質問主意書

第217回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一七第二四六号
  令和七年七月一日
内閣総理大臣 石破 茂


       参議院議長 関口 昌一 殿

参議院議員浜田聡君提出高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員浜田聡君提出高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する再質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、先の質問主意書(令和七年四月八日提出質問第九二号。以下「前回質問主意書」という。)二でお尋ねのあった「薬剤保険給付の在り方の見直し」に関する質問と解すれば、先の答弁書(令和七年四月十八日内閣参質二一七第九二号。以下「前回答弁書」という。)二についてにおいては、御指摘の「主要論点」等の設定も含め、今後具体的な検討を進めていくこととしていたことから、「「現時点の検討状況」及び「今後の検討スケジュール」については、現時点で具体的にお答えすることは困難である」と答弁したものである。

二の1及び2について

 お尋ねの「政策根拠として用いられてきた経緯」については、例えば、令和六年四月二日の参議院厚生労働委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「学術的にも、長瀬式に代わる計算式や分析手法が提示されているわけではございません。」と答弁しているとおりである。

 お尋ねの「定義」及び「どのような理論的前提又は実証分析に基づいて導出されたものか」については、前回答弁書三の1及び2についてで述べたとおりである。

 お尋ねの「数式」については、平成二十三年十一月九日に開催された第四十八回社会保障審議会医療保険部会の資料五「高額療養費の見直しと受診時定額負担について」において、「医療費水準yを給付率xの関数として示す式(長瀬式)」として、「一般制度」については「y=0.475x2+0.525」、「老人保健」については「y=0.499x2+0.501」と示しているとおりである。

 お尋ねの「根拠文書の所在」の意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「長瀬効果」は、長瀨恒藏著「傷病統計論」において示された研究に基づき、同資料に記載の「一般制度では平成九年九月改正の実績、老人保健は昭和五十八年二月改正~平成九年九月改正の実績」から推定したものである。

二の3について

 お尋ねの「「長瀬効果」の政策根拠としての正当性の検証」については、厚生労働省において、例えば、令和五年九月二十九日に開催された第百六十八回社会保障審議会医療保険部会の資料五「後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について」、令和六年八月三十日に開催された第百八十一回同部会の資料二「後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について」等により、患者負担の見直しの影響について、制度改正に向けた検討において試算した「長瀬効果」と実際に観測された「長瀬効果」とを比較することを通じて行っているところである。

二の4の前段について

 御指摘の「医療経済学上のエビデンスレベル」については、例えば、令和七年二月二十一日の衆議院予算委員会において、福岡厚生労働大臣が「長瀬効果の金額につきましては、個々の医療や見直しの内容を踏まえて分析されるものではなく、実効給付率が変化した場合に経験的に得られている計算式に機械的に当てはめて、単純に医療費の増減効果を試算したものです。」と答弁しているとおりである。

二の4の後段について

 御指摘のように欧米諸国においては様々な研究等があるものと承知しているが、例えば、令和六年三月五日の参議院予算委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「ランド実験、これ物すごく面白い実験ですけれども、千九百七十一年から千九百八十二年までの間に、大体五つぐらいのグループで負担の割合を分けて、それでそれぞれについての受診行動を測定しています。それによって、その負担を増やせば確実に受診行動に影響が及ぼされて、それによってその受診が抑制されるということもはっきりそこの中で数字が出ております。しかし、問題は、日本は既にもう皆保険制度ができていて、そこで一定の負担の中で実際に受診行動というものが既に形成されている中で、そう簡単にそのランドの実験を日本の場合に当てはめて比較分析するということは実はかなり難しい」と答弁しているとおりであり、また、その他の研究等に関しても、同年四月二日の参議院厚生労働委員会において、同大臣(当時)が「学術的にも、長瀬式に代わる計算式や分析手法が提示されているわけではございません。」と答弁しているとおりであり、御指摘のような「整合性・一貫性」において問題が生ずるものではないと考えている。

三について

 二で御指摘の「長瀬効果」については、二の3についてでお答えしたとおり、窓口負担割合の見直しの影響について、御指摘のように「推計と実績」の「検証」を行ってきており、また、令和六年四月二日の参議院厚生労働委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「学術的にも、長瀬式に代わる計算式や分析手法が提示されているわけではございません。」と答弁しているとおりであり、御指摘のように、特定の「検証」をしていないことのみをもって、「政策形成の信頼性が根底から揺らぐ」とは考えていない。

四について

 お尋ねについては、御指摘の「質問で引用した資料中」では、「高額療養費見直しによる財政影響と保険料軽減効果」を「推計」している旨示した一方で、前回答弁書四の1についてにおいては、前回質問主意書四の1でお尋ねのように「金銭的な理由による受診抑制」を「推計したもの」ではない旨答弁したものであり、「用語の不整合」との御指摘は当たらない。

五の1及び2について

 お尋ねについては、前回答弁書四の2の前段についてで述べたとおり、令和七年一月二十三日に開催された第百九十二回社会保障審議会医療保険部会の資料二「高額療養費制度の見直しについて」(以下「令和七年一月二十三日医療保険部会資料二」という。)において、「平均的な収入を超える所得区分については、平均的な引き上げ率よりも高い率で引き上げる一方で、平均的な収入を下回る所得区分の引き上げ率は緩和するなど、所得が低い方に対して一定の配慮を行う。」と示した考え方について、同部会において確認された上で、この考え方に基づき、令和七年一月二十三日医療保険部会資料二において、「十パーセント」については「前回見直しを行った約十年前からの平均給与の伸び率が約九・五~約十二パーセントであることを踏まえ、平均的な所得層の引き上げ幅を十パーセントに設定。」と、「二・七パーセント」については「引き上げ率は年金改定率と同じ」と示したとおり、設定したものである。

五の3について

 お尋ねの趣旨が明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「所得階層別の引上げ率の設定」に当たっては、五の1及び2についてでお答えしたとおり、社会保障審議会医療保険部会において確認された考え方に基づき、設定したものである。

六について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「所得区分別の支給額」については、前回答弁書六の1及び2の前段についてにおいて、後期高齢者医療制度に係るものについてお答えしたところであり、また、令和七年一月二十三日医療保険部会資料二においては、「所得区分別」に「現行制度における高額療養費の受給者数」を示しているところであり、さらに、令和七年三月十四日の衆議院厚生労働委員会において、福岡厚生労働大臣が「今回の見直しに向けた議論の過程では、様々な立場の有識者で構成される専門の審議会医療保険部会におきまして、データ等に基づき四回の議論を行って決定をさせていただきました。」と答弁しているとおり、社会保障審議会医療保険部会において、複数のデータに基づき議論を行っていることから、特定のデータを把握していないことのみをもって、御指摘のように「重大な欠陥がある」及び「制度設計の前提が破綻している」ことになるとは考えていない。

七について

 御指摘のように「改革工程は不透明、政策根拠は不明確、用語の整合性が欠如し、負担の分布実態さえ把握していない状況」にあるとは考えておらず、したがって、御指摘のように「政策形成の正当性を著しく損なうものである」とは考えていない。