第217回国会(常会)
質問第二四六号 高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する再質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月二十日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する再質問主意書 私が提出した「高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する質問主意書」(第二百十七回国会質問第九二号)に対する答弁書(内閣参質二一七第九二号。以下「答弁書」という。)において、高額療養費制度の見直し、特に、現役世代に対する自己負担上限額の引上げに関する改革工程、試算根拠、制度見直しによる影響推計並びに再分配効果の把握に関して、極めて不明確かつ整合性に欠ける答弁がなされている。 政府は「現時点で具体的にお答えすることは困難である」、「「学術的なエビデンス」の意味するところが必ずしも明らかではない」、「「推計したもの」ではない」、「「乖離はどの程度であったか」とのお尋ねについてお答えすることは困難である」などと繰り返し答弁しているが、これらの答弁は政策の信頼性と正当性を著しく損なうものであり、法治国家における説明責任を果たしているとは言い難い。特に、当該制度改正によって直接的な負担増となる中間所得層や就労世帯に対する財政影響、再分配の結果及び制度的整合性の検証を行わないまま、財政効果や制度改革の必要性のみを根拠に負担増を進めることは、政策形成過程の適正性を大きく損なうと考える。 以上を踏まえて、以下質問する。 一 改革工程及び検討状況に関する再確認について 答弁書の「二について」において、政府は「「現時点の検討状況」及び「今後の検討スケジュール」については、現時点で具体的にお答えすることは困難である」と答弁しているが、このような姿勢は行政計画として不適切であると考える。現在検討中の項目、主要論点、検討体制(所管部局及び構成)及び次回の公表予定時期を最低限明示すべきと考えるが、前記事項の明示が不可能である理由を具体的に示されたい。 二 「長瀬効果」に関する説明責任について 1 答弁書の「三の1及び2について」において、政府は「長瀬効果」について「「学術的なエビデンス」の意味するところが必ずしも明らかではない」と答弁している。「長瀬効果」の概念が政策根拠として用いられてきた経緯、定義、数式及び根拠文書の所在を明示されたい。 2 「長瀬効果」は、どのような理論的前提又は実証分析に基づいて導出されたものか、明確に説明されたい。 3 「長瀬効果」について、学会・研究機関での使用実績、査読付き論文での引用例等が確認できない場合、行政による恣意的な用語創出であると評価せざるを得ない。「長瀬効果」の政策根拠としての正当性の検証体制が政府内に存在するか明示されたい。 4 「長瀬効果」が示すとされる医療費自己負担と受診行動との関係性について、医療経済学上のエビデンスレベル(例:観察研究・自然実験・RCT・システマティックレビュー等の区分)を明らかにされたい。その上で、米国のRAND Health Insurance Experiment(一九七〇年代以降)や、OECD諸国における医療費の価格感応度研究等との整合性・一貫性に係る分析方法について、政府の見解を示されたい。 三 推計と実績の乖離に関する検証責任について 1 答弁書の「三の3について」において、政府は「「乖離はどの程度であったか」とのお尋ねについてお答えすることは困難である」と答弁している。巨額の公的資源を伴う制度設計において、推計と実績の照合と再評価が行われていないとすれば、政策形成の信頼性が根底から揺らぐと考えるが、政府の見解を示されたい。 2 前記三の1について、「どの推計がどの時期に用いられ、どのような乖離が生じたか」、「乖離要因の分析を行ったか」等、検証努力及び記録(報告書、議事録等)の有無を示されたい。ある場合、当該詳細を全て示されたい。 四 「試算」と「推計」の用語不整合について 答弁書の「四の1について」では、二千二百七十億円の削減効果についての質問に対し、「「推計したもの」ではない」と答弁しているが、質問で引用した資料中には「推計」という文言が使用されている。この用語の不整合について、政府内における用語の定義基準及び文書審査体制の有無を明らかにされたい。 五 引上げ率の算出根拠の不整合について 1 所得階層別の引上げ率の設定に当たり、平均賃金伸び率を根拠とするケース(十%)と年金改定率を根拠とするケース(二・七%)が混在しているが、異なる指標を適用した理由を示されたい。 2 前記五の1について、いずれの伸び率についても一貫して十年間の実績伸び率を採用しない理由を、政策的合理性を含め説明されたい。 3 前記五の1について、所得階層別の引上げ率の設定に当たり、それぞれの数値の伸び率はどのような経済モデル・所得分布・再分配効果分析に基づいて妥当とされたのか、具体的な数値根拠・シミュレーション手法・使用データを示されたい。 六 所得区分別の支給額等を「把握していない」とする答弁について 1 答弁書の「六の1及び2の前段について」において、政府は「「所得区分別」の支給額は(中略)網羅的にお示しすることは困難である」と答弁している。所得区分別の支給額を把握していないことは財政再分配効果の評価や政策のターゲティングにおいて重大な欠陥があることを意味すると考えるが、政府の見解を示されたい。 2 各階層別の支給実態・受給者分布等を把握していないとすれば、制度設計の前提が破綻していると考えるが、政府の見解を示されたい。 七 総括的見解について 前記のように、改革工程は不透明、政策根拠は不明確、用語の整合性が欠如し、負担の分布実態さえ把握していない状況において、国民に新たな財政負担を求める制度改正を進めることは、政策形成の正当性を著しく損なうものであると考えるが、政府の総括的見解を示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |