質問主意書

第216回国会(臨時会)

答弁書

内閣参質二一六第二九号
  令和六年十二月二十七日
内閣総理大臣 石破 茂


       参議院議長 関口 昌一 殿

参議院議員神谷宗幣君提出エボラウイルス等を扱うBSL―4施設の稼働及び移転先に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員神谷宗幣君提出エボラウイルス等を扱うBSL―4施設の稼働及び移転先に関する質問に対する答弁書

一の前段について

 政府においては、御指摘のような地域の「理解や支持」が得られるよう、関係地方公共団体及び感染症等に係る研究等の専門家から構成される「国立感染症研究所BSL―4施設の今後に関する検討会」が令和二年十二月十一日に取りまとめた「国立感染症研究所BSL―4施設の今後に関する検討会報告書」(以下「報告書」という。)において、「BSL―4施設で感染研職員が作業を行う上で、重要なことの一つに地域の方々の理解を得ることが大切である。それには感染研と地域(住民、学校等の施設関係者、自治体)との継続した、双方向的なコミュニケーションにおいて、BSL―4施設で感染研職員が作業を行うことに対して理解を得ることが重要である。・・・地元との十分なリスクコミュニケーションに基づき理解を得る必要がある」とされていること等も踏まえ、「国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等に関する基本戦略」(令和五年四月七日国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議)において、「BSL4施設に関する地域とのコミュニケーションについて、国立感染症研究所が推進している研究活動の積極的な公開をモデルとして、BSL4施設のセーフティ・セキュリティの報告や村山庁舎のアウトリーチ活動に加えて、BSL4施設に係る事業成果等を積極的に発信することにより、BSL4施設運営の透明化を図っていく」等としているところ、これに基づき適切に対応することとしている。具体的には、地域住民や「BSL4施設」関係者等を構成員として「地域とのコミュニケーション」を図る場として、御指摘の「都内」については、「BSL―4施設」を「稼働」している国立感染症研究所村山庁舎の活動に関し、厚生労働省が「国立感染症研究所村山庁舎施設運営連絡協議会」(以下「施設運営連絡協議会」という。)を設置し、また、御指摘の「長崎」については、今後「BSL―4施設」を「稼働」する予定である長崎大学の活動に関し、文部科学省の関与の下、同大学が「長崎大学高度感染症研究センター実験棟の運用に関する地域連絡協議会」(以下「地域連絡協議会」という。)を設置し、それぞれの施設の活動状況等についての情報共有や意見交換等が行われているところである。また、同研究所及び同大学それぞれのホームページにおいては、施設運営連絡協議会及び地域連絡協議会それぞれの開催状況について公表されており、政府においても、必要に応じて、これらについて、関係府省庁、同研究所、関係地方公共団体及び感染症に係る研究の専門家から構成される「感染症研究拠点の形成に関する検討委員会」(以下「検討委員会」という。)において進捗を確認し、また、首相官邸ホームページにおいて検討委員会の資料として公表しているほか、厚生労働省及び文部科学省のホームページにおいても、これらに関する情報を公表しているところである。したがって、お尋ねのように「国民の理解や支持が十分ではない」とは一概には言えないと考えており、いずれにせよ、政府として、引き続き、「国民の理解や支持」を得られるよう努めてまいりたい。

一の後段について

 お尋ねの「都内のBSL―4施設の移転先検討の進捗状況」については、これを明らかにすることで、今後の議論や検討に支障を来すおそれなどがあり、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成十一年法律第四十二号)第五条第五号に掲げる不開示情報に該当するものと考えられるため、現時点で公開することは差し控えたい。

