質問主意書

第219回国会(臨時会)

質問主意書

質問第八号

日本各地における再エネ開発への反対運動及び戦略的環境アセスメントの法制化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年十月二十一日

山本 太郎


       参議院議長 関口 昌一 殿



   日本各地における再エネ開発への反対運動及び戦略的環境アセスメントの法制化に関する質問主意書

 再生可能エネルギー(以下「再エネ」という。)開発をめぐり、住民や環境保護団体の反対などにより事業計画が中止になった例は数多くある。

大手総合商社の双日は二〇二三年六月十七日、北海道の小樽市と余市町にまたがる国有林で計画していた「(仮称)北海道小樽余市風力発電所」の建設を中止すると発表した。この発表に先立ち、小樽市の迫俊哉市長が「市民の総意として本事業計画を是認することはできない」と臨時会見で反対を表明し、北海道の鈴木直道知事も「地域の理解が得られていない」と定例会見で指摘した。

 国内風力発電大手のユーラスエナジーホールディングスは二〇二三年十月十日、青森県の八甲田周辺で計画していた風力発電事業を撤回すると発表した。青森県及び青森市や十和田市など六市町が水源や景観への影響を懸念して撤回を要求する中、同社は「地元の同意がないままの計画推進は適切でない」と判断したと報じられている。

 再エネ発電のENEOSリニューアブル・エナジーは二〇二五年八月八日、岡山県鏡野町の標高約千二百メートルの尾根沿いに最大二十五基の風車を設置する計画の中止を瀬島栄史町長に報告した。二〇二六年以降の着工を目指し、国内最大級の風力発電事業となる計画だったが、地元の住民団体が景観を損なうなどとして、中止を求める請願を町議会に提出し採択されていた。

 大阪ガスのグループ企業であるDaigasガスアンドパワーソリューション株式会社は二〇二五年八月十九日、採算性の確保が難しいとして北海道苫小牧市及び厚真町の勇払原野に風力発電施設を建設する計画の中止を発表した。当初、十基の風車を建設する計画が示されていたが、日本野鳥の会や地元の自然保護団体は、タンチョウなどの希少な野鳥が風車に衝突したり、生息できなくなったりするおそれがあるとして撤回を求めていた。

 自然電力は二〇二五年九月四日、岩手県大船渡市三陸町吉浜などで進めていたメガソーラー事業の中止を発表した。予定地における生態系への影響などをめぐり住民の間で賛否が分かれていた中、同社は、環境への負荷を減らすために当初予定していた荒金山におけるパネル設置を断念したものの、最終的には事業全体を中止とした。

 北海道は二〇二五年九月二日、釧路市の釧路湿原南部におけるメガソーラー建設計画について、開発面積が〇・五ヘクタール以上の場合に必要となる知事の許可を得ないまま開発を進めていたとして、日本エコロジーに対し工事中止を求める勧告を出した。同社には今後、開発した土地を元に戻すか、知事に開発許可を申請するかの対応が求められる。同社の松井政憲社長は九月九日、「かなり投資しており、立ち止まることはできない。市と協議して進めたい」と工事を中止しない意向を表明した。他方、工事の中止を求める署名が、二〇二五年十月十七日時点で十七万筆を超えている。このメガソーラー建設工事現場の近くにある猛禽類医学研究所の斉藤慶輔代表は「野生動植物が被る影響が事前にしっかり調査されていない。現地調査に基づいた環境影響評価は必須であり、工事に当たり義務化する法整備が急務ではないか。自然環境や野生生物は国民共有の財産。あしき前例をつくるわけにはいかない」と指摘する。

 このような再エネ開発の事業者と自治体や地域住民との対立を事前に防ぎ、地域の環境保護と再エネ推進の両立を図る観点から、私は「戦略的環境アセスメント」の法制化を求め、令和七年六月十二日の参議院環境委員会において環境影響評価法の一部を改正する法律案(第二百十七回国会閣法第五一号)に対する修正案を提出した。

 中央環境審議会が公表した「今後の環境影響評価制度の在り方について」(平成二十二年二月二十二日)によれば、戦略的環境アセスメントとは、「本来、個別の事業に先立つ「戦略的な意志決定段階」、すなわち、個別の事業の実施に枠組みを与えることになる計画(上位計画)、さらには政策を対象とする環境影響評価」である。

以上を踏まえて、以下質問する。

一 再エネ開発の事業中止は、原発を除く再エネ導入と環境保全との両立を図る観点から問題があると考えるが、政府の見解を示されたい。問題がないと考える場合、その理由を示されたい。

二 再エネ開発の事業中止の根本的な原因は、戦略的環境アセスメントが法制化されていないことにあると考えるが、政府の見解を示されたい。根本的な原因が異なると考える場合、政府の考える根本的な原因及び同原因に対する対策を示されたい。

三 二〇二五年六月十二日の参議院環境委員会において、私は環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)の制定から約三十年経過しているが、戦略的環境アセスメントが法制化されていない点を指摘した後、「三十年やって、まだ知見を収集する段階なんですか。これ、時間たち過ぎているな、もう今の制度でほぼ十分だなというお考えだということですか。」と質疑した。これに対して浅尾慶一郎環境大臣は、「現在、複数の国において戦略的環境影響評価に係る法的な規定が導入されていますが、各国の規定や制定形式は異なり、その対象となる計画、プログラムや要求するプロセスも国によって異なると承知しており、我が国においては我が国の実情に応じた制度の設計が必要だと考えています。」と答弁した。

 再エネ開発の事業者と自治体や地域住民との対立が生じている我が国の実情に応じて、早急に戦略的環境アセスメントの法制化に着手すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、この実情以上に考慮すべきものがある場合、具体的に示されたい。

四 浅尾環境大臣は二〇二五年六月十二日の参議院環境委員会において、「我が国における戦略的環境影響評価の在り方や対象とすべき計画等について更に検討する場合には、当該検討に係る国家戦略等の政策や計画に基づき行われる事業に関連する個別法令の内容などを踏まえて、関係省庁とも連携しつつ慎重に検討を進めていくべきであると考えておりまして、引き続き、更なる知見の収集に努めてまいります。」と答弁した。

 戦略的環境アセスメントの必要性は、環境影響評価法制定時の附帯決議において指摘されているが、同法制定から約三十年が経過してもなお法制化できていない。法制化に関する検討が遅いと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 戦略的環境アセスメントの法制化に向けた計画及びその期限を示されたい。

  右質問する。