する国民の関心は高まっているのか。

(次官補)高まっている。例えばBSE問題では、カナダでは近年一例が見つかったにすぎないが、国、州は研究所や生産農家などと連携してBSEに対する科学的知見を深める努力や、その情報提供、トレーサビリティーによる危機対応などに努めている。その結果、消費者は食品安全に対する関心が高まると同時に、BSEに対しても冷静な対応を示しており、乳製品や肉の消費が落ち込んでいるような事態は生じていない。

(調査団)日本では農業経営が悪化するに伴い、離農や後継者不足が問題となっている。カナダではそうした問題はないのか。

(次官補)カナダの家族的農業は移民中心に維持されてきたが、最近は都市化による農地の取得価格の上昇などにより、農業を継ごうというものが少なくなってきている。また農業を継いでも、温室野菜や果実など集約型農業に転換するケースも増えてきている。一方、小麦など土地利用型大規模農業経営については、外国資本の参入など企業的農業経営が増えてきている。こうした農業経営の構造変化に適切に対応しうる州や国の経営安定化対策、後継者対策が求められている。

 次に、今回の派遣の一環としてカンパニョーロBC州副総督を表敬訪問した。

 カナダには、旧宗主国イギリスとの関係から女王の代行として国には総督が、各州には副総督が任命されており、カンパニョーロ氏はBC州副総督として主に諸外国との友好関係の維持や州議会と州政府との橋渡しなどを行っている。

 意見交換の概要は以下のとおりである。

(副総督)カナダの農林水産業の実情を視察されているとのことであるが、大いに歓迎する。これを機会にカナダと日本との友好関係が一層強化されることを期待する。

(調査団)お会いできて光栄である。カナダは非常に美しくフレンドリーな国であるとの印象を深めた。指導者たちはどのようにして美しい国土を維持しているのか。

(副総督)農業あるいは林業においても環境に配慮しながら発展させていくことが重要であり、指導者たちも責任を持ってそれを果たしていると思う。

(調査団)カナダは移民国家であり多様な民族が共存しているが、多様な民族どうしの共存の必要性についてどう思うか。

(副総督)カナダはもともと移民国家であり、民族、人種にかかわらず新しい国づくりに協力し合っているため、治安も良いし平和である。世界平和のために共存共栄を図り、協力し合っていくことが必要である。

九月十七日(金)シアトル

 次にシアトル市近郊、イサクワ市内にある鮭の孵化場を訪れた。

 同場はワシントン州政府の付属施設であり、水産資源の保護、管理の観点からギンザケなどの鮭の遡上と孵化を促す施設である。同施設を視察した後、カーウィン孵化場長、フラグ州上院議員ほか関係者と意見交換した。

 意見交換の概要は以下のとおりである。

(調査団)同孵化場の特徴は何か。

(孵化場長)鮭の遡上を観察できる誘導水路や孵化しやすい場所の設置、適切な水質管理などが特徴である。そのほか、絶滅が危惧されるキングサーモンの保護増殖などにも取り組んでいる。

(州上院議員)大恐慌時代に設立された歴史ある施設であるが、一時廃止されようとした。しかし、地元住民などの存続運動や地元企業の資金援助などもあり存続することとなった。存続に当たっては一般公開、学校の野外実習の実施、ボランティアによるイベント協力など運営面で抜本的な改革がなされた。

(調査団)これからの漁業はこうした資源管理が重要であるが、同孵化場で孵化したサケの回帰率はどのくらいか、またその率は増えてきているのか

(孵化場長)二%くらいであるが、近年は増加しつつある。適切な保護管理の影響もあると思う。

(調査団)魚が遡上する場合、ダムなどの障害物などが影響を与えるが、この周辺ではダムがあるのか。

(孵化場長)近年アメリカではダムなどを作る場合、魚が傷ついたり遡上に影響を与えないよう孵化場や魚道を併せて設置するようになってきている。ワシントン州では遡上に障害となるダムを作らないことにしている。

九月十八日(土)シアトル

 シアトル港に近いウォーターフロントに隣接する生鮮食品市場バイク・プレイス・マーケットを見学した。

 同市場は、海外でも有名なシアトルのメインスポットであるが、同時にワシントン州内の産直農林水産物、食品がほとんど手に入れることのできる市民生活に密着した市場でもある。

 当日は雨天気味にもかかわらず、多くの市民、観光客でにぎわっていた。野菜、果実、魚などの生鮮食品は値段も産直のため安くて新鮮である。近年、日本においても地産地消や産直農産物に対する国民の理解が高まってきているが、今後こうした地元住民の生活に密着した市場が育っていくことが期待されよう。

