第217回国会(常会)
質問第二二二号 男性のDⅤ被害と自殺に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月十九日 石川 大我
参議院議長 関口 昌一 殿 男性のDⅤ被害と自殺に関する質問主意書 最近、男性のDⅤ(ドメスティック・バイオレンス)被害に関する報道等が増えている。男性のDⅤや性暴力による被害は性別役割や「男らしさ」に係る規範などの作用もあり潜在化しやすく、相談支援体制も整っていない。そのため、実態が明らかにされ、認識が高まり、取組が進むことは重要である。 しかし、報道、国会質疑、SNS等インターネット上の議論には、まだまだ表層的なものや誤りを含んだものが目立っている。特に、DV加害者には認知のゆがみがあり、加害を否認し、むしろ被害者意識を抱くことがあること、よって、男性のDV被害の訴えには加害者からのものが少なからず含まれることが看過されやすい。また、自殺統計を誤用した「DVを原因とする自殺は男性の方が多い」との主張があり、国会質疑や報道でも取り上げられている。これは、DV対策上も自殺対策上も問題のある主張である。 以上を踏まえて、以下質問する。 一 DV被害経験について、しばしば「女性の四人に一人、男性の五人に一人」という言い方がなされる。これは、内閣府「男女間における暴力に関する調査報告書」において「一、二度あった」又は「何度もあった」と回答した割合の合計に基づくものである。令和五年度調査における合計割合は女性二七・五パーセント、男性二二・〇パーセントであるが、「何度もあった」は女性一三・二パーセント、男性七・二パーセントと差が大きくなっている。「女性の四人に一人、男性の五人に一人」との表現ではDV被害の態様、程度、頻度及び影響を的確に捉えられない。例えば、政府も「令和三年版男女共同参画白書」において、「配偶者間における暴力の被害者の多くは女性」として、配偶者間における殺人・傷害・暴行事件数や警察における相談件数などを紹介している。「DVはジェンダーに基づく暴力(GBV)である」ということが基本認識、共通認識であり、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」もこの認識に立っているところ、政府もこれを共有しているということでよろしいか示されたい。 二 DV加害者は認知がゆがみ、加害を否認し、むしろ被害者意識を抱くということについては、令和六年常会における民法等改正案審議においても質疑答弁を通じて確認、共有がなされたところであるが(令和六年四月二十五日及び同年五月十四日参議院法務委員会)、DV被害を訴える男性には少なからずDV加害者が含まれていることは支援者、研究者等からも指摘されている。男性からのDV被害相談には、加害者に関する知見とスキルを有する相談員が応じることが望ましく、かつ、関係行政機関、民間支援団体、医療機関等との連携が欠かせないと考えるが、政府の見解を示されたい。 三 男性のDVや性暴力の被害は潜在化しやすく、また、相談をしても適切な対応を得られないことは少なくなく、そもそも官民問わず相談支援体制が整っていない。女性の被害に対する相談支援とは異なった難しさがある課題であるところ、政府として具体的にどのように施策を講じていくつもりであるのか明らかにされたい。 四 「DVを原因とする自殺は男性の方が多い」との主張は、厚生労働省・警察庁「令和五年中における自殺の状況」、「令和六年中における自殺の状況」に基づくものであり、複数回答である「自殺の原因・動機」の統計中「夫婦関係の不和(DV)」の回答数のみを抜き出して男女比較している。 しかし、①自殺は複数の要因が複合的に働いた結果であること、②複数回答がなされる統計で単一の選択肢を抜き出して単純に男女比較することは有効な分析とは言えないこと、③そもそも男女間の自殺者数の大きな違いには社会文化的要因や経済社会構造などが背景にある中で、回答の絶対数で男女比較をすることに有意性はないこと、④「夫婦関係の不和(DV)」では自殺者が被害側か加害側かは判然とせず、例えば、加害者が被害者意識を募らせた末という場合も加害したことを苦にしたという場合も含まれ得ること、⑤「自殺の原因・動機」の推定は遺書や近親者等からの聞き取りなどに基づいており、基本的に心理学的剖検等を経ていないものであることなどから、この回答をもって「DVを原因とする自殺」と断定することはできず、なおさら「男性の方が多い」と評価することはできないと考えるが、政府の見解を示されたい。 五 DV加害者が加害を否認し被害者意識を募らせたまま、被害者やその弁護士、支援者らへの憎悪を増し、そのために心身の不調、生活困窮等に至り、自傷他害に及ぶことは珍しくない。DV加害者又はそう思われる者が配偶者・元配偶者、子又は弁護士等を殺傷した事件は幾つも発生しており、また、自殺又は自殺未遂の例も多く見られるところである。政府としてこのような状況をどのように把握、分析しており、施策を講じていくつもりか示されたい。 右質問する。 |