質問主意書

第217回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一七第六六号
  令和七年三月二十八日
内閣総理大臣 石破 茂


       参議院議長 関口 昌一 殿

参議院議員浜田聡君提出情報流通プラットフォーム対処法における表現の自由の侵害リスクに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員浜田聡君提出情報流通プラットフォーム対処法における表現の自由の侵害リスクに関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかでないが、お尋ねの「表現行為の事前差止め」が大規模特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和六年法律第二十五号)による改正後の特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成十三年法律第百三十七号。以下「法」という。)第二条第十四号に規定する大規模特定電気通信役務提供者をいう。以下同じ。)が講ずる送信防止措置(法第二条第九号に規定する送信防止措置をいう。以下同じ。)のことを意味するのであれば、法において、大規模特定電気通信役務提供者は、法第二十六条第一項各号のいずれかに該当する場合のほか、自ら定め、公表している基準(以下「実施基準」という。)に従う場合に限り、送信防止措置を講ずることができることとされており、どのような情報について送信防止措置を講ずべきかについての判断は大規模特定電気通信役務提供者が自ら定めた実施基準に基づき自ら行うことを前提とした仕組みとなっている。このため、大規模特定電気通信役務提供者がいかなる場合に送信防止措置を講ずべきかは、個別の事案に応じて大規模特定電気通信役務提供者が自ら判断すべき事柄であると考えている。

二及び三について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかでないが、御指摘の「本法第二十六条に関するガイドライン(案)」は、法において、法第二十六条第一項第二号に該当する場合には、実施基準に従う場合でなくとも、送信防止措置を講ずることができることとされていることを踏まえ、同号に該当する場合を例示するために策定したものであり、大規模特定電気通信役務提供者がいかなる場合に送信防止措置を講ずべきかを法における義務の解釈として示すために策定したものではない。このため、御指摘の「本法第二十六条に関するガイドライン(案)」を踏まえて作成された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第二十六条に関するガイドライン」(令和七年三月十一日制定。以下「法第二十六条に関するガイドライン」という。)において、大規模特定電気通信役務提供者がいかなる場合に送信防止措置を講ずべきかを法における義務の解釈として示すことは今後も予定していない。

四について

 法第二十六条に関するガイドラインのうち差止請求に関する記述である「1―2―1.人格権侵害その他法令の規定に基づく差止請求」の箇所は、被害者に人格権に基づく差止請求権があることが裁判上認められた場合には、法第二十六条第一項第二号に該当し、大規模特定電気通信役務提供者は、実施基準に従う場合でなくとも、送信防止措置を講ずることができる旨を示したものである。御指摘の「北方ジャーナル事件の最高裁判決」には、人格権に基づく差止請求権が判例上認められていることを示すために言及しているものであり、当該箇所は、いかなる場合に人格権に基づく差止請求権が認められるかを示そうとしたものではない。このため、法第二十六条に関するガイドラインの作成に当たって御指摘の「表現行為の事前差止めに関する下級審の裁判例」を参考にした事実はなく、御指摘の「表現行為の事前差止めの可否について認められた裁判例及び認められなかった裁判例の概要」を法第二十六条に関するガイドラインに掲載する考えはない。

五の1及び3について

 お尋ねの「本法ガイドラインの作成に当たり、憲法で保障された表現の自由を侵害するというリスクに対して、政府が行っているリスクマネジメント」の意味するところが必ずしも明らかでないが、大規模特定電気通信役務提供者は、侵害情報調査専門員(法第二十四条に規定する侵害情報調査専門員をいう。以下同じ。)に調査を行わせた場合においても、最終的には、自らの責任において、法第二十三条の規定に基づき、侵害情報(法第二条第六号に規定する侵害情報をいう。以下同じ。)の流通によって権利が不当に侵害されているかどうかについての調査を行い、法第二十五条の規定に基づき、侵害情報送信防止措置(法第二条第八号に規定する侵害情報送信防止措置をいう。以下同じ。)を講ずるかどうかを判断することとされている。加えて、大規模特定電気通信役務提供者を始めとする特定電気通信役務提供者(法第二条第四号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。)は、侵害情報送信防止措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、法第三条第二項各号に該当するときは、賠償の責めに任じないこととされており、大規模特定電気通信役務提供者が侵害情報に係る調査及び判断を適切に行わず、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がないにもかかわらず侵害情報送信防止措置を講じた場合には、同項第一号の規定による損害賠償責任の制限を受けられないこととなる。このため、大規模特定電気通信役務提供者は、これらの規定に基づき、必要な法律上の知見も踏まえ、表現の自由にも配慮しつつ、適切に侵害情報に係る調査及び判断を行うものと考えている。

五の2について

 御指摘の「本法の省令及びガイドラインに関する考え方」を踏まえて策定された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン」(令和七年三月十一日制定)において、侵害情報調査専門員については、「我が国の法令や文化的・社会的背景に明るい人材である必要がある。具体的には、法令の知識又は文化的・社会的背景の理解の観点から、弁護士等の法律専門家や日本の風俗・社会問題に十分な知識経験を有する者(自然人に限る。)が考えられる。」と記述されているところである。このため、侵害情報調査専門員は、必ずしも弁護士等の法律専門家に限られない。