質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第八五号

保育所への運営費加算要件として「施設・事業所の職員の平均経験年数が十年以上」を設定すること等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年四月三日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   保育所への運営費加算要件として「施設・事業所の職員の平均経験年数が十年以上」を設定すること等に関する質問主意書

 こども家庭庁は令和七年度以降、一歳児に対する保育士の配置基準について、「六対一」から「五対一」に変更するため、保育所への運営費を加算する方針を示している。しかし、その加算要件の一つとして「施設・事業所の職員の平均経験年数が十年以上」を設定すること(以下「当該加算要件」という。)について、現場から多くの疑問や批判が寄せられている。当該加算要件の適用により、経験年数が少ない職員を多く抱える施設が加算の対象外となる。加算が得られないことで保育士の待遇改善にも支障を来す可能性が高く、結果として保育士の確保が困難になるなど、現場を混乱させる可能性が指摘されている。

 また、OECDの乳幼児教育・保育に関する研究では、「保育士の経験年数が保育の質に与える影響は一貫していない」とされている(Slot, P. (2018). Structural characteristics and process quality in early childhood education and care : A literature review. OECD Education Working Papers, No. 176. OECD Publishing.以下「Slot(2018)」という。)。Slot(2018)では、保育士の経験年数と保育の質との関係性において、必ずしも一貫した相関があるわけではないことが示されており、当該加算要件の設定が科学的根拠に基づいたものであるかは大いに疑問がある。さらに、保育の質の向上のためには、保育士の配置基準の見直しだけでなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用した業務効率化による生産性の向上も重要であるとの指摘がある。

 以上を踏まえ、以下質問する。

一 政府は、保育士の経験年数と保育の質に因果関係があると考えるか。根拠と併せて示されたい。

二 令和七年度以降、一歳児に対する保育士の配置基準を「六対一」から「五対一」に変更する施策について、当該加算要件を設定した理由を示されたい。また、理由の根拠となる調査資料や参考とした論文があれば全て示されたい。

三 当該加算要件の設定により、要件を満たすことができない施設においては、保育士の確保が困難になるなどの悪影響が懸念される。当該加算要件の設定による影響や副次的効果について、政府はどのように評価しているか示されたい。

四 Slot(2018)によれば、「保育士の経験年数が保育の質に与える影響は一貫していない」とされているが、これに反証する科学的根拠を政府は把握しているか示されたい。また、Slot(2018)の研究結果を踏まえると、当該加算要件が科学的根拠に基づいたものとは言えないと考えるが、政府の見解を理由と併せて示されたい。

五 保育士の配置基準を手厚くすることで保育の質が向上するとの意見があるが、その具体的な根拠を示されたい。また、配置基準の見直しが保育の質に与える影響について、政府の評価を示されたい。

六 保育現場におけるDXの推進や業務の効率化による生産性の向上が、保育の質の向上や保育士の負担軽減に寄与するとの指摘がある。政府として、保育現場のDX推進にどのように取り組んでいるか、具体的な施策を示されたい。

七 一部の専門家や保育関係者からも、当該加算要件の撤廃を求める声が上がっているが、今後この条件を見直す可能性はあるか、政府の見解を示されたい。

八 保育士の経験年数よりも、配置基準の改善やDX推進を通じた業務効率化を優先すべきとの指摘があるが、「保育士の確保」、「保育の質の向上」及び「業務の効率化」のうち、政府が最も優先的に考えている項目を今後の方針とともに示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。