質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第二二一号

DVからの避難等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年六月十九日

石川 大我


       参議院議長 関口 昌一 殿



   DVからの避難等に関する質問主意書

 離婚後共同親権を導入等する改正民法が令和八年五月までに施行されることとなっている。「女性活躍・男女共同参画の重点方針二〇二五」(令和七年六月十日決定)においては、「今般の改正により、配偶者からの暴力の被害者の避難や被害者の支援を行う関係機関等の活動に支障が生ずることがないよう、その正確な趣旨や内容について、引き続き適切な周知を図る。」とされている。

 しかし、DV(ドメスティック・バイオレンス)から避難するために子を連れて別居すること(以下「子連れ別居」という。)が「実子誘拐」又は「実子連れ去り」(以下「実子誘拐・連れ去り」という。)であるとして非難されている。また、DV被害者側の弁護士、支援者らが「実子誘拐・連れ去り」を「指南」、「教唆」しているであるとか「実子誘拐ビジネス」、「離婚ビジネス」、「利権」であるなどと攻撃され、さらには、関係行政機関や家庭裁判所等に対しても「実子誘拐・連れ去り」に加担している又は容認しているといった非難が浴びせられている。これらの主張は、民法等改正案の審議を通じて明らかになった改正民法等の解釈や立法意思に反するものであり、DV被害者とその子、弁護士、支援者らの安全確保に多大な支障をもたらし得る。

 以上を踏まえ、以下質問する。

一 DVからの避難など正当な理由のある子連れ別居は、未成年者略取誘拐罪等の犯罪に該当せず民事上の不法行為にも当たらないこと、すなわち「実子誘拐・連れ去り」ではないことは政府答弁においても繰り返し示されている。参議院法務委員会(令和七年五月二十日)において法務大臣は、「DVあるいはDVや児童虐待からの避難は、無断で子どもを転居させることにつき特段の理由がある場合の最たるものでありますので、人格尊重、協力義務に違反をしない」、「DVや児童虐待から避難をする必要がある場合には、父母の一方が他方の親に無断で子どもを転居させたとしても、人格尊重、協力義務に違反することはない」と改めて明確にしている。このことは暴力を受けた直後の避難に限られないものであることも累次の政府答弁等で明らかにされているところである。実際、DVからの避難等としての子連れ別居は、着の身着のまま逃げるという場合もあるが、生活基盤を全く新たにするものであり、また避難の意向が配偶者に知られると更に危険が生じることとなるため、計画、準備が必要であり、弁護士、行政機関を始め様々な支援を要することとなる。政府もこの認識を共有するものであると理解しているがよろしいか示されたい。

二 弁護士に対する非難について

 1 DV被害者である同居親の相談を受け又は受任する弁護士や、地方公共団体の男女共同参画センターにおけるDV、共同親権などに関する講演あるいはいわゆる「離婚講座」などで講師を務める弁護士に対して、「実子誘拐指南、教唆」、「実子誘拐ビジネス」等と非難することは、一般論として、名誉毀損、信用毀損等の違法性が認められ得ると考えるが、政府の見解を示されたい。

 2 「弁護士法五十八条一項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成する。」(最判平成十九年四月二十四日)との判例に照らして、「実子誘拐指南、教唆」等を理由とする弁護士懲戒請求は虚偽告訴等に当たり得る、刑事及び民事の法的責任が生じ得ると考えられるが、一般論として政府の見解を示されたい。

三 警察庁の通達について

 1 暴力直後の緊急避難以外は「子連れ別居」とは認められず「実子誘拐・連れ去り」であるとの前提で、別居親に未成年者略取誘拐罪での刑事告訴を促す声があり、警察にその受理、検察にその起訴を求める声がある。このことがDV被害者に子連れ別居を躊躇わせることとなれば生命に関わる。また、警察官がDV被害者に子連れ別居を思いとどまらせようとした例も昨年来、複数聞いているところである。このような誤解又は曲解を助長している一因が警察庁の通達「配偶者間における子の養育等を巡る事案に対する適切な対応について」(令和五年三月二十九日付)であると考えられる。これは各警察本部向けの内部的なものであると言われるが、同庁ホームページにおいて公開され、さらには、国会議員などが積極的に宣伝しており、「実子誘拐・連れ去り」対策であると捉えられてしまっている現状がある。政府に同通達を見直す考えはあるか示されたい。

 2 同通達で参照されている判例(最決平成十五年三月十八日、最決平成十七年十二月六日)はいずれも、別居親が同居親の監護下にある子を強奪した事件についてのものであるが、あたかも同居親による「実子誘拐・連れ去り」なるものが刑事事件となり得る、有罪たり得る根拠であるかのように流布されている状況がある。未成年者略取誘拐罪の構成要件及び適用可能性について抽象的一般的に述べることは、このような誤誘導を防ぐものではなく、むしろ助長するものであることは明らかであるところ、警察庁、法務省等政府の説明、発信の在り方を改めるべきと考えるが、政府の認識を示されたい。

 3 同通達は、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律等の運用上の留意事項について」(令和六年三月一日付通達)といわば対のものであるとの認識が警察庁より示されているが相違ないか。すなわち、たとえ子連れ別居について未成年者略取誘拐罪での相談、被害届提出又は刑事告訴が警察署になされたとしても、これが未成年者略取誘拐罪の事件ではなくDVからの避難の事案である可能性も視野に、同通達にものっとり対応がなされるということでよろしいか示されたい。

四 DV加害者がその加害を否認又は否定したままに、子連れ別居したDV被害者について未成年者略取誘拐罪での刑事告訴や被害届提出等をした場合、一般論として虚偽告訴等罪に当たり得ると考えられるが、政府の見解を示されたい。

五 DV等支援措置(住民基本台帳事務におけるDV等支援措置)はこれが認められた、あるいは、認められなかったことがDV等の存否を証明するものではないが、裁判などでDV等の事実認定を受ける時間をかけずに、DV、ストーカー等の被害者の住所が相手方に知られないようにする重要な安全確保策である。一方で、これがいわゆる「親子断絶」をもたらす諸悪の根源であるかの主張が見られる。まず、DV等支援措置が適用された場合でも、当然、民法上の親子関係に何ら影響が及ぶものではなく、また、相手方が親子交流の調停、審判を申し立てる等の権利は形式的にも実質的にも阻害されないと理解しているが、相違ないか示されたい。

六 別居親が子と会いたいのであれば調停、審判を含め然るべき手続にのっとればよいところ、何とかして同居親と子の住所を突き止めてDV等支援措置を無効化しよう、あえて戸籍附表の不交付処分を受けて審査請求をしよう、国家賠償請求訴訟をしようといった試みがなされている。同時に、DV等支援措置が適用されているにも関わらず誤って住民票が交付されたケースがしばしば起こっている。DV等支援措置を敵視したこうした試みによって、万が一にも外れるべきではない支援措置が外されたら大変危険である。地方公共団体に対して改めてDV等支援措置の安全な運用について徹底するとともに、DV・ストーカー等被害者の安全確保のために地方公共団体関係部局との関連情報及び問題意識の共有を図るべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。