質問主意書

第221回国会(特別会)

質問主意書

質問第二二号

旅館業法における簡易宿所の課題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和八年三月二十五日

小西 洋之


       参議院議長 関口 昌一 殿



   旅館業法における簡易宿所の課題に関する質問主意書

 インバウンド(訪日外国人観光)を推進する上で、地域住民の安心・安全の確保は、持続可能な観光地づくりにおける最も重要な前提条件の一つである。地域社会との共生なくして、長期的な観光振興は成り立たないと考える。

 観光客の増加は地域経済の活性化に貢献する一方、交通渋滞、公共交通機関の混雑、ゴミのポイ捨て、騒音、マナー違反といった「オーバーツーリズム(観光公害)」の問題を引き起こす可能性が指摘されている。これらの問題は住民の生活に大きな負荷を掛け、観光に対するネガティブな感情や排他的な姿勢を生み出す原因となる。そのため、政府は、改めて地域住民の生活をより丁寧に考慮した長期的な観光振興政策を考えるべきだと認識している。

 これらのことについて、以下質問する。

一 マンションの一室や住宅地の戸建てで宿泊業を営む場合、民泊、特区民泊又は簡易宿所という三種類の営業方法が存在すると認識している。民泊は住宅宿泊事業法(平成二十九年法律第六十五号)に基づく届出制であり、年間営業日数の制限や、営業開始前の周辺住民への説明、周辺住民から苦情があった際の深夜早朝問わずの対応、二か月に一度の宿泊状況の報告義務が設けられるなど、一定のルールが課されている。他方、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)における簡易宿所営業の場合は、平成三十年の旅館業法改正によって最低客室数の撤廃やフロント常駐義務の緩和等がなされた。加えて、建築基準法改正により面積が二百平方メートル未満であれば建築確認申請が不要となったこと等も後押しとなり、簡易宿所営業の新規参入が容易になったと認識している。

 前記経緯の結果、届出制の民泊よりも本来は厳格な運用がなされるべき許可制の簡易宿所の規制がむしろ緩くなってしまうという「逆転現象」が生じていると認識している。具体的には、簡易宿所の場合は開設前の近隣説明義務もなく、フロント常駐義務もなく、宿泊者名簿の定期提出義務もないという状況である。加えて、年間の営業が百八十日に限られる民泊と違い、営業日数に制限がないため、三百六十五日営業が可能で、より収益性が高いという利点も簡易宿所には存在している。その結果、近年は民泊ではなく、住宅を利用した旅館業法における「簡易宿所」の許可を取得するケースが増加していると理解している。届出制の民泊と許可制の簡易宿所との間で、規制の強度に逆転現象が生じてしまっている現状に対する政府の認識を示されたい。

 あわせて、平成三十年六月十五日(住宅宿泊事業法の施行日)時点、平成三十一年から令和六年までの各三月末時点、令和七年九月末時点における「住宅宿泊事業法に基づく届出住宅数」、「旅館業法に基づく旅館・ホテル、簡易宿所数」、「特区民泊の認定施設数」、「住宅宿泊仲介業者等が取り扱う民泊物件等の合計数」をそれぞれ示されたい。

二 住宅地の簡易宿所が増えた結果、深夜の騒音、敷地・私道の無断利用、誤って隣家の呼び鈴を押す行為、喫煙及び吸い殻のポイ捨て、ゴミ問題等の深刻な生活被害が全国で発生している。これまで閑静な住宅街で心穏やかに暮らしていた環境から、突然居住している家の隣や目の前の道に見知らぬ人物が入れ替わり出入りする環境に変化したことによって、精神に支障を来す事態も発生しており、特に多感な未成年の居住者にとって精神的な負担となってしまっていると認識している。以上の宿泊トラブルを政府は把握しているか示されたい。

