第217回国会(常会)
質問第二四四号 地方自治体と台湾の関係に係る政府の認識及び日台関係の在り方に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月二十日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 地方自治体と台湾の関係に係る政府の認識及び日台関係の在り方に関する質問主意書 鈴木史朗長崎市長は、令和七年八月九日開催予定の平和祈念式典において、台湾は招待や案内の「対象にはならない」と記者会見で明言した。台湾を排除する従来の方針を維持する意向が示されたことで国内外に大きな影響が及んでいると考える。これに対し、広島市は、同年八月六日開催予定の平和記念式典に際し、これまで対象外としていた台湾へ通知文を送る方針を示しており、誠実な対応として評価されている。長崎市の対応は、自由と民主主義を尊重する台湾の人々に対して大きな失望と不信感を与えるものであり、日台関係に悪影響を及ぼしたことは否めない。 本件について、台湾の「中央通訊社」は、令和七年五月十七日付の報道中、上畠寛弘神戸市会議員のX(旧Twitter)上の発信を取り上げた。上畠議員は、長崎市長による台湾排除の方針について、「国連に加盟していないことを理由に台湾を冷遇するのは、被爆地の市長として恥以外の何ものでもない。中国の顔色をうかがう者に平和を語る資格はない」旨厳しく批判している。地方議員の発信が台湾メディアに報道されるなど、当該問題は台湾側においても極めて高い関心を呼んでいる。 台湾は、我が国にとって自由、民主主義、法の支配といった基本的価値観を共有する極めて重要なパートナーである。また、台湾は、東日本大震災を始めとする災害時や感染症危機の際、官民を挙げて我が国に対し多大な支援を行ってきた。こうした経緯を踏まえ、今後更なる日台関係の強化と友好の深化を図ることが我が国の国益にも資するものと考え、以下質問する。 一 地方自治体である長崎市が主催する式典に、台湾政府の高官や官僚、台北駐日経済文化代表処の関係者を招待することは、法令、条約、政府方針又は日中共同声明上可能か示されたい。可能である場合、台湾政府の高官が式典に出席するに当たって日本政府は適切な入国許可を与えるのか、政府の見解を示されたい。 二 これまでも、地方自治体が台湾と接触することについて、駐日中華人民共和国大使館又は総領事館が、外務省を通さずに直接神戸市や鎌倉市を始め地方自治体へ抗議を行ってきた例があるとされるが、政府はその実態を把握しているか示されたい。また、これまでに地方自治体からこのような中国側の抗議に関して相談を受けた事例はあるか示されたい。ある場合、政府としてどのような対応を行ったのか、具体的に示されたい。 三 これまで日本政府は日中共同声明には法的効力を有しないとの見解を示しているが、現在も外務大臣、国土交通大臣も含め政府として同様の認識を有しているか示されたい。また、日中共同声明には法的効力がないという政府の立場を、地方自治体、国民、国際社会が誤解しないよう、明確に発信すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。 四 台北駐日経済文化代表処を始めとする日本に駐在する台湾日本関係協会の職員等(以下「当該職員等」という。)に対して、日本政府は、在留許可など何らかの便宜供与を行っているか示されたい。行っている場合、その具体的な内容を明らかにされたい。また、今後、これら実務機関の公用車に関して、駐日外国公館の車両と同様に、外務省による登録やナンバープレート発給に準じた措置を講ずるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。 五 当該職員等が、各省庁の庁舎内に入館すること、我が国の大臣、副大臣、大臣政務官、事務次官以下の職員が建物内外で接触することについて、政府として制限又は抑制を指示・通知しているか示されたい。また、指示・通知が存在する場合、当該文書の内容及びその理由や法的根拠も示されたい。 六 NHKは、令和七年五月八日十八時十五分に「長崎市長 被爆八十年の平和祈念式典にすべての国・地域を招待へ」とのタイトルの記事を掲載した。実際には台湾は招待対象から除外されていたにもかかわらず、「すべての国・地域を招待へ」と表現したことは事実に反し、公共放送として極めて不適切であり、台湾の存在と尊厳を無視した表現と言わざるを得ない。外務省でさえ台湾を「国」としては扱わない立場を取りつつも、独立したウェブページを設け「地域」として明確に取り扱っていることに照らしても、NHKの表現は不自然かつ一方的である。この件について、NHK長崎放送局や記事作成記者のみならず、編集責任者やNHK会長が訂正・謝罪を行うべきと考えるが、政府としてはNHKの対応に何ら問題はないと考えるか。