質問主意書

第217回国会(常会)

答弁書

内閣参質二一七第二九号
  令和七年二月二十五日
内閣総理大臣 石破 茂


       参議院議長 関口 昌一 殿

参議院議員浜田聡君提出社会保険料の事業主負担に関する政府見解の整合性に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員浜田聡君提出社会保険料の事業主負担に関する政府見解の整合性に関する質問に対する答弁書

一及び三について

 御指摘の「賃金・雇用環境に与える影響」及び「政府として調査や分析を行った」の具体的に指し示す範囲が必ずしも明らかではないため、それらの「調査や分析」について網羅的にお答えすることは困難であるが、例えば、御指摘の「社会保険料の事業主負担分」が「賃金」「に与える影響」に関しては、平成十七年度厚生労働科学研究費補助金による「税制と社会保障に関する研究」において行われた、「社会保険料の事業主負担は本当に労働者が負担しているのか?」があり、同研究の「まとめ」においては、「社会保険料の事業主負担が実際には労働者によって負担されているとする標準的な経済学の主張が果たして成立しているのか、海外における実証分析を中心に既存研究のサーベイを行った。その結果、賃金低下や雇用量減少といった形での労働者への帰着の程度は、国や制度によって相当異なっていることが確認された。結果がばらつく理由としては、実証分析方法の違いという要素もあるだろうが、それ以上に一)各国の労働市場の柔軟性の違い、二)各制度の便益に対する労働者の評価の違い、が大きな要因となっていることが考えられる。(中略)日本における実証分析の数は未だ少ないが、今後日本でも、労働者のグループ属性によって、また制度によって帰着の程度が異なりうる可能性を考慮した分析が要請される。事業主負担に変わる手段が雇用に及ぼす影響はどうなのか、といった観点も重要となろう。」とされている。また、御指摘の「事業主負担分」が「雇用環境に与える影響」に関しては、社会保険の適用拡大により、社会保険料の「事業主負担分」も発生するところ、例えば、令和五年五月十六日に独立行政法人労働政策研究・研修機構が「「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(企業郵送調査)及び「働き方に関するアンケート調査」(労働者Web調査)結果」(以下「調査結果」という)を発表しており、調査結果によると、「常用雇用者百一~五百人企業の適用拡大(二千二十二年十月~)への対応状況」について、「要件を満たす短時間労働者(対象者)」が「いる」と回答した企業の割合は七十七・六パーセントとなっており、そのうち、「厚生年金・健康保険の新たな適用に伴う対象者との調整方針」について、「できるだけ、適用する」、「どちらかといえば、適用する」、「中立(短時間労働者の意向にまかせる)」、「どちらかといえば、適用しない」又は「できるだけ、適用しない」と回答した割合は、それぞれ五十五・一パーセント、七・六パーセント、三十四・三パーセント、〇・三パーセント及び〇・五パーセントとなっており、「中立(短時間労働者の意向にまかせる)」、「どちらかといえば、適用しない」及び「できるだけ、適用しない」の合計の割合は、三十五・一パーセントであるところ、それらの企業のうち、「厚生年金・健康保険の新たな適用を回避した(する)理由」について、「人件費の増加につながるから」と回答した割合は十・〇パーセントであったと承知している。

 また、厚生労働省の御指摘の「説明」に係るお尋ねの「具体的なエビデンス(調査・研究結果)」については、例えば、調査結果によると、「厚生年金・健康保険に加入できる条件の求人の受止め方」として、「厚生年金・健康保険に加入できる条件の求人の魅力度合い」について、「非常に魅力的だと思う」又は「どちらかといえば、魅力的だと思う」と回答した「短時間労働者」の割合は、それぞれ十五・五パーセント及び三十・二パーセントであり、その合計は四十五・七パーセントであった一方、「どちらかといえば、魅力的ではないと思う」又は「まったく魅力的ではないと思う」と回答した割合は、それぞれ十一・六パーセント及び八・五パーセントであり、その合計は二十・一パーセントであったとされていることが挙げられると考えている。

 その上で、政府としては、御指摘の「間接的に労働者に影響を与えている可能性」については承知しているものの、これらの調査結果等を踏まえると、お尋ねの「労働者の雇用形態(正規・非正規雇用)に与える影響」及び「企業経営や雇用に与える影響」について、一概に評価することは困難であると考えている。

二について

 国民負担率における負担については、令和五年四月二十四日の衆議院決算行政監視委員会第二分科会において、井上財務副大臣(当時)が、対国民所得比で算出される国民負担率に関し、「租税負担と社会保障負担の合計額が国民所得に占める比率のことを意味いたしますが、これらの公的負担は、家計のみならず、企業も負担しているところでございます」と答弁しているとおり、御指摘の「事業主負担分の社会保険料」は、企業の負担として国民負担率における負担に算入されているものであり、従業員に転嫁される性質のものとして算入されているものではなく、御指摘のように「矛盾している」とは考えていない。

 その上で、「政府内で統一した説明方針があるのか示されたい」とのお尋ねについては、御指摘のように「矛盾している」ことを前提としていることから、お答えすることは困難である。