九月一九日(日)ラスベガス

 ラスベガス近郊のフーバーダムを視察した。

 フーバーダムはラスベガスの南東四十キロ、ネバダ州とアリゾナ州の境に位置し、コロラド川をせき止めるために作られたダムである。ロッキー山脈を南西に貫くコロラド川は、上流のグランドキャニオンからこのダムに至り、下流メキシコを通ってカリフォルニア湾に注いでいる。

 また、フーバーダムによってせき止められ形成されているミード湖は、現在でもアメリカ最大の人造湖であり、コロラド川の二年分の流量に相当する三百五十億トンの貯水量を有する。

 視察に際し、ダム管理を担っている連邦政府開拓局のクロダ係官ほか関係者の案内、説明を受けた。

 概要は以下のとおりである。

(クロダ係官)同ダムは一九三一年着工、三五年に完成したダムだ。三五年九月三十日フランクリン・ルーズベルトがテープカットしている。また、ダムに隣接する発電所は三六年に完成、稼動したが、以後六一年までに十七機の発電機が設置されている。

 同ダムは、当初は地名にちなんでボウルダーダムと呼ばれていたが、一九四七年、連邦議会の議決により第三十一代大統領ハーバード・フーバーにちなんで正式にフーバーダムと命名された。

 もともとコロラド川は頻繁に氾濫し、南カリフォルニアなど下流域の農地や住民に大きな被害が及んでいた。そこで、一九二〇年代、川の治水と農業灌漑、住民の生活用水など利水の必要性を感じた当時の大統領フーバーは、コロラド川流域開発やその一環としてコンクリート製による強力なダム建設に向けた政治活動に努めた。こうした動きを受け、一九二八年、コロラド川の施設やダムの建設に関するボウルダー・キャニオン・プロジェクト法が連邦議会で成立、これを根拠にフーバーダムが建設された。当時の大恐慌を受けた雇用対策の意味もあった。

(調査団)建設当時の状況はどのようなものであったか。

(クロダ係官)三一年の着工から三五年の完成まで四年かかったが、それでも当初の計画より二年も早く、見積りより安い費用で完成した。都会から遠く離れた過酷な環境にもかかわらず関係者が努力したおかげだが、建設では百十人の労働者が死亡している。また建設労働者の宿舎が今のラスベガスの始まりだ。

(調査団)七十年前のダムとは思えない巨大さだが、ダムの維持・管理コストをどのようにまかなっているのか。

(クロダ係官)もともとボウルダー・キャニオン・プロジェクトはダムによって得られる電力料金でまかなうこととされた独立採算プロジェクトであり、プロジェクト事業一・六五億ドルも電力料金収入によって回収、連邦に償還された。今日もこの電力料金によってダム、発電所の維持管理コストがまかなわれている。

(調査団)発電機など当時のままの設備が多いが、更新はしないのか。

(クロダ係官)ダムの端にある発電所は三六年完成し、以後六一年までに十七機の発電機がそろえられたが、幾つかの発電機やコントロール施設は建設当時のままだ。これを維持管理していくのは大変であり、特に建設から七十年もたっているため部品交換ができない。

(調査団)コロラド川の水量や利水の実態はどうか。

(クロダ係官)ダムは貯水と放流の調整による川の治水を行うのが役目だ。川の利水は下流地域における様々な利水プロジェクトで進められている。例えばメキシコを含む百万ヘクタール以上の農地では、果実、野菜、穀物、綿花などが栽培されている。また、ラスベガス、ロスアンゼルス、サンディエゴにおける千八百万人の生活用水やネバダ、アリゾナ、カリフォルニア州の電力をまかなっており、一九四九年までは世界最大の発電量であった。

 最近は、水量が減ってきており、農業用水などの有効利用をどう図るか、そもそも灌漑に必要かなどといった議論も起きている。

九月二十日(月)サンフランシスコ

 近郊のナパ・バレーにてレイモンド・ビンヤード(日本の麒麟麦酒社所有のワイナリー)所属のワイン醸造施設、ブドウ畑を視察したほか、同社社員稲積氏から説明を受けた。

 概要は以下のとおりである。

(稲積)同社は、一八七〇年代から操業しているベリンジャーワイナリーの一族であったレイモンド氏が一九七一年に創立したワイナリーである。八九年に麒麟麦酒と資本提携、一〇〇%子会社となっている。

 創業から三十年であるが、ナパでワイナリーが増え始めたのは九〇年代に入ってからで、ナパでは古いワイナリーの部類に入る。現在、ナパには約三百三十のワイナリーがあり、同所は年間三十万ケース、上位三十番目くらいに位置している。十万ケース以下の小規模ワイナリーも多く、また農場や醸造所を持たず個人でブドウや醸造を調達や製造委託したりしてワインを作っている人たちもいる。

 農場は五十ヘクタールであるが、白ワイン用のブドウ栽培が中心である。ナパは北ほど暑く、南はサンフランシスコ湾が近いため比較的冷涼であり、南に近い同ワイナリーは白ワイン用ブドウの栽培に向いている。

