第221回国会(特別会)
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質問第一七号 集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の批准等に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和八年三月十七日 伊勢崎 賢治
参議院議長 関口 昌一 殿 集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の批准等に関する質問主意書 一 政府は、集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約(以下「ジェノサイド条約」という。)を締結するつもりがあるか見解を示されたい。 二 日本に対する武力攻撃の際、当該武力攻撃を行った国又は地域の外国人が日本の領域内において、ジェノサイド条約に規定する犯罪及び国際刑事裁判所に関するローマ規程(以下「ICC規程」という。)の対象犯罪を実行することはあり得ることと考えられる。 1 政府は、一九七九年五月二十八日の参議院外務委員会において、「わが国の実情にかんがみれば、集団殺害犯罪を設ける実態的必要性がやはり乏しいと言わざるを得ないということから加入をしておらないわけでございますが、現在の段階では、直ちにはやはりこの締約国となる必要性は乏しいと考えておる状況でございます。」と答弁した。また、二〇一三年十一月五日の衆議院法務委員会において、「我が国の実情に鑑みれば、この集団殺害犯罪を設ける実態的な必要性というのが必ずしも非常に大きくないというのが現在の政府の考え方でございまして、現時点ではまだ締結をしていないということでございます。」と答弁した。 また、政府は、二〇〇七年三月二十八日の衆議院外務委員会において、ICC規程に規定する犯罪について、「ICCが実際に管轄権を行使いたしますのは、十分な重大性を有する事案についてのみでございます。十分な重大性というのは、ICCのこれまでの例でいいますと、何千人という人に対する殺害などを指しております。このことを踏まえますと、おっしゃいますような事案についてICCが管轄権を行使することは、実際には余り想定されません。」、「実際に管轄権を行使しますのは十分な重大性を有する事案についてということでございますので、そのような事態が発生することというのは実際には想定されないというのが政府の判断でございます。」と答弁した。 それぞれの答弁について、そのように政府が考える理由を示されたい。 2 政府は、日本に対する武力攻撃の際、当該武力攻撃を行った国又は地域の外国人が日本の領域内でジェノサイド条約に規定する犯罪及びICC規程に規定する犯罪を実行することを想定しないのか見解を示されたい。 3 日本に対する武力攻撃の際、当該武力攻撃を行った国又は地域の外国人が日本の領域内でICC規程の対象犯罪を実行することはあり得ることと考えられ、その場合に、日本としてその上官の責任を問うべき場合もあり得ると考えられる。 しかし、二〇〇七年四月二十六日の参議院外交防衛委員会において、政府は、ICC規程について、「上官責任につきましては今申し上げたとおりでございまして、現実に我が国の国内で行われるということが想定がされないということでありますし、特に上官責任が問われなければならないほど組織的な形でそういった犯罪が、しかも十分な重大性という問題をクリアする形で行われるということは到底想定されないということで考えております。」と答弁した。 このように政府が考える理由を示されたい。 三 二〇二五年五月二十八日の衆議院外務委員会において、岩屋毅外務大臣(当時)は、「例えば、このジェノサイド条約第三条が規定する集団殺害の共同謀議、あるいは直接かつ公然の扇動という規定がございますけれども、その意味するところが必ずしも明確ではないといったこともございます。」と答弁した。また、「この条約の締結に向けて真剣に検討を進めるべく、法務省を始めとする関係省庁との間で協議を進めてきているところでございます。」とも答弁した。 政府は、ジェノサイド条約第三条が規定する「集団殺害の共同謀議」及び「直接かつ公然の煽動」の検討に当たって、ジェノサイドの「共謀」及び「煽動」に係る旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所及びルワンダ国際刑事裁判所(以下「ICTR」という。)の判例を検討したか示されたい。検討したのであれば、検討の内容を示されたい。検討していないのであれば、その理由を示されたい。 四 ICTRのMUSEMA事件判決(Case No. ICTR-96-13-T 27 January 2000 以下「MUSEMA判決」という。)は、ジェノサイドの共同謀議とは、二人以上の者がジェノサイドの実行を合意することをいう旨判示した(191. ・・・the Chamber holds that conspiracy to commit genocide is to be defined as an agreement between two or more persons to commit the crime of genocide.)。また、MUSEMA判決は、ジェノサイドの共同謀議罪は、ジェノサイドが実行されなくても成立する旨判示した(194. The Chamber is of the view that the crime of conspiracy to commit genocide is punishable even if it fails to produce a result, that is to say, even if the substantive offence, in this case genocide, has not actually been perpetrated.)。 1 ジェノサイド条約におけるジェノサイドの「共同謀議」の意味するところについて、MUSEMA判決の内容では、何が明らかにならないのか示されたい。 2 内閣官房特定秘密保護法施行準備室が平成二十六年十二月九日に公表した「特定秘密の保護に関する法律(逐条解説)」では、特定秘密の保護に関する法律(平成二十五年法律第百八号)第二十五条第二項の「共謀」について、「改正前の自衛隊法第百二十二条第四項の「共謀」及び刑法第七十八条の「陰謀」と同義であり、二人以上の者が漏えい行為等の実行を具体的に計画して、合意することをいう。必ずしも、実行の細部にわたることを要しないが、漏えい行為等の実行についての抽象的、一般的な合意をするだけでは足りない」としている。 MUSEMA判決が判示した共同謀議の内容と特定秘密の保護に関する法律第二十五条第二項の「共謀」の内容は同じか政府の見解を示されたい。異なるのであれば、どこが異なるのか示されたい。 五 ICTRのAKAYESU事件判決(Case No. ICTR-96-4-T 2 September 1998 以下「AKAYESU判決」という。)は、ジェノサイドの直接かつ公然の煽動とは、公共の場所等における言動、販売・宣伝、文書・図画の掲示等の視覚・聴覚に訴える意思の伝達により、ジェノサイドを実行するよう直接刺激を与えることをいう旨判示した(559. In light of the foregoing, it can be noted in the final analysis that whatever the legal system, direct and public incitement must be defined for the purposes of interpreting Article 2(3)(c), as directly provoking the perpetrator(s) to commit genocide, whether through speeches, shouting or threats uttered in public places or at public gatherings, or through the sale or dissemination, offer for sale or display of written material or printed matter in public places or at public gatherings, or through the public display of placards or posters, or through any other means of audiovisual communication.)。また、AKAYESU判決は、煽動自体が社会にとって危険性の大きい行為であることから、煽動の結果が発生しなくても、煽動罪は成立する旨判示した(562. ・・・In the opinion of the Chamber, the fact that such acts are in themselves particularly dangerous because of the high risk they carry for society, even if they fail to produce results, warrants that they be punished as an exceptional measure. The Chamber holds that genocide clearly falls within the category of crimes so serious that direct and public incitement to commit such a crime must be punished as such, even where such incitement failed to produce the result expected by the perpetrator.)。 1 ジェノサイド条約におけるジェノサイドの「直接かつ公然の煽動」の意味するところについて、AKAYESU判決の内容では、何が明らかにならないのか示されたい。 2 破壊活動防止法(昭和二十七年法律第二百四十号)第四条第二項は、「この法律で「せん動」とは、特定の行為を実行させる目的をもつて、文書若しくは図画又は言動により、人に対し、その行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいう。」と規定する。また、法務省が運営するウェブサイトであるJapanese Law Translationでは、破壊活動防止法第四条第二項の「せん動」を「incitement」と訳している。 AKAYESU判決が判示した煽動の内容と破壊活動防止法第四条第二項の「せん動」の内容は同じか政府の見解を示されたい。異なるのであれば、どこが異なるのか示されたい。 右質問する。 |