第217回国会(常会)
内閣参質二一七第一五五号 令和七年六月二十日 内閣総理大臣 石破 茂
参議院議長 関口 昌一 殿 参議院議員浜田聡君提出政府の新型コロナウイルス感染症対策の検証に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員浜田聡君提出政府の新型コロナウイルス感染症対策の検証に関する再質問に対する答弁書 一の1について お尋ねについては、御指摘の「行政指導」であると認識している。 一の2について 御指摘の「事実上の私権制限」との表現については、政府として定義して用いているものではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である。 二の1から3までについて お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、一連の新型コロナウイルス感染症対応における御指摘の「情報収集や分析」の「体制」については、例えば、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第十二条に基づく医師の届出により感染症に関する情報の収集を実施してきたほか、地方自治体に対し、「新型コロナウイルスに関する検査対応について(協力依頼)」(令和二年一月二十三日付け厚生労働省健康局結核感染症課事務連絡)により、感染症の発生を予防し、又は感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするため、国立感染症研究所(現国立健康危機管理研究機構。以下同じ。)が令和二年一月二十一日に作成した「新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(暫定版)」を踏まえ、「積極的疫学調査」の実施により、「患者(確定例)」に係る「基本情報・臨床情報・推定感染源・接触者等必要な情報を収集」するよう依頼し、また、「新型コロナウイルス感染症における積極的疫学調査について(協力依頼)」(令和二年三月十六日付け健感発〇三一六第三号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)により、「各患者のSARS-CoV-2ゲノム情報を踏まえた実地疫学調査を実施」するため、「SARS-CoV-2陽性と判定された方の情報及び検体」を提出するよう依頼し、さらに、「新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査における検体提出等について(要請)」(令和三年二月五日付け健感発〇二〇五第四号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)により、同研究所で開発された変異株の疑いを確認するためのPCR検査を全国の地方衛生研究所において実施する準備を進めるとともに、当該実施の結果等を情報提供するよう依頼すること等を通じて、地方自治体等から得られた情報を基に、「全国の発生状況」を「把握」するなど、御指摘の「情報収集や分析」等を実施してきたところである。 二の4の前段について 御指摘の「変異株(第三波)」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国立感染症研究所が、令和二年十二月二十八日に公表した資料「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について(第三報)」において記載されている「VOC-202012/01」であると解すれば、同資料において「感染性の変化に最も影響を与えうると考えられるN501Y変異を認める株は、日本において見つかっていなかったが、十二月二十五日、英国からの帰国者の空港検疫の検査陽性者からVOC-202012/01が検出された」とされているとおり、御指摘の「二〇二〇年十月から十一月における感染拡大」は、「VOC-202012/01」によるものではないと考えており、御指摘のように「二〇二〇年十月から十一月における感染拡大が変異株(第三波)によるもの」とは認識しておらず、また、「関係者間」でも「共有」していなかったものと認識している。 二の4の後段について 政府として、御指摘のように「第三波の感染拡大は、国民の行動変容に対する気の緩みである」との評価は行っていないが、令和二年秋頃から令和三年初めまでにかけての感染拡大については、その要因の一つとして、令和三年二月二日に開催された第二十三回新型コロナウイルス感染症対策分科会の資料「緊急事態宣言下での対策の徹底・強化についての提言(案)」において、「年末の忘年会などを控えるよう、国や自治体が繰り返し呼びかけたものの、人々にそのメッセージが十分には伝わらなかったこと」が挙げられているところである。 二の5について 新型コロナウイルス感染症への対応においては、専門家の意見を伺いながら、その都度得られた最新の科学的知見等に基づき対応してきたものと考えており、お尋ねについては一概にお答えすることは困難である。 三について お尋ねの「有識者会議報告書の内容も前提」の意味するところが必ずしも明らかではないが、「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」が令和四年六月十五日に取りまとめた「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」において、「新型コロナウイルス感染症への対応は、つまるところ、感染拡大防止と社会経済活動の両立をどう図るか、ということが一大テーマである。