(調査団)同じブドウの品種でもワイナリーや生育地で品質に違いが出てくるのか。

(稲積)同じ品種でも土壌、土地、さらには天候によって味や香りが違い、年によって出来不出来の差が大きい。また、製造方法などもワイナリーによって様々であり、それが各ワイナリーの個性や差別化につながっている。

(調査団)同社は麒麟麦酒の子会社となっているが、なぜビール会社がワイナリーを持つのか。

(稲積)キリンがなぜワインに進出したかはよくわからないが、新分野開拓、国際進出の可能性などといった経営戦略の一環であろう。

(調査団)競争の激しいワイン分野でブランド化していくのは難しいのではないか。

(稲積)九〇年代にカリフォルニアワインの国際的な知名度が上がったこともあり、比較的早くから製造していた同ワインはかなり人気がある。わざわざここを訪れてくれる客も多い。大量生産、大規模化する予定はないが、ブランドの浸透を目指し堅実な生産に努めていく予定である。

(調査団)最近、食品の原産地表示の偽装が問題となっているが、そういったことがナパのワイン、ブドウでも生じているか。

(稲積)同じ品種のブドウでもナパとそれ以外の地域のブドウでは何倍も卸値が違う。こちらのブドウ生産者は組合を作っておりそうした不正混入があるとは思えないが、混入されたら発見は難しいだろう。

九月二十一日(火)サクラメント

 サクラメントは、サンフランシスコ湾の北東をさかのぼること百二十キロ、西海岸に近いコースタル山脈とシエラネバダ山脈に囲まれたサクラメントバレーと呼ばれる大きな盆地の中心に位置している。

 近郊にはサクラメント港があり、サクラメント運河を通りサンフランシスコ湾に出ることができるため、コメの流通コストの節約に大きく寄与している。

 サクラメントを主要産地とするカリフォルニア米の歴史はかなり古く、ゴールドラッシュで沸いたサクラメントでは、その人たちの食料や、サンフランシスコの中国系移民の食料として一八五〇年代には生産されだしており、一九二〇年代には商業的にもカリフォルニアの重要な産品としての地位を確立した。現在、耕地面積二〇万ヘクタール、生産額五億ドルに及ぶ。

 一九九〇年代半ばのWTOのUR交渉やNAFTAの締結によって、アメリカのコメ、特にカリフォルニア米は国内商品から有力な輸出商品へと変わり始めており、ジャポニカ米の生産増や品質向上などによって、日本はじめ東アジア、東南アジア、中東などへの輸出をさらに増やそうとしている。特に日本は、既にミニマムアクセス米七十万トンの輸入枠の内、三十万トンをアメリカから輸入しており、そのうち相当部分をカリフォルニア米が占めている。

 こうした点についての現地の実情を調査するため、サクラメント近郊の稲作農家(ノートン農場)の視察を行ったほか、カリフォルニア米振興協会のジョンソン氏、コメ商社のバルピー氏ほか関係者と生産農家に対する国、州の経営安定対策の効果、コメの生産、貿易の実情、WTO農業交渉の見通し等について意見交換した。

 その後、サクラメント近郊の地元コメ生産者等が出資する精米工場、「ファーマース・ライス・コーペラチブ」にてコメの精米現場を視察した。同精米工場は視察したコメ農場など近郊農家からのコメを精米し、卸業者や加工業者、輸出向けに出荷している。そのうち輸出は七〇%を占め、日本が最も大きな比率を占めている。

 農場での視察とカリフォルニア米振興協会、コメ商社等との意見交換の概要は以下のとおりである。

(調査団)視察させていただいている農家などの収入はどの程度あるのか。

(ノートン)九戸の農家で結成している組合で二千ヘクタールの農地を耕作している。収入はヘクタール当たり二十万円(日本の八分の一から一〇分の一)である。経営の実情は、一農家当たり七~八人の常勤従業員を雇用しているほか、刈り入れ時期には十人程度のパートタイマーを雇っている。パートの日当は一・五から二万円程度である。

(調査団)二〇〇二年の連邦農業法によって農業への直接補助金が改正、強化されたと言われているが、生産者の立場から見てその実感があるか。

(ジョンソン)世間ではこれに対し誤解しているようだ。二〇〇二年農業法によって、価格下落に対する減収補てん金など部分的に増加したものはあるが補助金総額は減ったと思う。特にコメの場合はそう感じる。その理由は、アメリカにおけるコメは日本ほどの重要性がないということではないかと思う。したがって、連邦政府の補助金などはあてにしていない。

(調査団)どのような品種のコメを作付しているか。

(ジョンソン)最も多いのがカルローズという中粒種、次はジャポニカ米だ。特にジャポニカ米については、コシヒカリ、アキタコマチなどの高級品種の需要が伸びており作付けも増えている。しかし収量が低く手間もかかる。

