質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第一○三号

保険者がレセプトや電子カルテ等の医療情報にアクセスして医療の質や費用対効果を分析できる環境整備の重要性等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年四月十八日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   保険者がレセプトや電子カルテ等の医療情報にアクセスして医療の質や費用対効果を分析できる環境整備の重要性等に関する質問主意書

 我が国の医療保険制度は、国民皆保険の理念の下、必要な医療を公平に提供する仕組みであるが、制度の持続可能性を確保し、医療の質を高める観点から、保険者の機能を強化する必要があると思料される。保険者機能とは、本来、被保険者の資格管理や診療報酬支払明細書(レセプト)のチェックなど、保険者が幅広い業務について主体性を発揮することを指す。「医療制度改革と保険者機能」(山崎泰彦・尾形裕也編著、東洋経済新報社、二〇〇三年)の第一章「保険者機能と医療制度改革」において、山崎氏は、保険者が被保険者の利害を代弁しつつ、医療のアクセス改善や質・効率性の調整を通じて、医療提供体制の適正化などに影響を及ぼし得る立場にあるとした上で、保険者機能を「医療制度における契約主体の一人としての責任と権限の範囲内で活動できる能力」、保険者機能の発揮を「保険者が自立し、医療制度における他のプレーヤー(サービスの受け手・プロバイダー)と直接かつ対等に十分な対話ができること」と定義しており、我が国の医療保険制度においても、保険者機能の強化は極めて重要である。

 保険者機能の強化のためには、保険者がレセプトや電子カルテ等の医療情報にアクセスし、医療の質や費用対効果を分析できる環境を整えること、保険者が過剰・不適切な医療に対して支払を拒否・制限できる権限を持つこと、保険者が被保険者に対する受診行動の助言・誘導ができる制度を整備すること、保険者の取組の成果に基づいた財政的インセンティブを与える制度を設計すること等が必要であると考える。

 また、診療報酬制度が公定価格である現状において、保険者が柔軟に報酬を調整できる仕組みや、質の低い医療機関に対するペナルティの導入についても、制度上の検討が求められる。

 これらを踏まえ、以下質問する。

一 保険者による医療情報へのアクセスについて

 1 保険者が、被保険者のレセプトデータ及び電子カルテデータにアクセスすることは現行法令上可能か、その理由と併せて示されたい。

 2 前記1について、アクセスが不可能又は制限されている場合、①当該規制の法令上の根拠、②当該規制の趣旨目的及び③当該規制の趣旨目的と規制内容との因果関係を示されたい。

 3 保険者が、匿名化や本人同意を前提として、医療機関やシステム事業者から個別の医療情報を収集・分析することは現行法令上可能か、その理由と併せて示されたい。また、可能である場合、何らかの制約があればその詳細も理由と併せて示されたい。

二 医療の質と支払適正化に関する保険者の権限について

 1 保険者が、明らかに過剰・不適切と認めた医療行為について、保険者の判断で当該診療報酬の支払を拒否又は減額することは現行法令上可能か示されたい。

 2 前記二の1について、不可能である場合、その制度的・法的障壁は何か全て示されたい。また、当該障壁の趣旨目的を示されたい。

 3 前記二の1について、不可能である場合、これを改める考えはあるか、理由と併せて示されたい。

 4 診療報酬は公定価格で設定されているが、保険者が独自に診療報酬の点数の増減又は一点当たりの金額を増額又は減額などの調整を行うことは現行法令上可能か示されたい。不可能である場合、不可能とされている制度上の理由及び趣旨目的を示されたい。

 5 保険者が医療の質が著しく低いと評価している医療機関を被保険者が受診した場合において、保険者が当該診療報酬の支払を拒否又は制限することは現行法令上可能か示されたい。また、不可能である場合、これを改める必要性があると考えるが、不可能とされている制度上の理由及び趣旨目的並びに法令上可能とするための制度改正について、政府の見解を示されたい。

三 医療機関選択及び受診行動に関するナビゲーション機能について

 1 保険者が被保険者に対し、医療の質や費用、受診履歴等のデータを基に、受診すべき医療機関や適切な受診タイミングについて推奨・誘導を行うことは現行法令上可能か、理由と併せて示されたい。

 2 前記三の1について、制度として整備・推進していく考えがあるか、政府の見解を理由と併せて示されたい。

 3 予防医療及び重症化予防等、予防に関する保険者の支援活動について、政府は保険者への支援又は必要な法整備をする考えはあるか、検討状況を理由と併せて示されたい。

四 保険者機能の強化に対するインセンティブ制度の設計について

 1 米国では「Accountable Care Organization(ACO)」や「Pay for Performance(P4P)」(以下「P4P」という。)等、医療費適正化と医療の質向上との両立を目的とした制度が導入されているが、政府は同制度について認識しているか示されたい。また、認識している場合、これまで同制度の導入を我が国で検討したことはあるか、理由と併せて示されたい。

 2 前記四の1について、我が国においても、医療の質や費用対効果に資する取組を行う保険者に対して、成果に応じた財政的インセンティブを付与する制度を導入すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

 3 現行制度では、保険者による重症化予防、健康指導、医療費適正化等の取組に対する成果評価及び財政的措置を行う仕組みはあるか示されたい。当該仕組みがある場合、その概要を示されたい。

 4 医療の質に応じて医師や医療機関に金銭的なインセンティブを与える制度として、医療におけるP4Pが平成十二年以降、多くの国で導入されている。現在の我が国の医療制度でP4Pを導入したものはあるか示されたい。また、導入例がある場合、導入時期と概要を示されたい。

 5 前記四の4について、今後、我が国の医療制度においてP4Pを組み込んだ制度改革を推し進める考えはあるか、政府の見解を理由と併せて示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。