質問主意書

第219回国会(臨時会)

質問主意書

質問第五二号

東京外かく環状道路の事業再評価に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年十一月二十六日

山添 拓


       参議院議長 関口 昌一 殿



   東京外かく環状道路の事業再評価に関する質問主意書

 国土交通省関東地方整備局事業評価監視委員会(以下「監視委員会」という。)は二〇二五年十月九日及び二十七日、東京外かく環状道路(関越自動車道~東名高速道路間。以下「外環」という。)に関する事業再評価を行った。国土交通省が所管する公共事業のうち、事業採択後も継続中の事業については五年ごとに事業再評価を行うことになっており、外環の事業再評価は二〇二〇年九月以来となる。関東地方整備局、東日本高速道路株式会社及び中日本高速道路株式会社(以下「三者」という。)が監視委員会に提出した資料(以下「提出資料」という。)によれば、事業費は前回の事業再評価時の約二兆三千五百七十五億円から約四千五十億円増え、約二兆七千六百二十五億円となった。これは、二〇〇九年の事業化当初の事業費一兆二千八百二十億円の二倍を超える金額である。一方、前回一・〇一であった費用便益比は今回一・二となり、監視委員会は審議の結果、事業継続を了承した。

 前回の事業再評価直後の二〇二〇年十月、東京都調布市内において外環のシールドトンネル工事を原因とした陥没・空洞事故が発生した(以下「陥没事故」という。)。今回示された事業費には、陥没事故を受けた補償費用や地盤補修工事費などが含まれておらず、増額分を過少に見積もっていると考える。また、外環整備による便益を過大に評価した結果として、費用便益比が前回を上回ったと考える。

 陥没事故により東名側からの地下本線掘進工事は停止されたままであり、二〇二二年二月には東京地方裁判所が同工事の差止めを命じる仮処分決定を行っている。事業の先行きが全く見通せない中、ばくだいな事業費をつぎ込み、いたずらに継続することは許されず、事業は中止すべきである。

 以上を踏まえて、以下質問する。

一 陥没事故への対応及び対策のための費用について

 1 提出資料によれば、今回の事業費には陥没事故への対応及び対策のための費用(以下「対応費用」という。)が盛り込まれていない。対応費用にはどのような費用が含まれるのか、費目を列挙されたい。また、今回の事業費に対応費用を盛り込まなかった理由を示されたい。

 2 対応費用について、国土交通省は、発注者・東日本高速道路株式会社及び受注者・鹿島建設株式会社を代表者とする共同企業体(JV)との間で協議中としている。協議の状況や見通しを示されたい。また、協議に当たり、発注者側は受注者側が対応費用を全額負担すべきと考えているか、それとも、発注者側が一部を負担すべきと考えているか、いずれか示されたい。

 3 対応費用について、これまでに要した総額及び年度ごとの額・費目を示されたい。また、総額及び年度ごとの額・費目について、負担者ごとの内訳を示されたい。

 4 適正な事業再評価をするためには、対応費用について、暫定的であっても総額、負担者及び負担額の見通しを明らかにすべきと思料するが、政府の見解を示されたい。

 5 対応費用については、事業全体を見れば、その負担者にかかわらず事業に要したものであると言える。事業を再評価し、継続するか否かを判断する際には、その全額を事業費として考慮すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

二 事業費増加の要因等について

 1 提出資料は、事業費増加の要因として材料単価・労務費の上昇など六つの項目を示すとともに、それらによる事業費の増加額を示している。六つの項目及び増額分の内訳を詳細に示されたい。

 2 提出資料は、材料単価・労務費の上昇について、「更なる費用増加の可能性がある。」としている。材料単価・労務費の上昇について約千七百億円と試算した根拠を示されたい。

 3 地中拡幅部について、前々回(二〇一六年)の事業再評価の際には東名JCTの構造変更に伴う事業費の増額分として約四百九十億円を計上し、前回の事業再評価の際には中央JCTの断面形状・工法変更等に伴う事業費の増額分として約五千三百六十億円を計上している。

 東京外環トンネル施工等検討委員会が二〇一六年三月二十四日に公表した「地中拡幅部(中央JCT、青梅街道IC)の工法の考え方まとめ」には、「中央JCT南、中央JCT北及び青梅街道ICの地中拡幅部は、東名JCT部と比較して、地山の透水性が高く、地山の自立性が低い地盤での施工となるため、より技術的難易度の高い施工が求められることも確認された。これに伴い、所要のコスト、工期の増加が見込まれる」との記載がある。青梅街道ICの地中拡幅部についても、工法等の変更によって費用の増額が見込まれるか示されたい。費用の増額が見込まれる場合、今回の事業再評価に当たって同増額分を計上しなかった理由を示されたい。

三 完成年度を二〇三〇年度としていることについて

 1 提出資料では、便益の算出に当たり、完成年度を二〇三〇年度としている。前回の事業再評価時も完成年度は二〇三〇年度としていた。しかし、陥没事故により東名側からの本線掘進工事は五年以上停止しており、陥没事故前後において完成年度を同一時期とするのは非現実的である。二〇三〇年度に完成できるとする場合、工程の具体的な見通しと根拠を示されたい。

