質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第一八二号

期日前投票及び投票日当日における啓発活動への投票干渉罪適用の解釈等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年六月十二日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   期日前投票及び投票日当日における啓発活動への投票干渉罪適用の解釈等に関する質問主意書

 令和六年十月二十七日に実施された第五十回衆議院議員総選挙の際、兵庫県神戸市内において、以下の二つの事案が確認された。

 ① 期日前投票所(イオンモール神戸南)において、日本維新の会公認の阿部けいし候補(現・衆議院議員)が、自身の氏名が記載されたたすきを着用したまま入場しようとしたため、投票管理者により制止され、最終的にたすきを外して投票を行ったという事案が発生した。

 この件については、令和七年六月二日に開催された神戸市会総務財政委員会において、委員長を務める上畠寛弘議員が質疑を行い、神戸市選挙管理委員会事務局から「事実としてそのようなトラブルがあった」との答弁がなされた。また、同委員会での答弁では、公職選挙法第六十条及び第二百二十八条の法解釈に照らし、たすきを着用したまま投票所に入る行為は選挙人の意思決定に影響を与えるものである場合、「投票干渉罪」に該当するおそれがあるとの見解が示された。上畠委員長は、候補者によるこうした行為の重大性を指摘した上で、現場に臨時職員も従事する状況において、兵庫区選挙管理委員会の判断を一定評価しつつも、この件を事務局対応にとどめることなく総務財政委員会における指摘を踏まえ、選挙管理委員会(合議体)において正式に報告の上、今後の対応方針を検討すべきであると要請した。これに対し、事務局は同年六月四日に予定される選挙管理委員会において当該事案を報告・周知するとともに各区の委員会にも共有する旨を答弁し、委員長の指摘についても共有する考えを示した。

 ② 当該総選挙の投票日当日、神戸市長田区の新長田駅前において、二名の男性が「選挙に行こう」と記されたのぼりを掲出し、通行人と会話していた。両名が着用していた服装は、特定政党のイメージカラーに酷似したお揃いのポロシャツであり、外形的には啓発活動であるものの、実質的には特定の政党又は候補者の選挙運動と見なされるおそれがあると指摘されている。

 この件については、令和六年十一月二十八日に開催された神戸市会総務財政委員会において、平井真千子議員が質疑を行った。神戸市選挙管理委員会は、特定候補者を応援している団体が啓発と言いながら、実際には選挙運動をやっていると認められる場合には、公職選挙法第百二十九条に抵触するおそれがあるとの認識を示した。一方、同委員会には実質的な調査権限がないため、対応には限界がある旨の見解も示されている。

 以上を踏まえ、以下質問する。

一 前記①の事案について

 1 候補者本人が氏名入りのたすきを着用したまま期日前投票所に入場する行為は、公職選挙法第六十条(同法第四十八条の二第六項により準用)に照らし、投票の自由や秩序を妨げるおそれがあると考えられるが、当該行為の法的評価について、政府の見解を示されたい。また、候補者本人に限らず、支援者や関係者が候補者名や政党名の記載された衣類や物品を携行して入場する行為についても、同様に秩序を乱す行為として制止の対象となるか否か、政府の見解を示されたい。

 2 現行法上、投票管理者は秩序を乱す者に対して制止・退出命令を行う権限を有しているが、その運用については自治体ごとに判断や対応が分かれるおそれがある。候補者や当該関係者による選挙人の意思決定に影響を与える行為の制止に関し、選挙管理委員会に対して統一的な運用を促す通知やガイドラインの策定を行う必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

 3 神戸市会において、前記①の事案は公職選挙法第二百二十八条の投票干渉罪に該当する可能性があると指摘されているが、警察庁及び兵庫県警察本部(捜査二課)が当該事案を個別・具体的な事案として把握しているか否か示されたい。また、今後、当該事実関係を確認し調査を行う予定があるか、政府の見解を示されたい。

二 前記②の事案について

 1 前記②の事案は、外形上は中立的な啓発活動であっても、服装や言動により特定の政党や候補者を想起させる場合には、公職選挙法第百二十九条に規定する選挙運動に該当する可能性があると考えられる。また、投票日当日において、候補者陣営、政党、宗教団体や労働組合などの支援団体の構成員等が有権者に対して「投票に行ったかどうか」を電話で確認する行為についても、形式上は啓発的言動を装いつつ、実質的には投票行動を監視・誘導する目的があると受け取られる場合には、「啓発を装った選挙運動」との疑念を招きかねない。

 このような投票日当日の言動が公職選挙法第百二十九条の趣旨に照らして問題となるか否か、判断基準を示されたい。また、前記事案に対する抑止策の整備及び運用方法について、政府の見解を示されたい。

 2 前記②の事案について、現行制度下では選挙管理委員会に実質的な調査権限がなく、司法や捜査機関による判断に委ねられているのが実情である。しかし、このような事実上の公職選挙法違反行為を放置することで選挙の公正性が損なわれるおそれがある。啓発を装った選挙運動を事前に把握し、是正するための行政的調査権限や臨時的勧告制度の新設を含めた制度改正の必要性について、政府の見解を示されたい。

 3 前記②の事案に類似した事例が今後、全国的に散見されることが懸念されることから、公職選挙法における「投票所の秩序維持」及び「選挙運動の禁止」に関する具体的行為の態様(服装、表示物、言動等)について、政省令又は総務省通知により類型ごとに整理した明確な基準を策定・発出する必要があると考えるが、政府の方針を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。