新型コロナウイルス感染症の特性が明らかでなかった初期段階から、アルファ株、デルタ株、そして現在主流となっているオミクロン株(BA2等含む)へと変化する中で、このテーマについての政府の取組も変化してきた。(中略)有効なワクチンと治療薬が開発・実用化されるまでの間、各国とも感染拡大防止対策と社会経済活動の再開をそれぞれ、どのタイミングでどのように行うか悩みながら取り組んだ」とされており、これも参考にしながら、「新型インフルエンザ等対策推進会議」が令和五年十二月十九日に取りまとめた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画の改定に向けた意見」(以下「取りまとめ」という。)において、御指摘の「指摘」が記載されたものと考えている。 四の1について お尋ねについて、取りまとめにおける「強い行動制限」については、特定の内容を念頭においたものではないと考えている。 四の2について 御指摘の「行動制限」が具体的に指し示すものが明らかではないため、お答えすることが困難である。なお、例えば、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号。以下「特措法」という。)第二条第四号に規定する新型インフルエンザ等緊急事態措置については、新型インフルエンザ等対策推進会議基本的対処方針分科会等において議論され、政府対策本部(特措法第十五条第一項に規定する政府対策本部をいう。以下同じ。)において決定され、行われたものであるが、御指摘の「人権」に関しては、例えば、令和三年七月八日に開催された第十一回同分科会において「緊急事態宣言など、感染症対策というのは、我々の社会の非常に根本的な価値である営業や経済活動、あるいは色々な活動の自由を制限するものであって、本来は侵害されることがあってはならない自由権をあえて制限しているということだと思います。それはもちろん国民の命を守るために必要であるからやってはいるわけですが、確かに現在の私たちの社会の非常に根本的な価値をある意味で毀損している。そういう重大性に対する認識が十分かということを私たちは顧みなければいけないのではないか」との基本的人権の尊重に係る議論があったところである。 四の3について お尋ねの「両論併記で正確な情報を国民に伝えることができていた」の意味するところが必ずしも明らかではないが、新型コロナウイルス感染症に関連する情報の発信については、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和二年三月二十八日新型コロナウイルス感染症対策本部決定、令和二年四月十六日変更。以下「基本的対処方針」という。)において、政府は、「国民に対する正確で分かりやすく、かつ状況の変化に即応した情報提供や呼びかけを行い、行動変容に資する啓発を進めるとともに、冷静な対応をお願いする」等とし、また、地方公共団体、医療関係団体、感染症に係る危機管理の専門家等を構成員とする「新型インフルエンザ等対策有識者会議新型コロナウイルス感染症対策分科会」等でも御議論いただき、その都度得られた最新の科学的知見等に基づき、情報発信の内容を検討した上で、その内容と提供手段の充実を可能な限り図りながら、適切に行っていたものと考えている。 四の4について お尋ねの「情報操作や認知操作」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、政府としては、新型コロナウイルス感染症に関連する情報の発信については、専門家の意見も伺いながら、その都度得られた最新の科学的知見等に基づき、情報発信の内容を検討した上で、適切に行っていたものと考えており、また、お尋ねの「第三者機関等による検証」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、地方公共団体、医療関係団体、感染症に係る危機管理の専門家等を委員とし、令和五年九月から開催していた「新型インフルエンザ等対策推進会議」において、新型コロナウイルス感染症への対応に関する国による情報提供・共有の課題等について議論が行われ、取りまとめにおいて、「その時点で把握できている科学的根拠に基づいた正確な情報を迅速に、かつ分かりやすく提供・共有すること等が重要である」とされたところである。 五の1及び3について 御指摘の「政治的判断」及び「科学的、合理的根拠」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「Go To トラベルの停止」の「判断」の「根拠」及び「理由」については、令和二年十二月十四日に開催された政府対策本部において、菅内閣総理大臣(当時)が「年末年始にかけてこれ以上の感染拡大を食い止め、医療機関などの御負担を軽減し、皆さんが落ち着いた年明けを迎えることができるよう、最大限の対策を講じることにします。(中略)年末年始において最大限の対策を採るため、今月二十八日から来月十一日までの措置として、GoToトラベルを全国一斉に一時停止することとします」と述べたとおりである。 五の2について お尋ねについては、民間団体の長の見解に関するものであり、政府としてお答えする立場にない。 五の4について 政府としては、五の1及び3についてで述べたとおり、御指摘の「Go To トラベルを停止する」理由を説明してきたところ、必ずしも御指摘のように「偏見を与えることになった」とは考えておらず、御指摘のように「改めて二〇二〇年十月からGo To トラベル停止までの経緯について検証する」予定はない。 