第216回国会(臨時会)
内閣参質二一六第二号 令和六年十二月十日 内閣総理大臣 石破 茂
参議院議長 関口 昌一 殿 参議院議員神谷宗幣君提出「働き方改革」の成果と日本式経営の再評価に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員神谷宗幣君提出「働き方改革」の成果と日本式経営の再評価に関する質問に対する答弁書 一について 御指摘の「どのような基準で」及び「当初の目的」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府においては、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成三十年法律第七十一号。以下「働き方改革関連法」という。)附則第十二条において、「政府は、・・・この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律・・・の規定について、・・・改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」等とされていることを踏まえ、現在、改正後の各法律の施行の状況について、それぞれ把握及び分析を行っている又は今後行うこととしているところであり、お尋ねの「これまでの「働き方改革」の成果」の「評価」については、お尋ねの「優先的に改善が必要と考える点」に係るものも含め、現時点でお答えする段階にない。 二の前段について 御指摘の「法定労働時間の短縮」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、これが、働き方改革関連法第一条の規定による労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十六条の改正により時間外労働の上限規制を設けたことを意味するのであれば、当該上限規制が御指摘の「意欲的に働きたい人の就労意欲を抑制する可能性」についての「評価」は行っていないが、当該上限規制については、「働き方改革実行計画」(平成二十九年三月二十八日働き方改革実現会議決定)において、「労使が先頭に立って、働き方の根本にある長時間労働の文化を変えることが強く期待される」とされたことを受け、労使団体等の合意を踏まえ、働き方改革関連法において導入されたものであり、これを進めていくことが重要であると考えている。 二の後段について お尋ねについては、令和六年十二月二日の衆議院本会議において、石破内閣総理大臣が「「働き方改革」は、働く方々の生命と健康を守るための取組にとどまらず、働く方お一人おひとりが、多様で柔軟な働き方ができるようにするための取組も含むものであります。今後とも、こうした観点から、長時間労働の是正のみならず、副業・兼業やテレワークの促進、短時間正社員などの多様な働き方の活用、リ・スキリングを含む人への投資の強化など、働き方改革を進めてまいります。」と答弁したとおりである。 三について お尋ねについては、政府としては、働き方改革関連法附則第十二条第三項において、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)等について、「政府は、・・・この法律の施行後五年を目途として、(中略)改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とされていること、また、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画二〇二四年改訂版」(令和六年六月二十一日閣議決定)において、「非正規雇用労働者の正社員転換の際の受け皿となり得る、職務限定社員、勤務地限定社員、時間限定社員等の多様な正社員や、無期雇用フルタイム社員にも、同一労働同一賃金ガイドラインの考え方を波及させていくことも含め、パート・有期雇用労働法等の在り方の検討を進める。」とされていること及び「非正規雇用労働者の正規化」について「更なる正規化の促進策を検討する。こうした取組により、不本意非正規雇用(正規雇用を希望している不本意の非正規雇用)の解消を図る。」とされていること等を踏まえ、今後必要な取組について検討してまいりたい。 四について 御指摘の「外国人労働者の受入れ」については、特定技能制度(出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)に基づく特定技能制度をいう。)において、多くの受入れを行っているところ、同制度においては、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り、日本人の雇用機会の喪失及び処遇の低下を防ぐ等の観点からの適切な受入れ見込数を設定しつつ、一定の専門性や技能を有し即戦力となる外国人を受け入れている。加えて、特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(平成三十一年法務省令第五号)において、特定技能の在留資格に係る活動を行おうとする外国人と雇用に関する契約を締結しようとする本邦の公私の機関に対し、当該外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上である契約を締結することを義務付けていることから、御指摘のように「外国人労働者の受入れが低賃金労働の拡大を助長し、賃金の低迷を引き起こす」及び「労働市場全体で賃金が抑制される」とは考えていない。 