質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第九三号

医療保険料が児童手当の財源となっていることの妥当性等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年四月八日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   医療保険料が児童手当の財源となっていることの妥当性等に関する質問主意書

 諸外国の事例を見ると、我が国の児童手当に相当する家族手当の財源は、公費負担ないし雇主負担によって賄うのが一般的であるとされている。しかし、我が国の児童手当の財源は、「子ども・子育て支援金」という名称で医療保険料の一部として徴収される制度となっている。

 一般社団法人制度・規制改革学会の有志及び学会外の識者は、子ども・子育て支援金について「健康保険から取ることは根本的に間違い」であるとし、制度の撤回を求める緊急声明を出す等、児童手当の支給が健康保険法の目的の範囲内であるとする政府見解には多くの疑義が呈されている。特に、医療保険制度の趣旨と財政の健全性を考慮した場合、児童手当の財源として医療保険財源を充当することは適正ではないとの懸念が強い。

 よって、政府には、本件に関する明確な法的根拠及び財政的影響の試算を国民に示すことが求められる。これらを踏まえて、以下質問する。

一 健康保険法の目的との整合性について

 健康保険法の目的は、第一条において「業務災害(中略)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」と明記されている。

 しかし、児童手当は「疾病、負傷若しくは死亡又は出産」に直接関連する給付ではなく、子育て支援の一環として支給されるものである。この点において、児童手当が医療保険制度の趣旨に適合するという政府見解は、健康保険法の目的から逸脱していると考える。

 1 政府は、児童手当の支給が健康保険法第一条の目的に適合すると考えるか。理由と併せて示されたい。

 2 前記1について、児童手当の支給は健康保険法のどの条文を根拠としているのか、理由と併せて示されたい。

二 医療保険財政への影響について

 現在、医療保険制度は、少子高齢化の影響を受け、医療費の増大による財政的な逼迫が指摘されている。そのような状況下で、児童手当の財源を医療保険財源から賄うことは、本来、医療給付や介護給付へ充てられてきた資金を他の用途へ流用することに等しく、制度の持続可能性を損なう危険性もある。

 また、医療保険の被保険者及び事業主が負担する保険料は、医療や介護のために拠出されるものであり、医療や介護と直接関係のない支出に充てることについて被保険者等の理解を得られるのか大いに疑問である。

 1 児童手当の支給が医療保険財政に与える影響について、政府はどのように評価しているのか、具体的な根拠及び根拠に係る試算を示されたい。

 2 医療保険財源からの児童手当の支給が、医療給付の充実や保険料負担の軽減といった本来の目的に反する影響を及ぼす可能性について、政府の見解を示されたい。

三 児童手当の財源の適正性について

 児童手当は本来、一般会計から拠出されるべき性格のものであり、医療保険制度の財源を充てることは、社会保険方式と租税方式の混同を招くおそれがある。

 また、児童手当等の給付に充てられる子ども・子育て支援金が健康保険法の目的の範囲内であるという論理が認められるならば、同様に、教育費、住宅支援、その他の社会政策にも医療保険財源を流用する余地が生じることになりかねない。このような拡張解釈は、医療保険制度の原則をゆがめるおそれがあると考える。

 1 児童手当等の給付に充てられる子ども・子育て支援金が健康保険法の目的の範囲内であるとして医療保険財源を活用することが許容されるならば、認可保育園等の運営費や教育支援金等の児童手当給付以外の政府が行う子育て支援施策にも医療保険財源を充てることができるのか、政府の見解を示されたい。

 2 前記三の1と関連して、今後、どのような範囲まで医療保険財源の活用を認めるか、その基準を理由と併せて示されたい。

四 国民の理解と医療保険料の負担増について

 医療保険の被保険者及び事業主は、医療費の増大に伴い保険料を引き上げて負担している。保険料の一部が児童手当に充てられるのであれば、被保険者等の理解を得るための十分な説明と合意形成が必要と考える。

 特に、現在の医療保険財政の逼迫した状況において、新たな支出が生じることに対する国民の負担感をどのように考慮するのかが問われる。

 1 医療保険財源の一部を児童手当に充てることについて、国民や事業者からの理解を得るために政府がこれまで行ってきた説明について、具体的な広報・説明資料及び周知方法を全て示されたい。

 2 医療保険料の引上げが続く中で、児童手当の支給が将来的に保険料の更なる引上げを招く可能性について、政府の見解を示されたい。

五 児童手当の財源を一般会計とする可能性について

 児童手当は、本来、租税を財源とする一般会計の支出として位置付けられるべきものである。もし政府が財源不足を理由に医療保険財源を活用するならば、まずは一般会計の支出構造を見直し、必要な予算配分を確保することが先決ではないかと考える。

 これまで児童手当の財源を一般会計の支出とすることについて検討は行われたか。検討した場合は、検討時期、内容及び一般会計の支出としなかった理由を、その検討過程も含めて全て示されたい。また、児童手当の財源を今後一般会計の支出とすることについて検討される可能性はあるか、政府の見解を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。