 また、旅館業法は、旅館の敷地内に対しての法律であり、現在問題になっているような敷地外での宿泊客の迷惑行為については、行政指導をする法的根拠がないと認識している。そのため、都道府県や各市区の保健所は敷地外で宿泊客が起こす迷惑行為や近隣トラブルについて、行政指導や改善命令などの処分をすることができず、近隣住民からの苦情に対し、事業者に情報提供と注意喚起しかすることができない。結果として、迷惑行為が発生した場合であっても、住民が直接宿泊者に注意せざるを得ない状況となってしまっていると理解している。かかる状況は明らかに国の不作為であり、無人型宿泊施設に対応した敷地外も含む事業者責任の範囲拡大や近隣説明義務及びトラブル対応義務の法定化、住宅地などではフロント常駐を義務化する等の旅館業法の見直しをすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 現行制度では、旅館業法に建物用途変更の登記義務が明確に位置付けられていないため、旅館業の許可を取得しても、建物登記上の用途が「居宅」のまま運用され続けているケースが多いと推定される。建物用途変更の登記が行われない場合、自治体側は実態として宿泊業が営まれていることを把握できず、資産税課として住宅用地特例の対象外であることを認識することが困難となる。その結果、本来であれば旅館業の用途として課税されるべき固定資産税が住宅扱いのまま据え置かれ、実質的に土地の税負担が少ない状態での課税を受け入れるという脱税行為が全国で発生してしまっていると認識している。以上の脱税行為の発生を政府は把握しているか示されたい。また、住宅用地特例が適用されず旅館業の用途として課税された場合、土地の固定資産税は一般的にどの程度高まるのか、見解を示されたい。

 建物用途変更の登記を確実に実施するためには、都道府県や各市区の保健所が旅館業の申請の許可後に施設所在地等の情報を資産税課へ提供する体制を構築することが有効だと考える。建物用途変更の登記に対して、国として適時適切な自治体組織内における情報共有の仕組みを全国一律で定めるべき、若しくは旅館業法を改正し建物用途変更の登記義務を明確に位置付けるべきだと認識するが、政府の見解を示されたい。

四 全国各地で発生している宿泊トラブルに対し、現在は各自治体が独自に条例や要綱を定めることで対策を講じている。他方、条例で規制しようにも、法律の委任規定がないと訴訟になりかねないとの指摘が存在する。そのため、旅館業法に関して、宿泊客の迷惑行為が確認された場合、自治体が独自に営業改善命令・営業停止・罰則等を科すことを可能とする法的根拠の創設が必要だと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 現状では、家宅捜査を受けた民泊事業者が、営業許可を取り消されても旅館業法による営業申請をし、施設基準を満たせば営業が認められてしまう事態も発生しており、悪質業者による「民泊から旅館業法における簡易宿所への営業形態逃れ」への対応が十分になされていないと認識している。

 この原因は、都道府県や各市区の保健所との間で情報共有がうまくいっていないことにある。観光庁は、住宅宿泊事業法、国家戦略特別区域法(平成二十五年法律第百七号)及び旅館業法に基づく三形態の宿泊施設情報を一元的に管理・把握するシステムの構築計画を公表している。しかしながら、現行の旅館業法には住宅宿泊事業法に関する規定や情報連携の根拠が存在しないため、当該システムによる情報共有が機能不全に陥る懸念がある。

 そのため、旅館業法の欠格事由に「住宅宿泊事業法違反の有無」を追加すべきだと考える。なお、住宅宿泊事業法の欠格事由には旅館業法で罰金の刑に処された者が含まれているため合理性はあるものと認識している。政府の見解を示されたい。

六 民泊及び簡易宿所に関しては、Airbnb等の仲介プラットフォーム側の課題も指摘されている。多くの自治体では条例により平日の営業禁止などの独自ルールを設けているが、現状、これらの制限が予約システム上で十分に反映されていない場合があり、条例で禁止されている期間であっても予約が成立してしまう事例が確認されている。

 本来、仲介業者は、掲載物件の住所と民泊許可番号の情報を保持しているため、自治体ごとの営業可能日をシステム上で自動判定することは技術的に可能と考えられる。それにもかかわらず、その仕組みを導入しないことで、実質的に条例違反となる宿泊予約によって仲介手数料を得ている可能性があり、適切な規制運用を阻害する要因となっている。

 かかる状況を踏まえると、合法性を担保する責任は事業者側だけでなく、仲介プラットフォーム側にも一定のコンプライアンス義務を課す必要性が高まっていると認識している。違法又は違法状態を助長する仲介行為に対して、行政指導・改善命令・罰則などの制度的対応を強化すべきと考えるが、これまでの政府による対策を含めて、政府の見解を示されたい。

  右質問する。