第219回国会(臨時会)
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質問第九〇号 日中平和友好条約に規定する「武力に訴えないこと」に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年十二月十七日 小西 洋之
参議院議長 関口 昌一 殿 日中平和友好条約に規定する「武力に訴えないこと」に関する質問主意書 日本国と中華人民共和国との間の平和友好条約(昭和五十三年条約第十九号。以下「日中平和友好条約」という。)第一条第二項は、「両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。」と規定する。 以下質問する。 一 我が国は、日中平和友好条約第一条第二項の規定により、中華人民共和国に対して集団的自衛権を行使することが禁止されているのではないか、政府の見解を示されたい。 二 日中平和友好条約第一条第二項の規定について、令和五年六月一日の参議院外交防衛委員会において、林芳正外務大臣(当時)は「国連憲章第二条三に言う紛争の平和的解決と同二条四に言う武力による威嚇又は武力の行使の禁止、これを確認したものでございます。」と答弁した。 また、平成二十七年八月二十六日の参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会において、岸田文雄外務大臣(当時)は、「国際法上、国連憲章二条四項によりまして、そもそも武力の行使というのは禁止されています。そして、その武力の行使を正当化する理由としまして国連憲章におきましては、五十一条において集団的自衛権と個別的自衛権、そして第七章によって集団的安全保障、この三つを挙げています。こうした理由によって武力の行使の違法性を阻却する、これが国際法のありようであります。」と答弁した。 これらの答弁を踏まえると、日中平和友好条約第一条第二項の規定により、全ての紛争について武力に訴えないこととされているが、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)で示された「武力の行使」の新三要件を満たす場合には、武力の行使の違法性が阻却され、国際法上の根拠が国連憲章第五十一条に規定する集団的自衛権となる「武力の行使」を行うことが認められることになるか、政府の見解を示されたい。 三 日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明について、日中国交正常化交渉当時の外務省条約課長であった栗山尚一氏の論文「日中国交正常化」(早稲田法学七十四巻四号(一九九九年))には、以下の記述がある。 「当時の衆議院の予算委員会において政府の統一見解として行われた大平外務大臣の答弁は、共同声明の日本政府の立場を繰り返した後に「したがって中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には中国の国内問題であると考えます。わが国としてはこの問題が当事者間で平和的に解決されることを希望するものであり、かつこの問題が武力紛争に発展する可能性はないと考えております」というものであり、さらに付け加えて「なお安保条約の運用につきましては、我が国としては、今後の日中両国間の友好関係をも念頭において慎重に配慮する所存でございます」と述べられている。この統一見解にある「基本的には」という文言には重要な意味が含まれており、要するに台湾の問題は、台湾海峡を挾む両当事者の間で話し合いで解決されるべきものであり、日本政府はこれに一切介入する意思はなく、当事者間の話し合いの結果台湾が中華人民共和国に統一されるということであれば、日本政府は当然これを受け入れるのであって(それが共同声明の意味である)、平和的に話し合いが行われている限りにおいてはこれは中国の国内問題であるということである。しかし、万々が一中国が武力によって台湾を統一する、いわゆる武力解放という手段に訴えるようになった場合には、これは国内問題というわけにはいかないということが、この「基本的には」という言葉の意味である。したがって日本政府の立場は、その後に続く「我が国としてはこの問題が当事者間で平和的に解決されるよう希望するもの」であるという部分を含め、全体としてこの統一見解によって示されていると理解すべきである。筆者は、この日本政府の立場は今日も変わっていないと考えている。」 政府は、「万々が一中国が武力によって台湾を統一する、いわゆる武力解放という手段に訴えるようになった場合には、これは国内問題というわけにはいかないということが、この「基本的には」という言葉の意味である。」という見解にあるのか、すなわち、これは政府見解と同じ考えを述べたものなのか。仮に、これが政府見解と同じ考えである場合は、その趣旨について具体的に説明されたい。 右質問する。 |