五の5について 御指摘の「Go To トラベル」については、令和二年十二月二十八日から全国一律に「停止中」であるが、令和四年十一月八日の参議院国土交通委員会において、政府参考人が「全国旅行支援なんですけれども、新型コロナの感染状況に地域差があるということを勘案しまして、各都道府県におきまして感染状況を踏まえながら地域における需要喚起の取組を進めていただくということが重要だと考えています。このため、全国旅行支援の制度の骨格につきましては、国が一律に定めます。具体的な運用については、都道府県において地域の感染状況や需要動向に応じて柔軟に対応できる仕組みとしております」と答弁したとおり、国が実施主体となって行う御指摘の「Go To トラベル」ではなく、都道府県が実施主体となって行う全国旅行支援により、観光需要を喚起する取組を行ったところであり、また、我が国の観光需要は着実に回復している状況であることを踏まえると、御指摘の「Go To トラベル」によって旅行需要を喚起する必要がある状況とは考えておらず、お尋ねの「再開」を行うことは考えていない。 五の6について 御指摘の「移動制限」の指し示すものが必ずしも明らかではないが、例えば、基本的対処方針に基づく「都道府県をまたぐ移動」に係る御指摘の「制限」については、新型インフルエンザ等対策推進会議基本的対処方針分科会等において議論され、政府対策本部において決定され、行われたものである。なお、御指摘の「人権」に関しては、例えば、令和三年六月十七日の第十回新型インフルエンザ等対策推進会議基本的対処方針分科会において「「人流」という言葉を使っておりますけれども、イメージとして、夜の街に滞留をしている人流もあれば、宴会旅行で遠くに集団的に行く人流もありますし、もちろん生活に必要な移動もあったり、あるいは仕事の出張も人流ですし、冠婚葬祭で田舎に帰るのも人流と考えることができます。ここで抑制すべき「人流」について、少し整理する必要性もあるのではないか(中略)少しずつ必要な人流は緩和しながら、そのために必要な感染予防対策をしっかりやっていくというやり方が重要」との基本的人権の尊重に係る議論があったところである。 五の7について 御指摘の「移動制限を解除した時期は、諸外国と比べて一年から一年半遅れたが」の意味するところが明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「五類感染症に移行する」ことについては、令和五年三月三日の参議院予算委員会において、岸田内閣総理大臣(当時)が「専門家によるオミクロン株に関する病原性、感染力、変異の可能性等の評価、そして感染状況等も踏まえて総合的に判断し、五月八日から五類感染症に位置付けることを決定いたしました」と答弁しているとおりである。 六の1について 政府としては、御指摘の「運輸・観光・宿泊事業」も含め、「コロナ禍」における雇用の維持と事業の継続に向け、地方創生臨時交付金、持続化給付金、雇用調整助成金、株式会社日本政策金融公庫等による実質無利子・無担保融資等の支援等の様々な支援策を実施してきたところであり、特に、「運輸事業」に対しては地域公共交通の維持等の、「観光・宿泊事業」に対しては旅行に係る需要の喚起等の支援策を実施してきたところであるが、「コロナ禍」の後に「運輸・観光・宿泊事業」に係る需要の回復も見られることから、現時点においては、お尋ねのような「補償等」は想定していないが、引き続き、各事業の実施状況等について注視してまいりたい。 六の2の前段について お尋ねについては、例えば、税に係るお尋ねの「理由」は、令和三年三月十六日の衆議院財務金融委員会において、政府参考人が「納税猶予の特例でございますが、これにつきましては、売上げが減少しているにもかかわらず期限内に納税していただいている大多数の納税者の方々とのバランスのほか、消費税ですとか源泉徴収された所得税などの預り金的な性格を有する税が適用税額の約三分の二を占めている状況、こういったことを考慮いたしまして延長しないこととされたものでございます。ただ、この納税猶予の特例の終了後におきましても、新型コロナの影響等により納付困難な場合につきましては、既存の猶予制度を適用し、原則として一年間猶予するでありますとか、分割して納付していただくといったこともできることになってございます。その際に適用される延滞税の率につきましても本年分から年一パーセントに引き下げられておりまして、担保についても、担保提供が明らかに可能な場合を除いて不要とする取扱いがなされているところでございます。今後とも、納税者の方々の資金繰りや収支の状況など、個々の実情を十分に伺いながら、既存の納税猶予制度による柔軟な対応に努めてまいりたいと考えております」と答弁したとおりであり、また、社会保険料に係るお尋ねの「理由」は、令和七年四月十五日の参議院厚生労働委員会において、福岡厚生労働大臣が「新型コロナウイルス感染症への対応におきましては、イベントの自粛要請であったり入国制限措置など、感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減した状況を踏まえまして、税制と同様に無担保かつ延滞金なしで一年間厚生年金保険料等の納付を猶予できる特例措置を設けていたものでございます。その上で、現在も厚生年金保険料等を納付することによりまして事業の継続が困難になるおそれがある場合には、厚生年金保険料等の納付であったり換価を猶予するなど、事業主の皆様の状況に応じた納付をしていただくための仕組みがございます」と答弁しているところ、こうした既存の仕組みを活用していくこととし、当該特例措置については延長を行わないこととしたものである。 六の2の後段について 六の2の前段についてで述べたとおり、既存の仕組みを活用することとしており、御指摘のように「コロナ対策で人為的に損害」が生じたとは考えておらず、このことを前提としたお尋ねにお答えすることは困難である。 |