第217回国会(常会)
内閣参質二一七第一六三号 令和七年六月二十日 内閣総理大臣 石破 茂
参議院議長 関口 昌一 殿 参議院議員浜田聡君提出科学的評価が否定的である肺がん・胃がん検診への公的補助の見直しに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員浜田聡君提出科学的評価が否定的である肺がん・胃がん検診への公的補助の見直しに関する質問に対する答弁書 一の1について お尋ねの「研究や検討会資料」については、国立研究開発法人国立がん研究センター(以下「国立がん研究センター」という。)が作成した「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン二千六年度版」(以下「肺がん二千六年度ガイドライン」という。)及び「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン二千二十五年度版」(以下「肺がん二千二十五年度ガイドライン」という。)並びに厚生労働省老健局長が参集を求めて開催していた、医学の専門家等により構成される「がん検診に関する検討会」が平成二十年三月一日に取りまとめた「市町村事業における肺がん検診の見直しについて がん検診に関する検討会中間報告」(以下「中間報告」という。)がある。その上で、お尋ねの「エビデンス」に関しては、それぞれ、肺がん二千六年度ガイドラインにおいては、「日本で行われた五報の症例対照研究のうちの四報では、有意な肺がん死亡率の減少効果が示されており、残りの一報でも同様の傾向であった」と、肺がん二千二十五年度ガイドラインにおいては、「米国のPLCOにおいて胸部X線検査の前臨床期を考慮した追跡期間五―七年目の評価では肺がん死亡率減少効果が示唆され、肺がん死亡率減少効果が示された国内の症例対照研究と矛盾しない」と、及び中間報告においては、「胸部エックス線検査・・・による肺がん検診については、死亡率減少効果を示す相応なエビデンスがあ」るとされている。 一の2及び二の4について 市町村(特別区を含む。)が健康増進法(平成十四年法律第百三号)第十九条の二の規定に基づき実施する健康増進法施行規則(平成十五年厚生労働省令第八十六号)第四条の二第六号に掲げるがん検診(以下「がん検診」という。)については、平成十年度に国庫補助金等が一般財源化されており、地方自治体に対して、国庫補助金を交付していないため、お尋ねの「国庫補助金の総額」並びに「対象者数」、「費用対効果の試算結果」及び「施策評価」についてお答えすることは困難である。また、お尋ねの「実施件数」をがん検診において御指摘の「胸部X線検査」を受診した人数と解すれば、「直近五年間」の当該人数は、令和元年度が七百八十六万九千二百六人、令和二年度が六百五十九万三千五百二十八人、令和三年度が七百二十六万七千四百六十四人、令和四年度が七百四十二万四千二百九十七人、令和五年度が七百四十二万九千九百十四人である。 一の3について 御指摘の「Cochraneレビュー等」の具体的に指し示す範囲が必ずしも明らかではないが、平成二十五年に公表された「Cochraneレビュー」において、米国国立がん研究所が平成五年から平成十三年までの間に実施した「The Prostate, Lung, Colorectal, Ovarian(PLCO)Cancer Screening Trial」(以下「PLCO研究」という。)を基に、御指摘の「胸部X線検査による肺がん検診」は、肺がんの死亡率の減少効果がないと評価されていることは承知している。なお、PLCO研究については、肺がん二千二十五年度ガイドラインにおいて、「胸部X線検査の前臨床期を考慮した追跡期間五―七年目の評価では肺がん死亡率減少効果が示唆され、肺がん死亡率減少効果が示された国内の症例対照研究と矛盾しない」とされていると承知している。 一の4及び5について 一の2及び二の4についてで述べたとおり、御指摘の「補助」は行っていないため、当該補助を前提としたお尋ねについてお答えすることは困難である。なお、がん検診については、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(平成二十年三月三十一日付け健発第〇三三一〇五八号厚生労働省健康局長通知別添。以下「指針」という。)において、がんによる死亡率を減少させることについて信頼性の高い科学的根拠があると認められた検査を定め、その実施を推奨しているところ、御指摘の「胸部X線検査」については、一の1についてで述べたとおり、肺がん死亡率の減少効果があり、当該科学的根拠があると認められていることから、指針に定め、その実施を推奨しているものであり、現時点で、これを見直すことは考えていないが、いずれにせよ、肺がん検診の在り方については、引き続き、科学的根拠を踏まえつつ、適切に検討することとしている。 二の1について 御指摘の「比較評価」のうち、御指摘の「感度」については、厚生労働省健康局長(現在の厚生労働省健康・生活衛生局長)が参集を求めて開催している、医学の専門家等により構成される「がん検診のあり方に関する検討会」(以下「検討会」という。)が平成二十七年九月二十九日に取りまとめた「がん検診のあり方に関する検討会中間報告書~乳がん検診及び胃がん検診の検診項目等について~」において、「胃がん検診における胃内視鏡検査は、従来の胃部エックス線検査に比べ、感度が高い傾向にある」とされており、また、御指摘の「有害事象」は指針における「偶発症」と解すれば、国立がん研究センターが作成した「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン二千十四年度版」(以下「胃がん二千十四年度ガイドライン」という。)