質問主意書

第218回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一八第二〇号
  令和七年八月十五日
内閣総理大臣 石破 茂


       参議院議長 関口 昌一 殿

参議院議員ラサール石井君提出「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」に基づく強制送還の実態に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員ラサール石井君提出「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」に基づく強制送還の実態に関する質問に対する答弁書

一及び三について

 お尋ねのような形での統計をとっておらず、お答えすることは困難である。

二について

 前段のお尋ねについては、「強制送還の判断基準」の意味するところが必ずしも明らかではないが、退去強制令書を発付するに当たっては、出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。以下「入管法」という。)第二十四条各号に掲げる退去強制事由のいずれかに該当する疑いのある外国人について、入国審査官による審査のほか、当該外国人の請求に基づく特別審理官による口頭審理、異議の申出に基づく法務大臣の裁決を経て慎重に判断することとしており、退去強制令書が発付された者(以下「被退去強制者」という。)については速やかに送還することとしている。

 後段のお尋ねについては、被退去強制者が難民認定手続中である場合は、その者が入管法第六十一条の二の九第四項各号のいずれかに該当しない限り、同条第三項の規定により送還を停止するものとされており、また、被退去強制者の送還先については、入管法第五十三条第三項に基づき、いわゆるノン・ルフールマンの原則が適用されることとなり、お尋ねの「手続の公正性」は確保されているものと考えている。

四について

 入国警備官は、被退去強制者を速やかに送還する義務を負っており、かつ、行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)上、処分又は裁決の取消訴訟等を提起したとしても、裁判所が執行停止決定をしない限り、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げないとされているところ、難民不認定処分を受けた被退去強制者は、送還前に、難民不認定処分及び退去強制令書発付処分の取消訴訟等を提起し、裁判所に退去強制令書に基づく執行の停止を申し立てることが可能であり、「係争中の難民申請者を強制送還することは、日本国憲法が保障する裁判を受ける権利の侵害に当たる」とは考えていない。

五について

 お尋ねの「親と引き離されない権利」については、児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号。以下「条約」という。)第九条1について、我が国は、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言する」との解釈宣言を行っており、お尋ねの「難民申請中の子供のいる家族又はその親のみを強制送還すること」が同条1に違反するものではないと考えている。

 お尋ねの「国外に連れ去られない権利」について、条約第十一条は、「児童が不法に国外へ移送されることを防止・・・するための措置を講ずる」と定めているところ、お尋ねの「強制送還」は、法令に基づいて行うものであり、同条に違反するものではないと考えている。

 お尋ねの「難民の子供が守られ支援を受けられる権利」について、退去強制手続の目的は、被退去強制者を確実かつ迅速に送還することであるところ、条約第二十二条は、「適当な保護」及び「適当な措置」をとると規定するにとどまり、右に述べた目的から行うお尋ねの「強制送還」がなされたとしても、同条に違反するものではないと考えている。

 お尋ねの「教育を受ける権利」について、条約第二十八条に規定する「教育についての児童の権利」は絶対的なものではなく、これに対する合理的な制限は許容されると解されており、仮に、お尋ねの「強制送還」により教育を利用する機会等が制限されたとしても、同条に違反するものではないと考えている。