第217回国会(常会)
質問第一八一号 消費税減税がインフレを加速させる旨の主張に係る政府の見解に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月十二日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 消費税減税がインフレを加速させる旨の主張に係る政府の見解に関する質問主意書 消費者物価高騰が続く中、国民の間では税負担の軽減を求める声が急速に高まっている。令和七年五月に実施された複数の世論調査(FNN「五月世論調査」、朝日新聞「五月世論調査」、選挙ドットコム×JX通信社「ハイブリッド意識調査」)では、消費税の減税や廃止を求める意見がいずれも七十パーセントを超えており、減税支持の世論が過去最高水準に達していることが明らかとなった。こうした国民の声に対して、一部の言論人やインフルエンサーが「消費税減税はインフレを加速させ、国民生活を更に苦しめる」等と主張している。その背景には、政府が物価高騰対策として減税や給付を検討しているという報道や、財政再建を重視する立場からの反発があるものと考えられる。 しかし、これらの言説には、金融政策・世界経済・物価構造・財政運営・制度設計等の複数の観点から、実証的かつ政策的に不適切であるとの疑義がある。さらに、過去の消費税増税時における政府の見解を参照すると、消費税率の引上げによる経済への影響を緩和するため、軽減税率の導入やポイント還元制度などの対策が講じられてきた。例えば、平成三十年十月十五日の臨時閣議における総理発言では、消費税率引上げによる経済的影響を確実に平準化できる規模の予算を編成する旨が示されている(首相官邸「消費税率引上げとそれに伴う対応について」)。 このように、消費税減税がインフレを加速させるとの見解は政策的・統計的に妥当性を欠くものである可能性があり、現時点における我が国の消費税減税を巡る以下の論点について、質問する。 一 金融政策とインフレ見通しについて 日本銀行は令和六年、マイナス金利を解除し、金融政策の正常化を進めている。この状況下での消費税減税は、金融引締めの補完的効果を持ち得るため、過度にインフレを加速させるとは考えにくい。「金融政策決定会合の議事要旨」(令和七年一月二十三日、二十四日開催分)等から明らかであるように、政策金利の引上げはインフレ目標の達成に向けた調整の一環とみなすことが合理的であると考える。 1 平成二十五年六月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(以下「骨太の方針」という。)」において、「日本銀行による量的・質的金融緩和の着実な推進と、政府による機動的なマクロ経済政策運営や成長力強化への取組等が相まって、デフレからの早期脱却と持続的な経済成長を実現していく」旨の方針が掲げられた。過去の政府見解及び日本銀行の金融正常化等の金融政策を踏まえた上で、消費税減税がインフレを加速させるとの主張は妥当か否か、その根拠と併せて政府の見解を示されたい。 2 前記一の1について、消費税減税がインフレを加速させるおそれがあるとの見解の場合、その前提条件及び可能性の程度について、具体的なエビデンスと併せて示されたい。 二 世界経済と内需の乖離について 平成二十六年四月に消費税率引上げが行われた後、内閣府は同年五月、「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」において、日本経済の先行きについて「駆け込み需要の反動により弱さが残るものの、次第にその影響が薄れ、各種政策の効果が発現するなかで、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外景気の下振れが、引き続き我が国の景気を下押しするリスクとなっている」と評価している。現在の世界経済について、IMF及びOECDによる令和七年の世界経済見通しでは、世界経済は低成長・高不確実性の状態にあり、外需主導の景気回復が困難な状況である。これらを踏まえると、内需を下支えする政策が求められており、消費税減税はその有力な選択肢であると考える。以上を踏まえ、消費税減税が日本経済に与える影響について、政府の現在の評価及びその根拠を明らかにされたい。 三 インフレ構造の変化について 近年の物価上昇は主にコストプッシュ型インフレであり、エネルギー価格や輸入物価が安定化する中、今後はむしろデフレ懸念の再燃が指摘されている。需要過熱によるインフレリスクを過大視するのは非現実的である。エネルギー価格の安定化によりコストプッシュ型インフレが沈静化する中で、消費税減税と物価の関係に関する政府の見解を示されたい。 四 社会保障費及び歳出改革の可能性について 「消費税減税はインフレを加速させ、国民生活を更に苦しめる」との主張の背景として「社会保障費は削減できない」との見解が見受けられるが、財政制度分科会(令和五年九月二十七日開催)議事録にあるとおり、令和六年度の社会保障給付費は約百四十兆円であると推計されていた。そのうち二~三パーセントの効率化は決して不可能ではないと考える。対象を限定したり、ICT導入により医療費の適正化を図ったりするなど、改革の選択肢は複数存在する。社会保障制度について、私は第二百十七回国会において複数の質問主意書を提出し多数の問題点を指摘している。 1 社会保障給付費の一部を見直すことにより、消費税減税の財源とすることの実現可能性について、制度的・技術的観点から政府の見解を示されたい。 2 財務省の「令和六年度税収見積りに関する説明資料」等によると近年の税収予測は実績と乖離が生じており、直近三年間では計約十兆円程度の上振れとなっており、税収予測と実績にかなりの乖離がみられる。このことから、直近三年間で計約十兆円程度の財源は考慮せず減税しても何ら我が国の財政に影響がないと考える。減税政策において財源を示すことの必要性について、政府の見解を示されたい。 五 税制改正・予算編成の制度改革について 毎年十二月に与党税制調査会において税制改正大綱が決定する現在のプロセスは、六月に閣議決定される骨太の方針における戦略的意思決定を妨げている。「骨太の方針への税制の方針の明示は財政民主主義の強化につながると考える。しかし、税制の方針は、骨太の方針の段階では具体的に示されておらず、年末の与党税制調査会による非公開協議によって実質的に決定される。このような現在のプロセスでは、歳出改革との整合を前提とした一体的な財政運営が困難である。現在の税制の意思決定プロセスを改め、骨太の方針において税制の方針を決定すべきと考える。現在の意思決定プロセスを改める必要性について、理由と併せて政府の見解を示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |