質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第一〇七号

我が国に設置された孔子学院及び孔子課堂に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年四月二十八日

神谷 宗幣


       参議院議長 関口 昌一 殿



   我が国に設置された孔子学院及び孔子課堂に関する質問主意書

 これまで、我が国に設置された孔子学院及び孔子課堂(以下「孔子学院等」という。)について、累次にわたり質問主意書を提出してきた(直近では、第二百十六回国会質問第四三号)。

 孔子学院等の透明性確保のため、「「孔子学院」等に係る情報の公開について(依頼)」(令和五年十二月四日付け文部科学省高等教育局参事官(国際担当)及び初等中等教育局参事官(高等学校担当)事務連絡)(以下「事務連絡」という。)を発出するなど、政府が一定の対応を行ってきたことは評価に値する。しかし、孔子学院等が設置されている教育機関自らが公開する情報の内容が十分であるかは疑問が残る。例えば、事務連絡で公開を求めた事項(組織の基本情報、教員組織、授業内容、収支状況等)について、現時点でどの程度の開示がなされたのか明確でない部分もある。

 この点、平成三十一年二月に米国上院国土安全保障・政府問題委員会が公表した報告書では、中国政府が米国内の孔子学院のほぼ全ての側面を統制し、学院長や教員に「中国の国益擁護を誓約」させていたと指摘されている。また、全米アカデミー(NASEM)は令和五年一月、孔子学院を受け入れる大学が米国国防総省(DOD)の助成を受ける際の免除基準に関する報告書を発表した。この報告書では、孔子学院が米国の大学に対して中国語及び中国文化に係る教育資源を提供する一方で、学問の自由、表現の自由及び国家安全保障に関わるリスクをもたらすと指摘している。その上で、大学が孔子学院に対してカリキュラム、教材及び教員などの統制を完全に有しているか、外国法の適用が排除されているか等の要件を満たすことを基準としたリスク評価を行うべきと提案している。

 こうした米国の動向を踏まえれば、我が国においても、孔子学院等が設置されている教育機関の実態を精査し、同様の問題が生じていないか検証する必要がある。政府は、「学校の教育研究活動に支障が生じている場合や、設置された「孔子学院等」の活動に法令違反があると認められる場合には、適切に対処してまいりたい」との立場を示しているが、これまでに法令違反の事例は確認されていないとしている。しかし、孔子学院等による技術の流出や影響工作は、法の網をかいくぐって行われている可能性が高く、表面的には、教育活動への支障や法令違反が認められないように見えても、実質的には我が国の技術的優位性や情報空間に深刻な影響を及ぼし得る。したがって、こうした事態を看過せず、迅速かつ厳格に対応すべきである。

 また、孔子学院は「中外言語交流センター」への名称変更や、姉妹校提携・文化交流プログラムを通じ、活動を継続しているとされている。米国では、閉鎖後の孔子学院が名称を変え、旧孔子学院との関係を維持したまま再開された例も報告されており、我が国においても同様の活動が行われていないか、調査と分析が必要である。オーストラリアでは、孔子学院が中国政府の影響力拡大や情報収集に利用されているとの懸念から、メルボルン大学、クイーンズランド大学、西オーストラリア大学、ニューサウスウェールズ大学、ロイヤル・メルボルン工科大学など複数の大学が孔子学院を閉鎖し、アデレード大学も同様の動きを見せている。これを受けて、同国政府は孔子学院の新設を認めない方針を示し、「外国影響力透明化制度(FITS)」を通じた制度的対応を進めている。韓国においても、公州市の高校が孔子学院の設立を計画していたが、「中国による侵略の窓口」と批判され設立計画が無期限保留となったとの報道もある。

 こうした各国の対応を踏まえ、我が国においても制度整備や閉鎖を含めた対応の在り方が問われている。さらに、中国の「国防動員法」及び「国家情報法」に関して、政府はこれまで明確な見解を示していない。これらの法律が我が国の教育・研究機関に及ぼす潜在的影響についての分析や対策を講じておくべきである。

 以上を踏まえて、以下質問する。

一 孔子学院等の透明性の確保に関して、直近の孔子学院等に関する答弁書が送付された令和七年一月七日以降、事務連絡で公開を求めた事項(組織の基本情報、教員組織、授業内容、収支状況等)の実施状況について、政府として把握している内容を明らかにされたい。

二 事務連絡においては今後フォローアップを実施するとしているが、その具体的な実施状況及び結果並びに政府としての評価を示されたい。

三 政府は、学校の教育研究活動に支障が生じている場合や、孔子学院等の活動に法令違反があると認められる場合には適切に対処するとしているが、令和七年一月七日以降において、当該「支障」又は「法令違反」と認定された事例は存在するか示されたい。また、政府は事例の有無をどのような方法で把握しているのか、対象の教育機関からの報告や資料提出のみに依拠しているのか、あるいは、政府自身が調査・検証を行っているのか示されたい。

四 孔子学院等の活動について、形式上は「支障」や「法令違反」に該当しない場合であっても、結果として我が国の技術の流出や情報工作が行われているおそれがある。この点について、政府は現時点でいかなる調査・監視体制を有しているか示されたい。また、こうしたリスクに対応するため、今後、調査・監視の体制を強化する考えがあるか示されたい。

五 中国の「国防動員法」及び「国家情報法」については、これまでの質問主意書においても繰り返し取り上げてきたが、政府は一貫して明確に答弁していない。両法は、中国籍の個人・団体に対し、国外であっても情報提供・協力義務を課す内容を含むとされており、我が国の教育・研究機関における中国人教職員や関係者に適用された場合、技術情報や知的財産等の流出につながるおそれがある。

 政府として、このような事態をどのように認識しているか明らかにされたい。あわせて、仮に両法が我が国において実質的に適用されるような事例があった場合に備え、対抗措置又は予防策を講じる考えがあるか示されたい。

六 近年、孔子学院は「中外言語交流センター」などの名称に変更され、また姉妹校プログラムや文化交流等の新たな形態を通じて活動を継続しているとの報道がある。

 我が国においても、名称を変更した上で活動を継続している事例又は孔子学院とは形式的には異なる交流形態を通じて、中国政府との提携や支援を受けている教育機関の存在を政府として具体的に把握しているか示されたい。存在しないとする場合、その可能性についてどのような調査・監視を行っているか、政府の対応を明らかにされたい。

七 オーストラリアでは、孔子学院に対する懸念を背景に、大学における外国の関与について情報公開を義務付ける制度的対応が進められている。我が国においても、大学等における外国政府・機関との連携実態を把握し、透明性を確保するための制度を整備すべきと思料するが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。