第219回国会(臨時会)
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内閣参質二一九第一二号 令和七年十月三十一日 内閣総理大臣臨時代理
国務大臣 木原 稔
参議院議長 関口 昌一 殿 参議院議員百田尚樹君提出医師の応招義務及び不法滞在の外国人の医療費支払等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員百田尚樹君提出医師の応招義務及び不法滞在の外国人の医療費支払等に関する質問に対する答弁書 一及び五について お尋ねについては、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十九条第一項の規定による診療に応じる義務の有無を判断するに当たっては、患者が外国人であるか、また、不法滞在者であるかにかかわらず、同項にいう正当な事由の有無を個々の事例に則して具体的に検討することを必要とするが、一般的には、御指摘の「治療費を支払うことができないこと又は不法滞在者であること」のみを理由として診療を拒むことはできない。なお、「応招義務をはじめとした診療治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年十二月二十五日付け医政発一二二五第四号厚生労働省医政局長通知)において、医師が「診療の求めに応じないことが正当化される場合の考え方」として、「どのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するか否かについて、最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)である」とした上で、「診療を求められたのが・・・診療時間外・勤務時間外であるか」及び「患者と医療機関・医師・歯科医師の信頼関係」についても「重要な考慮要素である」こと等と示しており、また、「応招義務に反するか否か」の「個別事例ごとの整理」として、「以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されない。しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される」ことや「外国人患者についても、診療しないことの正当化事由は、日本人患者の場合と同様に判断するのが原則である」こと等を示しているところである。 二について お尋ねについては、衆議院議員草川昭三君提出不法滞在の外国人の医療費支払等に関する質問に対する答弁書(平成三年四月十九日内閣衆質一二〇第八号)四についてで、「今後の研究課題である」と答弁した後、例えば、厚生省(当時)が設置した医療団体の代表や外国人に係る医療に関する専門的知見を有する有識者等で構成される「外国人に係る医療に関する懇談会」において、平成七年五月二十六日に報告書(以下「報告書」という。)が取りまとめられ、報告書において、「不法滞在者の医療費未払問題」については、「外国人の滞在状況等については、かなりの地域差がみられ、問題状況も異なっている。地域によっては多くの外国人が居住し、あるいは地域の事業所で雇用されているところもある。この問題については、現に一部の地方公共団体において地域の実情に応じた取組みが行われているが、こうした取組みを行うことも一つの方法である。また、救急医療制度の円滑な運営を確保する観点から、国としても何らかの対応措置を検討する必要がある。この場合には、地域の実情に配慮して、地方における取組みを国が支援するという考え方を基本とするとともに、制度の濫用や不法滞在の定着の防止等を図る観点から、その範囲は緊急に必要とされる医療に止め、不法滞在外国人であることが判明した場合には、病状安定後は入国管理当局の適切な措置に委ねることのできる仕組みとしていく等の観点を踏まえて検討を行う必要がある」等と示されているところであり、厚生労働省において、これに沿って対応を検討し、実施してきたところである。具体的には、同省において、救急医療制度の円滑な運営を確保する観点から、「医療提供体制推進事業費補助金交付要綱」(平成二十一年五月十三日付け厚生労働省発医政第〇五一三〇〇一号厚生労働事務次官通知別紙)に基づく救命救急センター運営事業として、「救急医療施設運営費等補助金(救命救急センター運営事業)に係る事務処理について」(平成八年五月十日付け指第三二号厚生省健康政策局指導課長通知)等に基づき、公立を除く「救命救急センターにおいて」、「我が国の公的医療保険制度に加入していない」「重篤な外国人救急患者の救命医療を行い」、「患者又は患者の保証人に対し、最低四半期に一回の督促」をしても未収金を回収できない場合には、前年度の未収金のうち一定額を超える額に対して補助を行っている。 三について 御指摘の「治療費」の支払いについては、患者が不法滞在者であるか、また、診療を受ける時点で治療費を支払えるか否かにかかわらず、基本的には医療機関と患者の間の民法(明治二十九年法律第八十九号)上の債権債務関係として取り扱われるべき問題であるため、診療の申込みを受けた医療機関が患者に対して医療を提供し、当該患者がその費用を負担すべきものと考えるが、いずれにしても、御指摘の「治療費を支払えない不法滞在者」への対応については、二についてで述べたとおり、厚生労働省において対応しているところである。 四について お尋ねの「その責任を負うべき」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に未収金に相当する額を医療機関に支払うべきとの趣旨のお尋ねであるとすれば、報告書において、「外国人に係る医療機関の未収金について、公費で肩代りすることになれば、財政的な負担が増大するだけでなく、事実上、外国人は容易に無料で医療を受けられることとなるが、これが結果的には不法滞在の助長につながるおそれがあるほか、費用負担をしないで医療を受けることを目的として入国するという事態を招くのではないかという懸念がある」等とされているところであり、慎重な検討が必要と考えている。 なお、御指摘の「不法滞在者の発生」に関しては、令和七年五月に出入国在留管理庁が取りまとめた「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」に基づき、関係機関が緊密に連携を図り、不法就労者、不法滞在者等の取締り等に取り組み、退去強制令書が発付された者については速やかに送還する取組を進めている。 六について お尋ねの「移民」や「移民政策」という言葉は様々な文脈で用いられており、それらの定義に係るお尋ねについて一概にお答えすることは困難である。 その上で、政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない。 |