 また、お尋ねの「国民の懸念」への「対応」については、一の前段についてでお答えしたとおりであり、国民の理解や支持を得られるよう努めていくこととしている。

二について

 御指摘の「BSL―4施設」は、必ずしも御指摘の「エボラウイルスを用いた動物実験や研究」のみを行うわけではないが、いずれにせよ、お尋ねの「必要性」及び「意義」については、検討委員会が平成二十九年二月十七日に取りまとめた「高度安全実験施設(BSL4施設)を中核とした感染症研究拠点の形成について」(以下「取りまとめ」という。)において、「人の往来が盛んであるグローバル社会において、感染症は、限定的な地域での流行に留まらず、国内でのまん延、さらには国境を越えて国際社会全体への感染拡大が懸念されている。また、世界各地における森林開発、気候変動等により、動物等を媒介した感染症への感染リスクも増大している」、「国内におけるBSL4施設を活用した基礎研究及び人材育成の必要性が我が国の研究者の間で認識されている」及び「BSL4施設の活用により実施可能となる研究開発及び求められる機能等実施した調査の結果では、高病原性ウイルスを対象として、」「ウイルスの生態および伝播経路を解明すること(疫学研究)、」「ウイルスと宿主因子の相互作用を理解すること(感染機構研究)、」「ウイルス感染による宿主の応答・病態を解析すること(病態研究)、」「ワクチン、診断法および抗ウイルス薬を開発すること(医療応用研究)の各研究過程に沿った研究課題が示された」としているとおりであり、また、報告書において、「世界における人、モノの往来が活発となった現在、一種病原体の国内への侵入と、これによる感染症はいつでも発生する危険性がある。また、バイオテロ病原体として一種病原体が使用される危険性もある。このような状況の中で、BSL―4施設は、(一)感染症発生時の検査診断による健康危機管理への対応(検査法の開発、疑い患者の検査実施、確定患者の随時検査、接触者等に対する病原体疫学調査、患者の退院の可否に係わる検査等)、(二)感染症対策に必要な病原体等に関する科学情報を実験等により収集分析(基礎研究)、(三)感染症の診断、治療、予防に係わる具体的な技術の研究開発(応用研究)(中略)の目的から設置は必須である」、「新たな病原体の検査診断法の開発や精度の向上等検査診断に関連する研究、ワクチンや治療法の開発などの基盤・応用研究が可能である規模を有する施設であることが求められる」等とされていると承知しており、政府としても同様に考えている。したがって、お尋ねの「国の資源を投入する」必要があると考えており、また、「BSL―4施設」の設置により「健康危機管理への対応」等が図られ、お尋ねの「国民にとっての便益」になるものと考えている。

三の前段について

 お尋ねについては、御指摘の「都心部や住宅地」であるか否かにかかわらず、例えば、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号。以下「感染症法」という。)第五十六条の三第二項に規定する特定一種病原体等所持者については、感染症法第五十六条の十八第一項に基づく感染症発生予防規程の作成や、感染症法第五十六条の二十九に基づく災害時の応急措置等が義務付けられているほか、「特定病原体等に係る事故・災害時対応マニュアル」(令和五年九月厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課)において、「特定病原体等所持者・・・は、災害の発生により所持する特定病原体等による感染症が発生し、若しくはまん延した場合又は当該特定病原体等による感染症が発生し、若しくはまん延するおそれがある場合は、直ちに、状況に応じて、以下の応急の措置を講じるものとする。①特定病原体等取扱施設又は特定病原体等が容器に収納されているもの・・・に火災が起こり、又はこれらに延焼するおそれがある場合、これを発見した者は消火又は延焼の防止に努めるとともに、直ちに、あらかじめ規定した手順に従い、火災が発生したことを遅滞なくあらかじめ指定された者に報告する。あらかじめ指定された者は、火災発生の報告を受けたときは、直ちにその旨を消防署又は消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第二十四条の規定により市町村長の指定した場所に通報する。その際、通報した消防署等から何らかの指示等があった場合には、これに従い適切な措置を講じるものとする。②特定病原体等による感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要がある場合には、あらかじめ指定された者は特定病原体等取扱施設の内部にいる者に、運搬中の災害発生時においてもあらかじめ指定された者は病原性輸送物の運搬に従事する者又はこれらの付近にいる者に避難するよう警告する。③必要に応じて、病原体等取扱主任者等は特定病原体等を安全な場所に移すとともに、特定病原体等がある場所の周囲には、ロープを張り、又は標識等を設け、かつ、見張人をつけることにより、関係者以外の者が立ち入らないための措置を講ずるよう努める」等としているところ、これらに基づき対応されることとなっている。

