第217回国会(常会)
質問第一六三号 科学的評価が否定的である肺がん・胃がん検診への公的補助の見直しに関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月九日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 科学的評価が否定的である肺がん・胃がん検診への公的補助の見直しに関する質問主意書 がん検診は国民の関心が高く、健康増進施策として国・自治体が積極的に推進してきた。しかし、近年の研究や国際的知見により、特定の検診方法については死亡率低下効果が確認されていないこと、あるいは、健康被害や過剰診断のリスクがあることが指摘されている。 特に、胸部X線検査(レントゲン)による肺がん検診や、胃部X線検査(バリウム検査)による胃がん検診については、国内外の研究者や専門学会から、科学的課題として以下の問題点が提起されている。 ○問題点 一 胸部X線検査(肺がん検診) 無症状者に対してX線による肺がん検診を行っても死亡率の有意な低下は示されておらず、むしろ放射線被曝リスクとのトレードオフがあるとの研究結果がある(Cochraneレビュー等。以下「胸部X線検査は科学的評価が否定的であること」という。)。しかし、依然として多数の自治体で胸部X線検査が実施され、補助金が支出されている。 二 胃部X線検査(胃がん検診) 精度が高いとされる内視鏡(胃カメラ)に比べて感度・特異度が劣り、誤嚥や穿孔といった検査リスクも高い。それにもかかわらず、特に高齢者向けに自治体主導で実施され、補助額が大きい。 これらはいずれも予算規模が大きく、住民参加率も高いが、果たして科学的合理性に基づき継続されてきたのか疑問である。また、がん検診全体に対して「早期発見が正義である」との誤った単純化が制度的にも続いており、過剰診断・過剰治療の弊害についての正しい情報が提供されていない可能性がある。 以上を踏まえ、以下質問する。 一 胸部X線検査による肺がん検診のエビデンスと予算の合理性について 1 胸部X線検査による肺がん検診について、国として死亡率低下効果の有無を評価した研究や検討会資料があるか示されたい。特に、「有意な死亡率低下が認められた」とするエビデンスが存在するか示されたい。 2 現在、胸部X線検査に対して地方自治体に交付されている国庫補助金の総額(直近五年間の推移)と実施件数・対象者数・費用対効果の試算結果、施策評価をそれぞれ示されたい。 3 胸部X線検査は科学的評価が否定的であることについて、政府は把握しているか示されたい。 4 胸部X線検査は科学的評価が否定的であることについて、この事実がありながら、胸部X線検査への補助を継続するのか、政府の見解を示されたい。継続するとの見解である場合、その理由を示されたい。 5 前記一の4について、胸部X線検査に対する公的な補助を今後見直す等の検討を行うか否か、理由と併せて政府の見解を示されたい。 二 胃部X線検査による胃がん検診の科学的妥当性について 1 胃部X線検査による胃がん検診と、内視鏡検査(胃カメラ)による検診の比較評価(感度・特異度・検診精度・有害事象発生率)を行ったことがあるか示されたい。行ったことがある場合、その全ての比較評価の内容及び比較評価を踏まえた政府の分析結果と見解を示されたい。 2 現在も胃部X線検査が「胃がん検診」の主力手法として位置付けられている理由又は背景と、高齢者における誤嚥・穿孔等のリスクに対し、政策上どのように対処又は考慮されているのか明確に示されたい。 3 直近十年の胃部X線検査及び内視鏡検査の実施件数の推移を示されたい。また、胃部X線検査から内視鏡検査への移行について、政府の把握状況を示されたい。 4 胃部X線検査から内視鏡検査への移行が一部進んでいるにもかかわらず、自治体によっては、いまだに胃部X線検査が主流であり、その補助金額も大きいと思料するが、前記二の3についてそれぞれの予算配分の状況を示されたい。 5 胃部X線検査から内視鏡検査への移行を推進する方針はあるか、政府の見解を示されたい。 三 がん検診政策の見直しに関する全体的方針について 1 国として、がん検診の導入・継続施策について「死亡率低下」のエビデンスを最重要指標として評価しているか示されたい。評価していない場合、その理由と併せて示されたい。また、がん検診の参加率や市民満足度という指標ではなく、アウトカム指標に基づいた制度運営又は政策評価を行うべきと思料するが、政府の見解を示されたい。 2 がんは「見つければ安心」という誤解や、がんは「早期発見が正義である」という社会通念が制度設計に影響していると思料する。過剰診断・過剰治療の弊害について、政府は国民向けに啓発や説明責任を果たすべきと思料するが、政府の方針を示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |