質問主意書

第216回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一六第三一号
  令和六年十二月二十七日
内閣総理大臣 石破 茂


       参議院議長 関口 昌一 殿

参議院議員浜田聡君提出ラピダス社への大規模な公的支援の妥当性等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員浜田聡君提出ラピダス社への大規模な公的支援の妥当性等に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の「エルピーダ・メモリ」については、リーマンショックに伴い、平成二十一年六月に産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)附則第四条の規定による廃止前の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(平成十一年法律第百三十一号)により計画の認定を受けて株式会社日本政策投資銀行から三百億円の出資を受けることで事業再建を目指したが、急激な円高、東日本大震災等に起因する半導体の需要低迷、価格の大幅な下落などによる事業環境の悪化を乗り越えられず、御指摘のとおり平成二十四年三月に会社更生法(平成十四年法律第百五十四号)による更生手続の開始決定を受けたと承知している。しかし、御指摘の「エルピーダ・メモリ」は、Micron Technology, Inc.に買収された後、マイクロンメモリジャパン株式会社として、我が国における半導体の主要な生産及び研究開発の拠点として機能しており、我が国における半導体の安定供給の確保に貢献していることは評価できるものと考えている。

 御指摘の「三菱スペースジェット」(以下「MSJ」という。)については、三菱航空機株式会社が、総額約五百億円の政府からの支援を活用し、炭素繊維複合材の成形に係る技術や先進的な空力設計に係る技術などの要素技術の開発を実施し、その成果がMSJの開発事業に活用されたと承知している。MSJの開発事業については、当該事業自体は最終的には中止となったものの、例えば、MSJの機体の開発は一定の水準まで到達しており、人材育成を含め、我が国における航空機開発に係る技術及び能力の向上に寄与し、今後の航空機産業の発展につながるものであったと認識している。

 御指摘の「海外需要開拓支援機構」については、「官民ファンドの運営に係るガイドライン」(平成二十五年九月二十七日官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議決定)に基づき、令和元年度以降の活動に係るKPI(運用目標や政策目的の達成状況が事後検証可能な指標をいう。以下同じ。)として、同機構の投資先の企業のサービスを活用して海外需要の獲得等を行った企業数等を設定しているところ、令和五年度末においては、当該企業数の目標を四千五百三十七社としていたが、その実績が六千二百四十八社となるなど、いずれのKPIも達成していると承知している。さらに、同機構が令和四年十一月に策定した投資計画に基づき、毎年度の累積損益の目標額を達成していくことを目指しており、令和五年度末においても目標額を約九億円上回る水準で推移していると承知している。同機構がこれまでに行ってきた業務については、我が国の生活文化の特色をいかした魅力ある商品又は役務の海外における需要の開拓につながっており、一定の成果を上げているものと考えている。

 御指摘の「ジャパンディスプレイ」については、平成二十三年十一月十五日の株式会社産業革新機構等のプレスリリース「中小型ディスプレイ事業統合に関する正式契約の締結について」において「中小型ディスプレイ事業におけるグローバルリーディングカンパニーとしての地位を強固なもの」としていくこととされており、これまでに、株式会社産業革新機構から総額約四千六百二十億円の出資等を受け、革新的な製造技術を用いた次世代の有機ELディスプレイの開発等を実施してきており、現在も、これらの技術を基に事業再建や新たな事業展開等を継続中であることは、我が国におけるディスプレイ開発に係る技術及び能力の向上に寄与するものであると認識している。

 御指摘の「JOLED」については、平成二十六年七月三十一日の株式会社産業革新機構等のプレスリリース「有機ELディスプレイパネルに関する統合新会社(会社名:株式会社JOLED)設立について」において「有機ELディスプレイ分野におけるリーディングカンパニーとなること」を目指すこととされており、株式会社産業革新機構から総額約千三百九十億円の出資等を受けていたが、次世代の有機ELディスプレイの開発の過程で生じた技術的な課題を解消できなかったこと、他国の競合企業が台頭する中で、世界的な技術及びビジネスの動向から後れを取ったこと、ディスプレイ市場全体の需要が落ち込んだこと等の複合的な要因により、令和五年四月に民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)による再生手続の開始決定を受けたと承知している。しかし、当該出資等を通じて御指摘の「JOLED」がこれまでに蓄積してきた知的財産権や人材等については、株式会社ジャパンディスプレイに引き継がれて同社の事業再建や新たな事業展開等に活用されていることは、評価できるものと考えている。

 御指摘の「あすかプロジェクト」については、一般社団法人電子情報技術産業協会(以下「JEITA」という。)によると、半導体先端技術の共同開発を目的としたものであって、その目的を達成したと評価されており、御指摘の「HALCAプロジェクト」については、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)が作成した「高効率次世代半導体製造システム技術開発」事後評価報告書によると、多品種少量生産システムの開発を目的としたものであって、「研究成果のほぼ全ては世界最高水準であり、独創的かつ汎用性に優れた日本発の先端的革新技術および装置が創出されている」と評価されており、また、御指摘の「ASPLA」については、JEITAによると、半導体の開発に係る標準プロセスの開発を目的の一つとしたものであって、当該開発は成功のうちに完了したと評価されていると承知しており、これらのプロジェクトは、我が国における半導体に係る技術の向上に寄与したものと認識している。

