第217回国会(常会)
質問第三五号 小枝淳子氏の日本銀行政策委員会審議委員としての妥当性に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。 令和七年二月十九日 浜田 聡
参議院議長 関口 昌一 殿 小枝淳子氏の日本銀行政策委員会審議委員としての妥当性に関する質問主意書 参議院は二〇二五年二月十九日、日本銀行政策委員会審議委員に小枝淳子氏を任命することについて同意した。 日本銀行には、役員として、総裁、副総裁(二名)、審議委員(六名)、監事(三名以内)、理事(六名以内)、参与(若干名)が置かれている。このうち、総裁、副総裁及び審議委員が、政策委員会を構成している。同委員会は通貨及び金融の調節に関する事項を決定又は変更等するほか、その他の業務の執行の基本方針を定め、役員の職務の執行を監督する権限も有している。九名全員が常勤(任期五年)で給与は年額約二千七百万円から約三千六百万円と高額である。同委員会の会合のうち、金融政策に関する事項を決定する金融政策決定会合は年八回、その他の事項の決定などを議事とする通常会合は原則週二回開催される。 植田総裁の就任以降、黒田総裁時代に行った非伝統的金融政策、いわゆる異次元の金融緩和路線が見直されたことにより、ゼロ金利政策とYCCは解除され、数回にわたって政策金利を引き上げている。これは特例公債法が令和七年度末で期限を迎えること、財務省が目標としてきたPB黒字化の達成の目途が立っていることが引き金となっていると考える。 財務省は、PB黒字化以降の新たな緊縮政策の題目として財政収支の黒字化を唱えている。これは国債の利払いを含んでいることから、国債の金利上昇という恐怖を政治家に植え付けようとしているのではないかと思料する。財務省が公表している「令和七年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、経済成長が三・〇%のケースでは、過剰な金利上昇を想定した上で、三年後の令和十年度には利払いが約一・五倍に達すると試算している。財務省のこうした緊縮政策の強化の裏付けにされているのが、二〇二四年の春闘での五%台の賃上げの達成であると考える。 二〇二五年一月の金融政策決定会合において、政策金利の誘導目標を〇・二五%程度から〇・五%程度へ引き上ることが決定された。二〇二四年の日本の実質経済成長率がマイナスに転じると予想されていた中での決定であり、日本銀行はマイナス成長が表沙汰になる前に駆け込みで利上げに踏み切ったことになる(なお、二〇二四年の実質経済成長率は前年比プラス〇・一%(二〇二五年二月十七日内閣府公表)と辛うじてプラス成長を維持した。)。 日本経済新聞は二〇二五年一月二十四日、政策金利の引上げの影響について、約一年前に変動型金利で四千五百万円を三十五年返済で借りた場合で試算すると、住宅ローンの毎月返済額は八千円(年間九・六万円)上昇すると報じた。先般の衆院選で議席数を四倍に増やした国民民主党の国会における発言力が高まっている。同党が掲げる基礎控除と給与所得控除の合計額を百七十八万円に引き上げる案が実現すれば、年収五百万円の場合の減税額は約十三万円となるが、この減税分の多くは政策金利引上げに伴う負担増によって相殺されてしまうことになる。 国民の手取り増のため減税を唱えた政治家が国民の支持を得れば、財務省は本気を出してなりふり構わず増税等の負担増を図ると考える。例えば、防衛特別法人税、防衛特別所得税、たばこ増税、教育資金の一括贈与特例廃止、結婚・子育て資金の一括贈与特例廃止、いわゆる百六万円の壁の撤廃、ガソリン補助金の中止、介護保険料の負担増、後期高齢者医療制度の保険料負担増、厚生年金支給減額、ケアプランの有料化などが考えられる。国民民主党の衆院選での圧勝が財務省に火を付け、基礎控除の拡大どころではない数倍返しの反撃が予想される。減税を掲げると大増税だけではなく、利上げや為替にも影響してくることには懸念を抱かざるを得ない。 前記日本銀行政策委員会審議委員について、数少ないリフレ派である安達誠司氏が令和七年三月二十五日で退任することに伴い、リフレ派は野口旭氏ただ一人となることが見込まれる。政府や財務省の意向を忖度し、マネーサプライは絞られる方向にあると考える。新たに審議委員となる小枝淳子氏が緊縮財政派かどうかは定かではないが、リフレ派ではないことは間違いないと考える。小枝氏はかつて、財務省財務総合政策研究所総務研究部総括主任研究官を務めていた。小枝氏は二〇二四年四月十日の日本経済新聞への寄稿の中で「三月の日銀金融政策決定会合における一連の金融政策変更は、プラスの金利環境に回帰する歴史的に大きなステップだった。」と評価している。金利上昇による実体経済への影響を今後の政策に反映できるかが危惧される人選であると考える。 退任する安達氏はリフレ派ではあったものの、マイナス金利解除後以降、計四回の金融正常化局面で、執行部案に一度も反対票を入れておらず、人数だけでなく、主張の面でもリフレ色が消えつつある。小枝氏は「金利上昇が経済の縮小に必ずしもつながるとは限らない」旨発言しており、小枝氏の任命が利上げ推進に拍車が掛かる可能性が高い。小枝氏を候補者とした理由がジェンダーバランスを考慮し、利上げを推進する金融政策の理論強化を図るためだとすれば大きな問題である。現段階において通貨供給量を減らすべきではなく、積極的に供給し経済を活性化させる必要があると考える。 以上を踏まえて質問する。 一 審議委員となる小枝淳子氏に関して、ジェンダーバランスを考慮し、利上げを推進する金融政策を講じるための人事ではないかという世間の懸念に対する政府の見解を示されたい。 二 審議委員の人事について、いわゆるリフレ派の候補を選ぶべきと考えるが、政府の見解を示されたい。 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。 右質問する。 |