において、「内視鏡検査による偶発症の頻度はX線検査に比べて高い」とされている。御指摘の「特異度・検診精度」については「比較評価」を行ったことはなく、また、政府としてお尋ねの「比較評価を踏まえた」「分析」は行っていない。 二の2について 御指摘の「主力手法」の意味するところが必ずしも明らかではないが、がん検診については、指針において、がんによる死亡率を減少させることについて信頼性の高い科学的根拠があると認められた検査を定め、その実施を推奨しており、「胃部X線検査」については、胃がん二千十四年度ガイドラインにおいて、死亡率の減少効果が認められていることから、指針において、その実施を推奨しているところである。また、お尋ねの「高齢者における誤嚥・穿孔等のリスク」については、検討会が令和二年三月三十一日に取りまとめた「「がん検診のあり方に関する検討会」における議論の中間整理(令和元年度版)」において、「胃部エックス線検査の不利益については、高濃度バリウムの誤嚥や腸閉塞、腸管穿孔、・・・といった偶発症が起こることが指摘されている。これら偶発症の発生率は、・・・年齢が上がるにつれて増加する傾向がある。・・・年齢を踏まえたがん検診の不利益について考慮する必要性があると考えられる」とした上で、「がん検診の受診を特に推奨すべきと考える者」として「六十九歳以下」とされ、これを踏まえ、指針において、「胃部エックス線検査について」「受診を特に推奨する者」を「六十九歳以下の者」としている。その上で、指針において、当該者も含め、「がん検診の対象者自身が、がん検診の利益・不利益を考慮した上で受診を検討することが望ましい。・・・検診の実施に当たっては、対象者に対してがん検診の利益・不利益の説明を行うこと」としているところである。 二の3の前段について お尋ねの「実施件数」をがん検診において「胃部X線検査及び内視鏡検査」を受診した人数と解すれば、「直近十年」の当該人数は、「胃部X線検査」については、平成二十六年度が三百六十七万五百十五人、平成二十七年度が三百六十八万八千九百二十五人、平成二十八年度が三百二十九万五千九百十八人、平成二十九年度が三百四万三百十人、平成三十年度が二百八十三万千七百六十九人、令和元年度が二百五十八万六千七百九十一人、令和二年度が百九十一万六百六十人、令和三年度が二百十六万三千百三十七人、令和四年度が二百十万六千九百十八人、令和五年度が百九十九万六千六百八十三人であり、「内視鏡検査」については、平成二十八年二月四日に検査項目として指針に追加されたため、「直近十年」の当該人数は把握していないところ、平成二十八年度以降の当該人数は、平成二十八年度が七十八万二千六百十四人、平成二十九年度が八十九万八千五百二十八人、平成三十年度が百四万二千七百五十三人、令和元年度が百十一万千二百七十七人、令和二年度が九十二万六千四百二十三人、令和三年度が百十五万八百七十九人、令和四年度が百十八万五十五人、令和五年度が百二十五万九千四百九十七人である。 二の3の後段について お尋ねについては、二の3の前段についてでお答えしたとおり、御指摘の「胃部X線検査」を受診した人数は減少傾向にあり、御指摘の「内視鏡検査」を受診した人数は増加傾向にあるが、この増加が、「胃部X線検査から内視鏡検査への移行」によるものか否かについては把握していない。 二の5について 二の2についてで述べたとおり、がん検診については、指針において、がんによる死亡率を減少させることについて信頼性の高い科学的根拠があると認められた検査を定め、その実施を推奨しているところ、「胃部X線検査」と「内視鏡検査」については、胃がん二千十四年度ガイドラインにおいて、いずれも死亡率減少効果が認められており、これを踏まえて、指針においてこれらの実施を推奨しているところであり、現時点において、御指摘の「胃部X線検査から内視鏡検査への移行を推進する方針」はない。 三の1の前段について 御指摘の「最重要指標として評価しているか」の意味するところが必ずしも明らかではないが、二の2についてで述べたとおり、がん検診については、指針において、がんによる死亡率を減少させることについて信頼性の高い科学的根拠があると認められた検査を定め、その実施を推奨しており、当該科学的根拠があると認められた検査を「導入・継続」すべきと考えている。 三の1の後段について がん検診を含めがん対策に係るお尋ねの「政策評価」については、「がん対策推進基本計画」(令和五年三月二十八日閣議決定)において、「ロジックモデルを活用した科学的・総合的な評価を行」うとし、がん検診については、「第四期がん対策推進基本計画のロジックモデル 確定版」(令和五年八月九日付け健が発〇八〇九第一号厚生労働省健康局がん・疾病対策課長通知別紙一)において、「検診受診率の向上」を「中間アウトカム」、「検診がん種の早期がん割合の増加」及び「検診がん種の進行がん罹患率の減少」を「分野別アウトカム」、「検診がん種の死亡率減少」を「最終アウトカム」とし、取り組むこととしている。なお、御指摘の「市民満足度」については「指標」としていない。 三の2について お尋ねについては、政府として、がん検診については、がんの早期発見・早期治療による対象集団全体の死亡率の減少等の利益が、検査の偽陽性(がんでないにもかかわらずがんと診断することをいう。)や過剰診断(生命予後を脅かしたり、症状をもたらしたりしないようながんを診断することをいう。)等の不利益を上回ることが科学的根拠に基づいて明らかな検診方法を推奨しているところ、この旨を記載したリーフレットの作成やホームページでの公表等を通じて、周知・啓発等を図っており、引き続き、こうした取組を進めてまいりたい。 |