いずれにせよ、御指摘の「賃金上昇」については、令和六年十一月二十六日に開催された経済財政諮問会議において、石破内閣総理大臣が「賃上げを起点とした成長と分配の好循環を実現することが重要であります。(中略)今年、三十三年ぶりの高い水準となりました賃上げの流れを継続・拡大するため、政府といたしましては、経済対策を早期に執行するとともに、来年度予算におきましても、来年の春季労使交渉に向け、企業の賃上げ環境の整備を図ってまいります。」と述べたとおりである。 五について 御指摘の「法定労働時間の短縮」の意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、これが、働き方改革関連法第一条の規定による労働基準法第三十六条の改正により時間外労働の上限規制を設けたことを意味するのであれば、御指摘の「現状」については把握していないが、当該上限規制の影響にかかわらず、御指摘の「精神的な負担の増加」及び「パワハラ問題」についての対策が必要であると考えており、御指摘の「精神的な負担の増加」への対策としては、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)の規定により、労働者の心の健康の保持増進を図るため、ストレスチェック制度(同法第七十条の二第一項の規定に基づき厚生労働大臣が公表している「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に定めるストレスチェック制度をいう。)の実施等職場におけるメンタルヘルス対策に係る取組を推進しているところであり、引き続き、事業者等に対し必要な指導や支援を行ってまいりたい。また、御指摘の「パワハラ問題」への対策としては、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)の規定により、いわゆるパワーハラスメントの問題に関する国、事業主及び労働者の責務を定めるとともに、事業主に対してパワーハラスメントによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう相談体制の整備その他の雇用管理上の措置を義務付けているところであり、引き続き、事業主の当該義務の履行確保の徹底を図り、ハラスメントのない職場づくりを一層推進してまいりたい。 六について お尋ねの「労働環境整備」の意味するところが必ずしも明らかではないが、「働き方改革実行計画」においては、「今後の取組の基本的考え方」として「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である。生産性向上の成果を働く人に分配することで、賃金の上昇、需要の拡大を通じた成長を図る「成長と分配の好循環」が構築される。個人の所得拡大、企業の生産性と収益力の向上、国の経済成長が同時に達成される。」とされているところであり、働き方改革関連法附則第十二条の規定に基づく検討を行うに当たっても、このような考え方や労使の意見も踏まえながら、適切に対応してまいりたい。 七について 御指摘の「現在の政策」の具体的に意味するところが明らかではないため、「損なわれる懸念はないか」とのお尋ねにお答えすることは困難であるが、御指摘の「日本式経営」を御指摘の「長期雇用や年功序列」と解すれば、我が国では、長期的な人材育成等の観点から、大企業を中心に「長期雇用や年功序列」等の雇用慣行が見られてきたものと認識しており、お尋ねの「評価」については、こうした慣行は、長期的な視点に立った人材育成や組織の一体感の醸成等という優れた面もあるものと考えているが、個別の企業における労務管理については、労使の十分な話合いを通じて、進められることが重要であると認識している。 八について お尋ねについては、働き方改革関連法附則第十二条において「政府は、・・・この法律の施行後五年を目途として、この法律による改正後のそれぞれの法律・・・の規定について、・・・改正後の各法律の施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」等とされていることを踏まえ、現在、改正後の各法律の規定について、それぞれ検討に着手したばかり又は今後検討を行うこととしているところであり、現時点でお答えすることは困難である。 九について 政府としては、御指摘の「職務」をどのように捉えるかも含め、従事すべき業務に関する事項等の労働条件については、個別の企業における労使の議論を踏まえて決定すべきものであると考えており、御指摘のように「対応方針を検討している」わけではない。 十について お尋ねの「工夫や対策」については、令和六年五月八日の衆議院厚生労働委員会において、武見厚生労働大臣(当時)が「多様な労働者の実情を正確に把握するために、様々な調査を実施をして、調査の結果をエビデンスとして審議会での議論に活用するなど、政策立案に当たって、労働者や企業の直面する課題や多様な労使の意見を施策に反映するよう努めております。」と答弁しているとおりであり、働き方改革関連法附則第十二条の規定に基づく検討を行うに当たっても、そのように努めてまいりたい。 |