質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第九二号

高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年四月八日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   高額療養費自己負担上限額引上げの優先度に関する質問主意書

 医療保険制度における患者負担軽減の主な仕組みの一つとして、高額療養費制度が挙げられる。高額療養費制度とは、家計に対する医療費負担が重くならないよう、医療機関や薬局の窓口で支払う一か月間の医療費が上限額を超えた場合にその超過額を支給するという、保険のセーフティネットの役割として極めて重要な制度である。

 患者の命にも直結する高額療養費自己負担上限額引上げ(以下「高額療養費上限額引上げ」という。)については慎重に検討されるべきところ、令和六年十一月から全世代型社会保障構築会議及び厚生労働省社会保障審議会医療保険部会において議論が始まり、わずか一か月後の令和六年十二月二十七日に閣議決定された令和七年度政府予算案に盛り込まれた。その後、患者団体の反対などを受け、異例にも三度の方針転換をし、石破総理大臣は令和七年三月七日、同年八月の高額療養費上限額引上げを見送った上で、秋までに改めて方針を検討し決定すると表明した。この高額療養費上限額引上げについて、以下質問する。

一 全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)における高額療養費上限額引上げについて

 改革工程において、高額療養費上限額引上げの実施については、令和十年度までに検討する取組の一つとされている。改革工程には高額療養費上限額引上げ以外の取組も多数盛り込まれているところ、高額療養費上限額引上げだけが真っ先に令和七年度政府予算案に盛り込まれることとなった理由を示されたい。また、改革工程にある各取組の優先順位はどのような基準で決定されたか、あるいは決定されるのか、そのプロセスを示されたい。

二 薬剤保険給付の在り方の見直し及び医療・介護の三割負担の適切な判断基準設定等の検討状況について

 改革工程において、高額療養費上限額引上げと併せて、令和十年度までに検討する取組として、「薬剤保険給付の在り方の見直し」、「医療・介護の三割負担(「現役並み所得」)の適切な判断基準設定等」が挙げられているが、これらの施策について、現時点の検討状況及び今後の検討スケジュールを示されたい。

三 「長瀬効果」の定義及びエビデンスについて

 1 政府が用いている「長瀬効果」の定義と具体的内容を示されたい。

 2 「長瀬効果」は医療経済学の分野では一般的に認知されている概念とは言えないと思料するが、この効果を採用している理由を示されたい。また、その理由に学術的なエビデンスがある場合は、全て示されたい。

 3 過去の高額療養費上限額引上げ時に推計された「長瀬効果」と実際の変化の乖離はどの程度であったか示されたい。

四 第百九十二回社会保障審議会医療保険部会(令和七年一月二十三日)資料「高額療養費制度の見直しについて」について

 1 資料十三頁にある二千二百七十億円の削減効果とは、金銭的な理由による受診抑制を推計したものか示されたい。金銭的な理由ではない場合、どのような理由による削減効果なのか示されたい。

 2 資料で示されている所得区分ごとの引上げ率及び引上げ率の算出根拠を全て示されたい。また、所得が高いほど引上げ率が高い理由を具体的に示されたい。

 3 七十歳以上と七十歳未満の自己負担限度額の引上げ率に差異がある場合、その具体的内容及び理由を示されたい。

五 経済環境を踏まえた負担増への見解について

 私の事務所からの質問に対する厚生労働省の回答では、高額療養費上限額引上げ幅設定に当たり、過去十年間の平均給与の伸びを基準としたとのことであったが、同期間において実質賃金は上昇していない。加えて、消費税率や社会保険料の引上げ等により可処分所得はむしろ減少していることが推察されることを踏まえると、特に引上げ率が高い高所得者層にとっては負担が著しく大きくなると考えるが、政府の見解を示されたい。

六 高額療養費の支給実績及びデータの開示状況について

 1 高額療養費の支給総額及びその内訳(性別、年代別、入院・外来別、所得区分別、疾患別)を示されたい。

 2 前記六の1について、これらの情報が存在しない場合、その理由を示されたい。また、高額療養費上限額引上げ時の影響をどのようなデータに基づいて検討しているのか、全て示されたい。

七 高額療養費上限額引上げは見送るのではなく撤回すべきであることについて

 石破総理大臣は、令和七年八月の高額療養費上限額引上げを見送った上で、秋までに改めて方針を検討し、決定すると表明した。一方、少なくとも前記一から六が明示できなければ国民への説明責任を果たしたとは言えず、医療保険制度そのものを揺るがすおそれもあることから、高額療養費上限額引上げそのものを撤回すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。