第217回国会(常会)
質問第一五五号 政府の新型コロナウイルス感染症対策の検証に関する再質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年六月九日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 政府の新型コロナウイルス感染症対策の検証に関する再質問主意書 私が提出した「政府の新型コロナウイルス感染症対策の検証に関する質問主意書」(第二百十七回国会質問第五三号)に対する答弁書(内閣参質二一七第五三号)において、「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議(以下「有識者会議」という。)が令和四年六月十五日に取りまとめた「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」(以下「有識者会議報告書」という。)や新型インフルエンザ等対策推進会議(以下「推進会議」という。)が令和五年十二月十九日に取りまとめた「新型インフルエンザ等対策政府行動計画の改定に向けた意見」(以下「改定に向けた意見」という。)についても」、「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(令和三年二月一日衆議院内閣委員会。以下「当該附帯決議」という。)の「二十六」(新型コロナウイルス感染症の感染拡大に関する政府のこれまでの対応について、・・・第三者的立場から、客観的、科学的に検証し、その結果を公表すること)に「応えたもの」であると考えていると答弁している。 一 「有識者会議報告書」において、「都道府県知事が行う様々な要請について、(中略)事実上の私権制限が行われたのではないか。」との指摘がある。以上を踏まえて、以下質問する。 1 「都道府県知事が行う様々な要請」について、「不要不急の移動の自粛」の要請は、行政権として処分を伴わない行政指導と解釈する学説があるが、政府も同様の見解か示されたい。同様の見解ではない場合、「都道府県知事が行う様々な要請」の法律上の解釈について政府の見解を示されたい。 2 「有識者会議報告書」は、前記1の要請について、都道府県知事が行った「事実上の私権制限」であると指摘していると考えるが、政府も同様の見解か示されたい。同様の見解ではない場合、「有識者会議報告書」で指摘されている「事実上の私権制限」とは、「都道府県知事が行う様々な要請」のどの点に対する指摘であるか、政府の見解を示されたい。 二 「改定に向けた意見」において、「短い期間での高頻度のウイルスの変異を想定しておらず、また、対策が長期化した場合の想定も十分ではなかった。」、「これまでの政府行動計画では感染拡大が複数回にわたって起こることを想定していなかったため、対策の切り替えを柔軟かつ適切に行っていくことを難しくした。」、「情報収集や分析、それに基づく判断を行う体制やプロセスが十分に整理されていなかった。」と結論付けている点について、以下質問する。 1 前記結論は推進会議の見解と思料する。しかし、高頻度のウイルスの変異と科学的知見に基づく判断について、ウイルスの変異情報収集及び感染拡大の関連分析が可能となる体制が確立された時期は二〇二一年中頃だったと思料するが、政府も同様の見解か示されたい。同様の見解ではない場合、体制が確立された時期を示されたい。 2 我が国においては、ウイルスゲノム疫学の手法を用いてウイルスのゲノム配列情報を基に感染の動態や伝播経路を把握するための全国規模での調査体制が確立されていなかったとの指摘は正しいか示されたい。 3 前記調査体制が整うまでの間は、積極的疫学調査と称する感染者からの保健所職員のヒアリングという手法で、感染の動態や伝播経路を把握しようとしたと認識しているが、政府も同様の見解か示されたい。 4 二〇二〇年十月から十一月における感染拡大が変異株(第三波)によるものであるとの認識は、二〇二〇年十一月から十二月時点で、政府、都道府県知事及び専門家など関係者間で共有されていなかったと認識してよいか示されたい。また、現在においても、第三波の感染拡大は、国民の行動変容に対する気の緩みであると政府は考えているか示されたい。 5 新型コロナウイルスの変異は第九波までの感染拡大を繰り返し、パンデミックは約三年の長きにわたって続いたが、それに対して「対策の切り替えを柔軟かつ適切に行っていくこと」ができなかったと政府は認識しているか示されたい。認識している場合、どの時点で対策を切り替えるべきだったと考えているか示されたい。 三 「改定に向けた意見」において「感染拡大防止と社会経済活動とのバランスについては、感染状況、病原性、ワクチン接種の普及などの状況の変化に合わせて調整していく必要がある。しかし、このことが政府行動計画には記載がなく、その結果、対策のあり方についての関係者のコンセンサスの形成や、対策に当たって留意すべき国民生活や社会経済活動に関する事項などについて整理が十分になされなかった。」と指摘されている。当該指摘について、有識者会議報告書の内容も前提としていると理解してよいか示されたい。また、それは政府の公式見解か示されたい。 四 「改定に向けた意見」における「特に、強い行動制限を伴う対策を行う場合は、対策の意図や行う期間、(中略)国民の理解につながる情報発信や流行状況等の情報共有の工夫が十分なものであったかという点については課題が残る。」との検証結果について、以下質問する。 1 「強い行動制限」とは具体的にはどのような制限のことを指しているか示されたい。 2 前記四の1について、どのように国民の人権を損なわないよう配慮して行動制限を行ったのか示されたい。 3 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードにおいては、SARS等の前例を挙げて、感染症への不安や恐怖から憶測や偏見、デマ等が発生したこと、それによりインフォデミックが発生し、社会が混乱したとの意見が出ており、インフォデミックの課題について言及があった。新型コロナウイルス感染症に対する見解が分かれていた中で、政府として、両論併記で正確な情報を国民に伝えることができていたと考えているか示されたい。 4 前記四の3について、情報操作や認知操作が行われていなかったか、第三者機関等による検証は行われたのか示されたい。 五 二〇二〇年十一月の第三波の感染拡大当時、東京都医師会の尾崎会長や日本医師会の中川会長の両医師会長は、記者会見で、「エビデンスは存在しないが、Go To トラベルが感染拡大の原因である」旨の発言を行い、マスメディアがその見解に追随した。一方、政府(国土交通大臣)は、Go To トラベルは感染拡大の主要な要因ではないとの公式見解を二〇二〇年十二月まで堅持していた。しかし、二〇二〇年十二月十四日に政府はGo To トラベルの停止を決定している。以上を踏まえて、以下質問する。 1 Go To トラベルの停止は政治的判断であると考えられるが、この判断の科学的、合理的根拠を示されたい。 2 菅元総理は総理大臣記者会見(二〇二一年九月九日)において、コロナ対策の切り札はワクチンであるとの見解を示すとともに、海外の事例を見るとロックダウンでは感染拡大を阻止することはできなかったとしている。この記者会見には、尾身元新型コロナウイルス感染症対策分科会・基本的対処方針分科会会長も同席しており、菅元総理の意見に同意している。以上の事実関係から、エビデンスを提示せずして、Go To トラベルが感染拡大の原因であるとの見解を公的に表明した両医師会長の行為は、誤情報の発信に当たると考えるが、政府の見解を示されたい。 3 Go To トラベルは感染拡大の主要な要因ではないという見解を持つ政府が、突然Go To トラベルを停止した理由を示されたい。 4 Go To トラベルを停止するという政府の判断は、必ずしも科学的でない誤情報を社会に拡散し、国民に対してコロナ感染拡大の要因と旅行の関係について偏見を与えることになったとの見解もある。このような状況下で、Go To トラベルに関する検証評価をしないことは当該附帯決議に反していると考えるが、改めて二〇二〇年十月からGo To トラベル停止までの経緯について検証する予定はないのか示されたい。 5 現在、Go To トラベルは停止中であるが、いまだに再開されない理由を示されたい。 6 政府がワクチン接種を積極的に進めたことにより、国民の接種率が八十%以上になって以降もなお、国民に移動制限を求めて、人権に制限を加えたことは妥当であったと考えているのか、政府の見解を示されたい。 7 我が国が二類感染症から五類感染症に移行するなど移動制限を解除した時期は、諸外国と比べて一年から一年半遅れたが、その理由及び判断の科学的根拠を示されたい。 六 約三年間のコロナ禍において、大きな損失を被り、資金繰りが悪化し、経営に困窮した事業者に対する「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」等の資金繰り支援の多くは、三年をたたずして打ち切られている。都道府県の信用保証協会の融資も同様の対応であった。また、金融庁は二〇二四年六月、金融機関等に対し、コロナ資金繰り支援策の転換を踏まえた事業者支援の徹底等を要請し、コロナ資金繰り支援方針から再生スキームへの変更(いわゆる「ゾンビ企業」の切捨て)が示されている。「改定に向けた意見」において、「短い期間での高頻度のウイルスの変異を想定しておらず、また、対策が長期化した場合の想定も十分ではなかった」との指摘があり、コロナ対策について初期の想定と実際のパンデミックの実態が乖離していた。感染症が短期間で収束することを前提にコロナ対策を講じたのであれば、感染症が長期化する見込みとなった際には、柔軟に対策を切り替える必要がある。コロナ禍における資金繰り支援や救済について、事業者が損害を被った期間が三年であることを前提に対策を構築し直す必要があったと思料する。特に、収益性の低い中小企業が三年間で被った損害を数年という短期間で取り戻すことはできない。事実、大企業と中堅企業を支援するための資本性劣後ローンの融資期間は最長で二十年であり、優先株での支援は無期限である。以上を踏まえて、以下質問する。 1 移動制限の解除まで約三年かかったことにより、需要が壊滅的に減少し、収入が激減した運輸・観光・宿泊事業者の損害に対する補償等について、今後実施する考えはあるか示されたい。 2 消費税、社会保険料、固定資産税等の納付を猶予する特例について、二〇二一年度のみ特別猶予を行い、二〇二二年度、二〇二三年度については特別猶予を認めず、一般猶予で対応した理由を示されたい。また、二〇二四年度以降、一切猶予を認めず、その結果として二〇二三年、二〇二四年には社会保険料の滞納等により倒産に至る「社保倒産」が急増した。コロナ対策で人為的に損害を被った事業者への補償義務について政府の見解を示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |