第217回国会(常会)
質問第一二六号 社会保障制度における生涯純受益額と世代間不均衡に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年五月二十三日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 社会保障制度における生涯純受益額と世代間不均衡に関する質問主意書 私が提出した「政府の長期的な財政状況を評価する上で重要な指標の一つである生涯純受益額の推計に関する質問主意書」(第二百十七回国会質問第六二号。以下「質問主意書」という。)に対する答弁(内閣参質二一七第六二号。以下「答弁」という。)においては、「生涯純受益額」(生涯を通じた受給と負担の差額)という概念の政策的重要性や、我が国の社会保障制度における各世代の受給と負担の格差(以下「世代間不均衡」という。)の定量的評価及び是正策に関する具体的な見解は示されなかった。社会保障制度は世代間の所得移転に依拠する制度である以上、受給と負担のバランス、すなわち「世代間衡平(intergenerational equity)」の確保は制度設計の根幹を成すべきものである。少子高齢化が進行する中、現役世代及び将来世代に過大な負担が掛かる構造は制度の信頼性と持続可能性の両面で深刻な課題をはらんでいる。 公益財団法人未来工学研究所がウェブサイト上で公表した解説記事(「日本の社会保障の世代間不均衡は、他国と比較して極めて大きい」(平成二十八年十月二十五日付け))では、カリフォルニア大学バークレー校のアラン・J・オーアーバック教授による国際比較試算が紹介されており、対象の十七か国中、日本の社会保障制度における世代間不均衡が最も深刻であると指摘されている。具体的には、ジュニア世代の純負担はシニア世代の二・六九倍(百六十九%)に達しており、米国(一・五一倍)、ドイツ(一・九二倍)、フランス(一・四七倍)と比べても突出した水準となっている。このような構造的格差に対し、政府がいかに認識し、どのように対応するかは、制度改革の基盤として極めて重要な政策論点である。 以上を踏まえて、以下質問する。 一 生涯純受益額という概念の政策的意義について 質問主意書では、「生涯純受益額の重要性」について政府の見解を問うたが、答弁では明示的な回答がなかった。生涯純受益額という概念が、制度の公平性や世代間衡平を評価する上で有効かつ必要な政策指標であると認識しているか、改めて政府の見解を示されたい。 二 生涯純受益額の推計と情報開示について 1 政府は、各世代の社会保障における生涯純受益額を定量的に推計した資料を保有しているか。保有している場合はその内容を、保有していない場合はその理由を示されたい。 2 平成十三年に内閣府が公表した推計を最後に、生涯純受益額に関する公的分析資料が存在しない理由を示されたい。 3 我が国の生涯純受益額をモニタリングすることは政策論点として極めて重要だと考えるが、政府の見解を示されたい。 4 制度改正や人口動態の大幅な変化を踏まえれば、生涯純受益額の継続的な推計と公表が必要ではないか。生涯純受益額の定期的な推計及びその公表の必要性について、政府の見解を示されたい。 5 今後、マイナポータル等を活用して、個人又は世帯単位での社会保障上の給付・負担情報を可視化する仕組み(いわば「社会保障版マイナンバー帳票」)を導入すべきと思料するが、政府の見解を示されたい。 三 世代間不均衡に関する認識と是正の方針について 1 世代間不均衡について、政府の基本的な現状の認識を示されたい。また、現在の社会保障制度が「世代間衡平」の観点でどの程度うまく機能しているか、あるいはどの程度問題があるとされているのか等、どのような状態にあると政府は評価しているか示されたい。 2 未来工学研究所が紹介したアラン・J・オーアーバック教授の試算では、日本の世代間不均衡が十七か国中で最も深刻とされている。この分析結果を政府はどのように受け止めているか示されたい。また、これに類する世代間不均衡に関する国際比較分析で政府の把握しているものや政府内の推計ないし試算があれば全て示されたい。 3 世代間不均衡の是正と社会保障制度の信頼回復を図るために、以下のような政策を政府は検討しているか。検討している場合はその内容を、検討していない場合は理由を示されたい。 ①応益性を高める給付改革(高齢者向け給付の見直しなど) ②若年層・将来世代への負担軽減策(減税・保険料減免・税控除など) ③自動調整機能の強化や積立方式の併用等、制度構造の再設計 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |