質問主意書

第219回国会(臨時会)

質問主意書

質問第五号

地方公共団体による介護職員の直接採用に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年十月二十一日

塩村 あやか


       参議院議長 関口 昌一 殿



   地方公共団体による介護職員の直接採用に関する質問主意書

 都道府県が第九期介護保険事業計画(二〇二四年度~二〇二六年度)の介護サービス見込み量等に基づき推計した介護職員の必要数は、二○二六年度が約二百四十万人、二○四○年度が約二百七十二万人であり、二○二二年度の介護職員数約二百十五万人と比較すると、二○二六年度に約二十五万人、二○四○年度に約五十七万人が必要となる見込みである。一方、二○四○年には、六十五歳以上の高齢者数がピークを迎える。また、生産年齢人口の減少が見込まれることから、介護人材確保に向けた対策が喫緊の課題となっている。

 また、「二○四○年に向けたサービス提供体制等のあり方について、高齢者等に係る施策や、他の福祉サービスも含めた共通課題等の検討を行うため、「二○四○年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会」が開催され、二〇二五年七月二十五日に「二○四○年に向けたサービス提供体制等のあり方に関するとりまとめ」(以下「とりまとめ」という。)が公表された。とりまとめでは、「国や地方における介護人材確保に向けた取組」として、「介護人材確保は最大の課題であり、(中略)近年の物価高や賃上げに対応し、全産業平均の動向も注視した上で、賃上げや処遇改善の取組を推進していくことが必要である」と指摘されている。

 こうした状況に対応する方策として、一部の有識者は、特に不足が深刻であるヘルパーを念頭に、介護職員を賃金水準が高く身分も安定している公務員として採用することで、「介護職員は低賃金」というイメージの払拭や地方の人口流出の防止につながると指摘している。

 以上を踏まえて、以下質問する。

一 介護職員に安定した賃金水準を保障し、不足が見込まれる介護人材を確保するため、地方公共団体が介護職員を直接採用するという方策は今後の実施に向けて検討されるに値すると考えるが、政府の見解を示されたい。

二 参議院厚生労働委員会(二〇二一年四月八日)において、訪問介護職員を公務員化することに関する質疑に対し、政府は、持続可能性の観点から考えると、一部の地方公共団体では可能かもしれないが、一般化は難しい旨答弁した。これは、全国の地方公共団体で一般化するに際して必要となる財源確保の持続可能性を勘案した答弁と考えるが、介護職員を公務員化する場合の課題を詳細に示されたい。

三 地方公共団体が介護職員を直接採用する方策を独自に採った場合、政府が財政的支援を行う考えはあるか示されたい。また、政府として財政的支援を行う考えがない場合、地方において介護人材が不足する状況から脱却を図り、介護人材の定着・確保により安定的な介護サービス提供体制を整備するための方策を具体的に示されたい。

四 地方から都市部への若者の流出に関して、「地方創生二・〇基本構想」(二〇二五年六月十三日閣議決定)では、若者にも選ばれる地方をつくるため、十年後に目指す姿として、「若者が地方に残りたい(中略)と思うことができる。また、地方に魅力的な学び場、働き場があり、若者が地方で学びたい、働きたいと思うことができる」と示されている。地方公共団体が介護職員を直接採用する方策を採った場合、採用された介護職員は地方公共団体職員と同様の給与体系で処遇されると考えられるため、安定した給与水準が担保されると考える。若者に選ばれる地域づくりを進めるため、前記の方策は、地方における安定的な雇用の創出という観点からメリットがあると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 「二○二四年「老人福祉・介護事業」の倒産、休廃業・解散調査」(東京商工リサーチ)によると、二○二四年の介護事業者の倒産が過去最多の百七十二件に達し、業種別では「訪問介護」が最多となった。現在、民間の営利法人が介護サービス事業所の経営主体の多くを占めており、当該調査結果は、雇用の安定性という観点で、介護職員の将来に不安を与えると考える。地方公共団体が介護職員を直接採用した場合、一般職の地方公務員同様の身分保障が行われることで、雇用先の倒産を始めとする将来への不安を払拭することが可能になると考えるが、政府の見解を示されたい。

六 経済産業省が公開した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」によると、介護離職や介護発生に伴う物理的、精神的負担等によって引き起こされる労働生産性の低下(経済損失額)は、二○三○年には、約九兆円に上る見込みとされる。地方公共団体が介護職員を直接採用する方策を採ることで、地方における介護職員が確保され、遠方に住む親等の介護に起因する労働生産性の低下や介護離職の発生による損失を減少させることが可能になると考えるが、政府の見解を示されたい。

七 介護保険制度導入以前の措置制度下では、国・地方公共団体に採用された介護職員は、国・地方公共団体の一般職員に準ずる給与・退職金等を支払う旨の通知(昭和四十六年七月十六日社庶第一二一号)に基づき給与等が保障された。また、社会福祉法人に採用された介護職員も国・地方公共団体に採用された介護職員に準ずる給与等が保障された。給与水準の保障は、介護職員の安定的な確保に寄与するものであったと考える。介護サービスの主体を担う事業者が少ない地方公共団体においては、措置制度下のように国・地方公共団体の一般職員に準ずる給与等を保障した上で地方公共団体等が介護職員を採用する方策を再度取り入れる余地があると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。