 2 提出資料では、前回の事業再評価時における四点の付帯意見のうち、「①早期の完成と供用に努めること。」に対する対応状況として、「東名側シールドトンネル工事において生じた、陥没・空洞事故を受け現在地盤補修を行っていること(中略)や、他のシールドトンネル工事や地中拡幅工事においても安全を最優先にした施工が必要であることから、現時点において全体事業工程を正確に把握することは困難な状況。」としている。この認識と完成年度を二〇三〇年度としたことは矛盾していると思料するが、政府の見解を示されたい。

 3 完成年度を二〇三〇年度以降とする場合、便益発現は後年度にずれる。社会経済状況の将来的な見通しを考慮すれば便益が減少する一方、工期の長期化による費用の増大が見込まれるが、政府の認識を示されたい。

 4 根拠が不明確な完成年度に基づく費用便益分析によって示された数値は虚構にすぎない。このような数値に基づき、費用便益比が前回の事業再評価時より改善したとする今回の結果は、事業の実態を全く反映していないと思料するが、政府の認識を示されたい。

四 走行時間短縮便益について

 1 提出資料における便益の積算では、走行時間短縮便益、走行経費減少便益、交通事故減少便益のうち、走行時間短縮便益が全体の約九割と圧倒的な比重を占めている。また、走行時間短縮便益は、「新設・改築道路(十六・二キロメートル)」、「主な周辺道路(四百三・二キロメートル)」、「その他道路(二万七十一・一キロメートル)」の走行時間費用を基に算出されるが、その他道路による走行時間短縮便益が全体の約五十四パーセントを占めている。しかし、その他道路の名称・区間や選定理由などは明らかにされておらず、「その他道路を恣意的に設定することで便益を過大に推計している」との指摘がある。その他道路のうち、外環から最も遠方に位置する道路の名称、区間、距離及び所在地を示されたい。また、その他道路に含まれる全ての道路の名称、区間、距離及び所在地を示されたい。

 2 提出資料は、バックデータを含む分析結果を整理した表を示すのみであり、費用や便益の具体的な算出方法、計算過程などを明らかにしていない。二〇二五年九月十八日に改定された「国土交通省所管公共事業の再評価実施要領」では、事業再評価を実施する目的を「公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため」としている。透明性の向上を図る観点から、費用や便益の具体的な算出方法、計算過程を示されたい。

 3 外環の費用便益分析について、分析業務を外部に依頼している場合、発注・契約先の名称、業務名、契約日、契約額、業務の履行期間、成果物の名称を示されたい。

五 陥没事故による住民の被害状況等について

 国土交通省道路局・都市局が二〇二五年八月に公表した「費用便益分析マニュアル」によれば、費用便益分析について、「現時点における知見により、十分な精度で計測が可能でかつ金銭表現が可能である、「走行時間短縮」、「走行経費減少」、「交通事故減少」の項目について、道路投資の評価手法として定着している社会的余剰を計測することにより便益を算出する。」としている。しかし、陥没事故による住民の被害状況など、マイナスの便益については何ら評価されていない。また、事業再評価に当たり、提出資料には陥没事故の概要や原因、地盤補修の状況等は記されているものの、住民の被害状況、要望等は記されていない。事業再評価では、事業の進行や結果としてもたらされるマイナスの便益や住民の被害状況・要望等についても評価の対象とすべきと思料するが、政府の見解を示されたい。

六 地中拡幅部の設計について

 1 提出資料は、地中拡幅部について「中央JCTは詳細設計中」、「地中拡幅を含む青梅街道ICについて設計中」としているが、前回の事業再評価の際、中央JCTについては、「北側は平成三十一年二月、三月に詳細設計を契約。南側は令和元年九月、十月に詳細設計を契約」としていた。青梅街道ICについては、国土交通省が「詳細設計をしている段階」との説明を繰り返している。中央JCT、青梅街道ICの地中拡幅部の設計について、現在の状況及び完了の見通しを示されたい。

 2 前々回の事業再評価時の三者の資料において「世界最大級の難工事」とされた複数の地中拡幅部について、詳細設計が未完成である状況は、設計や工事が困難であることを示していると思料するが、政府の見解を示されたい。

七 工事差止めの仮処分決定等について

 1 前述の東京地方裁判所による工事差止めの仮処分決定は、事業の進捗に関する前回の事業再評価以降の極めて大きな動きである。しかし、提出資料には一切言及がない。言及がない理由を示されたい。

 2 提出資料中、事業の進捗に係る記載は、「東名側については平成二十九年二月にシールドマシンが発進し、約四・四キロメートル、大泉側についても平成三十一年一月にシールドマシンが発進し、約四・三キロメートル掘進中。(令和七年七月末時点)」、「東名側本線トンネル (南行)の直上にて令和二年十月に陥没・空洞事故が発生し、現在地盤補修等を実施中。」のみであり、陥没事故により東名側本線トンネル工事が停止し続けている事実に関する記載は全くない。事業再評価に当たり、事業の進捗に関する重要な事実の説明が欠落していることについて、政府の認識を示されたい。

八 東京都の意見について

 1 提出資料には東京都の意見が記載されている。東京都から意見を聞く際、事前に三者の資料等を提供し、事業費の大幅な増額について説明したか。また、対応費用が含まれていないこと、完成年度の根拠が不明確であることについて、事前に説明したか示されたい。

 2 提出資料によれば、東京都は、「事業費については、都の負担増とならない」よう求め、「住民の不安払拭に向けた丁寧な説明や、きめ細かな対応を実施されたい。」としている。これらの要望にどのように対処するか示されたい。

  右質問する。