第217回国会(常会)
質問第二一九号 関東大震災時に東京海軍無線電信所船橋送信所から発出された電文に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月十九日 石垣 のりこ
参議院議長 関口 昌一 殿 関東大震災時に東京海軍無線電信所船橋送信所から発出された電文に関する質問主意書 関東大震災(大正十二年九月一日)時には、朝鮮人や中国人、日本人が虐殺された。震災後に通信手段が途絶した中で、当時の政府は同年九月三日、千葉県の東京海軍無線電信所船橋送信所から呉鎮守府を経由して全国の地方長官宛に電文(以下「当該電文」という。)を発出した。その内容は以下のとおりである(JACAR(アジア歴史資料センター)、大正十二年「公文備考」巻一五五、変災災害、防衛省防衛研究所)。 呉鎮副官宛打電 九月三日午前八時十五分了解 各地方長官宛 内務省警保局長出 東京附近ノ震災ヲ利用シ朝鮮人ハ各地ニ放火シ不逞ノ目的ヲ遂行セントシ現ニ東京市内ニ於テ爆弾ヲ所持シ石油ヲ注キテ放火スルモノアリ既ニ東京府下ニハ一部戒厳令ヲ施行シタルガ故ニ各地ニ於テ充分周密ナル視察ヲ加へ鮮人ノ行動ニ対シテハ厳密ナル取締ヲ加ヘラレタシ (余白注記:此電報ヲ傳騎ニモタセヤリシハ二日ノ午後ト記憶ス(略)) 当該電文を読めば、朝鮮人が各地で「不逞」行為を働いているという流言を政府がそのまま各地方長官に伝達し、警戒を呼びかけたことは明らかである。当該電文については、有田芳生参議院議員が提出した「関東大震災時に起こった朝鮮人、中国人等虐殺事件への日本政府の関与に関する質問主意書」(第百九十三回国会質問第九一号)において取り上げられている。また、福島みずほ参議院議員が参議院法務委員会(令和五年六月十五日)において、当該電文が流言を広め朝鮮人虐殺を引き起こす契機になったのではないかと指摘したが、政府は防衛省防衛研究所戦史研究センター史料室に当該電文が保管されていることは認めたものの、「事実関係を確認することのできる記録が見当たらない」として、認否を拒否した。 また、内閣府中央防災会議の災害教訓の継承に関する専門調査会(以下「調査会」という。)がまとめた「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成二十一年三月 一九二三関東大震災報告書(第二編)」(以下「当該報告書」という。)の中で、震災直後の「同年十二月の帝国議会開会を前に議会で問題となりそうな課題について、司法省としての見解をまとめたもの」と推定されている「震災後に於ける刑事事犯及之に関連する事項調査書」(司法省)という文書に言及している。 当該電文の分析から当該報告書は、流言に見られるような朝鮮人による蜂起、放火、投毒等の犯罪を司法省は否定していたと指摘している(二〇七ページ以降)。にもかかわらず、警保局長が送った当該電文によって、事実ではない流言が「官憲が認定する形で、被災地はもとより、全国に拡大してしまった」(七三ページ)と結論付けている。 以上のように、当該電文によって、朝鮮人が放火・爆弾所持等を行っているとの誤った事実認識及び「周密なる視察を加え、鮮人の行動に対しては厳密なる取締を加え」るべきであるという虚偽事実(流言)の広範な流布を政府自らが行ったことになる。 以上を踏まえて、以下質問する。 一 前記質疑により、当該電文は防衛省防衛研究所戦史研究センター史料室に保管されていることが確認された。政府は、当該電文を確認したか示されたい。また、歴代閣僚で当該電文を確認した者はいるか。いる場合、誰が確認したのか示されたい。 二 内務省警保局長は、当時の全国警察の責任者と理解してよいか示されたい。 三 本史料からも、流言が政府機関により船橋送信所にもたらされたことが明らかである。政府は、震災当時、朝鮮人が犯罪を行ったとする流言が起こったことを認定するか示されたい。 四 「東京附近ノ震災ヲ利用シ朝鮮人ハ各地ニ放火シ不逞ノ目的ヲ遂行セントシ」たという証拠は確認できるか示されたい。 五 当該電文にある一部戒厳令の施行は、朝鮮人による「放火」や「不逞の目的遂行」に対して発出されたと読めるが、現政府の見解を明らかにされたい。 六 当該電文は、東京府下には一部戒厳令を敷いたので、各地においても「朝鮮人の行動に対して十分な取り締りをせよ」と伝えるものである。国民の眼前で官憲は朝鮮人に対し、どのような取締りを行ったのか示されたい。また、それは「朝鮮人暴動」等の流言におびえる国民にどのような影響を与えたか、政府の認識を示されたい。 七 戒厳令下で権力が軍隊に集中され、大日本帝国憲法下で許された範囲の国民の権利や報道・言論すら制限・統制された中で起きた事件がうやむやにされたまま百年以上経過している現状がある。関東大震災下の諸事件の真相究明もせずに、今、「緊急事態条項を整備すること」などありえないと思料するが、現政府の認識を示されたい。 右質問する。 |