質問主意書

第217回国会(常会)

質問主意書

質問第六号

政府の「手取り」の定義に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  令和七年一月二十四日

浜田 聡


       参議院議長 関口 昌一 殿



   政府の「手取り」の定義に関する質問主意書

 第五十回衆議院議員総選挙において、「手取りを増やす」という政策を掲げた国民民主党の議席数が四倍に増えたことや、自民党及び公明党の議席数が大幅に減り、いわゆる少数与党となったこと等を受けて、一定の民意を獲得した国民民主党の以下の「手取りを増やす」政策(以下「国民民主党の政策」という。)に関して議論が活発になっている。

1 所得税減税(基礎控除等を百三万円から百七十八万円に引上げ、年少扶養控除復活)

2 消費税減税(実質賃金が持続的にプラスになるまで一律五パーセント等)

3 ガソリン代値下げ(トリガー条項凍結解除、二重課税廃止によるガソリン減税)

4 電気代値下げ(再エネ賦課金徴収停止等)

5 現役世代の社会保険料軽減

 具体的な政策を見ると、国民民主党の政策は、減税、賦課金徴収廃止、社会保険料軽減などいずれも国民に対して法令で支払が義務化されたものの軽減であり、政府も国民民主党の政策に関連した税の減収額の試算を公表する等の対応に追われているものと承知している。

 他方、政府は「手取りを減らさない」施策として令和五年十月から事業者に対してキャリアアップ助成金を支給する等いわゆる「年収の壁」対策を掲げているが、これは減税施策ではなく、政府支出を行うことで「手取りを減らさない」施策である。手元に残るお金という意味では、減税施策と政府支出は一見同じであるかのように思えるが、日本経済に与える影響は異なる。経済学上の乗数効果では、政府支出乗数よりも租税(減税)乗数の方が低いが、Alberto F. Alesina and Silvia Ardagna, 「Large Changes in Fiscal Policy: Taxes versus Spending」 Tax Policy and the Economy, 24, 2010では、減税に基づく財政刺激策は、歳出増に基づく財政刺激策よりも成長率を高める可能性が高いと報告されている。また、Robert J. Barro and Charles J. Redlick, 「Macroeconomic Effects from Government Purchases and Taxes」 The Quarterly Journal of Economics, 126, February 2011では、政府支出乗数(国防費に限る)と租税乗数を算出し、政府支出乗数よりも租税乗数の方が乗数効果が高いと報告されている。つまり、減税によって「手取りを増やす」場合と、助成金などの政府支出によって「手取りを増やす」場合では国民に与える影響が全く異なると言える(以下「実証分析による乗数効果の違い」という。)。

 これらを踏まえて、以下質問する。

一 前記で示した論文のような政府支出乗数と租税乗数では国民に与える経済的影響が異なるという実証分析について、政府は把握しているか。把握していればその詳細を示されたい。

二 前記一について、内閣府経済社会総合研究所の「短期日本経済マクロ計量モデル(二〇二二年版)の構造と乗数分析」(ESRI Research Note No.72)で示された乗数を見ると、政府支出乗数よりも租税乗数の方が低く、論文の報告と異なる。したがって、減税政策等の恒久減税政策の試算として内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルを用いることは不適切と考えるが、政府の見解を示されたい。

三 政府の定義する「手取りを増やす」若しくは「手取りを減らさない」とは、減税政策によって「手取りを増やす」若しくは「手取りを減らさない」ことを指すのか。あるいは、補助金や助成金等の政府支出による分配で「手取りを増やす」若しくは「手取りを減らさない」ことを指すのか。政府の「手取りを増やす」若しくは「手取りを減らさない」の定義を示されたい。

四 前記三について、「手取りを増やす」若しくは「手取りを減らさない」の定義に、減税政策及び政府支出いずれも含まれるとの回答の場合、実証分析による乗数効果の違いによって明らかであるように、減税政策と政府支出では日本経済ないし国民に与える影響が全く異なることから、明確に区別して表記すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。