(調査団)水の管理システムはどのようになっているのか。また、水利権はだれが有するのか。

(ジョンソン)当農場はサクラメント川から水を引いているが、専門の水管理会社に灌漑から排水までの管理を委託している。費用はヘクタール当たり二万円である。水利権を有するのは地元灌漑地区組合であり、水の管理会社に水の管理業務を委託している。

(調査団)コメの生産については、畑作など水をあまり使わない農家から批判が出ていないか。

(ジョンソン)水はサクラメント川から引いているが、サクラメント川の水量は豊富だ。他の人たちが水不足になることはない。

(調査団)近年の食品安全に対する消費者の意識の高まりにどう対応しているか。

(ジョンソン)除草剤や害虫駆除のための農薬散布は必要最低限にしている。また、農業が環境に適合するよう規制が強化されてきているが、サクラメントではコメが有力な産品なため、規制についてもかなり配慮がなされている。

(調査団)日本でも、「オーベントー」などアメリカ米の存在が目立ってきているが日本の市場開拓を強化しているのか、またアメリカ国内での需要拡大はどうしているのか。

(ジョンソン)日本の市場開拓に力を入れている。アメリカ国内でも調理時間の短縮や調理方法の工夫などして需要拡大に力を入れている。また、寿司バーの活況に見られるように、近年のヘルシー志向を背景とした需要も増えてきている。

(調査団)日本は食料自給率が先進国で最低であるため食料安全保障が必要だと考えており、これがWTOなどにおいて農業保護を主張する理由だ。これにどう答えるか。

(バルビー)コメが日本にとってセンシチィブな品目であることは理解しており、そうしたいざという時にでもアメリカ米を安定して供給できると思う。

 次に、サクラメント市内に移動、カリフォルニア州政府農業食料省にてA・G・カワムラ長官を訪問した。

 カリフォルニア州はアメリカ最大の農業生産を誇り、コメのほかオレンジなどの果実、野菜生産が盛んな地域である。農場の経営規模もアメリカの平均的な経営の二倍の規模を有している。

 昨年、カリフォルニア州知事に著名な映画俳優A・シュワルツネッガー氏が就任した。同知事は農業に高い関心を払っており、同知事の信任厚いカリフォルニア州政府農業食料省長官A・G・カワムラ氏は、同知事の意向を受けカリフォルニア州の農業振興、農産品の市場開拓のため精力的な活動を続けていると言われている。
 意見交換の概要は以下のとおりである。

(調査団)日米関係は世界の中でも最も強固なものであるが、特にカリフォルニアとの関係は幕末における交流や日系移民の点で強いものがある。今後も関係を強化していきたいが、WTOで象徴されるように農業、特にコメの輸出入の在り方については急速な輸出拡大につながらないよう慎重に扱っていく必要がある。

(長官)どこの国も農業生産の確保は重要な政策課題であり、その点では日本の主張も理解できる。しかしカリフォルニアの例で言えば、農業者といっても経営形態や規模が多種多様であり、また食生活も移民の増加などにより多様化しており、そうした農業や食生活の多様性が農業の活性化につながると思う。

(調査団)日本でも食品安全、健康や農業への理解を深めるため、食育の必要性が高まっている。アメリカではどうか。

(長官)アメリカでもファーストフードの浸透などにより、大人はもちろん子供の健康への悪影響が懸念されている。そのため、我々も連邦政府や、州の関係機関と連携して栄養教育などに力を入れている。こうして子供や消費者の食生活が改善されれば、新鮮な農産物の需要拡大にもつながると考えている。

(調査団)WTO農業交渉でも議論となっている農業の多面的機能の重要性についてどう考えるか。

(長官)八年前に日本の熱海近郊の有機農業を視察したことがある。品質だけでなく日本の芸術的ともいえるような農業生産現場だという印象だった。カリフォルニアは最も環境規制が厳しい地域であり、農業もそうした規制を受けている。

 以上が調査の概要であるが、カナダ、アメリカの農業経営は、言われているように極めて大規模なものであるが、それでもグローバリゼーションの進展等によって経営に余裕があるという印象は受けなかった。また、食品安全、環境、水資源確保からの規制も年々強まってきているようである。こうした状況を考えると、比べ物にならないほど零細な経営規模である我が国の農業経営の将来に悲観せざるを得ないというのが正直な感想である。そのため、農業経営安定対策を始め農業の維持・活性化について、カナダ、アメリカの例も参考にしつつ、より日本に合った支援の在り方を今後真剣に検討していく必要があると考える。

 最後に、同調査を行うに際し快く訪問を受け入れていただいた視察先の皆様や視察日程中、終始御協力を頂いた現地在外公館の皆様方に対し、この紙面をお借りして感謝の意を表する次第である。