二について

 御指摘の「政府の公的支援(前記1から6)以外に、特定企業に対して政府がこれまでに同規模以上の公的支援を行ったもの」の具体的に意味するところが明らかではないため、お尋ねに網羅的にお答えすることは困難であるが、例えば、特定企業に対して大規模な助成金の交付を決定した事例について申し上げれば、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(令和二年法律第三十七号)第二十九条の規定に基づき、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company Limited及びJapan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(以下「JASM」という。)に対し、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法(平成十四年法律第百四十五号)第十六条の四第一項に規定する特定半導体基金から、令和四年九月に最大で四千七百六十億円、令和六年十一月に最大で七千三百二十億円、総額最大で一兆二千八十億円の助成金の交付を決定している。これらのうち、令和四年九月に助成金の交付を決定した事業等については、経済産業省において、証拠に基づく政策立案(EBPM)の手法を取り入れた効果の分析を実施し、大きな経済効果や雇用創出の効果が見込まれることを確認するなどしている。当該事業のこれまでの経済波及効果等については、民間の試算によると、熊本県でのJASMの第一工場の建設等による新たな半導体関連の投資を契機に、同県において令和四年から十年間で約六・九兆円の経済効果と一万人を超える雇用の創出が期待されており、また、既に、当該工場の建設を公表後、JASMによる投資も含め、八十社以上による同県における新規の投資が公表されるなど、産業集積等の効果が現れてきていると認識している。

三について

 お尋ねの「成果責任者」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、お尋ねの「ラピダス社への公的支援」とは、経済産業省が令和二年四月に策定し令和六年六月に改定した「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業研究開発計画」(以下「研究開発計画」という。)における「高集積最先端ロジック半導体の製造技術開発」及び「二ナノメートル世代半導体のチップレット・パッケージ設計・製造技術開発」の開発テーマに関して、NEDOからラピダス株式会社(以下「ラピダス」という。)に対して委託をした事業を指すものと考えられるところ、ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業に係る補助金のNEDOに対する交付決定については、産業技術・環境・産業標準政策推進研究開発等事業費補助金(ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発基金補助金)交付要綱(令和二年三月六日経済産業省制定、令和六年三月五日一部改正)等に基づき経済産業大臣が行っており、また、当該委託事業を含め、NEDOが同補助金に基づき実施するテーマごとの開発の内容については、産業技術・環境・産業標準政策推進研究開発等事業費補助金(ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発基金補助金)実施要領(令和二年三月六日経済産業省制定、令和六年三月五日一部改正)等において、「基金事業の内容等については、別途、経済産業省担当課室・・・が研究開発計画として定め、機構はこれに従い、基金事業を実施するものとする。」と定めている。

四について

 お尋ねについては、これまで、半導体に係る一で御指摘の「公的支援」を含め、過去の半導体政策に関する検証を踏まえて、二についてでお答えした助成金の交付やお尋ねの「ラピダス社への公的支援」を実施してきており、今後についても同様の考えである。

五について

 ラピダスにおいては、ロジック半導体の製造を行っているところ、お尋ねの「世界の半導体市場の将来予測」については、経済産業省において、インフォーマインテリジェンス合同会社のデータに基づき、令和十二年に世界での半導体の需要が約百五十兆円になり、そのうちロジック半導体の需要は六十兆円になると予測を行ったものが存在するが、お尋ねのような「公的支援を行った場合と行わなかった場合」についての予測は行っていない。

 その理由としては、「ラピダス社への公的支援」が先端半導体の製造技術の確立に向けた研究開発であるため、市場に与える直接的な影響についての予測を行うことは困難であるからであり、このことは今後も同様であると考えている。

六について

 お尋ねの「ラピダス社への公的支援」とは、研究開発計画における「高集積最先端ロジック半導体の製造技術開発」及び「二ナノメートル世代半導体のチップレット・パッケージ設計・製造技術開発」の開発テーマに関して、NEDOからラピダスに対して委託した事業を指すものと考えられるところ、お尋ねの「成果指標」については、研究開発計画において定めたこれらの開発テーマそれぞれの「開発目標」を達成することであると考えている。

 また、お尋ねの「成果指標」については、半導体の研究開発に関するものであるため、その達成がお尋ねの「我が国の経済」及び「我が国及び他国を含めた世界の半導体市場」に与える直接的な影響についてお答えすることは困難であるが、その達成は、ラピダスにおける先端半導体の製造技術の確立を実現するものであり、世界の半導体市場における競争が激化する中にあって、国内における先端半導体の製造基盤の確保を通じて我が国の産業競争力の強化に資するものであると考えている。

七及び八について

 お尋ねについては、四についてでお答えしたとおり、半導体に係る一で御指摘の「公的支援」を含め、過去の半導体政策に関する検証を踏まえ、二についてでお答えした助成金の交付やお尋ねの「ラピダス社への公的支援」を実施しており、また、六についてでお答えした「成果指標」の達成に向けて、毎年度、NEDOにおいて、ラピダスとの委託契約締結時に当該年度に達成すべき目標を追加で設定し、外部有識者による委員会において、この達成状況を厳格に確認した上で翌年度の実施計画と追加の予算について承認を行うこととしているところ、お尋ねのような「場合」の対応について予断することは差し控えたいが、引き続き、このような必要な検証を行いながら、「成果指標」の達成に向けて着実に取り組んでまいりたい。

九について

 お尋ねの「成果指標」については、六についてでお答えしたとおり、経済産業省として、研究開発計画において定め、公開している。また、お尋ねの「事業の進捗状況」については、NEDOにおいて、毎年度終了後に、研究開発テーマごとに当該年度の成果をとりまとめて作成する中間年報において記載し、NEDOのウェブサイトで公開していると承知している。