質問主意書

第219回国会(臨時会)

質問主意書

質問第八〇号

佐賀県警におけるDNA型鑑定に係る不正行為に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年十二月十七日

仁比 聡平


       参議院議長 関口 昌一 殿



   佐賀県警におけるDNA型鑑定に係る不正行為に関する質問主意書

 佐賀県警察本部(以下「県警」という。)は二〇二五年九月八日、科学捜査研究所(科捜研)の技術職員が二〇一七年六月から二〇二四年十月までの七年余りの間に担当したDNA型鑑定六百三十二件のうち百三十件に不正行為があった旨発表した(以下「本件不正行為」という。)。県警は、当該職員を懲戒免職とし、虚偽有印公文書作成・同行使、証拠隠滅の疑いで書類送検した。

 刑事事件の捜査、起訴、裁判が適正な証拠に基づいて行われなければならないことは近代市民法の鉄則である。虚偽証拠による裁判はそれ自体が再審事由に当たる。本件不正行為は、捜査機関が適正手続・デュープロセス保障(日本国憲法第三十一条)を乱暴に踏みにじり、いわゆる科学鑑定・科学捜査に対する信頼を根底から揺るがすものであり、到底許されない。

 それにもかかわらず、県警及び佐賀県公安委員会は、警察から独立した第三者委員会による再検証という当然の要求に背を向け、警察庁も同様に警察内部の特別監察を行うのみである。

 以上を踏まえて、以下質問する。

一 県警が不適切と判断しなかったその他十一件を含む六百四十三件について、警察庁が特別監察における確認作業が必要と判断した理由を示されたい。

二 警察庁が二〇二五年十一月二十七日に公表した特別監察の中間報告(以下「中間報告」という。)によれば、県警の「不適切と判断した百三十件の鑑定のうち十六件を検察に送致した」旨の当初の説明について、新たに九件の検察官送致が判明したという。佐賀県弁護士会は、「あえて隠ぺいしていたのか、あるいはあまりにも捜査・調査がずさんだったのか、そのどちらかしかない」と厳しく批判するが、そのとおりである。中間報告が、県警の当初発表と食い違う理由を示されたい。県警及び公安委員会の内部調査はどのように行われたか。特別監察でどのように新たな「九件」が判明したのか。

三 日本弁護士連合会は同年九月二十九日の会長声明において、本件不正行為が「事件の受理、終局処分及び被疑者・被告人の身体拘束の判断などに影響を与えた可能性」を指摘している。この点について、中間報告は、犯人を特定し検挙するための鑑定七十二件中、犯人を検挙している事件に関する鑑定三十八件について、「犯人であることを立証する証拠が対象職員による鑑定結果のみとなっているものは確認されず」としているだけであり、当該職員による不正鑑定が捜査方針や心証形成など捜査・公判においてどのような影響を及ぼしたかなど十分な検証が行われたとは到底言えない。当該職員による不正鑑定が「事件の受理、終局処分及び被疑者・被告人の身体拘束の判断」へ与えた影響について、今後どう調査するか。

四 日本弁護士連合会は前記三の会長声明において、「DNA型鑑定の結果を使用して取調べを行っていた場合には、取調べが違法と評価される可能性もある」と厳しく指摘している。県警において、二〇一七年六月から二〇二四年十月までの七年余りの間に、DNA型鑑定の結果を利用して行った取調べは何件あるか。そのうち、当該職員が行ったDNA型鑑定の結果を利用して行った取調べは何件あるか。

五 二〇二五年九月九日付けの佐賀新聞によれば、県警は「検察庁に確認し、裁判所の協力も得て精査した結果、公判には影響ないと判断している」と認識を示していた。しかし、中間報告によれば、一件は検察庁から家庭裁判所に送致されているところ、家庭裁判所からは「裁判官の判断に関わるものであることからお答えできないという理由で回答が得られなかった」としている。県警の説明は虚偽ではないか。どのような協力を得て、前記の認識を示したのか。

六 中間報告では、当該職員による鑑定結果について、「被疑者のDNA型(混合含む)の検出が書類等により確認されたもの」という記載があるが、その内訳が不明である。何件が混合だったか、どの事件の鑑定が混合だったか明らかにされたい。

七 県警における二〇一七年六月から二〇二四年十月までのDNA型鑑定結果は、警察庁が運用するDNA型記録検索システムに何件登録されたか。そのうち、当該職員が関与したDNA型鑑定結果は何件登録されたか。

八 中間報告でも、警察が「第三者の立場」とする公安委員会が関与した調査でも重大な誤りがあることは明らかである。内部調査に信憑性はない。透明性を持った第三者による再検証が必要ではないか。

九 公益財団法人日弁連法務研究財団の研究「刑事手続における科学的鑑定に関する法規制について」は、「担当検察官から鑑定内容について質問され、内容の修正を求められることもある」、「捜査側からの圧力によってときに作為的な鑑定がされることがある」と厳しく指摘している。県警において、二〇一七年六月から二〇二四年十月までの七年余りの間に、科捜研職員の鑑定に対し、警察官や検察官が内容の修正を求めた件数は何件か。そのうち、当該職員の鑑定に対し、警察官や検察官が内容の修正を求めた件数は何件か。

十 前記九の研究は、「科学的証拠を争う最も有効な方法は、再鑑定をすることである。」とし、「鑑定資料が捜査機関に独占され、ときに全量消費されるという問題」を指摘している。県警において、二〇一七年六月から二〇二四年十月までの七年余りの間に、DNA型鑑定資料が全量消費された件数は何件か。そのうち、当該職員が行ったDNA型鑑定資料が全量消費された件数は何件か。

十一 鑑定資料が全量消費されてしまうと、再鑑定による検証は不可能である。そのため、鑑定結果及び検査時の生データの双方を検証することが重要である。二〇一七年六月から二〇二四年十月までの七年余りの間に、県警の科捜研職員が行ったDNA型鑑定について、鑑定結果及び検査時の生データは何件保管されているか。そのうち、当該職員が行ったDNA型鑑定について、鑑定結果及び検査時の生データは何件保管されているか。

十二 各都道府県警においては、鑑定結果及び検査時の生データを何年保存することとしているか。

十三 DNA型鑑定資料のずさんな管理については、これまでも問題となってきた。一九九〇年の足利事件では、警察庁科学警察研究所のDNA型鑑定によって無期懲役が確定したが、二〇〇九年の再審段階での再鑑定によって同科警研のDNA型鑑定の誤りが明らかとなった。二〇一〇年には、警察庁が管理するDNA型データベースに誤った情報が登録されており、神奈川県警が容疑者として逮捕状と家宅捜索令状を取った男性が、実際には事件と無関係の別人であった事態も招いた。科学鑑定においても、二〇一二年には和歌山県警科捜研の化学科研究員が、交通事故における繊維・塗膜片の鑑定結果報告に過去の鑑定資料のきれいな分析データの波形図を流用して書類を偽造したほか、七事件計八件の鑑定結果を捏造し、虚偽公文書作成・同行使などで有罪となった。この事件の判決では、「警察幹部の評価を得るための偽造であり、職場環境にも問題がある」と指摘されている。

 これら科学鑑定とりわけDNA型鑑定をめぐって続発する事件の重大性を政府はどう認識しているか。幾度も是正通達を出しながら事件が繰り返される理由を示されたい。県警のみならず、全国の都道府県警、科捜研全体に対する調査が必要ではないか。

十四 前記九の研究は、「証拠の収集、保管、鑑定の過程で何が行われているのか不透明なまま科学的証拠が作成されており、それがそのまま有罪の証拠となっている。検証に足る資料も残されていないため、実効的な反証も困難である。」と厳しく指摘し、捜査機関から独立した「証拠の収集、保管、鑑定を担う第三者機関の設立も検討すべき」と提言している。この提言に対する政府の認識を示されたい。

  右質問する。