三の後段について

 御指摘の「立地選定」に当たっては、御指摘の「事故発生時の影響を考慮に入れた安全性」を勘案することはもとより、取りまとめにおいて、「立地については、世界最高水準の安全性の確保を目指した施設の管理運営を円滑に行うとともに、大学等の研究機関や感染症指定医療機関が近くに存在すること、安定的なインフラが存在すること、及び警察・消防との連携を含めたセキュリティサービスが充実していることが必要である」としているとおりであり、また、報告書において、「厚生労働本省と近距離であることが必要である」、「特定感染症病床を有し、一類感染症(感染症法第六条第二項)を診療する機会が多いと考えられる国立国際医療研究センターと病原体の確定診断を行うBSL―4施設との距離が現行よりも遠距離にならないようにすることが望ましい」等とされていることなどを踏まえ、様々な事情を総合的に勘案の上、適切に対応することとしており、いずれか一つの事情を御指摘のように「最優先」に考慮するわけではない。

四の前段について

 お尋ねについては、一の前段についてでお答えしたとおりである。

四の後段について

 「研究内容やリスク管理の手法を国民にどのように伝え」ているかとのお尋ねについては、一の前段についてで述べた「地域とのコミュニケーション」や「公表」の中で、必要な情報提供を行っているところであり、また、「国民の懸念や意見をどのように取り入れているか」とのお尋ねについては、例えば、令和六年十一月十五日から同年十二月十四日まで実施した、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令の一部を改正する政令案に関する御意見の募集について」等を通じて、国民から「BSL―4施設」に関する御意見を頂きながら、「BSL―4施設」の在り方の検討に当たっての参考としているところである。

五について

 お尋ねについて、御指摘のように「事故や緊急事態が発生した際」には、「特定病原体等に係る事故・災害時対応指針」(令和五年九月厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部感染症対策課)において、例えば、「厚生労働省感染症対策課は、・・・特定病原体等所持者・・・から災害応急時措置届出書の提出やその他の方法により災害発生の通報を受けたときは、災害の状況把握に努め、管轄の地方厚生局に連絡するとともに、災害の状況に応じて、本省又は地方厚生局の担当官を現地に派遣し、特定病原体等所持者・・・からの報告聴取、事業所への立入検査その他の対応を行うものとする。・・・災害時の応急の措置に関し緊急の必要があると認めるときは、法第五十六条の三十七の規定に基づき特定病原体等所持者・・・に対し、特定保管場所の保管場所の変更、滅菌等の必要な措置を講ずるよう命令を行うものとする」等としているところ、これに基づき適切に対応することとしている。

六の前段について

 御指摘の「国内のBSL―4施設で得られた研究成果や権利の帰属及び取扱い」については、各施設ごとに定められており、国立感染症研究所に関しては、「厚生労働省所管の国立試験研究機関における職務発明等規程」(平成十五年三月三十一日厚生労働省大臣官房厚生科学課長決定)及び「国立感染症研究所職務発明等規程」(平成十三年三月八日国立感染症研究所部長会議決定)において、また、長崎大学に関しては、「長崎大学職務発明規程」(平成十六年規程第七十三号)、「長崎大学研究成果物等取扱規程」(平成十六年規程第七十五号)等において、それぞれ定められているとおりである。

六の後段について

 お尋ねの「可能性」については、仮定の質問であり、お答えを差し控えたいが、いずれにせよ、御指摘のように「移転する」ことがないようにするためのお尋ねの「対処する具体的な枠組み」については、国立感染症研究所に関しては、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百条第一項において「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と規定されているほか、「厚生労働省所管の国立試験研究機関における職務発明等規程」において「職務発明者及び当該発明の内容を知り得た関係職員は、国及び職務発明者の利害に関係ある事項について、必要な期間中、その秘密を守らなければならない」と、「国立感染症研究所職務発明等規程」において「職務発明者及び当該発明の内容を知り得た関係職員等は、国及び職務発明者の利害に関係ある事項について、必要な期間中、その秘密を守らなければならない」とされているところであり、また、長崎大学に関しては、国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第十八条において「国立大学法人の役員及び職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、同様とする」と、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第四十一条第二項において「大学・・・は、その研究開発の成果について、我が国の国際競争力の維持に支障を及ぼすこととなる国外流出の防止に努めるものとする」と規定されているほか、「長崎大学共同研究規程」(平成十六年規程第六十五号)において「本学又は共同研究者は、共同研究において知り得た一切の情報を秘密として扱い、相手方の書面による事前の同意なしに、それらを第三者に開示してはならない」とされているところである。