政府の見解を示されたい。 七 日本政府は、現状は中華人民共和国政府を「中国唯一の合法政府」として承認しているが、台湾が中国の主権下にある、あるいは、台湾が中国に帰属するとの主張については、条約上も日中共同声明においても一切言及しておらず、日本政府としてこれを認め、法的保証については与えているものではないと理解してよいか。政府の明確な見解を示されたい。 八 外務省が令和四年度に台湾をめぐる課題を担当する「企画官」ポストを新設したことについては評価できるが、今後の台湾との関係に鑑みれば、一層の実務的連携の強化と友好の深化が必要であると考える。したがって、企画官よりも高位のポストを新設すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、日本政府は当該企画官ポストについて、現時点でどのようにその効果・成果を評価しているか示されたい。 九 現職の自衛官が日本台湾交流協会に出向している事実があるか明らかにされたい。また、日本政府の各省庁から日本台湾交流協会に出向している人数及び出身省庁の内訳を示されたい。さらに、日本政府と日本台湾交流協会との間における職員出向や人事交流に関する取決めがある場合、その内容を明示されたい。 十 グローバル化により犯罪に国境がなくなっている状況である。そのような中、国際刑事警察機構(ICPO)に台湾は加盟していないが、WHOと同様にオブザーバーとしてのICPOへの参加など、台湾の参画を政府は支持すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。また、台湾と日本の警察当局間において、ICPOにおける協力とは別に実務的な協力関係を構築すべきと考えるが、警察庁の見解を明らかにされたい。 十一 我が国が主導して成立した「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下「CPTPP」という。)」への台湾の参加については、CPTPPが全会一致原則を採用しているため、中国の政治的圧力により困難が予想される。しかし、そのような状況にあっても、日本は台湾のCPTPPへの参加実現に向けて主導的な立場を取り、最大限の努力をすべきと考えるが、政府の見解と具体的な行動方針を示されたい。 十二 CPTPPに関しては、中国が参加条件として求められる法制度や透明性の整備を満たしていないとする指摘が国際的にも多数存在する。したがって、日本政府としては中国のCPTPP加盟を認めるべきではないと考えるが、政府の見解を示されたい。 十三 日本政府は昭和四十七年に中国との国交を樹立したが、その際に台湾との国交を「断交した」とされる法的根拠は何か。いかなる法的行為に基づいて台湾との国交が消滅したと認識しているのか示されたい。 十四 台湾の国籍を有する者、すなわち台湾人が日本国籍を取得することは可能か。政府は、台湾人については「国籍を有する者」として取り扱っているのか、それとも「無国籍」として取り扱っているのか。また、台湾人が帰化申請を行った際に、台湾の国籍を放棄することなく日本国籍を取得することは、戸籍法その他の関係法令上問題ないか。以上に対する政府の実務的対応と見解を示されたい。 十五 外務省ホームページに掲載されている「日本と台湾との協力年表」については、台湾との実務的関係の可視化という観点から高く評価できるものである。しかし、当該年表の作成以降、日本台湾交流協会と台湾日本関係協会との間では、例えば法務・司法分野における交流と協力に関する覚書の締結など、新たな協力関係の構築が行われている。このような新たな進展を適切に反映するためにも、当該年表の更新を早急に行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。 十六 共同通信社は令和七年三月二十日、台湾の蔡英文前総統が退任後の令和六年七月、安倍晋三元内閣総理大臣の三回忌に合わせて来日を調整したが、当時の岸田政権が中国による日本産水産物の輸入停止措置の解除など、日中関係の改善に注力していた状況に鑑みて、蔡英文前総統の来日は中国側の反発を招き関係改善に悪影響を及ぼす可能性があると判断し、最終的に日本政府がこれを認めなかったと報道した。当該報道は事実か明らかにされたい。 十七 石破内閣の台湾に対する評価を示されたい。また、東日本大震災に際して台湾が官民を挙げて行った多大なる支援及び新型コロナウイルス感染症の世界的流行時において、我が国に対して実施された物資提供等の支援について、政府はどのように評価しているか、具体的に示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |