質問主意書

第219回国会(臨時会)

質問主意書

質問第七三号

難民認定を受けたトランスジェンダー当事者の在留カードの性別記載変更に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年十二月十六日

ラサール石井


       参議院議長 関口 昌一 殿



   難民認定を受けたトランスジェンダー当事者の在留カードの性別記載変更に関する質問主意書

 ジェンダーアイデンティティや性的指向を理由とする迫害を出身国で受けた者が、日本に逃れて難民申請をする事案が増えている。法務省出入国在留管理庁(以下「入管庁」という。)は二〇二三年三月、「難民該当性判断の手引」を公表し、「性的マイノリティであることに関連する迫害」及び「ジェンダーによる差別的取扱いに関連する迫害」を難民認定の判断要素として明示した。しかし、難民認定を受けたトランスジェンダー当事者(出生時に外性器等の外見的特徴に基づいて割り当てられた性別とジェンダーアイデンティティが一致しない者)が、日本で在留カードの性別記載を変更できない問題が発生している。

 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号。以下「性同一性障害特例法」という。)第三条では、「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている」等に該当する性同一性障害者の請求により、家庭裁判所は「性別の取扱いの変更の審判をすることができる。」としている。また、第四条では、性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、戸籍における性別の記載を変更することができ、これをもって性別の変更が公証されたこととなる。しかし、戸籍を持たない者は、医師による性同一性障害又は性別不合の診断を受け、ホルモン投与又は外科的処置による体つきの変化があっても、在留カードの性別記載を変更する法的手段を持たない。このため、職場や地域社会において、性自認と在留カードの性別記載の不一致を理由とした差別的取扱いや不利益を受ける事例が生じている。例えば、トイレ・更衣室などの利用や雇用契約書・健康保険証の性別欄の記載に困難が生じている。このような事態が積み重なり、雇用の継続が困難になるケースが報告されている。

 前記のとおり、政府は「性的マイノリティであることに関連する迫害」及び「ジェンダーによる差別的取扱いに関連する迫害」を難民認定の判断要素と明示している。また、我が国は、難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)に加入している。そのため、政府は、トランスジェンダー当事者がジェンダーによる差別的取扱いを受けないように制度を改善する責務を負っていると考える。在留カードの性別記載の変更をめぐる制度的空白を放置すれば、難民保護の実効性が損なわれるとの問題意識から、以下質問する。

一 在留カードに性別を記載する法的根拠を示されたい。

二 在留カードに記載することができる性別の種類を示されたい。

三 性同一性障害特例法に定める性別の取扱いの変更の審判に係る請求権について、在留カードを身分証明書とする者への適用又は準用を検討したことがあるか示されたい。検討したことがある場合、検討の経過を具体的に示されたい。

四 在留カードを身分証明書とする者が医師による性同一性障害又は性別不合の診断を受けた場合、これを根拠に在留カードの性別記載の変更を家庭裁判所又は入管庁に請求することは可能か、政府の認識を理由とともに示されたい。

五 難民認定されたトランスジェンダー当事者の在留カードの性別記載をジェンダーアイデンティティに基づくものとする運用に変更することについて、政府の見解を示されたい。また、この点について、カナダ、オーストラリア、ドイツ等で導入されている制度運用をどのように把握しているか、政府の認識を示されたい。

六 難民認定された性的マイノリティ当事者に対する差別防止及び合理的配慮に関する研修やマニュアル作成について、公共職業安定所や地方公共団体の就労支援窓口等における実施状況を示されたい。

七 身分証明書の性別記載をジェンダーアイデンティティに合致するものに変更できないことは、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約・ICCPR)第二十六条や難民条約第一条、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)及び性的指向と性同一性に関わる国際人権法の適用に関する原則(ジョグジャカルタ原則)等の趣旨に反するおそれがあると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。